ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

25、不真面目領主の戦い方

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 ラドウィンは約二万の軍勢を率いて帝都を出た。
 残りのハルアーダやタハミアーネなどの軍は帝都の防衛である。

 ラドウィン自身が率いるのは一万三千。
 そのうち、三千をキルムの指揮下へ与え、彼の判断で動かせるようにする。

 これで帝国軍二万の内訳は、ラドウィン隊一万、キルム隊三千、そして二人の男爵に七千。

「私だけでは不安なので副将にデビュイを下さい」

 キルムはそのように進言し、ラドウィンはそれを聞き入れた。

 監視でもするのかとラドウィンが聞くと、キルムはバツが悪そうに顔をしかめて「信用しますよ。彼らは命をかけて戦ってくれたのです」と言う。

 デビュイ以下元賊の彼らはその殆どがオルモード麾下の騎士達に殺された。
 ダルバをオルモードへ向かわせる為に命をかけた彼らをなぜ疑う事が出来ようか?

 ラドウィンは笑って「だ、そうだ」とラドウィンの馬の手網を牽く馬廻りの兵に言うと、その兵が鉄兜を脱いだ。

 デビュイが馬廻りに扮していたのである。

 これにキルムは冷や汗たらたらだ。
 なにせキルムはまだまだ青の若造。
 成人したてであるし、人を殺した事も無い。

 一方、デビュイは四十間近であるし、若い頃から賊討伐において名を上げている歴戦の武将であった。

 そのような人に話を聞かれて平常心でいられない。

 しかし、デビュイは小さく笑って「キルム殿に認められて安心した」と言うのである。

 怒ってないのかとキルムは少し物怖じした様子で聞くと、デビュイは片方しかない目でキルムを見るのだ。

 その片目があまりにも物々しいのでキルムは正直、肝を冷やした。

 だが、デビュイは全くキルムを怒っていない。

 疑われるのは賊に身を堕とした当然の報いだ。
 それに、疑っていたキルムがデビュイ達を信用したと言うことが、全兵にとって何よりの信頼材料であろう。

「ラドウィン様の右腕であるキルム殿だ。私も矛なり盾なり、自由に使って下さい」

 ラドウィンの右腕と言われ、キルムはこしょばゆい喜びに襲われた。
 だらしの無い笑みが浮かびそうになるのを抑えるのに必死になるのであった。

 ラドウィンは二人を見て、これなら仲違いも無く安心であろうと思う。
 特に、知識はあれど経験不足のキルムに経験豊富なデビュイが副将としてつくのは相性が良いだろうと思った。

 特に、若くてカッとなりがちなのに慎重過ぎる面があるキルムと、落ち着いているが勇敢なデビュイはでこぼことした互いの性格を埋め合わせてくれるだろう。

 ラドウィンはそんなキルムとデビュイに、無理な攻撃はせず防御に徹し、攻撃に出る時は常に敵軍の側方を突ける時だけにするよう命じた。

「と、するも、最終的な判断はキルムに任せる」
「任せて下さい!」

 キルムは元気良く返事をする。
 が、「それにしても消極的な戦法ですね」とキルムはラドウィンの作戦が消極的な守りの戦法だと指摘した。

 キルムの指摘は批判では無い。

「やはり、雪ですか?」

 むしろ、ラドウィンの思考を良くなぞっているものであった。

 つまり、ラドウィンはこの積もりだした雪がよりたくさん降って、動けないくらいの積雪となるのを期待している。
 なにせオルモード・カルシオス連合軍の占有する砦は補給の一切を後方から補給する事でまかなっていた。

