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12、挑発

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 イーナはゼスティの事が密かに好きだった。

 二年ほど前に傭兵団へやって来た彼にイーナは歳が近い事もあってすぐに打ち解けた。

 話してみると、軽薄な態度の裏に知的な教養と深い洞察を感じた。

 近い年齢なのに大人びているゼスティにイーナは惹かれていたのだ。

 そのゼスティを殺したくない。
 仮に手足を切り捨ててもバルンディアに連れ帰る。

「天使から貰った私の力を甘く見るな!」

 イーナが一足飛びで襲いかかった。

 衝撃波が雨粒を弾き飛ばす。

 一瞬でゼスティの眼前に迫り、剣を振るった。

 ゼスティは既に剣の先に剣を構えて防御の姿勢をとっている。

――遅い!

 イーナには彼の動きがスローモーションに見えた。

 刃と刃がぶつかった瞬間、イーナはゼスティの剣を巻き上げ、弾き飛ばす。

 金属の打ち合う小気味良い音が響き、ゼスティの剣が回転しながら宙を舞った。

 イーナはその剣を見ながら、勝ちを確信する。

 直後、鈍い衝撃がみぞおちを走った。

「うぇ……!」

 みぞおちから内臓へと突き上げる鈍い衝撃にイーナは呼吸が止まる。

 みぞおちにゼスティの膝が入っていた。

 彼女はみぞおちを抑えながら膝から崩れる。

 あまりの痛みに顔を赤くしながら、足をバタバタと動かした。

 まるで胃が潰れたのでは無いかと錯覚するような痛みだ。

 痛みに胃が収縮し、口は内容物を吐き出した。

「どれだけ目が良くても、見ていなきゃ避けようが無いだろう」

 ゼスティはいつもの微笑みを浮かべて剣を拾う。

「逃げ……なぁ……」

 ゲホゲホと吐瀉物を吐きながらイーナが声を絞り出した。

「痛みは耐えられないようで良かった」

 ゼスティはいつもの調子で言いながら馬にまたがる。

「いくらイーナが強くても、君とボクとじゃ年季が違う。百回挑んでも君じゃ勝てない」

 雷鳴轟く中、ゼスティの体がシルエットになった。

 その姿を見るとイーナは「勝てない」と感じる。

 もはや追撃を諦めるしかないと本能で悟った。

 雷雨の帳(とばり)にゼスティは消える。

 その背を見ながらイーナは泣いた。

 己の無力に。
 そして手も足も出なかった悔しさに。

 彼女は慟哭したのであった。

――

 それから数日の後にゼスティはベヘーヌ王国に到着する。

 さて、到着したは良いがゼスティにできることはしばらくなかった。

 彼がベヘーヌ王国にいたのはもう何十年も前の事だ。

 ゼスティの事を知っている人は居ないし、まだ覚えてる人がいたら困る。

 身分もよく分からないゼスティが何を伝えたところで誰も信じない。

 だが、バルンディア王国がイーナを擁してベヘーヌ王国に攻めてくるなら、その時はベヘーヌも傭兵を募るはずだ。

 そうしたら傭兵として雇われよう。

 そう考えたゼスティは「ま、とりあえず腹ごしらえだな」と酒場へ行くことにした。

 ゼスティは何日か酒場で酒色に耽る。
 とはいえ前後不覚になるほど酔う訳では無い。

 酒を飲みながら酒場に来る人々と交流しつつ情報を収集していた。

 ゼスティは人柄の良い人間だったから「長旅ご苦労さん。一杯酒を奢らせておくれよ」と誘えば誰もが警戒を解いて親睦を深める。

 そうして情報を集めると、三日目には「バルンディアで天使が降臨したらしい」という話を聞いた。

 天使降臨の話はたちまち広まり、五日目には街中で天使の話を聞かない日は無くなる。

 七日目に、神に選ばれた救世主がバルンディアにいるという話と共に、バルンディアの周辺国は全てバルンディアに従属したという話が聞こえた。

 十日目。
 バルンディアが「神国」を名乗り、ベヘーヌとサフィールの連合国に攻めて来るとの噂。

 十二日目。
 バルンディアが三つの国を従え、抵抗した二つの国を陥落させたとの話。
 あまりにも早い進軍速度には「神に選ばれた救世主」の大活躍があったとの事。

 十五日目。
 ベヘーヌ王国とサフィール王国から人が次々と逃げ出す。
 救世主の名はイーナというまだ十五歳くらいの女の子という話を聞く。

 この頃になるとベヘーヌ王国も事態を重く見て傭兵を募りだした。

