ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

6、領主の居ないところで話が進む

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 皇帝崩御す。

 アーランドラ帝国、五国三地方を治める大国に疾風の如く情報が広がったのは十六ヶ月もある一年の中で初秋にあたる九月の事だった。

 各地の領主はこの情報を聞き付けるやいなや、すぐさま葬式と次の皇帝へ貢ぐ為の財宝を掻き集め、荷馬車に乗せると私兵と騎士を引き連れて帝都へ向かう。

 冬は極寒の様相を呈する事もままあるこの地にて、アーランドラの地方領主達は初秋に皇帝が崩御してくれて助かったと思いながら、次期皇帝に忠誠心を見せて取り入る為にも帝都へ急いだ。

 それはアーランドラ帝国の北東に位置する辺境の地モンタアナでも例外では無いはずだった。

 はずだった……と、わざわざ述べるのには理由がある。

 辺境のモンタアナの領主はあのラドウィン辺境伯だ。
 ラドウィン辺境伯が真面目に取り合う訳もなく、皇帝崩御を報せに来た使者に手紙だけ持たせて返してしまったのだ。

 ラドウィンはその辺境伯という肩書きの通り、帝国外の蛮族達が侵攻しないように見張り、また、蛮族達の住まう森を少しずつ開拓して帝国領を増やしていくのが仕事である。
 その仕事を理由に葬式と次期皇帝への貢物を断ったのだ。

 使者は使者で、皇帝崩御にも関わらず帝都へ上らない者が居たとなってはメンツも潰れるので何とか帝都へ来れないだろうかと説得する。

「そうも行きませぬ。蛮族どもは隙あらば領土を犯して来ますので。それに私には留守を任せられるものもおりません」

 蛮族というものは隙あらば略奪の為にアーランドラ帝国を攻めてくるのでラドウィンは防衛ラインであるこのモンタアナを離れる事は出来ない。
 それに、彼は代理としてこの地の指揮を任せられる騎士の一人も持っていなかった。

 ラドウィンが飄々とした態度でそのようにどうしても帝都へ行けない理由を述べると使者は手を強く握り震わせた。

「しかしですな。新皇帝に顔を売って出世するチャンスなのですぞ?」

 使者は何としてもラドウィンに来て欲しい。
 一人でも多く、自分のお陰で参列者が増えたと言いたかったのだ。

 だが、そのように言われるとラドウィンは肩を竦めた。

「別に出世なんてする気も無いですし、私はどうせ出世なんて出来ませんからね」

 そう言うとラドウィンは笑って、勝手に話を切り上げると手紙だけを渡して使者を返したのである。

 この態度に使者は憤慨していたが、ラドウィンは全く取り合わなかったので、結局、使者も諦めて帰ってしまった。

 ラドウィンは何も取り合わない。
 帝国の事なんてどうでも良かった。
 ただ、モンタアナの人々の事が好きだったから、彼らと共に蛮族と戦いながらも静かな暮らしが出来ればそれで良かったのである。

 そんな彼をモンタアナの人々も慕った。

 ラドウィンはどこか掴めない飄々とした男で、一見すればあまりに無責任な人間に見える。
 だけど村の人達は彼がどれほど責任感が強くて、自己犠牲も厭わない人かを知っていた。

 モンタアナからほど近い黒い森に住む蛮族が侵攻してきた時は村人達と共にラドウィンは剣を取り、誰よりも勇敢に戦うのだ。

 モンタアナの人が蛮族に連れ去られた時は夜を徹して黒い森を駆け回り、連れ去られた人を助け出した。

 一方、蛮族との戦いで村人が死ねば、自分の責任だと深く自己を戒め、死者の魂と残された村人への懺悔を行うような男だった。

 そんなラドウィンの事を村人達は尊敬していた。

 ラドウィンにとってこのモンタアナだけがあれば良かったのだ。
 富だの名声だのは要らない。
 ただ穏やかに暮らしていければそれで良かった。

 その頃、帝都では皇帝の葬式と並行して新皇帝の戴冠式が開かれている。
 前皇帝アロハンドの亡骸から新皇帝がその冠を戴く。

 新皇帝の名はミルランス。
 十四歳の少女。

 アロハンドには正妻との間に中々子が出来無かった。
 晩年になってようやく側室のリアトとの間に出来た女の子がミルランスだ。

 隣にはミルランスの妹で十歳のティタラという少女も追従していた。

 その後ろには大将軍オルモード、サバルト教団反乱でハルアーダと同じかそれ以上の功績を挙げて大将軍となった新進気鋭の男。
 それと宰相カルシオス、若き頃よりアロハンドに見出されて内政の一切を助言してきた経験豊富な男。
 十四歳の政治も分からない女の子が皇帝となるので、その政(まつりごと)を補佐する二人が立っていた。

