黒く滑る『彼』

田所ぴもん

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粘質の「それ」

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一体何度絶頂しただろうか。
サディスティックに微笑む彼は私を後ろから抱きしめ、腰を大きく振る。
「もっと、気持ちよくなりたいんですよね?」
そう言うと同時に黒光りする触手が私の耳朶に触れ、頭の中に侵食してくる。
単純な思考すらままならないほど、快楽の奔流を直接に脳内に流し込まれるのだった・・・・・・

こうなった、いや、こうなれた理由は、端的に言うとするならば、恋人の不貞である。
彼女はある新興宗教に属している。それだけは知っていた。しかしその教義が、「女を教祖に集中させる」などというものだとは知らなかった。
だから、これを目の前で見せつけられた時・・・・・・月並みではあるが・・・・・・頭が真っ白になった。
意味がわからず立ち尽くしていると、彼女が私に気づき、嬉々として私を教団に誘ってきた。
その男がどれほどに優れた雄であるか、彼に奉仕することがどれほど光栄なことかを語りながら。
にじり寄ってくる彼女に慄き、着の身着のままで逃走を敢行した。

そしてたどり着いたのは、正確な場所さえ分からぬ繁華街であった。スマホの地図機能は、バッテリー切れで使えない。そもそも彼女の不貞を見たのは、充電器を取ってこようとしたからなのだから・・・・・・

これから先の方策を考えることもできず、私は路地裏にへたり込んだ。

手に、何か粘着物が引っ付いた感覚・・・?
見ると、タールのような、スライムのような。とにかくべっとりとしたものが手に付いていた。
払おうとすると、ズルリと動く感触。
周りの水たまりの水が・・・いや、手のものと同質の物体が周囲から集まってきて、手の上に小人のような形を形成する。
タールの人形は、私の方を向くと、どこにあるか分からない口から音を発した。

「こんにちは」
突然の事態に困惑しながらも「こんにちは」と返すと、それは少し驚いたようにヌメリと動いた。
「おや、驚かないのですね。大抵の人間は、私を見ると悲鳴をあげて逃げていくものでしたが」
それが通常の反応か、と他人事のように思いながら、ああ、自分はそれもしないほど疲れているのかと分析した。

何をしたいのかと問うと、それは平然と答えた。
「人間を知りたいのです」、と。
それは齢19歳の俗に言う地球外生命体と言うもので、地球の環境に適応しながら、現地生物の調査をしているらしい。
ただ別に征服したいだとかテラフォーミングしたいだとかいうものではなく、ただ星々を彷徨って、その地に根付いて細々と生存するのが彼らの生態だと言う。
「ここまで単一の種が惑星を占めているのは、ここが初めてでしたが」
そこまで言って、それは私が上の空であることに気づいたらしく、事情を聞いてきた。
話すと、少し困惑したように粘質の体が揺れた。
「悲しい・・・というのですか?あなたの感情は?」

わからない。悔しさなのか?それともそれの言う通り悲しみなのか?あるいは嫉妬?あるいは・・・・・・
わ、か、ら、な、い。

「では、読み取ってもいいでしょうか?」
読み取る?何のことか?
「私は情報ならば何でも読み取ることができます。この星、この国の・・・日本語と言いましたっけ、これもインターネットから学習しました。・・・・・・実は、人間のことを理解したいとも思っていたのですが、誰も私に脳を読み取らせていただけないのです。もちろん生命は保証いたします。ですから、脳を読ませていただきたい」

こうもなれば自棄だった。快諾すると、それの姿は少年ほどのサイズにまで巨大化し、ヌメっとした触手が生える。
「では、読み取らせていただきますね・・・」
耳の穴から触手が入り込んできた。頭の芯の方で冷たい感覚がある。
何かを吸われてゆく感覚と、異物感。しかし、何か温かいものもあった。

「ええ、読み取れました。ありがとうございます」
それは少年サイズの粘体から、正真正銘の美少年へと変態メタモルフォーゼする。しかしその服装は女性的だった。
「どうでしょうか?中性的な姿・・・雌の特徴を兼ね備え、それでも確固たる『雄』の特徴を持った雄・・・私のお気に入りの擬態です」
みほれていると、彼?の表情がみるみる曇って言った。

「しかし・・・これは」
その透き通った肌には、青筋が立っている。
「これはこれは・・・あなたは番を奪われたのですか。この体の内から湧き立つような感覚・・・これが怒り、あるいは悲しみ?いずれにせよ・・・」
どうやら私の記憶だけでなく、感情も読み取ったらしい。これは想定外だった。

「お辛かったでしょう。私の胸でよければ、泣きますか?」
その言葉が私の耳に届いた途端、私は彼へと抱きついていた。大の大人がみっともなく、自分よりも若い、しかも人間ですらない生物に泣きつく。側から見れば滑稽なものだろうが、安心できる温かさをしていた。
彼の体から香る甘い匂い。緊張状態をほぐし、母の胸の赤子のような気分になる。

「・・・おや、股間が・・・」
甘い匂いは媚薬だった。股座のものが熱を帯びる。
「おやおやおや。可愛らしい人だ・・・同性の姿の怪物にこうもしてしまうとは。いいでしょう、鎮めてあげます」
そう言うと私を腕で持ち上げて抱きかかえ、ラブホテルへと連れて行った。
「費用はあなた持ちです、構いませんね?」と甘く囁くその声に、私はただ頷くほかなかった。
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