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どこにでもいる普通の女の子
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アンリエルナはどこにでもいる普通の女の子です。
そして、後に蝿の女王と言われる存在でもありました。
彼女は小さな村に住む、十四歳の普通の女の子です。
そんな彼女の村に四人の旅人が訪れます。
この四人の旅人というのが、この世界の主人公達なのですが、今はアンリエルナに焦点を当てて話したいと思います。
アンリエルナはその日に訪れた四人から旅の話を聞きました。
とても胸踊り、困難に立ち向かい、巨悪を打ち倒す物語です。
そのような物語を聞いたアンリエルナは自分もその旅に同行したいと思いました。
なぜなら、彼女はとても強かったからです。
村の男たち相手に駆けっこしても、勝てる人はいません。
剣の腕だって、村の中じゃあ一番です。
信じられますか? 十四歳の女の子なのに、です。
そんなアンリエルナですから、きっと自分は役に立つと思いました。
でも、四人はアンリエルナが来ることを拒みます。
危険な旅ですから、十四歳の女の子についてこれるものではありませんでした。
そして翌朝、四人は旅に出発しましたが、アンリエルナの情熱は抑えられません。
そこでアンリエルナは四人が『不死者の森』なる森へ向かったと聞き、剣を手に後を追いました。
不死者の森は危険な森です。
しかし、蛇やジャガーのような猛獣はいません。
代わりに、動く骨や死なずの死体が跋扈しているのです!
そのような場所で、普通の女の子が三日ももつはずがありませんでした。
案の定、アンリエルナは剣を持った骸骨の群れに襲われたのです。
ですが、アンリエルナには自慢の健脚がありました。
彼女は背中を斬られたものの、ピュンと素早く逃げ出したのです。
アンリエルナは怖い思いをしたので、村に帰りたくなりました。
それに、背中の傷もとてもとても痛みました。
早く父の元に帰って傷の手当てをし、母に慰めてもらい、弟や妹達と温かい食事をしたいと思います。
ですが、不死者の森は常に霧が立ち込め、アンリエルナは何日もさまようことになりました。
何日歩いたのか分かりません。
ですが、いつの間にか背中の傷が痛まなくなったのはアンリエルナにとって喜ばしい事です。
しかし、代わりに彼女の顔の前を蝿が飛ぶようになったのは不愉快たまりません。
「もう。なんなのよ!」
悪態をつきながら、アンリエルナは顔の前を飛ぶ蝿を払います。
ですが、蝿は全くアンリエルナから離れる事はしませんでした。
それから、アンリエルナを苦しめたのは蝿のみならず、飢えや渇きもあります。
思えば、森に入ってから何日も飲まず食わずでした。
「このままじゃ死んじゃうよぉ」
せっかく背中の傷は治ったかのように痛まなくなったのに、飢えと渇きは彼女に死を想像させました。
ですが、ある日、アンリエルナは霧と森を抜けたのです。
これは奇跡のような事です。
いえ、奇跡では無いでしょう。
諦めず、絶望せずに歩き続けたアンリエルナの想いの勝利なのです!
おめでとう! アンリエルナ!
「やった! やったよ!」
アンリエルナは故郷の村に駆けました。
何日も歩き続け、腹は飢えて喉は渇いていましたが、森を脱出できた喜びに比べたら些末な問題です。
やがて、村の前に広がる畑に到着しました。
顔見知りの農夫が畑の手入れをしています。
「おーい! おーい! 帰って来たよぉ!」
アンリエルナが農夫に呼ばわると、農夫は血相を変えて村に向かっていきました。
「きっとパパとママに私が帰ってきた事を報告に向かったのね!」
もう何日も何週間も帰ってないのですから、もしかしたら『アンリエルナは死んだ』と思われているかもしれません。
でも、アンリエルナは村に帰ってきたのです。
早くパパとママに顔を見せてあげなきゃ!
