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2章、剣弩重来編
55話、戦火燃ゆる河
ごじゅご
ラドウィンとダルバが邂逅したのは不思議な運命のイタズラだ。
数奇な運命はこうして、二度と会うはずのない二人を敵同士として会わせた。
ラドウィンはダルバが死んだものだと思っていた。
そう、あの日、ラドウィンをかばってわざとラドウィンに斬り殺されたダルバがいたのだ。
「幽霊ではないか?」
「まさか。こうして生きております」
ダルバがヒゲを生やした顔を笑わせた。
恰幅こそ父バルオルムに及ばないが、筋肉質で高身長な体躯と武人肌の気持ちいい笑顔などバルオルムそっくりである。
互いに二言三言、再会の喜びを分かち合うと、特に合図もなく互いに馬を駆けて剣劇を再開した。
かつてのラドウィンならば、思い出や情に訴えてダルバとの戦いを避けただろう。
だが、それはかつてのラドウィンが怯えてすくんでいた小心者という訳では無いのだ。
かつてのラドウィンは領主として、領民や将兵を第一にした考えであった。
だから、戦いを避けていた。
しかし今は違う。
今のラドウィンはアキームを助けるという目的のために動いていたのだから、かつて馬を並べた仲間といえども邪魔だてするなら殺すこともいとわなかった。
十合ののち、ラドウィンは予想を上回るダルバの強さに瞠目した。
「男子三日会わざれば刮目せよ! ラドウィン様!」
ダルバは雷鳴のごときロングソードの一撃を見舞う。
ラドウィンが雷鳴を穂先で受ければ、槍の先は粉々に砕けて散った。
武器を失っては戦えない。
ラドウィンは馬首を返して撤退した。
当初の目的であった士気の向上は失敗したが、幸い、すでにカイン軍の兵士は本陣の丘を登っているので撤退の手伝いは成功したのである。
なのでラドウィンは本陣へと撤退した。
ダルバがラドウィンを追おうとしたが、丘の上から弓矢を構えた部隊が見える。
これにダルバはしぶしぶと後退したのであった。
それから数時間後にカイン軍は本格的に撤退し、ゼルド・ハント同盟軍が追撃を加える。
カイン軍の殿軍(しんがり)はグィーゼルとラドウィンがつとめた。
カインは腹心の二名を殿軍とすることを嫌ったが、ラドウィンが強く「余力を残して撤退できる相手ではありません」と説いたので許可せねばならなかった。
熾烈な戦いはカイン軍千名余りの被害を発生させたが、ラドウィンとグィーゼルも含めて半数が生還することができたのである。
撤退戦が苛烈を極めながら、必死と言われる殿軍が半数以上生き残ったのはラドウィンの見立てだ。
パルパヤットでは半月近くの籠城が行われ、その後のハント軍の救援は大軍であった。
そのため、兵糧の輸送に難儀したのだ。
人というものは不思議なもので、追い詰められると丸一日ものあいだ食うものも食わずに戦えた。
一方、勝ちに先んじる驕った心は半日も食わないでいると萎えに萎えるものだ。
結果、ラドウィンの目論見通りに兵糧の輸送が間に合わぬ同盟軍の追撃が緩み、カイン軍は何とか撤退に成功したのである。
カイン軍は前線基地をプタパの村へ移した。
プタパの村の近傍には広い湿地がある。
湿地添いに小さいながら砦を作り、湿地の砦とプタパの村で防衛線を築いたのだ。
さあ来るなら来いとカインは意気込んだが、ラドウィンは「さらに前線を退くべきかと」と進言したのである。
プタパの村を敵に与えるのかとカインと、そして将兵たちは驚いた。
「して、その心は?」
将や騎士は聞いた。
もうラドウィンの能力を知ったので、あたらと無碍にする真似はしない。
ラドウィンは解説した。
そもそもカインと、ハントと、そしてゼルドは互いに敵同士である。
今回、ハントとゼルドが組んだのもカインがテルオーネの領土を併呑したゆえであろう旨。
しからば、カインの領土が少なくなるほどハントとゼルドの絆にヒビが入る。
そして、その領土を手に入れるのがハントであれゼルドであれ、片方にとっては面白くない話なのだ。
「二匹の虎に一つの土地を競わせて食らわせる。『二虎競食』です」
