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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

75 魔王様達は、突如始まったイジメ問題に直面する③

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――魔法使いside――


この異世界には、オル・ディールに存在した人間よりもはるかに多い人数の人間が居る。
オル・ディールの世界は、みんなが生きるために必死だった。
明日食べるものさえも、お金を得る為にも、幼い頃から仕事をして、時には物乞いだってしながら生きていた。
生きる為には何でもやった。
綺麗な世界は、そこには存在しない。
女も男も、分け隔てなく何でもやった。
生きるために必要なことならなんでも。

それに耐えきれず死ぬ事は多々あった。
それでも。それでも。
この異世界のように、みんなが簡単に「死にたい」「死ぬ」とは言わなかった。
皆「生きたい」「生きてりゃ何でもできる」と口にしていた。

――その差はなんだろうか。

生きる為のハングリー精神の違い?
それとも、死と言うものが余りにも身近にあり過ぎたから?

答えとしては、後者だろうと僕は考える。
この世界では、外で魔物に遭遇することもない。
事故は多いが、それでも魔物に遭遇する率と比べるとはるかに低い。
子供でも一人であちこちに移動できると言うのも、平和な証拠だ。
だからこその違いだろうと、自転車をこぎながら狩野の家へと向かう。


狩野の家に行くのも、今日で3週間目になる。
毎日向かってはいるが、その間に狩野と会ったことはまだない。
それだけ狩野が傷ついていると言う証拠だ。
狩野が不登校を始めてから、イジメた側の女子は少しだけ肩身の狭い思いをしているようだ。
友達だった人間を、それも6年間一緒だった人間を裏切る行為。
それは、自信の信用問題にまで発展した。
男子からは軽蔑した目で見られ、女子もまた冷めた目で見ている。
そんな中、イジメをした本人たちは居心地の悪さと、自分たちがしたことへの事の重さを感じているのか、口数も少ない。
聞いた話では、家族からも相当絞られたと言う話だった為、自分の親にイジメをして不登校に追い込んだことがバレたことが一番キツイんだろうと思う。

そもそも、バレないと思ったのだろうか?
不登校になれば学校も動く。
良心的な教師が担当だった場合……というか、僕たちの担任は勢いのある人だからこそ、イジメで不登校になれば、それ相応の制裁として親に伝えるくらいは予想ついたはずだ。

イジメのリスクを軽く見ていた馬鹿が自分の首を絞めている。

今の現状は、見ていて自業自得だと呆れかえってしまうが、イジメられた側はそんなモノよりも傷ついたことでのショックで、親さえも傷つけてしまったと言う後悔で一杯んじゃないだろうかと僕は思う。


そんな充てもない考え事をしながら狩野の家に到着すると、待っていたのは何時ものお婆さんではなく――狩野本人だった。


「狩野!」
「恵くん……何時もありがとう」


力なく微笑む狩野に駆け寄ると、僕は学校からのプリントを手渡す。
たった一枚のプリントであっても、毎日訪れる僕に狩野はやっと姿を見せてくれたようだ。
少し痩せた狩野は、僕に何かを言いたそうにしていた。
学校の様子を聞きたいのだろうと理解すると、僕と狩野は近くのコンクリートに座り、学校の話を始めた。
今のクラスの現状。女子の現状。男子からの軽蔑の目にさらされている事。
淡々と語ると、狩野は何処かホッとした息を吐いてから口を開いた。


「そう言う事になってるのね……」
「真っ当な制裁だと思うけど?」
「うん……足りない気もするけれどね」
「そりゃね、許されない事をしたんだから。誰もそんな奴らとは仲良くしたくないよ」
「謝られてもね……」
「電話が来たの?」
「うん」
「なんて答えたの」
「謝られても困るって。許す気になれないって答えた」
「許さなくていいじゃん」
「うん」
「一生、狩野もアイツらを見下して生活すればいいよ」


僕は、にこやかに、そう答えた。

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