喜び勇んで村に向かった彼女を待っていたのは、なんと、槍を構えた村人達でした。
さらに遠巻きから、ほかの村人達が不安げにアンリエルナを見ています。
その中には、アンリエルナの両親や弟、妹もいました。
「どうしたの! みんな! 私だよ! アンリエルナだよ!」
そう訴えるアンリエルナに村人達は槍を向けるばかりなのです!
ブゥン。ブゥン。
相変わらず蝿が煩わしいです。
「もう!」
こんな大事な時にまで顔の前を飛び回る蝿にアンリエルナはイラつきました。
その手で顔の前を飛び回る蝿を払います。
「今だ!」、村人達はそのように言うと、一斉にアンリエルナの胸や腹を槍で突き刺しました。
その数は五本もあります。もしかしたら十本だったかも知れません。
まあ、何本の槍がアンリエルナに突き刺さったかなどたいした問題ではありませんでした。
なぜなら、槍に裂かれた皮膚からぶわと黒い塊が飛び出したのですから。
その黒い塊というのが『蝿』でした。
アンリエルナの体から、無数の蝿が飛び出したのです。
そうです。アンリエルナはとうの昔に肉も内臓も蝿に喰われて無くなっていたのでした。
骨と皮だけが残り、彼女の中身は蝿と入れ替わっていたのです。
その蝿はたちまち村を覆い尽くし、生きたままの肉を喰らって血を啜りました。
すると、アンリエルナの腹は膨れ、喉は潤ったのです。
もっとも、膨れる腹も、潤う喉もありませんが。
とにかく、アンリエルナはもう人間ではありませんでした。
家族の事もどうでも良くなりました。
だって、人間は、彼女の腹を満たして喉を潤わせる肉袋なのですから。
だから、アンリエルナは飢えと渇きを収める為に、次々と村や町を襲いました。
生きたままの女子供に蛆を産み付け、蝿を増やしました。
やがて、それが元は十四歳の少女であったと誰も理解できないほどの、膨れた黒い塊がありました。
アンリエルナはもういません。蝿の女王がいるだけです。
そんな暴飲暴食を続ける蝿の女王の前に四人の旅人が現れます。
この四人がアンリエルナの憧れだった人達だという事を、蝿の女王が分かる訳もありませんでした。
そして、後に蝿の女王と言われる存在でもありました。
彼女は小さな村に住む、十四歳の普通の女の子です。
そんな彼女の村に四人の旅人が訪れます。
この四人の旅人というのが、この世界の主人公達なのですが、今はアンリエルナに焦点を当てて話したいと思います。
アンリエルナはその日に訪れた四人から旅の話を聞きました。
とても胸踊り、困難に立ち向かい、巨悪を打ち倒す物語です。
そのような物語を聞いたアンリエルナは自分もその旅に同行したいと思いました。
なぜなら、彼女はとても強かったからです。
村の男たち相手に駆けっこしても、勝てる人はいません。
剣の腕だって、村の中じゃあ一番です。
信じられますか? 十四歳の女の子なのに、です。
そんなアンリエルナですから、きっと自分は役に立つと思いました。
でも、四人はアンリエルナが来ることを拒みます。
危険な旅ですから、十四歳の女の子についてこれるものではありませんでした。
そして翌朝、四人は旅に出発しましたが、アンリエルナの情熱は抑えられません。
そこでアンリエルナは四人が『不死者の森』なる森へ向かったと聞き、剣を手に後を追いました。
不死者の森は危険な森です。
しかし、蛇やジャガーのような猛獣はいません。
代わりに、動く骨や死なずの死体が跋扈しているのです!