 皇帝騎士はあのハルアーダ。

 アロハンドは亡くなり、新皇帝はまだ若かったが、先代皇帝の重臣達は今だ健在であり、誰一人としてアーランドラ帝国の行く末を危惧していなかった。

 ミルランスが皇帝になって最初、アロハンドの死に関する噂をたてないように命令が発せられた。
 と、いうのも、サバルト教団反乱の半年後にアロハンドが死んだ為、国の民達ときたら教主トルムトの呪いかなにかに違いないと噂したのだ。

 そのような噂で新たな反乱的宗教が出てきても困るので、そのような噂を禁止した。

 それから、ミルランスの悪口も禁止する。
 やはりというべきか、まだ若い上に女の子ともなると、性別を馬鹿にする輩はいるものだった。

 それで不敬罪を厳にして、相互密告による懸賞金を設けたのである。
 軽口一つで投獄されるので市井(しせい)の人々は口を閉ざして、新皇帝になってからアーランドラ帝国全体に陰気な空気が漂ってしまった。

 一方、ミルランスは街に活気が失われているだなんて知らない。
 周りの家臣達はへこへこと「帝国中の人々はミルランス皇帝を尊敬して毎日感謝の言葉を述べています」と媚を売った。

 ミルランスが玉座でその話を聞くと隣に立っている宰相カルシオスが耳打ちして「それは良い事。このまま皇帝の威をあがめるように」と言うのでミルランスはそのまま「それは良いこと、そのまま皇帝の威をあがめるように」と繰り返す。

 また大将軍オルモードから軍備拡張の申請が来れば、ただその書類に皇帝の印を捺した。

 内政を宰相カルシオスが、軍備を大将軍オルモードが補佐するとは所詮、聞こえの良い言葉。

 その実態は傀儡。
 ミルランスはただの傀儡皇帝に成り下がっていた。

 それは一週間もすると公然の事実になり、誰も彼もがミルランスでは無くカルシオスやオルモードへと媚を売り出したのである。

「公爵マルオド、男爵オルモンゾに内務補佐官の地位を」とカルシオスに言われれば書類に印を捺し、
「伯爵バーミッド、子爵アッドオウルに叙勲を」とオルモードに言われると書類に印を捺した。

 そのような実情に、ミルランスの妹ティタラは「おかしいですよ! 姉様!」と、二人きりの時に言うのだ。
 いや、二人きりというのは有り得ず、ハルアーダが常にミルランスの隣に居たが、とにかくミルランスがその仕事を終えて食事や風呂や睡眠などで三人きりになれる機会があるとティタラは姉の立場を誰も理解していないのかと憤慨したのである。

「仕方ないよティタラ。私はなんにも出来ないんだし……。カルシオスとオルモードの言う通りにしておけば間違いも無いしさ……」

 ミルランスはどちらかと言うと消極的で引っ込み思案だった。
 自分に自信が無いから、自分が間違った事をしてしまうよりもとにかく人の言う事を聞いていればそれで良いと思う。

 だが、ティタラはそのようなモジモジとして内気な姉と違って利発で行動的だったから、姉はもっと主張すべきだと述べた。

「古来より二人の指導者は禍根の元と言います。姉様がしっかりとこの国の手綱を握らないと、近いうちにカルシオスとオルモードでこの国が二分されてしまいますよ!」

 ティタラは十歳なのに聡明だ。
 ミルランスはこの妹が皇帝だったらどれだけ良かった事だろうかと思った。

 だけど、それは叶わない事だ。
 ミルランスは前皇帝アロハンドに溺愛されていた。だから次皇帝として遺言されるのは間違いの無い事である。

 一方、ティタラはアロハンドから嫌われていた。
 その嫌悪の原因は、弟や妹といった者に向けるアロハンドの憎悪だ。
 アロハンドには弟がいたが、ミルランスが生まれてすぐの頃にその弟帝を投獄した過去がある。
 理由は分からない。
 その後に生まれたティタラにもその弟への憎悪を向けた。

『弟や妹というものは上の残りカスだ。余り物で出来た不出来な存在だ』

 アロハンドは生前そう言っていた。
 だが、ティタラはアロハンドに褒められたくて、愛されたくて、必死に勉強していたのをミルランスは知っている。

 だから父の愛を受けられなかったこの妹にミルランスは一種の罪悪感を抱いていたせいか、どうしてもティタラに強い態度を出せなかった。

 ティタラのようにハッキリと物を言えたら良いのだが、四歳年上なのにティタラと違って流されるままの自分を情けないとミルランスは思う。
 そして、その劣等感がミルランスをますます引っ込み思案にした。

 ミルランスを引っ込み思案にさせたのはそれだけではない。
 皇帝としての仕事も彼女の精神を蝕んだ。
 皇帝として彼女は罪人を処刑する印を捺す必要があった。
 絞首や断首などは優しいものである。