 そして、越冬するにはあんまりにも兵の数が膨れすぎていた。
 寝返りによって兵站と兵数との計算が狂っている筈なのだ。

 なので、ラドウィンは積雪まで防戦一方で連合軍が帝都へ向かうのを防ぐつもりだったのである。

 そんなラドウィン軍が荒涼とした緩やかな山道を進んでいくと、旅商の一団がやって来た。

 カセイ国から帝都へと向かっているようだ。

 十人程の旅商は道を譲らず真っ直ぐにラドウィン軍へと向かって来るので、先頭の将が「どけ」と怒鳴っている。

 するとラドウィンはその将をなだめた。

 そして、ラドウィンはその旅商の人に頭をぺこりとかしずいたのである。

「久しぶり。タッガル」

 先頭の男は口髭を立派に生やした中年。
 それはモンタアナのタッガルだ。

 彼はラドウィンの指示のもと、仲間と共に各地へ情報を集めていた。
 そしてタッガルと一部の兵はこの日の為にオルモード、カルシオスの逃げ込んだカセイ国の町の一つ、オーゼリードの情報を探っていたのである。

 モンタアナ兵は農民ばかりなので兵士らしい雰囲気が無かったから、誰に警戒される事も無く情報を集める事が出来た。

 タッガルとその仲間達はラドウィン軍と合流し、道すがらに情報を伝えるのだ。

 オーゼリードでは盛んに、ミルランスとティタラは皇族では無くて偽りの帝だと噂されていた。
 その噂はカセイ国の全土へ既に及んでおり、かつてアーランドラと敵対していた歴史のある国なので、それぞれの地方豪族や知事、酷いところは民草が帝国から派遣されていた領主を追い出して独立している騒ぎである。

「カセイ国内は完全にアーランドラ帝国へ反旗を翻していますね。カセイ国一国というより、各々が好き勝手に独立しつつ同盟をしているという様子です」

 その情報は、つまり、カルシオスとオルモードの本拠点であるオーゼリードをカセイ国の領主達に攻めさせる事が出来ないという事だ。

 ラドウィンは万に一つでも連合軍へ勝つには後方からカセイ国の領主達に攻め立てて貰うしかないと考えていたのであるが、その勝機が消えたと思う。

 当初の予定通り、降雪までひたすら敵が侵攻出来ないように抑えるだけだと考えた。

 そうしてラドウィン軍は丘と山岳、平原と街道に河川の流れて砦の乱立する地、ラクペウスへとやって来たのである。

 ラドウィンは一万七千の本隊とキルムが率いる三千に分け、キルム隊を山岳へと布陣させた。
 ラドウィンは本隊として、三つの砦へ対峙するように街道へと布陣したのである。

 地図で見るとこれはまた、ラドウィンは奇妙な陣を敷いたものだ。
 本隊が敵軍と対峙し、先鋒隊や別働隊にあたるキルム隊が本隊よりやや後方へと退がっている。

 連合軍はラドウィン軍の陣を認めると三つの砦から出陣した。

 この出陣に際してガ・ルスは砦の防衛に回っている。
 オルモードはしばしば最大戦力といえるガ・ルスを出陣させない傾向があった。
 彼に武功を挙げさせるのをオルモードは恐れたのか、はたまた、彼が戦死するのを恐れたのか?

 何にせよ、ガ・ルスが出陣していなかったのはラドウィンにとって幸運だった。

 ラドウィン軍がゆっくりと前進し、三方向から攻め寄せる連合軍と抗する事が出来たのはガ・ルスの居ないお陰であっただろう。

 しかし、この衝突虚しく、ラドウィンはすぐさま撤退の命令を下した。
 この時、三方向を合わせた連合軍の総兵力は約二万五千程。

 帝国軍の率いる二万とさして変わる程の戦力では無かった。
 キルム隊三千を山岳になど配置しなければもっと戦えただろう。

 しかし、ラドウィンは後退を始めたのである。

 連合軍はさらなる追撃をかけ、逃げる帝国軍を追い込もうとした。

「敵将はラドウィンといったか。怠け者の田舎領主と聞いていたが、噂通り逃げるのが得意な奴だ」

 オルモードはラドウィンをそう評して、帝国軍遅るるに足らず、撃滅せよと軍を前進させる。

 彼が恐れていたのはハルアーダとタハミアーネくらいなもの。
 ハルアーダとタハミアーネの奇襲を警戒してガ・ルスを後方に配置しているので後方の守りを気にせずに前進させたのである。

