32 / 71
1章・戦火繚乱編
32、雪原蹴り上げる馬蹄
ハルアーダは五百騎の手勢を率いてサルジュの元へと向かった。
出軍の直前にカーンから報告を受けて、ティタラを傀儡にしている者は居ないと聞いている。
そのせいでハルアーダは出軍に差し当たって士気を高揚させねばならぬというのに気持ちが沈んでいた。
ティタラのその心境の変化を何とか正さなくちゃいけないのに、ティタラの側に居られずに戦地へ向かう状況を恨めしく思う。
そのような鬱々とした気持ちのハルアーダがサスパランドの近傍へと到着すると、サルジュ率いるアルマッド子爵旗……いや、今はアルマッド大公旗以外にも幾らか別の領主の旗がサスパランドを取り巻いている。
どうやら、サルジュは皇帝陛下から正式に大公の承認を貰った威を用いて、近隣の諸侯と再度同盟を図ったようだ。
その同盟に乗った諸侯がサスパランド包囲網を形成しつつある。
見えるはパルベーシ男爵、クラーク男爵、ザルバー子爵のものか。
一方のサスパランドにはサスパランド男爵の旗の他に辺境伯の旗も掲げてあって、ラドウィンがいまだにサスパランドに籠城しているのだと分かった。
小高い丘にて、城壁に攻めかけるカルバーラ諸侯軍と弓を城壁から射掛けるサスパランド軍を見ていると大公サルジュがハルアーダの元へとやってきた。
階級も立場も本来は大公の方が上なのでハルアーダが挨拶に行くのが筋だろう。
しかし、帝国の増援であるハルアーダはいわば皇帝の名代。
サルジュは媚を売りに来たのだ。
サルジュは随分と大きな腹の男で、怠惰と惰眠を貪り膨れた体で馬に乗っている。
年齢は三十か四十か。
脂肪で膨れた頬は彼の年齢を必要以上に若く見せていて年齢がよく分からない。
サルジュは馬上に乗ったまま会釈し、皇帝が援軍を出してくれた謝辞を述べていた。
ハルアーダは彼が何やら皇帝を褒め称えていた気がするがその内容を全く聞いていない。
ただ、赤子のように指で柄を握れそうにあるまいとか。
脂肪が厚そうだから深く切り込まねばならないだろうといった考えをしていた。
ハルアーダは「何とかサルジュを混戦に突撃させてゴタゴタのうちに斬り殺そうか」と考えるのだ。
そのように考え込むハルアーダにサルジュは止まらぬ口で話し続ける。
トルノットに娘が居て、その娘が大層可憐な美少女であるらしい。
サルジュはどうやら好色家のようでその娘が欲しいようだ。
「カルチュアという子ですがね。見つけたら殺さずに生け捕りにしていただきたい」
一度、このカルバーラ諸侯連合は崩壊しているが、崩壊の原因はサルジュの好色に由来する。
連合を組んだ各領主の娘を欲しがった為に反感を買ったのだ。
トルノットもまた、愛娘のカルチュアをサルジュが狙ったのでその同盟から抜けたのである。
しかし今回、再びカルバーラ諸侯連合軍が結成されるに至って諸侯はサルジュに娘を差し出す事を確約した。
皇帝お墨付きの大公と婚姻関係を結ぶ意図だ。
その数、五人は下らない娘との婚姻である。
それにも飽き足らずサルジュはトルノットの娘を狙った。
そういった訳でサルジュは旺盛にサスパランドを陥落させようとしていたのである。
サルジュと共に丘の上にある本陣に入ったハルアーダは、そこでサルジュの指揮を見ていたが、戦素人というのが感想であった。
サルジュはとかく、怒りの言葉を申し付けた早馬を前線に差し向けて、やれ攻城しろ、やれ矢を射かけよと騒いだ。
ハルアーダは丘の上から馬の背を撫でて、眼下に広がる平野を見ていた。
彼方にクヮンラブル河、そして平野にそびえるサスパランド城塞都市。
