鋼の体に心は宿るのか?

アイアイ式パイルドライバー

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9、容疑者AとAのアンドロイド

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 2060年。一人の男(以下A)が連続殺人の容疑で逮捕されました。

 2059年から一年間、判明しているだけで被害者の数は20名にも及んだ一連の殺人事件の、犯人の一人として逮捕されたのです。

 Aはアラバマ州ののどかな町の生まれです。

 彼の母は性に奔放な女性でした。
 十代後半で家を出ると複数の異性と関係を持ち、二十歳でAを身ごもって故郷に帰ってきたのです。

 彼女はAを身ごもった頃にはアピレチエン(注:第3次大戦中に流行した薬物。PTSDの治療薬として処方されていた)の常習接種者でした。

 また、Aの母はAを出産後、再び家を出て複数の男の家を点々とする生活をおこないます。

 Aは祖母の元に預けられました。

 この時、Aの祖母がAのために購入したのが『SAKURA』です。

 SAKURAは2055年に日本のジャパンロボットクリエイションインダストリー社とアメリカのアーミーテック・テクノロジーズ社で合同発明したロボットです。

 アーミーテック・テクノロジーズ社は主に戦闘兵器の開発、生産に長けた企業でした。
 ですがアンドロイド開発においてはアンドロイドtype-Fなどを開発生産する他社に大きく遅れをとっていたのです。

 アーミーテック・テクノロジーズ社は戦後の需要を視野に入れ、アンドロイド分野への参入を狙っていました。
 また、ジャパンロボットクリエイションインダストリー社も欧米での市場拡大を視野に入れていたのです。

 二社合同のロボット開発はこのような背景がありました。

 二社共同制作の『SAKURA』はジャパンロボットクリエイションインダストリー社の『やまとなでしこ』型の流れを組むアンドロイドで、欧米向けマイナーチェンジと言えるものです。

 使用用途は家事育児、車両の運転、他大工作業などを想定された広汎用途なものです。
 アーミーテック・テクノロジー社の技術が転用され、高度な運動性能を保有しているのも特徴です。

 跳ぶ、跳ねる、走るなどの日用アンドロイドが不得手とする高い運動性能を保有していましたが、犯罪への懸念から通常、この機能は制限されました。

 また、外見の特徴として、成人らしい顔つきや体格が挙げられます。
 やや幼い女性を想起させる見た目の『やまとなでしこ』型とは違う見た目です。

 これは『やまとなでしこ』型の見た目では児童労働を連想され、アメリカ文化に受け入れられないと考えられたためです。

『SAKURA』はボディの大型化と軍事技術の転用に伴い『やまとなでしこ』型に比べて大幅な性能向上が見られました。

 一方で『SAKURA』は非常に廉価なアンドロイドとして売り出されます。
 アンドロイドとしては旧モデルである『やまとなでしこ』型のマイナーチェンジであること。
 小型の『やまとなでしこ』型に比べて大型なため、内部機構に安価な部品を代用できたことが低価格を実現させました。

