ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

文字の大きさ
31 / 71
1章・戦火繚乱編

31、閨秀なる帝

 サスパランドと帝都の間にアルマッドという領地あり。
 そのアルマッド候爵サルジュは自分を皇帝の血筋と自称し、自らを大公などと名乗った。

 その大公という肩書きでカルバーラ地方の大小する領主と同盟を結び、カルバーラ地方一の有力領主となったのである。

 皇帝不在の混乱の中、我こそ皇族の血を引き、次代の皇帝となるに相応しいと宣言して、サルジュが皇帝となった時に側近として取り立てて貰おうと人々が集まったのだ。

 もっとも、その後にティタラが帰ってきた為、皇族と自称して皇帝に睨まれたくないし、かと言って嘘だったと発言の撤回も出来なくなって同盟は自然崩壊したが。

 さて、この大公サルジュがラドウィンの逃げ込んだサスパランド男爵領へと攻め込んだという話はハルアーダの耳にも入る。
 これは何とも運が良いじゃないかとハルアーダは思い、カーンへとこの隙にラドウィンを暗殺するよう命じた。

「それがどうやら、ラドウィンの居るサスパランドをサルジュが襲ったのは偶然では無いようで」

 カーンの声が屋根裏から響く。

 ハルアーダの眉がピクリと動いた。

 カーンの調べによると、サルジュは帝都のある者からの指示でトルノットを狙ったのである。
 サルジュとしても勝手に皇族だの大公だのと名乗っていたので、帝国との関係を良好に保てるなら喜んで協力したようなのだ。

 それに、皇族とか大公と名乗ったのにも関わらず帝国との関係が良好ならそれだけ周囲の領主達にも皇族という信憑性が上がるというものである。

 つまりラドウィンを殺す為にサルジュは利用されたのだ。

 これにハルアーダは笑う。
 ロノイ達は戦下手な文官ながら、さすがに権謀術数に長けたものだ。

 ところが、カーンが、サルジュを利用したのはロノイ達ではないと言うのである。

「では誰がラドウィンを始末しようなどとするのだ?」
「皇帝です。サルジュに大公の爵位を公的に認可すると約束して、ラドウィンが隠れるサスパランドを攻めるよう指示したのです。書状の写しも手に入れました」

 ハルアーダが立ち上がった。
 あんまりに勢い良く立ち上がったので、椅子が勢い良く倒れて乾いた音が響く程である。

 眼をハッタと見開き天井を見つめて、なぜティタラ様がラドウィンを殺そうとするのだと叫んだ。

 そうだ、ティタラがラドウィンを殺そうとするわけが無い。
 ラドウィンはミルランスを守っていて、つまり、ラドウィンが死ねばミルランスが悲しむはず。

 血を分けた姉の為にもティタラはむしろラドウィンを護る筈ではないのか?

「多分、誰かに唆されたのだ。ティタラ様がそのような事を命じる訳がない」

 ハルアーダは甚だ矛盾していた。
 自分がラドウィンをかくも殺そうとしていたのに、ティタラがラドウィンを殺すなどと信じられないのだ。
 いや、いや、ラドウィンだからこそティタラに彼を殺そうなどとして欲しくないのである。

 なにせラドウィンは我々の恩人ではないか! 恩人を殺すなんていう仁義にもとる行為など俺がやれば良いのだ! ティタラが手を汚してはならないのだ!

 だから、きっと悪辣な臣下がティタラを傀儡にしようとしたのだとハルアーダは思ったのだ。
 カーンに総員を用いてティタラの身辺を探り、その逆臣を見つけ次第殺すように命じた。

「娘の事となるとどこの父も変わらぬものですな」
「つまらぬ事を言っている暇があったらいかぬか!」

 ハルアーダが天井に怒鳴ると気配がフッと消える。

 それと同時にハルアーダの同僚であるエルグスティアが扉を開けて顔を覗かせた。

 何か怒鳴って無かったかと聞くので、何でもないとハルアーダは答えて、何のようで部屋に来たのかとエルグスティアに聞く。

 皇帝陛下がお呼びだと言われ、ハルアーダはティタラの元へと向かった。

 皇帝と謁見する玉座の間では無く、ティタラの私室へと案内される。
 ハルアーダは思うに、やはりティタラを傀儡にしている輩が居て、そいつをどうにかして欲しいと内密にお願いされるに違いないと思った。