サスパランド城塞都市に梯子を掛けようとしても弓矢や瓦礫、熱した油で諸侯連語軍は接近を許されない。
「包囲が甘いな」
ハルアーダは諸侯軍の包囲網が薄くなっていたのに気付いた。
ハルアーダのいる本陣とは反対側。
サスパランド城塞北、クヮンラブル河方面の包囲が手薄である。
もちろん包囲網を形成している各領主はその事に気づいているだろう。
しかし、包囲の薄い部分に戦力を割り当てたくても、サルジュの突撃命令のせいでそのような戦力の余裕が無かった。
ハルアーダは手勢五百騎を率いてサスパランドの裏手へと向かう事とする。
そして、その指揮を直々にサルジュに頼んだ。
恐らくサスパランドの兵達は包囲網の手薄な北側へと脱出を試みるだろう。
その時、五百騎の勇士をサルジュ直々に指揮をして脱出するトルノットを強襲するのだ。
その時にはトルノットの娘も居るだろうから生け捕りにすれば良いと言うと、サルジュは途端に目を輝かせた。
「皇帝騎士様、それでしたら本陣の兵も連れて行きませんか?」
「大公様、そのような事をしたら北の包囲が厚くなってサスパランドの連中は貝のように閉じ篭ったまま出て来ませんよ」
ハルアーダはサルジュのあまりにも戦下手な提案に溜息をつきそうだ。
だけど、サルジュは納得してくれて、彼自身の兵を本陣に置く。
丘の上の本陣に突撃旗が並ばせて、あたかも本陣の戦力総員で攻勢に出るかのように見せかけた。
そうしてからサルジュはハルアーダの連れる帝国兵五百騎を従えると出陣した。
見事にサルジュは彼自身の鎧とも言える配下の兵と引き離されていたのである。
ハルアーダの陰謀にも気付かずに、むしろ馬の上で感謝すらしていた。
堅固な城塞都市を攻略し、憧れのカルチュアを手に入れ、そればかりか、勇壮な兵五百騎を使って諸侯の尊敬を得られる勝利の名声まで得られるのだ。
ニヤニヤと笑うサルジュ。
その馬が死出の旅路へ向かうものとも知らずに。
その頃サスパランド城塞で、ラドウィンは懸命に戦っていた。
大河を渡る為にトルノットの客将となったのだ。
実際、ラドウィンとその配下の将兵が居なければとうの昔にサスパランドは陥落していただろう。
特にこの籠城で一番戦果を挙げた者といえばアーモだ。
常人の体躯を二回りは越える彼は、十人で持つのがやっとの瓦礫の塊を片手でヒョイと持ち上げては城壁から眼下の敵軍へと投げ捨てた。
アーモの他にラドウィン麾下の兵には猟師の者も多く、弓矢の扱いに手慣れた者も多かったのでその戦力は甚大なものであった。
ラドウィンは馬を駆けてサスパランド内を走り回り、その戦況を伺いながら兵達を指揮する。
すると、どうやら南門の攻勢が苛烈極まり、いよいよ門が壊されそうである。
「破城槌まで出てきたか」
ラドウィンが南門の様子を見に行くと、破城槌がやって来るのが見えた。
大きな槌に車輪がついていて、その 大きな槌を門にぶつけて破砕する為の攻城兵器だ。
破城槌に弓矢を射掛けようものならその隙に梯子から敵兵が来るだろう。
しかし破城槌を放っておくと門が破られてしまう。
しかも、本陣の丘を見れば、突撃旗と人影が見えた。
最終攻撃へと出るつもりか。
このままでは陥落必至。
ラドウィンは、総大将として屋敷に居るトルノットの元へと馬を駆けた。
トルノットの執務室にはサスパランドの地図が広げられていて、地図上に騎馬や歩兵を模した兵棋が置かれている。
ラドウィンが南門の窮地を伝えると、トルノットは呻いて腕を組んでマジマジと地図を見つめた。
それで北が手薄な事に気付いた。
ラドウィンが罠の危険性を指摘する。