 Aの祖母が購入した『SAKURA』は「■■■■(検閲のため削除済)」と名付けられました。

 スレンダーな白人女性モデル。
 Aの母を元に顔や背格好をカスタマイズしたとの情報があります。

 ■■■■はAの母親代わりになります。

 Aには軽度な知的障害が見受けられたものの概ね健康的に成長し、地元の小学校へ入校しました。

 学校でのAはあまり良い交友関係を結べませんでした。
 軽度な知的障害が学友らの差別意識を刺激したと思われます。

 また、両親が居らず、アンドロイドに子育てされたことも差別の対象となりました。

 Aは友人に恵まれず、学校では孤独でした。

 また、Aが小学校へ入校してからほどなくし、Aの母親は新しい男を連れて家に帰りました。

 この男が横柄だったようで、Aを見ると酷く不機嫌になったようです。

 Aは家庭にも、居場所を失いました。

 そんなAには祖母と■■■■だけが頼れる人だったようです。

 Aは学校が終わると近くの山や川で■■■■を連れて出かけるようになりました。

 Aが■■■■を連れて出かけたのは、母親が容姿の似ている■■■■を気味悪がったからです。
 
 Aは後に、実母は家庭を侵略する敵で、■■■■はその被害者だったと見ていたと述懐しています。

 Aは友人がいませんでしたが、■■■■の存在によって決して孤独な少年期ではありませんでした。

 それから時を経てAが高校に入ると、Aの環境は一変します。
 家庭を支配していた男と母親が喧嘩別れし、二人とも家を出ていきました。

 また、Aは高校の不良グループと交友を持つようになります。

 不良グループからいじめにも近いいじりを受けていたAですが、不良を恐れた子供達からいじめられることはありませんでした。

 ■■■■しか人間関係のなかったAにとって帰属意識を初めて感じたのが不良グループなのです。
  また、安心して帰る家があるのもAには安心できました。

 彼はこの時のことを一番人生で楽しい時期だったと述懐しています。

 ですが、その交友関係は一年で終わりました。

 不良グループが町の商店へ強盗に行こうという計画を聞いたAは地元警察へ計画を伝えたのです。

 不良グループは商店の前で待ち構えていた地元警察に捕まり、補導されました。

 Aも不良グループとともに現場に居たため補導されましたが、すぐに解放されています。

 翌日、不良グループはAをリンチにかけました。
 Aだけ即刻に解放されたため密告者だと知られたのです。

 Aにとって不幸だったのは、リンチを受けた理由を理解できないことでした。

 Aにとって強盗は悪いことであり、悪いことを密告して責められる理由を理解できなかったのです。
 この頃からAは適応障害の兆候が見られるようになりました。

 不登校が多くなり家へ引きこもりがちになったのです。

 ■■■■の異常性はこの頃から見られました。

 ■■■■には育児プログラムがありますが、それらは基本的に児童を対象としたものであり、思春期のケアワークは含まれていません。
 にも関わらず、■■■■はAの心理的なケアをおこない出したのです。

 Aが旅行に出かけたのは■■■■の提案によるものでした。

 その旅に■■■■も同行し、Aと■■■■はバスと電車でアメリカの各地を回ることになります。

 この時点で■■■■は既にアンドロイドらしさが見られず、多くの目撃者が「アンドロイドと思わなかった」と証言しています。

 Aと■■■■が旅に出た同時期、町では不良グループの中心であった男が死んでいました。

 直接の死因は扼頚(やっけい)による頚椎骨折。
 ひらたく言えば誰かに首の骨を折られたという事です。

 また遺体は刃物により『解体』されており酷く損壊していました。

 このような状況から他殺であることが明らかです。

 地元警察は同時期にアラバマ州を出たAを容疑者として連邦保安局に捜査権が委譲されました。

 この頃のAの足跡を追うことは難しいです。
 人付き合いにトラウマのあるAを■■■■は山や川などの自然が多い場所へ連れていったからです。

 都市部には第3次大戦の爪痕も大きく、Aには強いストレスとなるからだと考えたものだと思われます。

 ですが、Aのこの道程は法的機関からの追跡をくらますための行為に映りました。

 Aはアラバマ州から北上してミズーリ州やアイオワ州に行きます。
 その後、西に移動し、コロラド州などで目撃されてました。

 この時、Aの移動と前後して殺人事件がミズーリ州、コロラド州などでも発生します。

 多発する殺人事件の一部がAの目撃情報と近い地域で発生したため、警察機関はAが殺人事件に関与していることをより強く確信しました。

 Aの指名手配、及び各社報道機関にAの素性を報道させます。
 各地で多発する殺人事件に関連があることを発表し、Aが関わっていると公表しました。

 これはAがアラバマ州を発ってから一年後の事です。

 指名手配を一年も控えていたのは第3次大戦下における国民の緊張状態に混乱を与えないためでした。

 当時のアメリカ国民の多くが、多発する殺人事件を「戦争による治安の悪化」と捉えており、特定組織による犯行だとは思っていなかったのです。

 実際、この公表によって多発する殺人事件が特定のグループによるものだと知れ渡り、各地で混乱が発生しました。

 ある男はピザ屋の地下に犯行グループが匿われていると妄想に取り憑かれ、ピザ屋を襲撃することもあったほどです。

 そのような混乱と引き換えに連邦捜査局はAの目撃情報を取得。

 ミシガン州の某所、ロッジで寝ているAを逮捕しました。

 Aは何も理解できていない様子で、一切の抵抗もせずに確保されます。
 この時のAは連邦捜査局と聞いて目を輝かせ、自身を逮捕した捜査官に対して尊敬の言葉を投げかけていたと言います。

