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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

76 魔王様達は、突如始まったイジメ問題に直面する④

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――魔法使いside――

「謝られても困るって。許す気になれないって答えた」
「許さなくていいじゃん」
「うん」
「一生、狩野もアイツらを見下して生活すればいいよ」


僕は、にこやかに、そう答えた。
けれど、狩野にとっては衝撃的だったようで、目を見開いて僕を見ていた。


「見下して、良いと思う?」
「反対に聞くけど、なんで見下しちゃいけないって思うの?」
「……」
「自分がされたことを相手にしてるような気分になるから?」


僕がそう問いかけると、狩野は頷いた。
何と言うか、甘い考えだ。
これがオル・ディールなら狩野は魔物に殺されなくても、人間に殺されているだろうな。


「自分がされて嫌な事は相手にしちゃいけないって……」
「でも許せないんでしょ?」
「うん」
「報復しないだけ狩野は偉いよ。僕なら報復するね、徹底的に」


笑顔で告げると狩野は「まぁ、恵くんだったらそうかな」と苦笑いしていた。


「こういう事はさ、白黒ハッキリさせておいた方がいいんだよ。イジメられる方が悪いなんてことは無いんだから。あいつ等がしたことは、下衆の極みだよ」
「うん」
「下衆って、死ぬまで下衆だと思うんだよね。これ僕持論」
「うん」
「狩野はさ、優しすぎるんだよ。僕から見れば綺麗すぎるくらいだね」
「そう……なのかな」
「僕から見ればね。綺麗だから汚れたくないというより、綺麗な心根があるからイジメた相手の事は許したくないけど、もう関わりたくない。違う?」
「うん」
「関わらなくていいんだよ。下衆は下衆のままなんだから。後悔しました~反省しましたーって言っても、結局人間の本質、根本って変わらないからね」
「うん」
「中学でも同じこと繰り返すじゃないの?」
「そう……だろうね」
「で、自分が傷つけられる側になってやっと気づくタイプの下衆ってさ、滑稽だよね。僕の言ってる言葉は辛辣かもしれないけど、事実だと思うよ」
「うん」
「それに、僕も今回の事に関しては怒ってるしね」


そう、僕は怒っているんだ。
安易に人を傷つけて笑う行為は許される事ではない。
大嫌いだ。
そんな僕を見た狩野は、やっと何時ものように笑った。


「怒ってくれる人がいるって、嬉しいね」
「そう? 祐一郎もアキラも怒ってたよ。祐一郎なんて何て言ったと思う? 『下衆と同じクラスで6年間も一緒だったと思うとゾッとしますね』って言ってたからね。アキラはアキラで『あいつらの頭可笑しいんじゃないのか?病院で診てもらった方がいいんじゃないか?』って別のベクトルで心配してたよ」
「あはははは!」


想像が出来たのだろう、狩野は笑い始めた。
少しは心が楽になったんだろう。笑顔が少しだけ増えた気もする。


「ま、そんな訳だから。狩野はもう少し学校休んで、アイツらを追い込むと良いよ」
「私が学校を休むことで、あの人たちが苦しむの?」
「そりゃそうさ。来なくてキャッキャってのはバレてないからこそ出来る事であって、親もクラス全員にもバレてる連中の場合は、肩身の狭いツラーイ一日が毎日待ってるのと一緒だからね。だから狩野は好きなだけ休んで、シッカリとアイツらにお灸を据えればいいよ」
「そっか」
「んで、たまに学校に来て、早退して、たまに学校に来て、早退してって繰り返しておけばOK。徐々に学校に居る時間をジワジワ増やしておくのもお勧めするよ」
「そうなの?」
「追い込むんだよ。ある種の見せしめかな」
「恵くんは結構露骨だね」
「嫌いなものは嫌いだから。僕はそう言う人間だよ」
「でも、そう言うのもアリかもしれないって思い始めてる。私だけ辛い思いをするわけじゃないもの」


少しだけスッキリした表情を見せた狩野に、僕は立ち上がると背伸びをした。


「後一か月休んでさ、後はジワジワ学校に来始めればいいさ。いる場所がないなら、どうぞ僕の隣へ」
「他の女子に今度はイジメられそうね」
「それはないんじゃない? クラス全員、毎日僕が狩野の家に行ってることは知ってるわけだし」
「それもそうかな」
「卒業までもう少しなんだしさ、折角こんなことが切っ掛けで仲良くなったんだし、一緒に卒業しようよ」
「そうさせて貰うわ」


そう言うと狩野も立ち上がり、スカートを叩いて砂を払った。
表情も幾分スッキリしているし、これなら少しずつ心の傷も治り始めるだろう。


「毎日来てくれてたのが恵くんで良かった」
「そりゃどうも」
「明日も話せる?」
「話せるよ」
「じゃあ、明日も待ってる」
「ん、明日も話そう」


それから一か月、狩野の許へ行っては他愛のない会話もしながら過ごし、狩野は徐々に元気になっていった。
数回女子からは電話もあったようだけれど、イジメをした女子ではなかったそうだ。
他の女子も少しずつ狩野の事を心配して電話を掛けてくるようになっていた。
そうすると、狩野も徐々にだが元気になっていき、午前中だけ学校に来ることも増えてくるようになった。
早退するのは理由が理由なだけに、先生からNOが出ることは無かった。
イジメた側は、居心地がわるそうにしていたけれど自業自得。
狩野は別の女子グループに入ることができ、それから少しずつ学校に居る時間を増やしていき、僕と狩野はよく一緒に話す間柄にもなった。
まぁ、男子と女子とじゃ話す間柄になっても、会話の内容が続かない部分は致し方ないのかも知れない。
けれど、狩野と僕との距離は随分と近いものになった。


「恵くん」
「どうしたの狩野」
「私も恵くんみたいな人間になれるかしら?」
「無理じゃない? だって狩野は綺麗すぎるもん」


――狩野は、やっぱり狩野だった。
イジメられて不登校になっても、多少暗さは残っても、やっぱり心根は綺麗なままだった。
それは一つの奇跡であることに気づくのは――ずっと後の事。
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