包囲が手薄な所は罠の危険性があった。
包囲の薄い所を進むのは兵法で下策。
しかし、トルノットは娘を助けたい一心でサスパランドを捨てて北門から逃げる事とした。
逃亡先はモンタアナだ。
モンタアナへと逃亡させてもらう代わりにラドウィンらを軍船に乗せる事とした。
それでトルノットは屋敷から家族を出して、予め屋敷の前に泊めてあった馬車へと乗せる。
トルノットの家族は妻パルリヤナ。
息子が十八歳のデーノ。娘が十六のカルチュアという。
デーノは貴公子然とした青年で、香油で髪の毛を撫で付けていた。
今回の籠城戦が初陣で西側の防衛の指揮を取っていたが、呼び戻されて馬車の護衛につく。
カルチュアは十六歳らしい女の子で、金色の美しい髪の毛を縦に巻いて、レースで装飾された黒色のドレスを纏っていた。
日傘をメイドにささせ、屋敷から優雅に母パルリヤナと共に馬車へと乗る。
トルノット麾下の騎士コルトールに千余名の兵を預けてサスパランドの防衛に当たらせると、残りの兵を集めて馬車を中心に隊列を組みサスパランドを捨てて撤退した。
北門を開き、包囲を突破する。
南門の敵勢に比べてかなり敵の数は少なく、簡単に蹴散らす事が出来た。
北門の敵兵は千か二千かそのくらいだ。
それに対してトルノットとラドウィンの兵は四千を越えていたので、これに敵兵は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
さあこのままクヮンラブル河の港砦へと進もうと、平野の街道を進んだ。
その時である。
平野に積もる雪の丘からワッと敵兵が現れた。
四千の兵が狭い街道を進む為に長い隊列を作っていたため、その伸びた隊列の横腹を突如現れた五百騎の手勢が攻めかけたのだ。
サルジュが率いるハルアーダの手勢である。
四千の戦力も長く伸びた横腹を突かれては弱いもの。
防衛が破られて、馬車を中心に乱戦となった。
馬車を守っていたトルノットは突撃してきた騎士の一人に首を斬られた。
サルジュはこれほど上手くいった事に上機嫌となりながら馬で突撃をしていたが、サルジュ自身も馬が矢に射られてしまい乱軍の中で落馬。
複数の兵に槍で突かれて戦死した。
サルジュの馬を射たのはハルアーダの配下だ。
バルリエットという二十半ばの騎士で、剣や槍を主な使い手とする騎士の中で弓矢の扱いに長けた男である。
バルリエットとハルアーダ、及び四名の騎士はサルジュの突撃命令に呼応せず、積もる雪の陰に身を隠しながらサルジュを狙っていた。
果たしてトルノットは死にサルジュも殺す事が出来た。
特にトルノットの死は防衛に大きな混乱を与えて、サスパランドの兵達は散り散りに逃げ出し始めている。
トルノットの息子デーノは逃げる兵たちを叱咤しようとしたが、若い彼の言葉に耳を傾ける者は居なかった。
そうして士気も無くなり混乱に陥った中で敵騎士と切り結ぶラドウィンを見つけたハルアーダは、五名の手勢を従えてラドウィンへと突撃を開始する。
ハルアーダが直々に選んだことさらに腕の立つ五名だ。いかにラドウィンが強くともこれなら勝つ事も容易かろう。
ラドウィン麾下の将兵は隊列の後方だからこの乱戦におらず、ラドウィンを守る者は居なかった。
このままラドウィンの不意をついてやろうとする。
馬蹄が雪を巻き上げ、結晶が太陽の光を受けて煌めいた。
ハルアーダ達六人を邪魔する兵はことごとく槍と剣に薙ぎ払われてラドウィンへの道を開ける事になるのだった。
出軍の直前にカーンから報告を受けて、ティタラを傀儡にしている者は居ないと聞いている。