そのような場所で、普通の女の子が三日ももつはずがありませんでした。
案の定、アンリエルナは剣を持った骸骨の群れに襲われたのです。
ですが、アンリエルナには自慢の健脚がありました。
彼女は背中を斬られたものの、ピュンと素早く逃げ出したのです。
アンリエルナは怖い思いをしたので、村に帰りたくなりました。
それに、背中の傷もとてもとても痛みました。
早く父の元に帰って傷の手当てをし、母に慰めてもらい、弟や妹達と温かい食事をしたいと思います。
ですが、不死者の森は常に霧が立ち込め、アンリエルナは何日もさまようことになりました。
何日歩いたのか分かりません。
ですが、いつの間にか背中の傷が痛まなくなったのはアンリエルナにとって喜ばしい事です。
しかし、代わりに彼女の顔の前を蝿が飛ぶようになったのは不愉快たまりません。
「もう。なんなのよ!」
悪態をつきながら、アンリエルナは顔の前を飛ぶ蝿を払います。
ですが、蝿は全くアンリエルナから離れる事はしませんでした。
それから、アンリエルナを苦しめたのは蝿のみならず、飢えや渇きもあります。
思えば、森に入ってから何日も飲まず食わずでした。
「このままじゃ死んじゃうよぉ」
せっかく背中の傷は治ったかのように痛まなくなったのに、飢えと渇きは彼女に死を想像させました。
ですが、ある日、アンリエルナは霧と森を抜けたのです。
これは奇跡のような事です。
いえ、奇跡では無いでしょう。
諦めず、絶望せずに歩き続けたアンリエルナの想いの勝利なのです!
おめでとう! アンリエルナ!
「やった! やったよ!」
アンリエルナは故郷の村に駆けました。
何日も歩き続け、腹は飢えて喉は渇いていましたが、森を脱出できた喜びに比べたら些末な問題です。
やがて、村の前に広がる畑に到着しました。
顔見知りの農夫が畑の手入れをしています。
「おーい! おーい! 帰って来たよぉ!」
アンリエルナが農夫に呼ばわると、農夫は血相を変えて村に向かっていきました。
「きっとパパとママに私が帰ってきた事を報告に向かったのね!」
もう何日も何週間も帰ってないのですから、もしかしたら『アンリエルナは死んだ』と思われているかもしれません。
でも、アンリエルナは村に帰ってきたのです。
早くパパとママに顔を見せてあげなきゃ!
喜び勇んで村に向かった彼女を待っていたのは、なんと、槍を構えた村人達でした。
さらに遠巻きから、ほかの村人達が不安げにアンリエルナを見ています。
その中には、アンリエルナの両親や弟、妹もいました。
「どうしたの! みんな! 私だよ! アンリエルナだよ!」
そう訴えるアンリエルナに村人達は槍を向けるばかりなのです!
ブゥン。ブゥン。
相変わらず蝿が煩わしいです。
「もう!」
こんな大事な時にまで顔の前を飛び回る蝿にアンリエルナはイラつきました。
その手で顔の前を飛び回る蝿を払います。
「今だ!」、村人達はそのように言うと、一斉にアンリエルナの胸や腹を槍で突き刺しました。
その数は五本もあります。もしかしたら十本だったかも知れません。
まあ、何本の槍がアンリエルナに突き刺さったかなどたいした問題ではありませんでした。
なぜなら、槍に裂かれた皮膚からぶわと黒い塊が飛び出したのですから。
その黒い塊というのが『蝿』でした。
アンリエルナの体から、無数の蝿が飛び出したのです。
そうです。アンリエルナはとうの昔に肉も内臓も蝿に喰われて無くなっていたのでした。
骨と皮だけが残り、彼女の中身は蝿と入れ替わっていたのです。
その蝿はたちまち村を覆い尽くし、生きたままの肉を喰らって血を啜りました。
すると、アンリエルナの腹は膨れ、喉は潤ったのです。
もっとも、膨れる腹も、潤う喉もありませんが。
とにかく、アンリエルナはもう人間ではありませんでした。
家族の事もどうでも良くなりました。
だって、人間は、彼女の腹を満たして喉を潤わせる肉袋なのですから。
だから、アンリエルナは飢えと渇きを収める為に、次々と村や町を襲いました。
生きたままの女子供に蛆を産み付け、蝿を増やしました。
やがて、それが元は十四歳の少女であったと誰も理解できないほどの、膨れた黒い塊がありました。
アンリエルナはもういません。蝿の女王がいるだけです。
そんな暴飲暴食を続ける蝿の女王の前に四人の旅人が現れます。
この四人がアンリエルナの憧れだった人達だという事を、蝿の女王が分かる訳もありませんでした。
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