 ゼスティの情報収集も終わりだ。
 彼はベヘーヌ王国に傭兵として雇われた。

 王都の外、平原に傭兵達の陣地が設けられる。
 雇われた傭兵達はそこで過ごす事となっていた。

 ゼスティがその陣地に向かうと、設けられた規模以上の傭兵達が集まっている。

 そのため国の兵士が急いで陣地を増築していた。

 傭兵の中にはゼスティと顔見知りの者も多くいる。

 何人かは十年以上も前に出会った者達で、変わらないゼスティに驚いていたが「ボクは息子ですよ。父のようにゼスティと呼んでください」と適当な嘘で誤魔化した。

 そのような彼らの話を聞いてみると、バルンディア王国がいくら快進撃を続けていてもしょせんは救世主イーナ一人の戦果。連合国の方が強いに決まってる。と判断したらしい。

 それに連合国は金払いが良かった。

 勝ち馬に乗れるし、契約金も良いなら連合国につかない理由もない。

「戦争も最近はめっきり減ったし、全国の傭兵がベヘーヌに集まるんじゃねえか?」

 傭兵達はそう考えていた。

 実際その通りだ。

 日増しに傭兵達が集まり、王都横の草原は一大集落とも言えるほど巨大な傭兵団の野営地が完成した。
 
 その頃にバルンディア軍はベヘーヌ王国の目と鼻の先までちかづいたようだ。

 バルンディア王国から使者が来て、魔術学校の廃校や魔術の破棄を条件に降伏を提示したらしい。

 もちろんベヘーヌ王はこれを拒否した。

 すると翌日に「ベヘーヌ王国の砦がバルンディア軍に陥とされた」という報せが来る。

 バルンディア軍が王都に来る前に迎撃へ向かう事となった。
 ベヘーヌ軍の将軍が傭兵達を集め、「これより出陣する!」と即席の壇上で演説をしていた。

 そんな時に傭兵達が「おい。ありゃなんだ?」とザワめいたため、ベヘーヌ将軍は「私が喋っておるのだぞ!」と怒鳴る。

 しかし傭兵達は黙らない。
 それどころか、どんどんザワめきは大きくなった。

「人が来るぞ!」

「速い! ありゃ噂の『救世主』じゃねえか!?」

 ザワめきは悲鳴になっている。

 このような声に将軍が目を向ければ、確かに王都前の草原地帯を一人の少女が走ってきた。

 速い。
 ともすれば馬より速い。

 剣を手に、ボサボサとした髪を風になびかせていた。

 力自慢の傭兵が一人、集団から離れて「来いやぁ!」と少女の前に立つ。

 そして、持っていた大斧を構えた。

 ブン! と風切り、大斧を振るったが、刃は虚しく空を切る。

 消えた? と力自慢の傭兵が思った瞬間、頭を踏まれた。

 コキっと首が折れる。

 少女はそのまま傭兵の頭を使って跳躍した。

 傭兵達は自分達の頭上を飛び越える女の子の姿に、ただ感嘆の声を上げるばかりだ。

 そして、少女が檀上、将軍の真横に着地した。

 将軍は目の前の少女を前に呆気にとられる。

 少女は着地した姿勢から、ゆっくりと、優雅に、悠然と、立ち上がった。

 そして、顔を静かに将軍へと向ける。

 そこでハッと意識を取り戻した将軍は腰の剣を抜き、少女へ振るった。

「無礼者め!」

 少女は頭を少し後ろに下げる。

 眼前を切っ先が通り抜ける様を少女はまじまじと確認した。

 そして、剣が通り抜けたのを確認してから頭の位置を戻し、剣を構えて横薙ぎに振るう。

 刃が将軍の兜と鎧の隙間に入り込み、肉を裂いて骨を断つ。

 鈍い感触と共に将軍の頭が宙に飛んだ。

 この間、一秒にも満たない刹那の戦いである。

 将軍の死に、兵士達が慌てた。

 傭兵達は少女の戦いぶりを見て「アレが救世主……!」と戦慄する。

 少女はそんな周りを見て「これは挨拶代わりだ。明日までに降伏せねばこの国は落ちる」と伝えると、悠々と壇上から降りて傭兵達の間を歩いた。

「イーナ」

 ゼスティの声が少女の名を呼んだ。

 少女が声の方へ向く。

 ゼスティがいつものニコニコした笑顔で手を振るので少女はムッとした顔をした。

「敵同士なのに何で笑ってるんだよ!」

 イーナがそう怒鳴ると「傭兵だもの。敵同士になることもあるさ」とゼスティは答える。

 調子が狂わされたイーナは「もういい」と答えて駆け出した。

 本当はゆっくり歩いて、自分の姿をベヘーヌ軍に見せつけてやる予定だった。
 しかし、ゼスティに調子を狂わされて居心地が悪かったのだ。

 そんなイーナが去った後、ベヘーヌ王国では救世主の強さが議論された。

 いっその事、降伏するしかないのだろうか?