 そう、『後方』は警戒していた。

 山岳に配置していたキルムは山の上に潜み、戦況を見ていた。

 どんどん後退していく帝国軍を見て、動けない自分にやきもきしたが、デビュイが「抑えて下され」と言うので「分かってる」と堪えた。

 そして、その時は来た。

 後退する帝国軍。
 追撃する連合軍。

 連合軍は騎馬兵と歩兵、鎧を着込んだ重装歩兵の速さの差から列が伸びる。
 そして、その伸びた列がキルム隊の横へと来たのだ。

「あ! あ! い、行け! 行け!」

 キルムは訪れたチャンスに喜び、慌てふためきながら攻撃命令を出した。

 坂から落ちる勢いを利用して一息に攻めかける。
 逆落しだ。

 長く伸びていた連合軍の横腹をキルム隊が突撃すると、たちまち三千ごときの兵に連合軍は混乱してしまった。

「ただの逆落しだ! 隊伍を崩すな! 貴様らは勇壮勇猛にして精強であるぞ!」

 オルモードが軍刀を抜き、馬を竿立たせて兵たちを鼓舞し混乱を静める。

 迅速に混乱を収めたのは流石にオルモードと言えようが、しかし、彼らの混乱が静まるのが早いかラドウィンは軍を転進、攻勢に撃って出た。

 一度乱れた足並みは揃え難く。
 防備の姿勢は取りがたく。
 急いで構えようとした槍は左右の味方の槍とぶつかり合い、急いで構えた剣が前の味方の背中を切り付けた。

 オルモードは仕方なく撤退の命令を下し、砦の前まで引き返す。

 ガ・ルスを出陣させて帝国軍を粉砕しようとした。
 ところが、砦の前まで戻ると帝国軍は追撃に来ていない。

「不用意な追撃を行わないとは、ラドウィンという男は存外慎重なようだな」

 オルモードはラドウィンの評価を改めざる得なかった。
 それと同時に、慎重な相手との戦い方をオルモードは知っていたからこの戦いを儲けたものだと考える。

 オルモードは砦に入ると全兵に「帝国軍に恐れるな」と演説した。
 なぜなら、帝国軍はガ・ルスを恐れているからだ。
 次の戦いはガ・ルスが先導して兵を導く。恐れるな。

 オルモードはそう兵を鼓舞し、ガ・ルスに一万余の兵を預けた。
 自分は帝国軍の遊撃から砦を守る。ラドウィンはガ・ルスを警戒している故に近付けば必ず逃げるから散々に追い回せ。

 そのように命じてガ・ルスを出陣させた。

 すると案の定、ラドウィンは軍を撤退する。

 ガ・ルスはラドウィンとの再戦を望んでいたのに逃げ出すので、卑怯者めがと罵った。
 ガ・ルス隊の兵達は逃げる帝国軍に気分を良くして笑ったのである。

「追撃するぞ。臆病者に戦いを教えてやる」

 ガ・ルスは兵達を率いて帝国軍を追い掛けた。

 帝国軍は街道を逸れて林道を抜け、林道を曲がって山道を進む。
 蛇行するように逃げ続け、帝都とは違う方向にある峠道を進んでいった。

「どこへ行くのでしょう?」と兵の一人が呟くので、ガ・ルスは「俺達が帝都を優先して見逃してくれるとでも奴らは思っているのだろう」と鼻で笑うのだ。

 もっとも、ガ・ルスがラドウィンを放って帝都へ向かうなんて有り得ぬ事である。
 というのも、ガ・ルスはラドウィンと戦った時に彼が終始飄々と余裕な笑みを崩さなかった事が気に食わなかった。
 ガ・ルス自身、自分の実力を信じていたから、そんな自分と相対(あいたい)して恐怖どころか汗の一つかかずに余裕な態度のラドウィンは彼のプライドを著しく傷付けたのである。