 部屋の前でエルグスティアと別れ、部屋の前に立つ護衛の騎士が最大の敬意を払う敬礼を受けながらハルアーダはティタラの私室に入る。

 ティタラは疲れきった様子でカフェテーブルの椅子に腰掛けていた。
 目の下には真っ黒なクマを作っている。

 ハルアーダが近づくと、少しだけ瞼を開けてハルアーダの姿を見た。
 そして再び目を閉じる。

「お疲れでございますね」
「ええ、ええ。最近は特に。どいつもこいつも馬鹿ばかりでね」

 あまりな言い草にハルアーダは苦笑した。

 そんなハルアーダを見る事もせず、ティタラは死んだような眠ったような蒼白な顔でハルアーダを呼んだ用件を話し始める。

 内容としては、ラドウィンが帝都を脱出してサスパランドに身を潜めたいる事と、大公サルジュと同盟した事を伝えた。

 ハルアーダはその話を冷静に聞いている。
 あまりに冷静に聞いていたので、ティタラは目を瞑ったまま、「知っていたようね」と言った。

「ハルアーダが何か使って裏でこそこそやってるのは知っているわ。そいつらが調べたのかしら」

 ティタラがカーンの存在に気付いていてハルアーダは驚いた。
 かつて、年端もいかない無垢な少女だったティタラに、かつての先帝アロハンドの姿が重なるのだ。

 しかし、ハルアーダは鼻で深く息を吸うと平静を保ち、「何のことでしょう」ととぼけた。

 ティタラはそのすっとぼけた返事に何も言わず、まあいいわと流す。
 目を閉じた瞼の裏側に何か思い描くものがあり、その描いた物事と無関係な話には興味の欠片も無いような淡白な態度だ。

「差し当たって、ハルアーダに頼みがあるの。私の一番信頼しているハルアーダにね」

 来たか! とハルアーダは思う。
 ハルアーダはティタラを傀儡にしている悪臣を始末してやろうと身構えたのだが、ティタラの小さな口から出て来たのは予想と異なるものであった。  

「ラドウィンをサルジュが始末できようが出来まいが、その結果の如何に関わらずサルジュを始末しなさい」

 ハルアーダは驚きのあまりに倒れ込みそうになる。
 あの純粋無垢であった少女からこのように残酷な命令が出るだなんて信じられない。

「なぜサルジュを始末するのですか?」

 呼吸しようと必死に動く肺を動かして何とか絞り出せた質問。
 その質問を聞くとティタラはクスクス笑って目を開けるとハルアーダを見つめた。

「当たり前でしょ? 勝手に皇帝の血筋を名乗って、勝手に大公を名乗るような無礼者を許すわけがないじゃない」
「ですが、大公を名乗っても良いという約束でサルジュを動かしたのでは?」

 ティタラが小首をかしげて笑う。
 ハルアーダは、大公を名乗っても良いという約束があった話をティタラとはしていないことを思い出して口元を指で軽く押さえた。

 ハルアーダが裏で色々と調べていた事をすっとぼけたのに、これではティタラに教えてしまうようなものである。
 もっとも、ハルアーダが探りを入れている事くらいティタラには既に分かっていたので気にしてないが。

「私は……『余』は皇帝よ。サルジュとの約束を守る必要があるのかしら? 天に私と並ぶ者など居ない――」

 ティタラは言葉を途中で切って目を瞑ると静かに天井を見上げた。
 いや、天井では無い、天井の向こうに広がる天を見上げたのだ。

「いえ、余と並ぶ者がいたわね……。まあいいわ、そいつもいずれいなくなる……」

 天の下にティタラと並ぶ者。
 それが何者かハルアーダには分かった。

 その者の名は……ミルランスだ。

 しかしそれでは、よもやそれでは、ティタラは血を分けた姉のミルランスを殺すつもりなのか!

 ハルアーダは今、なぜティタラがラドウィンを始末しようとしたのか分かった。
 目的はラドウィンの死ではなかったのだ。
 ラドウィンを始末した先に居る、モンタアナのミルランスをティタラは殺そうと言うのである。

 ハルアーダは心の底からティタラが恐ろしかった。
 こんな非道な事を、あれほど仲の良かった姉を殺す事に対して一切の躊躇を既に持っていないのだ。

 ティタラは確かにハルアーダの血を引くが、間違いなくアロハンドの子だった。

 人というものは血では無く環境によって育つということか。
 とにかく、ティタラの放つ雰囲気全てがあのアロハンドを受け継いでいたのだ。

 ティタラは帝都の兵五百騎をハルアーダに与えて、ただちにサルジュの元へと向かうように命じた。
 ハルアーダは頭を下げてその命令を承ざる得なかったのだった。 
感想 37

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 他サイトにも投稿しております。 ※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。 ※無断著作物利用禁止

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!