果たしてラドウィンの策はまかり通った。
カイン軍はハント軍とゼルド軍の両陣営に撤退の噂を流させた。
「カイン軍がプタパの町を捨てて撤退している模様」
その報せはゼルド軍、前線指揮官ガーラシーがステーキを食べていた時だ。
勢いよく立ち上がるので、血と赤ワインのソースを散らしながら机が倒れた。
「その話をハントの連中は知っておるか!」
密偵に扮したカイン軍兵は首を左右に振り、「知りませんぬ」と答えたのである。
他の兄弟たちより国力を充実させたいゼルド軍は我先にとプタパへ出陣した。
しかし、一方、ハント軍を率いるダルバにも同様の報せが入っていたのだ。
互いにプタパを狙って進軍したので、プタパの町の前で衝突。
同盟していたが、目の前に吊り下げられた餌に釣られて戦いとなったのだ。
互いに死者を出した。
この時、ダルバがガーラシーを殺してしまい、ゼルドは麾下の騎士を殺された怒りに「青臭いハントは同盟の礼儀も知らずに裏切りおった!」と、ハント領へと侵攻を始めたのである。
で、この混乱を見逃すわけが無いのがカイン軍だ。
ルルム地方の話を整理しよう。
クヮンラブル河を中心に、北を守るのが長兄の息子ハントだ。
東方が三男ゼルドである。
そして南方と西方が四男のカインであった。
三つ巴の戦いである。
閑話休題。
ハントはダルバを領内へ退かせたのだ。
なにせハントは、その背に大敵カセイ国があった。
モンタアナのキルムとカセイ国を挟み撃ちにしているとはいえ、ルルム地方にばかり戦力を向けてばかり居られないのである。
じっさい、ハントの守りは硬く、西方から攻めるカインと東方より攻めるゼルドの攻撃をことごとく退けのだ。
すると困るのはゼルドだ。
ゼルドはハントへ軍を差し向けながらカイン軍の攻撃をしのがねばならない。
そのようなことはどだい無理な話であった。
二面作戦をとれるほどの戦力など最初からなかったのである。
結果、ゼルド領がカインにとられるまで一月も要さなかった。
もっとも、ゼルド領の北側はハントがどさくさ紛れに手に入れていたが。
しかし、なんにせよカインはゼルドとテルオーネの領土を手に入れ、ハントに抗する戦力を手に入れた。
「さあ! 次はハントだ!」
首を洗って待っておれ! カインが意気込んだが、異を唱えたのはラドウィンである。
ラドウィンは一刻も早くハルアーダの元からアキームを取り返したい。
そして、ハルアーダの領土はカインの領土の北東に位置し、山や川を幾らか越えればすぐであった。
ラドウィンは息子のためにカインの配下となったのだから、ハルアーダ領と無関係なハント領を攻めるのに反対である。
それに、ハント領を攻めるのはあまりにリスクの高い行為であった。
なぜなら、ハントの配下にはもっとも脂の乗った年齢のダルバとラズベルト家一の剣士タハミアーネがいるのだ。
そして、何より恐ろしいのは、ハントの兵士はカセイ国との戦いを経験していたことだ。
小競り合いばかりで本格的な戦争を経験したのが今回が初めての人も多いカインらの兵士と違い、ハントの兵士たちは生死の淵を渡り歩く戦いを経験していたのである。
そのような連中を相手にするのは損耗が激しい。
むしろ、カインの広い領土を利用して『持久戦』をすべきだとした。
この『持久戦』とは出兵や戦争にあらず。
国力を富ませ、兵士を募り、訓練を施して装備を整える。
超長期的視野で以てハントより優位を得るのだ。
しかし、カインにとって公都パルの簒奪は公爵を継ぐべき正当後継としての説得力に繋がる。
公爵を継ぐとは、つまり、ルルム地方に点在する地方豪族がカインに従いやすくなるのだ。
さらに言えば、父の築いた公都パルを手中に収めるのはカインとその腹心の強い願望であった。
心情というのは不合理である。
ラドウィンの提案は合理的であろうが、彼らの強い心情は合理を跳ね除けてしまうのだ。
こうしてカイン軍はハント領への侵攻を始めた。
ラドウィンもしぶしぶとカイン軍に同行するのである。
アキームのことを心配しながら。
