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3章・和風戦雲編
65話、決戦
開戦の直前、ハルアーダはカーンを陣へ呼んだ。
そして、決戦の混乱を突いて帝都へ忍び込むよう伝えた。
「カセイも戦力の大半を城外に展開して城の防備が手薄いだろう。城へ入り込み皇帝陛下を助け出せるのはお前だけだ」
そう命じたのである。
カーンはハルアーダの幕舎を出ると直ちに準備をし、一兵士に紛れた。
鎧を着て、一兵卒のような出で立ちである。
しかし、そんな彼の正体に気付いている者もいた。
それはアキームとアーモだ。
カーンが呼ばれた時、興味本位で彼の後をつけたのである。
ハルアーダの幕舎でのやり取りは分からなかったが、幕舎から出てきたカーンが一兵卒用の天幕へ入り、鎧を着て出てきたのを確認した。
「カーンは城に潜入するつもりなんだ」
アキームはすぐにそう察した。
そして、その足でハルアーダの幕舎へと赴くのだ。
彼はハルアーダに、カーンと共に城へと潜入したいと伝えた。
一度、ティタラの元までたどり着いている。
もう一度彼女の元へとたどり着くことは可能だと伝えた。
ハルアーダはその提案を退けた。
が、すぐにアーモが「待て」と口を挟んだ。
「アキームは既に実力十分のはずだ。なぜ提案を退ける?」
その問いに「まだ子供だからだ」とハルアーダは答えた。
しかし、それに聞き捨てならないのはアーモだ。
子供とて十分な能力と覚悟があれば、大人として扱っても良い。
ただ無為に時間を消費しただけの大人が良くて、仲間の伴う子供が駄目だと言われる理由もないだろうとアーモは言うのだ。
アーモがこれ程に言うのは、かつてまだ若いラドウィンがアーモを恐れずに仲間へ引き入れた経験からである。
だから、子供だてらと否定するのは許せなかった。
ハルアーダもハルアーダで、アキームの事を認めていないわけではない。
アーモに後押しされる形でアキームの意見を承知するのであった。
カーンと共に帝都へ侵入し、ティタラを戦争の混乱の中で助け出せ。
そう命じたのだ。
アーモは図体がとても大きいので、前線部隊の一個を率いる事にする。
そうして、アキームとカーンは一兵士に紛れて戦いに備えた。
一方、ハントの領土では、ルルム地方の勇将が全軍率いて帝都の南方に展開している。
また、後方の河には船が往来して物資を続々と届けていた。
ルルム地方特有の川舟は帆船で、風向きによっては川を遡上できる優れた船であった。
ラドウィンは最右翼の騎馬部隊を率いている。
川や湿地の多いルルム地方では騎馬を主体とした陣形は用いず、もっぱら歩兵の戦列行進だ。
騎馬はおおよそ百騎ほどで、戦列歩兵の左右に位置し、遊撃を行った。
そんな遊撃騎馬部隊で、シュラと共に馬を並べたラドウィンは敵陣を見ている。
「ハルアーダはいいのですか?」
シュラが聞く。
帝都の東方へ陣を張るハルアーダ軍はラドウィンにも見えた。
ハルアーダは息子のアキームの事を知っている。
その話をしなくて良いのかとシュラは聞いているのだ。
ハルアーダの陣へ向かう時間はあったが、結局、この時間までハルアーダの元へと向かうことはしなかった。
「僕が彼の元へと向かえば、戦いを前にして亀裂が入ろう。で、あるならば今は戦いにのみ身を構えるべきだ」
ラドウィンは本当の所、アキームのことが心配でならなかったが、今はそのような感情に流されるべきではないのだ。
だから、敵の戦列だけを見つめて、戦いに集中するのである。
太陽が頭上に掛かる時、キルム、ハルアーダ、ハントの三軍が同時に進軍を開始した。
これは三者共同の作戦である。