 しかし、バルンディア王国は魔術そのものを異教徒の術だとしている。

 バルンディア王国に降伏するというのは魔術学校の解体を含む魔法技術の破棄を意味していた。

 ベヘーヌ王国もサフィール王国も魔術によって発展した魔術立国だ。
 魔術を失ってはそれこそ彼ら二国が国として維持するためのアイデンティティを失うのである。

 だから降伏などありえない。

 ベヘーヌ王は徹底抗戦を宣言した。

 とはいえ、兵には光聖教の信徒が多い。

 イーナの活躍を見た兵士達はすっかり恐れてしまった。

 将軍の死も兵士達には衝撃だ。

 国王は兵士の裏切りを危惧(きぐ)した。

 果たして将軍が死んだ夜には多くの兵士が脱走し、バルンディア軍に寝返った。

 この話は翌朝に傭兵達の知る事となる。

 傭兵達は兵士達を嘲笑した。

 というのも、傭兵は「金で戦う相手を変える不忠者」と正規の兵からは馬鹿にされるものだったからだ。

 しかし、今や『忠義の兵士』が裏切り、敵国についている。
 そして金で雇われた傭兵が残っているのだ。
 なんという皮肉だろう。

 傭兵は普段から馬鹿にされた分、文句の一つでも返したい。

 とはいえ、あの将軍の死に様を見たら寝返る兵士の気持ちも分からないでも無かった。

「あれは間違いなく神の祝福を受けているに違いない」

 そう傭兵達は確信し、戦場でイーナと出会う事を恐れる。

 正直に言えば、ベヘーヌ軍は兵士も傭兵も、「救世主相手に勝てるのだろうか?」という疑念を抱いていた。

 しかし、決して勝てない相手では無いはずだ。
 なにせベヘーヌ王国には魔術部隊がいる。

 確かに救世主の存在は恐ろしいが、しょせんは一人ではないか。
 こちらは何百という魔術兵による魔術部隊があるのだ。
 負ける訳が無い!

 そういう気持ちもあった。

 そんなベヘーヌ軍の前に、バルンディア軍を従えたイーナが平野に姿を見せたのは翌日の昼の事だ。

 ザッザッザと乱れない足音が平野全域に響く。

 迎え撃つためにベヘーヌ軍も王都を背に陣を展開した。

 ゼスティ達傭兵は最前線だ。

 誰かが「偉そうにしやがって。救世主におんぶにだっこの癖によ」と唾を吐いた。

「救世主に戦いを任せて、行軍の練習でもやってたに違いねえ」

 誰かがそう言うので、傭兵達はクスクスも笑う。

 その悪態も嘲笑も、恐怖から来るものだった。

 この時、バルンディア軍三千。
 ベヘーヌ軍は傭兵も含めて二万である。

 兵数ではベヘーヌ軍の方が圧倒的であった。
 だが、イーナの発する圧力はベヘーヌ軍二万を怯えさせている。

 足音を一つに纏めてバルンディア軍は足を止めた。

 イーナが腰の剣を鞘から抜く。

 平野を吹き抜ける風の音だけが聞こえた。

 傭兵の誰かがゴクリと固唾を飲んだ。

 ゼスティは深呼吸をした。

 彼の従軍経験は幾百では足りない。

 それでも戦う前のこの緊張感に慣れなかった。

 ゼスティは老いないが、おそらく傷を負えば死ぬだろう。

 人はいつか死ぬ。
 それが今日かもしれない。

「イーナ。君は緊張してるか? 今日、死ぬかも知れないと思った事はあるか?」

 ゼスティは心の中でイーナに語りかけた。

 そんなイーナは勇敢な顔つきで剣を天に向ける。

「我が名はイーナ! 天使により、人々を助け導くよう任命された救世主! 私に弓引くは天に弓引く事と同じだ!」

 剣を振り下ろし、「魔術を操る異教徒どもめ! ここで成敗してくれよう!」と駆け出した。

 バルンディア軍も雄叫びをあげて駆け出す。

 イーナが敵陣を切り開き、バルンディア軍が拓かれた敵陣に突っ込むのがいつもの作戦だった。

 今回もその百戦百勝の戦略で攻めるつもりだ。

 ところが、ベヘーヌ軍の隊列から、一人の男が前に出た。

 ゼスティだ。

「ゼスティ!!」

 その姿を見たイーナが怒声を上げる。

 ゼスティはいつもの笑顔。

 いつもの態度。

 リラックスして緩く剣を持っていた。

 そして、左手の指をクイックイッと曲げて、かかって来いとジェスチャーする。

 その態度にイーナは怒った。

 神からとてつもない力を譲り受け、救世主としての使命を帯びた自分を見下すような態度は許せない。

 ゼスティの事は好きだったが、今やもう憎悪の方が勝っていた。

 彼女は思い切り踏み込み、そしてゼスティに全力の剣閃を振り下ろすのだった。
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