とうのアキームは、順調にハルアーダに稽古をつけてもらった。
元々の運動神経が高かったうえに素直な性格なので教えられたことをぐんぐん吸収していた。
そこらの兵士ていどなら簡単に倒せるほどに実力を得ていたのである。
「師匠! 次は誰ですか!」。アキームが額の汗を拭ったのは、兵士との訓練で三人を倒した時だ。
六角形に張ったロープの中で一対一の戦いをする。
武器は近接戦を想定して剣を使用するが殴打や蹴り、投げなどもありの実践的訓練だ。
三戦もすれば披露も溜まる。
ハルアーダはアキームに休憩を言い渡し、他の兵の試合を見ているよう伝えた。
「まだやれますよ師匠!」。アキームは屈託のない笑みを浮かべる。
彼は年齢の割に体力があった。
海で泳ぎ、野原を駆け回り、木登りで鍛えた粘りのある体力は訓練を行うための基礎体力に繋がっていた。
人というのは若い時には疲れ知らずなものである。
だが、若さの真の強さとは回復力にあるのだとハルアーダは知っていた。
なので、「今すぐリングから出ろ。見るのも訓練だ」とアキームを諌めるのだ。
少し休み、体力を取り戻してから戦っても遅くはない。
渋々とアキームはロープをくぐって出てくる。
アキームは自信に満ちていた。
彼自身、自分が強くなっていたことを理解していたし、どこまで強くなれるのか知りたかった。
だから、休憩をして人の戦いを見ているだけではやきもきするのだ。
――もっと強くなりたい。どこまでやれるのか知りたい!――
アキームの中で強く息巻いていた。
数日に一度、ハルアーダはアキームに休日を与えた。
いつもアキームは筋肉痛に苦しみ、休日は寝て過ごしたが、その日は違った。
アキームは町へ出てみるとハルアーダに伝えたのである。
ハルアーダは知見を広めることはいい事だとして快諾した。
町へ繰り出したアキームには一つの目的があった。
それは、賊の出没情報だ。
アキームは訓練ばかりの日々に飽き飽きし、実力を真の意味で発揮する機会を伺っていた。
真の意味で発揮するというのは、つまり、訓練では無い真剣のやり取りだ。
だが、ハルアーダは賊など出ようものなら即座に兵を差し向けていた。
賊退治は良い実践訓練である。
そのためにハルアーダの領土は安泰そのものであった。
そうそう美味しい話はないもの。
アキームがうなだれてハルアーダの屋敷へ帰ろうとした時、行商の男の話が耳に入った。
サスパランドとザルバーという土地の境目に奇妙な賊がいるという話だ。
サスパランドとザルバーの間にはクヮンラブル河が流れており、大きな橋が掛かっていた。
その橋に一人の賊がいて、通行人を襲っては物資を奪っていた。
しかし、この盗賊はしばらく野放しになっている。
というのも、サスパランドはモンタアナ領主キルムの領土で、ザルバーはハルアーダ麾下のヴェンの領土だ。
ヴェンはかつて、ハルアーダを命を賭して守った“偉大なる”マギークィッドの甥である。
ハルアーダが旗揚げしてすぐ、ヴェンは伯父であるマギーグィッド・“偉大なる”カールの死に様を騎士から聞き、彼の最期の言葉、「ハルアーダは真の王」という話を信じてハルアーダへの全面降伏としたのである。
ハルアーダは大恩あるマギーの、その甥が降伏した事を喜んだ。
このザルバー子爵のカール家は名門の家柄であった。
そのため、ヴェンがハルアーダの軍門に降ると、同じく名家の人々もハルアーダの元へとやって来たのである。
そのようなヴェンの領主ザルバーと敵国キルムの領土との間に賊がいては、討伐の軍勢を侵略と捉えられて紛争に発展しかねない。
難しい状況であり、賊は野放しとなっていた。
その話を聞いたアキームが、『良い情報を得た』と思うのは当然の結果であった。
ラドウィンとダルバが邂逅したのは不思議な運命のイタズラだ。
数奇な運命はこうして、二度と会うはずのない二人を敵同士として会わせた。
ラドウィンはダルバが死んだものだと思っていた。
そう、あの日、ラドウィンをかばってわざとラドウィンに斬り殺されたダルバがいたのだ。
「幽霊ではないか?」
「まさか。こうして生きております」
