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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

【閑話】

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翌日の早朝4時。夏場の太陽がゆっくりと朝焼けと共にお目見えする時間帯に、寺の駐車場にいくつもの黒塗りのベンツが到着した。
多くの護衛に守られるように降り立つはよく似た双子の女の子。


「ついに来ました……寺に眠りし愛しの旦那様っ」
「例え魔王の妻が聖女様であろうとも、ワシらにも希望はある!」
「そうですわね。寝込みを襲う、既成事実を作る、逃げられないように五寸釘で四肢を封じ、こちらが用意した契約書に血判を押す事くらいは出来ますのね」

後に【悪魔の契約書】と呼ばれる契約書には、彼女たち及び彼女たちの父、そして組長である祖父が考えに考えついた内容を事細かにごま粒の文字でしたためている契約書である。
そんな悪魔の契約書の内容を隅から隅まで読み、天使の微笑みを浮かべたのは――僧侶の方である。
組専属の弁護士ですら書類に目を通して一瞬固まり、震える手で眼鏡をクイッとあげた程の内容である。
そして、悪魔の契約書の内容についてだが……


「素晴らしい契約書の作成が出来上がってとっても満足ですわ! これなら逃げることなど出来るはずがありませんわね。的確に、確実に手に入るに違いありませんわ。後はわたくしとお姉様にお任せくださいませ」


――そう笑みを浮かべた僧侶、いや、極道の跡継ぎの一人として育てられた幼い彼女は儚げな美少女なのだが、心はある意味防弾ガラスのごとく強かった。
もし仮に自分の子供が【悪魔の契約書】の餌食になったら苦しまずに我が子を守るために……弁護士は心を鬼にしていたことだろう。それにしても、流石組長のお孫様だと弁護士は戦慄していた。
あの文面を隈無く読んでも眉一つ動かすことも無く、反対に満面の笑みを浮かべられるとは。
お二人の想い人と言う名の【犠牲者】は寺の跡継ぎと聞いている。
【神】が勝つか【悪】が勝つか。
弁護士は子供らしい恋する表情の二人の女児を見ても、その笑みが邪悪なものにしか見えなかった――。



++++++++++++++++++


寺の門を堂々と潜ると、わたくし達は魔王様のお父様とお母様に案内され、わたくし達に用意された部屋へと向かいましたの。
二階にあがると右側が魔王様のお部屋があり、わたくし達もそちらへと住まいを移すのだと思っていました。

ところが……ですわ。

あろうことか、わたくしと武道家さんが案内されたのは、反対の左のお部屋。それも日当たりが良いと言う理由で一番端の角部屋でしたの!!
確かに日当たりも良く、部屋の広さとて申し分はありません。
けれど、わたくし達が望むのは、魔王様のお側なのです!


「まぁ! とても素晴らしいお部屋で嬉しく思いますわ」
「中庭も見えてなんとも趣のある部屋じゃな!」
「でも、困りましたわ……。わたくし達、祐一郎様の近くの部屋だとばかり……」
「そうじゃのう……」


わたしくし達の言葉にお母様は「あらあら」と微笑みながら、一通の手紙を手渡してくださいました。
宛名には魔王様のお名前が!

『暫くの間この寺に過ごす間、日当たりの良い過ごしやすい部屋で仏の教えをしっかりと覚えていって欲しい』

『自分たちの部屋は修行をしっかりとする者に与えられた部屋である為、夏休みの間のみならば、日当たりの良い部屋で十分である』

といった、わたくし達が駄々を捏ねさせないためのお言葉が。
流石魔王様ですわね。
少し駄々を捏ねれば問題なく魔王様のお部屋のお隣に行けるかと思ったのですけれど……。
先手を打たれてしまいましたわね。
これで駄々を捏ねた場合、心象はマイナスですわ。


「流石魔王だのう……先手を打ってきたか」
「ええ……仕方ありませんわ。プランBで行きましょう」


小さく二人で囁きうなずき合うと、わたくし達は素晴らしい景観の部屋で夏休みの間過ごすことになりましたの。
確かに先手は打たれてしまいましたけれど、この程度で狙った獲物を逃がすような育ち方はしておりませんわ。

必ず狙った獲物は仕留める。
これこそが、重要なのです。


「それでは、終業式で皆様がご帰宅されるまで暫くお待ちしましょう」
「そうじゃのう」


朝早く来たこともあり、眠気に勝てず皆様が帰宅するまで眠らせて頂くことにしたわたくし達でしたが、皆さまが帰宅する頃、わたくし達は用意されたピンクの作務衣に着替え、ご帰宅されるのを待ったのです。

――さぁ、狩りの時間ですわ!
やってやりますわよ!!

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