地面に突き立てた棒の影が、頭上に太陽があると指し示す時に進軍すると言う作戦だった。
カセイ軍は東と南の二方向から攻め寄せられても前進しない。
少しでも前へ出れば陣形に隙間が出来て、包囲に耐えることができないと知っていたからだ。
カセイ国は土地柄あまり学業は行き届いていなかったが、戦士を称える気風は戦闘に対して合理的な行動を導いている。
カセイのその陣容を見たハルアーダは、さすがに強敵だと思った。
だが、作戦はある。
ハルアーダの率いる騎馬部隊で突撃し、敵陣を切り崩すとキルムやハントの軍勢が攻撃するのだ。
単純な作戦だが、三軍による急造の戦線と思えば十分である。
備えよ! と声を挙げたのはカセイの将軍の一人、セルバナスだ。
白い髭を胸元にまで垂らした老将は兵に槍を構えさせた。
突撃を槍で受けきるつもりなのだ。
その時、カセイ軍の戦列から飛び出る数十騎の騎馬武者達がいた。
セルバナスは驚く。
カセイ国は完全に迎撃の構えで騎馬突撃を防ぐつもりだったから、明らかな命令違反だったのだ。
「戻れ!」
セルバナスが言うが、その騎馬部隊は止まらない。
なにせ先頭を駆けるのはあのガ・ルスだった。
命令を聞くわけがない。
そして彼の率いる騎馬部隊は全てオルモードの兵士達であった。
最後の祭りぞ、徒花咲かせん。と、決死の覚悟と戦いへの昂りを胸に突撃したのである。
その突撃の先頭を駆けるガ・ルスにハルアーダは気付いた。
いつぞやのお返しとばかりにハルアーダは槍をしごき、ガ・ルスへと向かう。
二つの騎馬突撃は正面からぶつかり、肉の弾ける嫌な音や骨がぶつかる歪な音を発した。
ガ・ルスは相変わらず恐ろしい難敵だ。
彼はハルアーダの槍をさばきながら、その手に持つ斧ですれ違う騎馬兵士らをくびき殺していったのである。
激しい衝突の後、二つの騎馬部隊がお互いを駆け抜けていく。
結果、ハルアーダの騎馬部隊は半壊、ガ・ルスの方は残り四、五騎程の少数だけ残った。
ハルアーダの部隊の方が数が多かったから、その兵数が残るのも納得である。
しかし、ガ・ルスの方はどうだろうか?
本来ならば無抵抗に壊滅しかねない兵数で生き残っているのだ。
ハルアーダは彼の強さにゾッとした。
ガ・ルスを見れば、彼は旋回して二度目の攻撃を敢行しようとしている。
たった数騎でもう一度突撃しようと言うのだ。
また、彼の率いる兵士も笑い、「さあ、最期の時を行こうじゃないか」と指揮旺盛であった。
ハルアーダは自らの率いる兵士を見て、怯懦と恐れにまみれているのを確認する。
そして、この兵数では突撃も効果がないと察した。
「撤退だ!」
そう叫び、ハルアーダは騎馬部隊を、ガ・ルスの旋回に合わせて旋回させる。
ガ・ルスと共に円を描くと、ハルアーダはそのまま自陣へと戻った。
一方、ガ・ルスも一旦、カセイの陣へと引き返す。
セルバナスは彼の命令違反を叱責しようとしたが、部隊の中心にいたザルバールが声を大にして、「セルバナス。ガ・ルスを怒るつもりならやめておけ。無駄だからな」と言うのだ。
案の定、ガ・ルスは命令違反などどこ吹く風だ。
どうせ死んだら終わりなのだから叱責など怖くないのである。
セルバナスは怒りをグッと堪えた。
しかし、ガ・ルスの命令違反は絶大な利益をもたらしたと言えよう。
なぜなら、彼のおかげでハルアーダの騎馬部隊は突撃に失敗し、カセイ軍の陣を崩せなかったからだ。
こうして、カセイ軍は迎撃の体勢を構えたまま、キルムやハントの軍と戦闘が始まった。
当初は戦列歩兵同士のぶつかり合いである。
その後、乱戦の様相を呈してくれば、一際異彩を放つのがガ・ルスであった。
彼の周りだけ兵士がいない。
近付けばたちまち斬り殺されるからだ。
