ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

文字の大きさ
41 / 71
1章・戦火繚乱編

42、嘘!私の皇帝である正統性低すぎ!?


 いよいよカセイ国との戦いが始まる。

 ラドウィンは北方より出陣して、大きく山岳地帯を迂回しだした。

 ハルアーダは帝都の兵を引き連れて前線に赴く。

 さて、この時、もっとも重要な出来事があったのは城内であった。

 それはティタラだ。

 彼女はなぜハルアーダがああもラドウィンを信用するのか分からない。

 そもそも、かつてモンタアナでラドウィンの元へと身を寄せていた時にティタラを連れて飛び出したのはハルアーダでは無いか。

 明らかにラドウィンから離れようとしていたのに、事ここに至ってラドウィンを信用するとは何のつもりだろうか?

 自室の椅子に深くもたれて、自分の思い通りに行かないハルアーダに猜疑心を抱きかけていた。

 そんな時、子爵ロノイが訪ねてきたとメイドが部屋に来て言う。

 今は休憩中だから後にしろとロノイを突っぱねたが、どうしても聞かないのだとメイドが困っていたので、謁見の間に向かった。

 玉座に座ったティタラは寝不足と疲労から充血した眼でギョロりとロノイを睨むと、休憩を邪魔して下らない用事なら処刑すると凄んだ。

 ロノイはそんな脅しも気にせず、護衛の騎士に出て行って欲しいと頼む。

 どうしてもティタラと二人きりで話したいと伝えた。
 ティタラは眉をひそめて、このような時に二人きりになる危険を冒すような自分では無いとロノイの願いを棄却する。

 するとロノイはかしこまりましたと頭を下げて、代わりに巻いた文書を床に置いた。

 誰にも見られないよう、陛下にだけ読んで欲しい。

 そう伝えるとロノイの謁見は終わった。

 ティタラは護衛騎士に、その床の文書を持ってくるよう命ずる。

 一般的な羊皮紙。
 ただし、羊皮紙には封蝋が成されておらず、赤色の紐で留めてある。

 通常、家紋の形に捺された封蝋があるのが正式。
 今回ならばロノイの家紋が捺されていなければならないはずだ。

 しかしそれが無いのは怪しい。

 護衛の騎士が、誰かに検めさせた方がいいのでは無いかと提案した。

 ただの文書に何を怯える必要があるのかとティタラは笑ったが、すぐにサバルト教団トルムトが妖しい魔法を使っていた事を思い出す。

 読んだだけで何があるかも分からないが、メイドの一人を呼んで予め読ませる事にした。

 メガネを掛けたマイペースな二十歳そこそこのメイド。
 よくティタラの世話をしてくれるメイドの一人で名前をオリアという。

 信用出来る人間の一人だ。
 自室に戻って彼女に文書を読ませた所、いつもにこやかな彼女は顔をたちまち青ざめさせた。

 どうしたのかと聞くと、唇をわなわなと震わせて「私、死んでしまうのでしょうか」と言う。

 これにティタラは失笑してしまった。

 まさか本当に呪いの文書だとでも言うのか。

「オリア。読ませた身で言うのもなんだけど、読んだだけで死ぬだなんて馬鹿げてると思わない?」

 オリアは頭を左右に振った。

「読んだら死ぬとかでは無いのですが.......」

 上手く言葉に出来ない様子。
 ティタラはオリアの手から文書を取ると、自分で読む事にした。

 読んだら死ぬだとか言い出すのだから、むしろ興味がある。

 忙しい日常で久しぶりにわくわくした気持ちとなりながら、ティタラは目を通す。

 何度も目を左右にすると、ティタラから笑顔が消えて、わなわなと唇が揺れた。

 その文書には、ハルアーダが裏切りを画策していると書かれてある。
 そして、ティタラが皇帝の血筋では無く、『本当の皇帝の血筋はラドウィン』と書いてあったのだ。

 ハルアーダはラドウィンが皇帝の血筋で、密やかに皇帝の座をラドウィンに与えようと計画しているのだと密告するものである。

 家臣誰もが懸命にティタラが皇帝の血を引いてないという事実を隠していたのに、ついにティタラは知ってしまった。
 ばかりか、ラドウィンが本当の皇帝の血筋だと知ってしまったのである。