ダルバがヒゲを生やした顔を笑わせた。
恰幅こそ父バルオルムに及ばないが、筋肉質で高身長な体躯と武人肌の気持ちいい笑顔などバルオルムそっくりである。
互いに二言三言、再会の喜びを分かち合うと、特に合図もなく互いに馬を駆けて剣劇を再開した。
かつてのラドウィンならば、思い出や情に訴えてダルバとの戦いを避けただろう。
だが、それはかつてのラドウィンが怯えてすくんでいた小心者という訳では無いのだ。
かつてのラドウィンは領主として、領民や将兵を第一にした考えであった。
だから、戦いを避けていた。
しかし今は違う。
今のラドウィンはアキームを助けるという目的のために動いていたのだから、かつて馬を並べた仲間といえども邪魔だてするなら殺すこともいとわなかった。
十合ののち、ラドウィンは予想を上回るダルバの強さに瞠目した。
「男子三日会わざれば刮目せよ! ラドウィン様!」
ダルバは雷鳴のごときロングソードの一撃を見舞う。
ラドウィンが雷鳴を穂先で受ければ、槍の先は粉々に砕けて散った。
武器を失っては戦えない。
ラドウィンは馬首を返して撤退した。
当初の目的であった士気の向上は失敗したが、幸い、すでにカイン軍の兵士は本陣の丘を登っているので撤退の手伝いは成功したのである。
なのでラドウィンは本陣へと撤退した。
ダルバがラドウィンを追おうとしたが、丘の上から弓矢を構えた部隊が見える。
これにダルバはしぶしぶと後退したのであった。
それから数時間後にカイン軍は本格的に撤退し、ゼルド・ハント同盟軍が追撃を加える。
カイン軍の殿軍(しんがり)はグィーゼルとラドウィンがつとめた。
カインは腹心の二名を殿軍とすることを嫌ったが、ラドウィンが強く「余力を残して撤退できる相手ではありません」と説いたので許可せねばならなかった。
熾烈な戦いはカイン軍千名余りの被害を発生させたが、ラドウィンとグィーゼルも含めて半数が生還することができたのである。
撤退戦が苛烈を極めながら、必死と言われる殿軍が半数以上生き残ったのはラドウィンの見立てだ。
パルパヤットでは半月近くの籠城が行われ、その後のハント軍の救援は大軍であった。
そのため、兵糧の輸送に難儀したのだ。
人というものは不思議なもので、追い詰められると丸一日ものあいだ食うものも食わずに戦えた。
一方、勝ちに先んじる驕った心は半日も食わないでいると萎えに萎えるものだ。
結果、ラドウィンの目論見通りに兵糧の輸送が間に合わぬ同盟軍の追撃が緩み、カイン軍は何とか撤退に成功したのである。
カイン軍は前線基地をプタパの村へ移した。
プタパの村の近傍には広い湿地がある。
湿地添いに小さいながら砦を作り、湿地の砦とプタパの村で防衛線を築いたのだ。
さあ来るなら来いとカインは意気込んだが、ラドウィンは「さらに前線を退くべきかと」と進言したのである。
プタパの村を敵に与えるのかとカインと、そして将兵たちは驚いた。
「して、その心は?」
将や騎士は聞いた。
もうラドウィンの能力を知ったので、あたらと無碍にする真似はしない。
ラドウィンは解説した。
そもそもカインと、ハントと、そしてゼルドは互いに敵同士である。
今回、ハントとゼルドが組んだのもカインがテルオーネの領土を併呑したゆえであろう旨。
しからば、カインの領土が少なくなるほどハントとゼルドの絆にヒビが入る。
そして、その領土を手に入れるのがハントであれゼルドであれ、片方にとっては面白くない話なのだ。
「二匹の虎に一つの土地を競わせて食らわせる。『二虎競食』です」
果たしてラドウィンの策はまかり通った。
カイン軍はハント軍とゼルド軍の両陣営に撤退の噂を流させた。
「カイン軍がプタパの町を捨てて撤退している模様」
その報せはゼルド軍、前線指揮官ガーラシーがステーキを食べていた時だ。
勢いよく立ち上がるので、血と赤ワインのソースを散らしながら机が倒れた。
「その話をハントの連中は知っておるか!」
密偵に扮したカイン軍兵は首を左右に振り、「知りませんぬ」と答えたのである。
他の兄弟たちより国力を充実させたいゼルド軍は我先にとプタパへ出陣した。