そのせいでハルアーダは出軍に差し当たって士気を高揚させねばならぬというのに気持ちが沈んでいた。
ティタラのその心境の変化を何とか正さなくちゃいけないのに、ティタラの側に居られずに戦地へ向かう状況を恨めしく思う。
そのような鬱々とした気持ちのハルアーダがサスパランドの近傍へと到着すると、サルジュ率いるアルマッド子爵旗……いや、今はアルマッド大公旗以外にも幾らか別の領主の旗がサスパランドを取り巻いている。
どうやら、サルジュは皇帝陛下から正式に大公の承認を貰った威を用いて、近隣の諸侯と再度同盟を図ったようだ。
その同盟に乗った諸侯がサスパランド包囲網を形成しつつある。
見えるはパルベーシ男爵、クラーク男爵、ザルバー子爵のものか。
一方のサスパランドにはサスパランド男爵の旗の他に辺境伯の旗も掲げてあって、ラドウィンがいまだにサスパランドに籠城しているのだと分かった。
小高い丘にて、城壁に攻めかけるカルバーラ諸侯軍と弓を城壁から射掛けるサスパランド軍を見ていると大公サルジュがハルアーダの元へとやってきた。
階級も立場も本来は大公の方が上なのでハルアーダが挨拶に行くのが筋だろう。
しかし、帝国の増援であるハルアーダはいわば皇帝の名代。
サルジュは媚を売りに来たのだ。
サルジュは随分と大きな腹の男で、怠惰と惰眠を貪り膨れた体で馬に乗っている。
年齢は三十か四十か。
脂肪で膨れた頬は彼の年齢を必要以上に若く見せていて年齢がよく分からない。
サルジュは馬上に乗ったまま会釈し、皇帝が援軍を出してくれた謝辞を述べていた。
ハルアーダは彼が何やら皇帝を褒め称えていた気がするがその内容を全く聞いていない。
ただ、赤子のように指で柄を握れそうにあるまいとか。
脂肪が厚そうだから深く切り込まねばならないだろうといった考えをしていた。
ハルアーダは「何とかサルジュを混戦に突撃させてゴタゴタのうちに斬り殺そうか」と考えるのだ。
そのように考え込むハルアーダにサルジュは止まらぬ口で話し続ける。
トルノットに娘が居て、その娘が大層可憐な美少女であるらしい。
サルジュはどうやら好色家のようでその娘が欲しいようだ。
「カルチュアという子ですがね。見つけたら殺さずに生け捕りにしていただきたい」
一度、このカルバーラ諸侯連合は崩壊しているが、崩壊の原因はサルジュの好色に由来する。
連合を組んだ各領主の娘を欲しがった為に反感を買ったのだ。
トルノットもまた、愛娘のカルチュアをサルジュが狙ったのでその同盟から抜けたのである。
しかし今回、再びカルバーラ諸侯連合軍が結成されるに至って諸侯はサルジュに娘を差し出す事を確約した。
皇帝お墨付きの大公と婚姻関係を結ぶ意図だ。
その数、五人は下らない娘との婚姻である。
それにも飽き足らずサルジュはトルノットの娘を狙った。
そういった訳でサルジュは旺盛にサスパランドを陥落させようとしていたのである。
サルジュと共に丘の上にある本陣に入ったハルアーダは、そこでサルジュの指揮を見ていたが、戦素人というのが感想であった。
サルジュはとかく、怒りの言葉を申し付けた早馬を前線に差し向けて、やれ攻城しろ、やれ矢を射かけよと騒いだ。
ハルアーダは丘の上から馬の背を撫でて、眼下に広がる平野を見ていた。
彼方にクヮンラブル河、そして平野にそびえるサスパランド城塞都市。
サスパランド城塞都市に梯子を掛けようとしても弓矢や瓦礫、熱した油で諸侯連語軍は接近を許されない。
「包囲が甘いな」
ハルアーダは諸侯軍の包囲網が薄くなっていたのに気付いた。