 だからオリアは自分が殺されると思ったのだ。
 このような事を知ってしまって、ティタラに処刑されると思ったのである。

「大丈夫.......大丈夫.......。処刑なんてしない.......しない.......」

 ティタラは座ってる筈の椅子がガタガタと揺れてる気がした。
 空気が鉛みたいに重い。

 視界がチカチカとして、その彩りを失って行った。

 部屋全体が大笑いするみたいに揺れ動いている。
 愚かな皇帝。愚かな皇帝。いや、皇帝ですら無いのに玉座に座る偽りの道化。ああ面白い。

 天井が頭のすぐ上に落ちてきた。

 ティタラは異常な世界の中、とにかく、このような冒涜的な羊皮紙を破棄しなくてはいけないと思う。
 すぐ隣にティーテーブルがあって、そこに火が揺れる蝋燭があった。

 それは覚えていたけど、隣を見ると異様にテーブルが遠い。
 まるで部屋の隅にまでテーブルが遠のいていくような気がした。

 足に力が入らなくて椅子から降りられない。
 とにかく羊皮紙を燃やそうと無理に手を伸ばした所、急速にテーブルが近付いてきて蝋燭と手がぶつかる。

 蝋燭が倒れて、溶けていた僅かな蝋がテーブルに広がって火が燃え広がった。

 ティタラはそんな事、どうでも良い。
 今はとにかく、この文書を燃やさなくてはならなかった。

 だが、指に力が入らなくて羊皮紙が落ちてしまう。
 オリアがその羊皮紙を拾い、蝋燭を立て直すとパンパンと燃え広がった炎を消火した。

 そして、羊皮紙に蝋燭に火を着けると鉄製の盆に置く。

 羊皮紙の焼ける、やたらと良い匂いが部屋に立ち込めた。

「陛下。羊皮紙はもう大丈夫です。落ち着いて下さい」

 ティタラは酷く汗をかいて、焦点は合わず、呼吸は乱れていた。

 オリアに息を深く吸うように言われて、ティタラは息を吸う。

 そうしてオリアがティタラを抱き締めた。

 彼女に抱き締められて、ティタラは段々と落ち着きを取り戻した。
 そして、オリアを抱き締め返すと、ティタラはさめざめと泣くのである。

 ティタラがオリアは絶対に裏切らないでと言うと、オリアは頷いて「裏切りません。裏切りません。いつだって陛下のお傍にお仕え致します」と答えた。

 オリアがティタラの秘密を知ったのは、むしろティタラにとって良いことだったかも知れない。
 秘密を共有したという一体感、連帯感のようなものがあって、それがティタラにとって救いであった。

 オリアのお陰で冷静さを取り戻したティタラに、すぐにふつふつと怒りが込み上げてくる。
 大事な事を秘密にしていた全ての人々。そしてハルアーダに。

 ティタラはロノイを自室に呼んでくるようオリアに命じた。

 この呼び出しを受けたロノイはどう思っただろう。
 しめたものだと思った事だろう。

 ロノイは武官のトップであるハルアーダを始末し、自分こそが皇帝の側近たる資格を得たと考えた。

 もちろん、すぐに呼び出しに応じ、精神的に衰弱しきったティタラにあることない事を吹き込んだ。

 心の弱った人はどんな嘘も簡単に信じ込んでしまうものだ。
 しかも、ハルアーダの行動に心当たりがあったのだからティタラがロノイの言葉を信じるのに十分であった。

「ハルアーダは恐るべき騎士です。彼を始末するには今しかございません。今という窮地だからこそあの者を始末するのです」

 ロノイの言葉がどれほど馬鹿げていて、どれほど愚かな言葉か述べるべくもない。
 ただでさえ戦力の乏しい帝国軍において貴重な戦力であるハルアーダを始末するなど何を考えているのか。

 だが、ティタラはハルアーダが自分の帝位を脅かす存在だと思った。
 それで、ハルアーダを始末する事にしたのである。

 真実を教えてくれたロノイに感謝し、ティタラはすぐにエルグスティアへ前線へと向かうように命じた。

 この命令にエルグスティアは驚く。
 帝都に最低限の戦力と、その指揮官は必要だ。
 それがエルグスティアなのだから、彼が前線に出ては帝都が丸裸になる。

 帝都で何かあった時に動けない。

「陛下。私は此度の戦の全権を委任されております」

 異を唱えたエルグスティアにティタラは黙るよう命じた。

「今すぐ前線に行け。そして.......」

 ティタラはエルグスティアの近くに顔を寄せて、小さな声で言う。

――ハルアーダを殺せ――

 .......と。

 ハルアーダの友人であるエルグスティアならば、ハルアーダも警戒しまい。
 戦いの混乱に乗じて後ろから刺せば殺せるだろう。

「皇帝命令。やれ」

 静かに冷淡な言葉。

 エルグスティアはティタラを後ろから見ているロノイに気付き、ロノイの入れ知恵かと気付いた。

 エルグスティアは歯噛みした。

 このような危急存亡の秋(とき)を迎えてなお、利己の為に動くのかと。

 今すぐティタラに、ロノイ達文官が愚かで、対局の見えない内患だと教えてやりたかった。
 だが、ティタラの冷酷な言葉の前に彼は騎士としてただ従わなくてはならない。

 その日、太陽が天高く行く時間に、エルグスティアは権謀術数が渦巻く帝都から出陣するのだった。
感想 37

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 他サイトにも投稿しております。 ※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。 ※無断著作物利用禁止