しかし、一方、ハント軍を率いるダルバにも同様の報せが入っていたのだ。
互いにプタパを狙って進軍したので、プタパの町の前で衝突。
同盟していたが、目の前に吊り下げられた餌に釣られて戦いとなったのだ。
互いに死者を出した。
この時、ダルバがガーラシーを殺してしまい、ゼルドは麾下の騎士を殺された怒りに「青臭いハントは同盟の礼儀も知らずに裏切りおった!」と、ハント領へと侵攻を始めたのである。
で、この混乱を見逃すわけが無いのがカイン軍だ。
ルルム地方の話を整理しよう。
クヮンラブル河を中心に、北を守るのが長兄の息子ハントだ。
東方が三男ゼルドである。
そして南方と西方が四男のカインであった。
三つ巴の戦いである。
閑話休題。
ハントはダルバを領内へ退かせたのだ。
なにせハントは、その背に大敵カセイ国があった。
モンタアナのキルムとカセイ国を挟み撃ちにしているとはいえ、ルルム地方にばかり戦力を向けてばかり居られないのである。
じっさい、ハントの守りは硬く、西方から攻めるカインと東方より攻めるゼルドの攻撃をことごとく退けのだ。
すると困るのはゼルドだ。
ゼルドはハントへ軍を差し向けながらカイン軍の攻撃をしのがねばならない。
そのようなことはどだい無理な話であった。
二面作戦をとれるほどの戦力など最初からなかったのである。
結果、ゼルド領がカインにとられるまで一月も要さなかった。
もっとも、ゼルド領の北側はハントがどさくさ紛れに手に入れていたが。
しかし、なんにせよカインはゼルドとテルオーネの領土を手に入れ、ハントに抗する戦力を手に入れた。
「さあ! 次はハントだ!」
首を洗って待っておれ! カインが意気込んだが、異を唱えたのはラドウィンである。
ラドウィンは一刻も早くハルアーダの元からアキームを取り返したい。
そして、ハルアーダの領土はカインの領土の北東に位置し、山や川を幾らか越えればすぐであった。
ラドウィンは息子のためにカインの配下となったのだから、ハルアーダ領と無関係なハント領を攻めるのに反対である。
それに、ハント領を攻めるのはあまりにリスクの高い行為であった。
なぜなら、ハントの配下にはもっとも脂の乗った年齢のダルバとラズベルト家一の剣士タハミアーネがいるのだ。
そして、何より恐ろしいのは、ハントの兵士はカセイ国との戦いを経験していたことだ。
小競り合いばかりで本格的な戦争を経験したのが今回が初めての人も多いカインらの兵士と違い、ハントの兵士たちは生死の淵を渡り歩く戦いを経験していたのである。
そのような連中を相手にするのは損耗が激しい。
むしろ、カインの広い領土を利用して『持久戦』をすべきだとした。
この『持久戦』とは出兵や戦争にあらず。
国力を富ませ、兵士を募り、訓練を施して装備を整える。
超長期的視野で以てハントより優位を得るのだ。
しかし、カインにとって公都パルの簒奪は公爵を継ぐべき正当後継としての説得力に繋がる。
公爵を継ぐとは、つまり、ルルム地方に点在する地方豪族がカインに従いやすくなるのだ。
さらに言えば、父の築いた公都パルを手中に収めるのはカインとその腹心の強い願望であった。
心情というのは不合理である。
ラドウィンの提案は合理的であろうが、彼らの強い心情は合理を跳ね除けてしまうのだ。
こうしてカイン軍はハント領への侵攻を始めた。
ラドウィンもしぶしぶとカイン軍に同行するのである。
アキームのことを心配しながら。
とうのアキームは、順調にハルアーダに稽古をつけてもらった。
元々の運動神経が高かったうえに素直な性格なので教えられたことをぐんぐん吸収していた。
そこらの兵士ていどなら簡単に倒せるほどに実力を得ていたのである。
「師匠! 次は誰ですか!」。アキームが額の汗を拭ったのは、兵士との訓練で三人を倒した時だ。
六角形に張ったロープの中で一対一の戦いをする。
武器は近接戦を想定して剣を使用するが殴打や蹴り、投げなどもありの実践的訓練だ。
三戦もすれば披露も溜まる。
ハルアーダはアキームに休憩を言い渡し、他の兵の試合を見ているよう伝えた。
