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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

78 魔王様の言い分と魔法使いの言い分。

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卒業式まであと数日――。
我たちは卒業式の練習に取り組み、それなりに忙しい日々を過ごしていた。
中学へは皆が同じ場所に通う事にはなるが、制服も届き後は卒業を待つのみの状態だ。
濃厚で濃密な小学校時代を終え、次は中学生――どんな人生になるのかは想像できない。
聖女からは「部活動が大変だ」とか「授業が増えて頭が混乱する」等と言う話は聞いているが、確かに中学校から届いた教科書を見ると知らない勉強も増えるようだ。

改めて我が思うのは、この異世界での勉学とは【詰め込み式】であり【次のステップへ進む為に必要な問題を頭に入れる】と言う事だろうか?
確かに長い人生、どこかで役に立つ勉学も多いかもしれないが、人間とは基本的に読み書きと計算が出来れば人生何とかやっていけるものだ。
だが、良い就学をしたい場合において、【将来の岐路】への選択肢は大いに越したことはないのは確かだった。

より良い就職をしたいのなら、勉学に励めと言う事だろう。
だが、それと同時に――勉学とは大人になってもしようと思えば出来ると言う事だ。

母が言うには、時代の流れで覚えることも変わるのだと言う。
教科書の中身とて、時代で変わるのだと聞かされた時は驚いたものだ。

国にとって伏せたい問題も多いだろうし、国同士のアレコレで載せられない問題も出てくるのだと母が言うと、我はこの国の脆弱さを更に感じた。
国自体に、一貫性が無いのだ。
それは優柔不断とも取れるし、強固な態度が取れない国とも取れるだろう。
何か一つくらいは一貫性を持って貰いたいものだな。


「と、思うのは私が可笑しいのでしょうかね?」
「いや、可笑しくはないと思うよ? 僕だって不思議に思うもん」


寺の掃除をしながら魔法使いと話していると、やはり同じように思っていたようだ。


「戦争反対と言うのは一貫性があって良いと思うよ。オル・ディールでも戦争が何度か体験してるけど、あれ程残酷なものはないからね。正義と言われるのは何時も勝った方だ。でも裏を返せば、侵略される方は正しくないのかと言われるとそうじゃない。負ける方が悪いと言う考えも可笑しいと僕は思っていたよ」
「そうですね」
「交渉とは大事な事だよ。特に国同士なんてさ、交渉次第で決裂したり色々ある訳だし。それが国民に跳ね返って来たりするわけだから、交渉の難航なんて聞くと胸が痛いね」
「まぁ、魔法使いさんは経験者ですからね。胸が痛むのは分かります」
「で、奪いばかりだった魔王軍の魔王様はどうなのさ」
「奪うばかりではありませんよ? 魔族とて守らねばならないモノに対しては必死に抵抗しますし、陰で人間の為に動いている事も多かったです。寧ろ奪うのが得意なのは人間の方では?」
「……確かに」
「魔族は基本的に欲深くはないんですよ。守りたいなら守るだけで。侵略してくるのは何時も人間が側ですよ」
「ま、人間は増えるからね。仕方ないか」
「それで其方側は納得しても、魔王軍側としては納得できない理由ですよ」
「まぁ、オル・ディールの話は置いておいて。時代にあわせて教科書の内容が変わっていくあたりが人間らしいなって思ったんだ」
「大人の都合の悪い所は消すのが当たり前でしょうからね」
「そんな大人に成長していくんだね……」
「綺麗事だけでは大人にはなれませんからね。汚い事も覚えて行かないと」
「それを寺の跡取りが言う?」
「表と裏ですよ」


そう言いつつ境内の掃除を終わらせると、家に入る時に母と一緒に買い物に行っていた勇者と出くわした。大きな紙袋には毛糸が沢山入っている。
なんでも、アキラに卒業までに手編みのマフラーを作るのだとか。
チラリと魔法使いをみると泣き出しそうな顔をしていたが、まだ未練があるのだろうな。
とは言え、勇者はアキラのものとなったのは間違いのない事実で、我は魔法使いの方をトントンと叩くと、魔法使いは大きな溜息を吐いていた。


「僕、将来のパートナー運は悪い気がする」
「実らない恋ですか。辛いですね。せめて学生時代に良き出会いがある事を祈りますよ」
「いや、僕の場合かなり年上じゃないと相性が悪い気がするよ……同年代は子供に見えるし」
「言いたいことは分かります。身近でとなると私たちは難しいですよね」


なまじオル・ディールでの記憶があるが故に、同年代は子供過ぎて恋愛対象にはなり難い。
せめて20歳を越えれば魔法使いにもいい出会いがありそうなきはするが……こればかりは運も左右するだろう。


「汚い大人相手の方が、話が合うのかもしれないなぁ」
「まぁ、焦らなくとも我々も大人になりますよ。年齢と言う意味ではね」
「そうだね。でもいつまでも清らかでいて欲しいのは居るよね」
「勇者とアキラの関係とか何時までも清らかでいて欲しいですね」
「うう……あの二人だって、ある年齢になれば身体の関係に発展するんだっ!」
「泣きなさい泣きなさい。失恋して泣けないほうが可笑しいんですから」
「僕、魔王に恋しそう!」
「遠慮します」


こうして我の部屋で一頻り泣いた魔法使い。
失恋してやっと泣けたのなら、心の傷も治りかけている証拠だろう。
それまでは心が麻痺していたのだろうから。
我とて聖女に失恋していたら廃人のようになっていただろうと思うと、上手く行って良かったと言えるし、聖女自信も我の事を大事にしてくれている為、心が満たされていると言うのは確かにある。
魔物であった頃では、余り考えられない感覚だが――。


「人間とは複雑なものですね」


泣き続ける魔法使いを横に溜息を吐きながら、人間に転生した我とてまだまだ未熟なのだと改めて思感じたとある日の午後の事であった。

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