 牛に手足を引き裂かさせる。
 生皮を剥いで劇薬を刷り込む。
 生きたまま焼けた鉄の棒に抱き着かせる。

 字面を見ただけでミルランスは吐きそうになり、気絶するような処刑が書かれた書類に印を捺すのだ。

 ミルランスは生来、生命を慈しむ心優しい女の子だったから、そのような書類に印を捺す事すら苦痛だった。

 刑の執行が成されて、罪人がこの世から一人消えましたと報告を受けると、ミルランスは自分の捺した書類に書かれていた処刑でどんな風にその人が死んだのか想像して心が病んでいく。

 やがてミルランスは目の下に黒い黒いクマを付けて、殆ど何も喋らずに黙り込む事が多かった。

「皇帝なんて嫌だ。やめたい」

 誰も居ない時にティタラに抱き着いて、ずっと啜り泣いていたのである。

 ティタラはそんな姉ミルランスを必死に励ました。
 ティタラも姉ミルランスがどれほど心優しいか知っていたから、時として残酷な事をしなくてはならない皇帝という立場を憐れむのだ。

 皇帝騎士のハルアーダはそのようなミルランスの姿を見て、心を痛めた。
 だが、誰かがやらねばならないのだ。
 そして、皇帝という頂点がおらねばアーランドラ帝国は瓦解してしまうから、結局、ハルアーダにしてやれる事は何一つ無かった。

 そんなある日の事、しんしんと雪が降り始め、こう寒い日は酒でも飲んで体を温めるべきだと進言されたのでミルランスは城の中でパーティを開く事となった。

 城内や最寄りの町から貴族達が集まる。

 ミルランスは皇帝用のローブに着替えて、上等なドレスに身を包んだティタラと廊下で合流した。

 二人が合流すると、再会を喜んだミルランスがティタラを抱きしめる。
 着替えための短い別れであっても、ティタラと離れるのはミルランスにとって苦痛となっていた。

 ミルランスの希望で、妹ティタラと一緒にパーティーを過ごす事にしたのも当然だ。

 そんな二人と共にいるハルアーダはもちろん騎士甲冑に身を包んでいた。
 いつ何時、皇帝の命を狙う者が居るか分からないから警戒を怠らない。

 とはいえ、ミルランスとティタラが抱き締めあっているのを見て、もしもティタラに悪意があったら暗殺を防げないだろうとハルアーダは思った。
 しかし、ティタラはいまやミルランスの心の支え。
 離れろだなんて言えない。

 そうしてハルアーダをすぐ後ろにつけてミルランスとティタラはパーティー会場に入った。

 そこには既にたくさんの貴族達が集まっている。

 案内の貴族が宰相カルシオスと大将軍オルモード、及びその腹心の貴族達を案内していた。

 そうして、一番奥に並べられたテーブルへ彼らを案内すると戻って来て「お待たせしました」とミルランスとティタラを奥のテーブルへと案内する。

 皇帝とその重臣達は奥のテーブルで着席し、それ以外の貴族達は立食する形式のようで、誰も彼もがガヤガヤと宰相カルシオスや大将軍オルモードに話しかけていた。

「陛下。こちらでございます」

 案内が玉座に似た椅子へと案内するので、ミルランスが黙って座ろうとする。

 その時、「無礼者!」とティタラの声がパーティーの広い部屋に響いた。

 その声があまりに大きく力強かったから、誰も彼もがしんと黙り込んだ。

「なぜミルランス皇帝陛下が姿を見せながら宰相と大将軍にばかり話し掛けるか! なぜ皇帝陛下が姿を見せながらなおも宰相と大将軍の案内を続けてミルランス皇帝陛下を待たせるか!」

 呆然としながらその言葉を聞いているカルシオスとオルモードをティタラはキッと睨み付け「貴様らがそのようにせよと命じたか!」と怒鳴るので、二人はたちまち青い顔になりながら椅子から転げ落ちるかのように膝をつき「滅相もありません!」と言う。

「貴様らが何を命じておらずとも皇帝陛下に敬意を払わぬ姿は不敬なるぞ! 貴公らは皇帝陛下の恩寵賜いし臣下の身分を忘れたか!」
「いいえ! 忘れておりませぬ!」

 正直に言えば、カルシオスもオルモードもミルランスの事を軽んじていた。
 どうせあの小娘の事だから多少の無礼くらい良いさと思っていたし、周りの者も皇帝ミルランスよりも宰相と大将軍の方が実権を握っていたので気にしていなかったのである。
 そんな所でティタラからその態度を強く責められて肝を潰してしまった。

「私に頭を下げるのでは無く皇帝陛下に頭を下げぬか! そして二心(にしん)が無いことを誓え!」

 十歳とは思えぬ気迫。
 論の筋は通っているし、声はよく張りあがっていた。

 腐っても貴族というものは礼儀と立場と大義名分を重視するもの。
 こう論理立てて責められてはカルシオスもオルモードもミルランスへ片膝ついて頭を下げ、非礼を詫びるしか無かった。

 ティタラが姉ミルランスを軽んじている現状に腹立って口にした事であるが、この一件は聡明なティタラの存在をアーランドラ帝国の貴族達に知らせる事となったのであった。
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