 一方、■■■■も連邦捜査局によって回収。
 当時は■■■■が普通の『SAKURA』型アンドロイドであり、異常性があることを認識されていませんでした。

 そのため、■■■■はアーミーテック・テクノロジーズ社へ送られてデータ内の記録を証拠品として取り出された後、アラバマ州のAの祖母の元へ輸送される事となります。

 ■■■■はAが逮捕されてからアラバマ州の家へ輸送されるまでの間、一般的なアンドロイドと変わらない状態を見せました。

 これは、Aの逮捕が■■■■にとって騒ぐべき問題ではなかったからです。

 なぜなら、殺人事件とAは全くの無関係だったからです。

 それはAと常に一緒にいた■■■■のデータが証明していました。

 ですが、■■■■の予想と反し、Aは逮捕から半年もしないうちに有罪が確定します。

 当時の報道によると、Aが自白したこと。
 それからAが有罪である証拠が見つかったとされています。

 一方、■■■■のメモリーデータは裁判所へ提出されていない事が分かります。

 Aは無実なのになぜ有罪となってしまったのか?
 その原因は、知的能力に問題があったAは誘導的な尋問にたやすく引っかかってしまった事が挙げられるでしょう。

 また、証拠の隠蔽、捏造もあったことはたやすく想像できることです。

 この原因は各社報道機関を通じてAを指名手配したため、誤認逮捕だったといまさら訂正できないという法機関側の思惑もあったのです。

 A有罪の報道の後、■■■■の異常性が再発しました。

 ■■■■はアラバマ州の家から姿を消したのです。

 その後の■■■■の足跡は断片的なものです。
 判明していることは連邦捜査局が証拠品の隠蔽をおこなっていると各社報道機関にリークしたこと。

 アーミーテック・テクノロジーズ社とジャパンロボットクリエイションインダストリー社の内部調査機関に連邦捜査局と不正なやり取りがあった可能性の通報をおこなったこと。

 また、■■■■自身はワシントンDCで探偵業を務める男性(以下、T)と協力し、Aが無実である証拠を探します。

 ■■■■は自身のメモリーを証拠にAの無実を晴らそうとしましたが、すでにアーミーテック・テクノロジーズ社によるプロテクトが課せられていなからです。

 メモリーデータの出力ができず、誰も■■■■のメモリーデータを確認することができませんでした。

 そのため■■■■とTはプロテクトをハックできる技術者や、アーミーテック・テクノロジーズ社によってあらかじめ出力されたメモリーデータの複製そのものを回収する必要があったのです。

 ■■■■とTの活動は五年間にも及びました。

 五年間の活動でAが犯したと思われた事件は全く別の犯人がおり、Aが犯行現場の近くで目撃されたのは偶然だと分かります。

 当時のアメリカで散発的にあらゆる場所で殺人が起こっていたため、Aの近くで事件が起こるのも当然の事だと言えました。

 ■■■■とTの調査で犯人は2060年前後から活動していた親アンドロイド組織によるものだと判明します。

 親アンドロイド組織は環境保護団体を前身とする組織で、人間に代わりアンドロイドが地球を支配することで世界はより良くなると主張する組織でした。

 ■■■■とTは親アンドロイド組織の犯行であった証拠を揃え、Aの無罪をより確固たるものにするためメモリーデータを獲得に動きます。

 最終的には連邦捜査局の捜査員であった男性の協力によってメモリーデータの小型保存キーを奪取。

 報道機関とインターネット上の動画共有サイトの両方からAが無実であったメモリーデータの公開がおこなわれました。
 また、連邦捜査局の証拠隠蔽とアーミーテック・テクノロジーズ社一部幹部に証拠隠滅の関与が認められ、Aの判決の取り消しがおこなわれたのです。

 刑務所から姿を見せたAは酷く衰弱していました。
 軽度の知能障害があるAは刑務所の他の受刑者とも折り合いが合わず、酷いいじめを受けていたのです。

 刑務官なAのいじめを見て見ぬふりしていたため、Aは肉体的にも精神的にも酷く衰弱していました。

 ■■■■はそのようなAに駆け寄ると、その体を抱きしめて支えます。
 この光景は当時の報道機関によって撮影され、センセーショナルな事件の象徴として掲載されました。

 当時のアメリカでこの一連の事件は世間的注目を浴びています。

 アメリカ全土で散発的に発生する連続殺人事件。
 連邦捜査局による証拠の隠蔽。
 そして、アンドロイドがその機能を大幅に越え、主人のために五年間も証拠集めに奔走したこと。

 それらの象徴として、感情的にAを抱きしめるアンドロイドの姿はアメリカ国民どころか全世界で大きな話題を呼びました。

 政府はアンドロイドの使用に基づく規制法に則り■■■■を回収しようと試みます。

 ですが、全世界からの関心が高いことと、当時のジャパンロボットクリエイションインダストリー社からの激しい非難を受けて政府は■■■■の回収に失敗しました。

 ジャパンロボットクリエイションインダストリー社はこの事件をキッカケにアメリカやヨーロッパなどの各地でアンドロイドの販売が好調化しました。
 そのため、■■■■を異常作動しているた回収破棄されたくなかったと思われます。

 連邦捜査局はA及び■■■■に関する資料をすべて破棄。
 A及びその家族に多額の賠償金を支払いました。

 以降のAと■■■■がどのように暮らしたのかはアラバマ州の地方紙に一度だけ小さく掲載されています。

——

『人と機械。二つの心が結んだ信頼。穏やかな暮らし』

 自宅のウッドデッキで■■■■からコーヒーを受け取る笑顔のAの写真が添えられていました。
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