「まだやれますよ師匠!」。アキームは屈託のない笑みを浮かべる。
彼は年齢の割に体力があった。
海で泳ぎ、野原を駆け回り、木登りで鍛えた粘りのある体力は訓練を行うための基礎体力に繋がっていた。
人というのは若い時には疲れ知らずなものである。
だが、若さの真の強さとは回復力にあるのだとハルアーダは知っていた。
なので、「今すぐリングから出ろ。見るのも訓練だ」とアキームを諌めるのだ。
少し休み、体力を取り戻してから戦っても遅くはない。
渋々とアキームはロープをくぐって出てくる。
アキームは自信に満ちていた。
彼自身、自分が強くなっていたことを理解していたし、どこまで強くなれるのか知りたかった。
だから、休憩をして人の戦いを見ているだけではやきもきするのだ。
――もっと強くなりたい。どこまでやれるのか知りたい!――
アキームの中で強く息巻いていた。
数日に一度、ハルアーダはアキームに休日を与えた。
いつもアキームは筋肉痛に苦しみ、休日は寝て過ごしたが、その日は違った。
アキームは町へ出てみるとハルアーダに伝えたのである。
ハルアーダは知見を広めることはいい事だとして快諾した。
町へ繰り出したアキームには一つの目的があった。
それは、賊の出没情報だ。
アキームは訓練ばかりの日々に飽き飽きし、実力を真の意味で発揮する機会を伺っていた。
真の意味で発揮するというのは、つまり、訓練では無い真剣のやり取りだ。
だが、ハルアーダは賊など出ようものなら即座に兵を差し向けていた。
賊退治は良い実践訓練である。
そのためにハルアーダの領土は安泰そのものであった。
そうそう美味しい話はないもの。
アキームがうなだれてハルアーダの屋敷へ帰ろうとした時、行商の男の話が耳に入った。
サスパランドとザルバーという土地の境目に奇妙な賊がいるという話だ。
サスパランドとザルバーの間にはクヮンラブル河が流れており、大きな橋が掛かっていた。
その橋に一人の賊がいて、通行人を襲っては物資を奪っていた。
しかし、この盗賊はしばらく野放しになっている。
というのも、サスパランドはモンタアナ領主キルムの領土で、ザルバーはハルアーダ麾下のヴェンの領土だ。
ヴェンはかつて、ハルアーダを命を賭して守った“偉大なる”マギークィッドの甥である。
ハルアーダが旗揚げしてすぐ、ヴェンは伯父であるマギーグィッド・“偉大なる”カールの死に様を騎士から聞き、彼の最期の言葉、「ハルアーダは真の王」という話を信じてハルアーダへの全面降伏としたのである。
ハルアーダは大恩あるマギーの、その甥が降伏した事を喜んだ。
このザルバー子爵のカール家は名門の家柄であった。
そのため、ヴェンがハルアーダの軍門に降ると、同じく名家の人々もハルアーダの元へとやって来たのである。
そのようなヴェンの領主ザルバーと敵国キルムの領土との間に賊がいては、討伐の軍勢を侵略と捉えられて紛争に発展しかねない。
難しい状況であり、賊は野放しとなっていた。
その話を聞いたアキームが、『良い情報を得た』と思うのは当然の結果であった。
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アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
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貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
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「居なくていいなら、出ていこう」
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無能なので辞めさせていただきます!
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