ハルアーダのいる本陣とは反対側。
サスパランド城塞北、クヮンラブル河方面の包囲が手薄である。
もちろん包囲網を形成している各領主はその事に気づいているだろう。
しかし、包囲の薄い部分に戦力を割り当てたくても、サルジュの突撃命令のせいでそのような戦力の余裕が無かった。
ハルアーダは手勢五百騎を率いてサスパランドの裏手へと向かう事とする。
そして、その指揮を直々にサルジュに頼んだ。
恐らくサスパランドの兵達は包囲網の手薄な北側へと脱出を試みるだろう。
その時、五百騎の勇士をサルジュ直々に指揮をして脱出するトルノットを強襲するのだ。
その時にはトルノットの娘も居るだろうから生け捕りにすれば良いと言うと、サルジュは途端に目を輝かせた。
「皇帝騎士様、それでしたら本陣の兵も連れて行きませんか?」
「大公様、そのような事をしたら北の包囲が厚くなってサスパランドの連中は貝のように閉じ篭ったまま出て来ませんよ」
ハルアーダはサルジュのあまりにも戦下手な提案に溜息をつきそうだ。
だけど、サルジュは納得してくれて、彼自身の兵を本陣に置く。
丘の上の本陣に突撃旗が並ばせて、あたかも本陣の戦力総員で攻勢に出るかのように見せかけた。
そうしてからサルジュはハルアーダの連れる帝国兵五百騎を従えると出陣した。
見事にサルジュは彼自身の鎧とも言える配下の兵と引き離されていたのである。
ハルアーダの陰謀にも気付かずに、むしろ馬の上で感謝すらしていた。
堅固な城塞都市を攻略し、憧れのカルチュアを手に入れ、そればかりか、勇壮な兵五百騎を使って諸侯の尊敬を得られる勝利の名声まで得られるのだ。
ニヤニヤと笑うサルジュ。
その馬が死出の旅路へ向かうものとも知らずに。
その頃サスパランド城塞で、ラドウィンは懸命に戦っていた。
大河を渡る為にトルノットの客将となったのだ。
実際、ラドウィンとその配下の将兵が居なければとうの昔にサスパランドは陥落していただろう。
特にこの籠城で一番戦果を挙げた者といえばアーモだ。
常人の体躯を二回りは越える彼は、十人で持つのがやっとの瓦礫の塊を片手でヒョイと持ち上げては城壁から眼下の敵軍へと投げ捨てた。
アーモの他にラドウィン麾下の兵には猟師の者も多く、弓矢の扱いに手慣れた者も多かったのでその戦力は甚大なものであった。
ラドウィンは馬を駆けてサスパランド内を走り回り、その戦況を伺いながら兵達を指揮する。
すると、どうやら南門の攻勢が苛烈極まり、いよいよ門が壊されそうである。
「破城槌まで出てきたか」
ラドウィンが南門の様子を見に行くと、破城槌がやって来るのが見えた。
大きな槌に車輪がついていて、その 大きな槌を門にぶつけて破砕する為の攻城兵器だ。
破城槌に弓矢を射掛けようものならその隙に梯子から敵兵が来るだろう。
しかし破城槌を放っておくと門が破られてしまう。
しかも、本陣の丘を見れば、突撃旗と人影が見えた。
最終攻撃へと出るつもりか。
このままでは陥落必至。
ラドウィンは、総大将として屋敷に居るトルノットの元へと馬を駆けた。
トルノットの執務室にはサスパランドの地図が広げられていて、地図上に騎馬や歩兵を模した兵棋が置かれている。
ラドウィンが南門の窮地を伝えると、トルノットは呻いて腕を組んでマジマジと地図を見つめた。
それで北が手薄な事に気付いた。
ラドウィンが罠の危険性を指摘する。
包囲が手薄な所は罠の危険性があった。
包囲の薄い所を進むのは兵法で下策。
しかし、トルノットは娘を助けたい一心でサスパランドを捨てて北門から逃げる事とした。
逃亡先はモンタアナだ。
