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第三章 ノベルシカ王国の暴走と崩壊と……

44 ネバリ国王は、シュライとシュライの納める国に尊敬の眼差しを向ける。

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 ――ネバリ国王――


 まさか、自分が『神々の島』の神々と会話する機会が与えられるとは思っても居なかった。
 皆さん気さくで優しく思いやりがあり、何より高度な知識を持っておられた。
 何よりその会話に簡単に付いて行くシュライ国王には驚いたものだ。
 私ですら持っている知識をフルに使って何とか付いて行っているというのに、次から次に飛んでくる専門用語すらシュライ国王は瞬時に理解し、返答していた。

 流石神々の国の神々である、アツシ・ジュノリス大国王の義兄弟だという筈だ。
 1言えば10返す。
 それを普通にやってのけるシュライ国王は正に賢王の名に相応しい。

 ましてや、神々の国でも親しい国同士勉強会をしているのだと言っていた。
 その為思わずシュライ国王陛下に「是非ご教授を」と伝えると、「箱庭師で行き来出来ればお話程度は出来ますよ」と言って下さった。
 その言葉をノベルシカ王国も聞いていた筈なのに無視をしていた。
 あれでは国は発展しまい。

 賢王と名高いシュライ国王との会話は有意義なモノになるだろう。
 我がネバリ王国を更に発展させる為にも、そして最もたる友好国としても。
 シュライ国王には天候を操る力で我が国も天候を安定させて頂いている。
 お陰で牧草は茂り、家畜たちの過ごしやすい気候も相まって家畜の健康状態は良く、良質な乳を出す個体も多くなった。
 ――当たり前だと思ってはいけないのだ。
 シィライ国王陛下のお陰で、この恩恵を受けているのだという事は理解している。
 恩返し出来る事はドンドンして行きたい程だ。

 それなのにシュライ陛下は低姿勢で「我が国が最も苦しんでいた時に手を差し伸べたのはネバリ王国であった」と言って笑って下さった。

 ――その時思ったのだ。
 嗚呼、我が国はシュノベザール王国を大事にしようと。



 ◆


 次の日のお忍びには私も参加した。
 この国の発展が我が国の発展に繋がるかも知れないと思ったからだ。
 無論神々の国の皆様にはご迷惑をかける事にはなるが――彼らは笑顔で受け入れて下さった。


「シュライ国王が作ったのは魚市場に八百屋にと、最初何もない所から本当に作って行かれたのですね……」
「ああ、国民から聞いたが、食うに困り、明日食べる物も無くと言う日々が当たり前だったらしい。だがシュライが国王についてから暫くして魚市場が出来て一夜干しや干した魚が出回り、程なくして野菜が出回り始めたと。その野菜はネバリ王国から取り寄せた苗から作ったのだと教えてくれた」
「我が国の事も国民は知っているのですね」


 そんな小さな事を国民に教えていらっしゃるとは思いもせず驚くと、アツシ国王は更に言葉を続けられた。
 若干15歳にして国王になったシュライ国王次第では国王を殺そうという声も上がっていたのだそうです。
 それまでの生活を耐えれなくなったのでしょう。
 でも、前の王などが集めた財宝を売り払い、その金で苗を買い、箱庭師の箱庭で育て、自分たちの為にまずは国民を富ませるのだと必死に足掻いていたのだと知った国民たちは、己の考えた『国王暗殺』がどれ程馬鹿げた事かを知り、シュライ国王陛下の為さる事を見守る事にした。

 大手を振って偉そうにしていた大臣たちが次々捕えられ財産を没収されて行く様は、見ていて清々しい程だったという話では、彼らが脱税を行っていた事も国民は知っていた。
 それをシュライ国王は許さず、罰した事が更に国民にとって彼の人気に繋がった。

 それからアツシ国王との繋がりが出来て、銭湯が国民の為に2か所に作られ、それが国民の衛生面に繋がり、その間に国営で孤児院や路上で生活するお年寄りを集めた老人ホームが作られ、最初こそ掘っ立て小屋からのスタートだったが、次第に大きなものへと変わって行ったこと。

 そして国民の生活が安定し始める頃、税金で14歳までの子供と、65歳以上のお年寄りからは税を取り立てない事を決めた事。
 税金の問題は大きな問題です。
 それをあえて国民の負担を考え無くした。
 これには上層部からの反発も強かったそうですが、シュライ国王は絶対譲らず撤廃したとの事だった。

 その代わりに打ち出したのが甘味で、上層部の矛先を税金の事から新しい甘味へ移動し、同時進行でアレコレと考えながら砂糖を作り上げ、次に氷を作り上げ、今では国民の愛すべき食べ物になった『かき氷』にまで広がったのだという。
 私達もかき氷を食べながらその話を聞きつつ、ショライ国王の凄さを知りました。


「同時進行で上層部を抑え込むためにアレコレ政策を打ち出すのは並大抵ではない。シュライは本当によくやったと思う」
「上手いねぇ。マイナスの事をやった後にプラスにしかならない事を口にして意識を持って行かせるとは」
「国民の家も前は石造りだったと聞いております」
「ああ、それも箱庭師を使って木を集め、天候を操る力で乾かしてから家を作れるようにしたらしい」
「ほおお……」
「木は切って直ぐ家を建てられる訳じゃないんだ。暫く乾かさないといけないからな」
「そんな事があったのですね」
「天候を操るシュライ国王だからこそ出来る力技ですね」
「だな!」


 次なる甘味で打ち出したのが、わが国でも人気の『フルーツチップス』で、こちらはアツシ陛下の力をお借りしてガラスハウスを作ったそうだ。
 資源の乏しいこの国でも緑化が進んで果物は沢山出来る。
 それを乾燥させてチップスにして食べられるようにして、国民の食べられる甘味にし、輸出用まで用意するのだから素晴らしい。

 我が国でもシュノベザール王国からの商隊がくれば必ずと言っていい程甘味は全て買い取るようにしている。
 誰だって甘いモノは欲しいのだ。
 そして次なるものが燻製作りにと、シュライ国王のやる事は本当に目から鱗だった。


「次は何を為さる御つもりでしょうねぇ」
「一先ず出来るところは終わらせたとは言っていたが、まだまだ政策は出て来るだろう。きっと思案中だと思うぜ」
「増々目が離せませんね」
「魔道具の方にも力を入れるつもりかもしれないし、楽しみだな!」


 そう会話しながら歩く街並みは、昔はやせ細った人々が動けずに蹲っている姿もよく見かけたものだが――今では肉付きも良くなり暑さや日差しを妨げる布地の張られた道を歩き、本当に変わったのだと、シュライ陛下は国民の為に改革を常に行ってきたのだと知る。


「――我が国も変われるだろうか」
「シュライに色々聞いて行けば、変わるかもしれないな」


 そう口にしたアツシ陛下に、私は強く頷き笑い声溢れる街並みを歩いたのだった――。
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