「彼奴を止めろ! ただ一人に戦況が覆されるぞ!」
キルム軍の将が叫んでいる。
そこへ、キルム軍やハルアーダ軍では無い軍旗の騎馬がやって来た。
船の帆をイメージした軍旗はハント軍のもの。
それは隻腕の騎士ダルバであった。
「片腕の返礼に参った!」
ダルバはずっとガ・ルスと相見える日を待っていたのだ。
あの日、羽虫を払うごとく容易に片腕を斬られた屈辱の日から、いつか雪辱の日が来るのを願っていた。
ゆえに、ガ・ルスを止めるのはダルバの役目だとハントも承知していたのである。
手綱から手を離し、剣を抜いた。
「片腕ごときが何するものぞ!」
ガ・ルスも斧を振って応じた。
互いの馬がすれ違いざまに三合、刃がぶつかる。
ダルバが呻き、ガ・ルスが笑った。
互いの馬がそのまま駆け抜けて距離が離れると、ダルバはガ・ルスが相変わらず化け物じみている事を痛感する。
一方ガ・ルスは期待できる勇将が現れたものぞと心を躍らせた。
「これで終わってくれるなよ!」。馬を返してガ・ルスがおめく。
ダルバが「これで貴様は終わるのだから気にするな!」と返した。
ふたたび、馬と馬がすれ違い、長剣と斧が空中に激しく火花を散らす。
はたから見れば全くの互角であったが、実力者が見ればダルバの不利は明らかであった。
せめてダルバに両の腕があれば……と思わなくてはいられないほどの僅差であったが。
ダルバとガ・ルスは円を描きながら距離を図る。
二人の間に兵士達は割って入れず、戦場の中にあって一定の範囲だけがコロシアムの円形闘技場のように開けていた。
その開けている空間で二人の戦士が三度目の一騎討ちへ向かおうとする。
その時、戦っている兵士達の中から、一騎、飛び出た。
それはハルアーダだ。
「邪魔するな!」と、ダルバが怒鳴る。
ダルバは戦士であり、この一騎討ちは誇りを取り戻すためのものだ。
その戦いに邪魔だてされたくなかったのである。
が、「貴様のワガママとこの戦の勝敗を天秤にかけられん」とハルアーダは無碍に言い放つのだ。
ダルバはそう言われて、「ならば、絶対に勝つぞ」とハルアーダと共にガ・ルスへ向かう。
「無論だ」
ハルアーダが槍をしごき、ダルバが剣を構える。
ガ・ルスは敵が二人に増えたのを見ると笑った。
美味しい料理が二つに増えたかのような気持ちである。
そして、彼は、ハルアーダとダルバを相手に戦い、その攻撃のことごとくをしのいだのだ。
ダルバとハルアーダは、先程、一対一で戦った時よりもガ・ルスの強くなっていくのに気付いた。
化け物か、はたまた悪魔の化身かと思わねばならない。
先程の一騎討ちでは手を抜いていたのか? と思うところだが、ガ・ルスはいつでも手を抜いていない。
ただ、お腹いっぱいの所にデザートが出て来ると食べられるように、強者二人を前にしたガ・ルスは嬉しさと楽しさのあまりに一層力を発揮したのだ。
後世の人がガ・ルスの事を知った時、きっとこういうだろう。
「幼い頃に両親を殺されて、だから人を殺すようになった可哀想な人なのね」と。
しかし、その認識は違う。
ガ・ルスは生まれ持っての戦士なのだ。
彼がもしも平和の世に生まれていたら、ただの犯罪者として終生した事だろう。
だが、彼は乱世を生きているのだ。
それはまさに、魚が水を泳ぎ、鳥が空を飛ぶようなものであった。
戦いに血潮がたぎり、筋肉が躍動する。
ダルバとハルアーダを前にして、不敵な笑いを絶やすことがなかった。
さて、ダルバとハルアーダがガ・ルスを相手に奮戦している頃、ラドウィンの騎馬部隊がザルバールの構える敵陣中心へと迫っていた。
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