モンタアナへと逃亡させてもらう代わりにラドウィンらを軍船に乗せる事とした。
それでトルノットは屋敷から家族を出して、予め屋敷の前に泊めてあった馬車へと乗せる。
トルノットの家族は妻パルリヤナ。
息子が十八歳のデーノ。娘が十六のカルチュアという。
デーノは貴公子然とした青年で、香油で髪の毛を撫で付けていた。
今回の籠城戦が初陣で西側の防衛の指揮を取っていたが、呼び戻されて馬車の護衛につく。
カルチュアは十六歳らしい女の子で、金色の美しい髪の毛を縦に巻いて、レースで装飾された黒色のドレスを纏っていた。
日傘をメイドにささせ、屋敷から優雅に母パルリヤナと共に馬車へと乗る。
トルノット麾下の騎士コルトールに千余名の兵を預けてサスパランドの防衛に当たらせると、残りの兵を集めて馬車を中心に隊列を組みサスパランドを捨てて撤退した。
北門を開き、包囲を突破する。
南門の敵勢に比べてかなり敵の数は少なく、簡単に蹴散らす事が出来た。
北門の敵兵は千か二千かそのくらいだ。
それに対してトルノットとラドウィンの兵は四千を越えていたので、これに敵兵は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
さあこのままクヮンラブル河の港砦へと進もうと、平野の街道を進んだ。
その時である。
平野に積もる雪の丘からワッと敵兵が現れた。
四千の兵が狭い街道を進む為に長い隊列を作っていたため、その伸びた隊列の横腹を突如現れた五百騎の手勢が攻めかけたのだ。
サルジュが率いるハルアーダの手勢である。
四千の戦力も長く伸びた横腹を突かれては弱いもの。
防衛が破られて、馬車を中心に乱戦となった。
馬車を守っていたトルノットは突撃してきた騎士の一人に首を斬られた。
サルジュはこれほど上手くいった事に上機嫌となりながら馬で突撃をしていたが、サルジュ自身も馬が矢に射られてしまい乱軍の中で落馬。
複数の兵に槍で突かれて戦死した。
サルジュの馬を射たのはハルアーダの配下だ。
バルリエットという二十半ばの騎士で、剣や槍を主な使い手とする騎士の中で弓矢の扱いに長けた男である。
バルリエットとハルアーダ、及び四名の騎士はサルジュの突撃命令に呼応せず、積もる雪の陰に身を隠しながらサルジュを狙っていた。
果たしてトルノットは死にサルジュも殺す事が出来た。
特にトルノットの死は防衛に大きな混乱を与えて、サスパランドの兵達は散り散りに逃げ出し始めている。
トルノットの息子デーノは逃げる兵たちを叱咤しようとしたが、若い彼の言葉に耳を傾ける者は居なかった。
そうして士気も無くなり混乱に陥った中で敵騎士と切り結ぶラドウィンを見つけたハルアーダは、五名の手勢を従えてラドウィンへと突撃を開始する。
ハルアーダが直々に選んだことさらに腕の立つ五名だ。いかにラドウィンが強くともこれなら勝つ事も容易かろう。
ラドウィン麾下の将兵は隊列の後方だからこの乱戦におらず、ラドウィンを守る者は居なかった。
このままラドウィンの不意をついてやろうとする。
馬蹄が雪を巻き上げ、結晶が太陽の光を受けて煌めいた。
ハルアーダ達六人を邪魔する兵はことごとく槍と剣に薙ぎ払われてラドウィンへの道を開ける事になるのだった。
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
他サイトにも投稿しております。
※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。
※無断著作物利用禁止