異世界転移で巣ごもりごはん

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扉の外で

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どうも、俺の名は小津賢治という。
生まれも育ちも地球の日本で27歳、自由気ままな独り暮らし。しがない社会の歯車です。

休日の朝、起きたらアパートの一室ごと無人のわけ分からん室内ぽいとこにいて、そこからもっと外に出られそうだったから出てみた。そしたら人が居るには居たんだけども。
西洋甲冑を頭から着込んだ二人組が。

けど。出迎えにしちゃあ、その反応がそりゃもう酷いものだった。

「!?」

「誰だ、貴様! どこから入った!」

んなモンこっちが聞きてェよ!

最初の部屋は石っぽい見た目の壁と天井に覆われた部屋だった。
その扉と思われる場所をゆっくり開いて覗いてみると、窮屈そうな石壁の部屋よりずっと開けた場所に出た。そこもまだ屋内のようだった。

最初の部屋も別に狭いっつーわけでもなかったんだが、どうも見た目のせいか圧迫感があって。
んで、出て来た俺を見て、その扉の両側に居た全身鎧の二人がびっくりしたように声を上げた。

というかこれはあれだ、怒声だな。

「その妙な格好……どこぞの間者スパイか!? 門番は何をしていた!」

「スパイって……おいおい……」

確かに顔洗っただけで出てきたっていう雑な格好してるけど、そんな怪しい!?
寝巻代わりのTシャツとハーフパンツ、そこにパーカー羽織っただけ。足元なんか健康サンダルだし。
なんかあるかもってビニール傘持って来たけど、これが何になるかは分からん。

白いアーチ型の天井、真っ白な柱は流れるような意匠が彫られてる。およそ画面越しでしか見た事ないような光景にぎょっとしたのはこっちである。
なんだ、映画の撮影か!?

銀色の仮面と西洋風の全身鎧を身に着けた一人が、手に持っていた槍の刃先を俺に向けた。
やたらと切れ味が良さそうに光ってるが、まさかそりゃあ本物じゃあないだろうな。
しかしそれを尋ねるには状況と分が悪すぎる。

「待て待て、こっちも意味が分かんねーんだって……」

「喋るな! おい、人を呼んでくれ!」

おとなしく両手を上げながら敵意が無い事を示したっつうのに、槍を構えてがちがちに緊張しているらしい鎧は、側に立っていたもう一人の鎧に叫んだ。
その声に応えたもう一人が、がっしゃがっしゃと甲冑の音を立てながら走って場を離れていく。

ええーーー、俺何にもしてないんだけどーーー。

頭からすっぽり被ってる兜のせいで声が籠って分かりにくいが、どうもかなり若い男であるようだった。

「その妙なワンドを床に放れ!」

「わん……?」

何のこっちゃと思ったが、察するに俺が握ったままの傘を指してるらしい。
もしこれが武器に見えたって言うなら、まあそりゃそうだと言うことになる。片手はバンザイの形を保ったままそろそろと膝を床に近づけて、安物のビニール傘を床に置く。そこで気付いたが、床には長く赤い絨毯が敷いてあった。

(やっぱ何かの撮影なのかねェ……)

まるで映画のセットのようだったためそう思ってしまったのだが、問題はそこからだった。
俺が床に置いたはずの傘が、ふっと消えてしまったのだ。

「えっ?」

「!? 貴様ァ! 何をした!!」

「えっ、いや待てこっちが知りたい……どわあ!」

突然の消失。呆気にとられる俺。激高する西洋鎧。

鎧を来た若い兄ちゃん(多分)は、それで拮抗とか何かの糸がプツッと切れてしまったんだろう。
構えた槍を前に突き出し、俺の方に突進してきた。

丸腰の男に突っ込んでくんじゃねー!!
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