 今度こそあの笑顔を恐怖で引き攣らせてやるぞと意気込んで帝国軍を追っていると、帝国軍が峠の向こう側へと姿を消す。
 峠を越えたら一息に追い付き、蹂躙の限りを尽くしてやろうとガ・ルスは思い、隊と共に峠の坂道を強行した。

 すると、峠の頂上から岩がゴロゴロと転がって来たのである。

 ガ・ルスは馬を跳ねさせて岩を避けたが、何名かの兵が怪我を負う。

「怪我人は置いていく。俺と共に武功を挙げたい者はついてこい」

 そのように言って峠を再び登ろうとすると、頂上を見たガ・ルス達はギョッとした。

 頂上から大きな岩がゆらゆらと登ってくるのだ。

 持ち上げるのに人が何人も必要そうな大岩である。
 そんな大岩が峠の嶺を、まるで地平線から太陽が顔を覗かせるように登ってくるので、一体全体何事かと思う。
 そして、その全容が見えた時、ガ・ルスはさらに驚いた。

 その大岩がただ一人の男が持ち上げていたのだ。

 長身のガ・ルスよりもずっと大きな男である。
 全身の筋肉が隆起し、恐ろしい眼でガ・ルス達を睥睨するので、何という怪物を手下にしているののだとガ・ルスの兵達はラドウィンを恐れた。

 すると、その大男はその大岩を峠の坂に投げたのである。

 ガ・ルスと兵達は驚き、峠道の脇に飛び退いた。

 逃げ遅れた兵は岩に潰れたが、岩を逃れた兵で不運な者は道の脇が急な坂になっていたので鎧の重さも併せてバランスを崩し、転落死してしまった。

 ガ・ルスも足場の悪い坂に落ちそうであったが、彼の操る馬は天険(てんけん)として知られる地に生きる西方馬であったから何とか落下を逃れたのである。

「おお、良い子だ。帰ったら褒美をやるぞ」

 愛馬の美しい毛並みを撫でつけると、峠から見下ろしてくるオーガの如き怪傑を見上げた。 

 すると、その怪傑はスっと峠の向こう側へと姿を消したのである。

 ガ・ルスは生き残った兵達へ「亡くなった味方の敵討ちをするのだ」と叱咤し、峠へと一気に登った。
 そして頂上まで登るが、そこから見える景色には遠くの森を行く帝国軍が見えるだけだあの怪傑は居ない。

「どこにいる?」

 ガ・ルスが見渡すもその姿は見えない。
 あのような怪力を誇る怪傑と戦ってみたかったが、姿が見えないのでは仕方ないので帝国軍を追うことにした。

 そうして彼らが峠の坂を降っていくと、岩陰の砂利がモゾモゾと動く。

 なんと、そこにはアーモが居た。
 あのオーガの血を引くと言われる巨漢は砂利に埋もれて身を隠していたのである。

 全身から冷や汗を垂らしていたお陰か、上手く砂利が素肌にへばりついたものだ。

 もっとも、その冷や汗が流れたのは、あの恐ろしいガ・ルスに見つかるかもしれないだけで緊張死しそうになった事によるものであるが。
 鼻先三寸を彼の愛馬の蹄が踏み締めた恐怖など形容のしようもあるまい。

 アーモときたら大きな図体とオーガを彷彿とさせる恐ろしい見た目の癖に存外にキモの小さな男なので二度とこんな事はしたくなかった。

 そんなアーモの元へと後方から多数の兵士達がやって来る。

 彼らはラドウィンが引き連れていた帝国軍の兵士達だ。
 なぜ後方から来るのかというと、ラドウィンは曲がり角を曲がってガ・ルスから死角となるたびに兵士達を草木に隠して逃げていた。

 行軍速度は兵士の数に比例して遅くなるから足の遅い兵士を隠す為と、ラドウィンの策の為に兵士を少しずつ離脱させたのだ。

「ラドウィン様。どうか無事で居て下さい」

 アーモはそう思いながら兵士達と共にガ・ルス隊の後方を追って行った。
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