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第三章 魔王様、中学時代をお過ごしになる

97 GW明けにあると言う1年生の軍隊行動イベント④

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 翌朝、気が付けば寝落ちしていて先生に起こされて目が覚めた。
 僧侶として不甲斐なし。
 とはいえ高熱も出ていたし熱も高かったので全員で乗り切れたという意味では凄いと思おう。


「どう、朝ご飯食べに来れそう? 無理な人には後でお握りとお茶配るけど」
「後で配って貰えると助かります。まだ腕を動かすのすら痛くて」
「俺もです」
「僕も」
「なら後でお握りとお茶用意するわね」
「「「ありがとう御座います」」」


 そう言うと先生は帰って行ったが、我たちは同時に溜息を吐いた。
 顔くらいは洗いたいが顔が痛い。
 流石に一夜明けたのでお互いの様子を見てみようという事になると――。


「うわ、皮捲れてる」
「酷い有様ですねこれ」
「いや~……マジ日差しって人殺せるんだな。水ぶくれスゲェや」
「自然に治した方が良いですよ。潰すと跡が残る」
「うう、幸い顔は皆皮がむける程度か……白い肌に痣なんて出来たら訴えてやる」
「でも、処置が早かった分痛みと熱の引きはありますね。もう一度付けているのを交換しておきます?」
「しておこう」
「緊急処置って大事なんだな。俺将来警察官か消防隊に入りたいって思ってるんだけど」
「アキラの夢は正義感溢れますね」
「小雪は看護師になりたいらしいぞ」
「ナース服……」
「やめろ、俺の彼女だぞ」
「まぁ、夫婦揃っていい組み合わせでは?」
「そ、そうかな?」


 そう言って照れるアキラ。
 まぁ、勇者が回復職に憧れているとは思わなかったが、アキラと一緒なら何でも乗り越えて行ってくれるだろう。


「祐一郎はやっぱ寺の跡継ぎだろう?」
「そうですね。父が居るので副住職でしょうか」
「恵はどうすんの?」
「僕、なりたい職業があるんだよね。やり方は色々調べないとだけど」
「何になりたいんです?」
「児童相談所の職員」


 思わぬ言葉に我とアキラが顔を上げると「なに?」と言われたので「意外ですね」と伝えると――。


「最近そう言うニュース多いじゃん。虐待だのなんだの」
「まぁ、親が親になり切ってないのに子供を産みますからね」
「そういうの見たり聞いたりすると腹が立つっていうか……むしゃくしゃする」
「恵、お前……いい奴なんだな」
「どう言う奴だと思ってたわけ?」
「いや、なんか尊敬したよ」
「本当はさ、理解ある女性と結婚なりなんなりして、子供の家、まぁ、一時的に子供を預かる施設っていうか、そう言うのをしたいって気持ちもあるんだけどさ。そう言う理解ある人っていないじゃん……」
「それが一番の夢だったんですね。そう言えば恵さんは子供の世話上手でしたもんね」
「だから、一番の夢は早く結婚して子供の家を作る事だけど、二番目が児童相談所の職員な訳。まぁ、ソロでやってくなら児童相談所だけどね。だから応急手当とかは覚えておきたいって訳よ」
「納得です」


 そう言って互いに身体を労わり合いつつ処置し合いつつ、顔がこれだと顔を洗う事も出来ないだろうという事で暫く我慢する事になった。
 無理に皮をむいて酷くするよりはマシだ。
 その後、おにぎりとお茶が運ばれてきて、食べ終わったら後は紙皿なので捨てていいらしい。
 そう言う配慮は有難い。
 教師にこういう配慮があれば違うんだが。


「明日には帰れますし、今日一日また喋りながら寝ながら過ごしますか」
「それが良い」
「丁度良く三人で良かったよな」
「言えてる」


 そう言ってお握りを食べ終わった後は横になって会話を楽しんだ。
 教師への愚痴だったり、昨夜0時の出来事だったり。
 結局尾崎がどうなったのかは知らないし興味もないが、酷い目には遭っているだろう。
 そう言えば母が口にしていたが、中学生のお子さんで妊娠させられてとか聞いたな。
 性への目覚めとは言うが、女性はそう言うリスクを考えると大変なのだから、安易にと言うのは如何なものか。
 そう言う複数人とのと言う性癖があるのなら仕方ないだろうが、学校のイベントでやるべきではない。

 その点魔法使いは元が女性と言う事もあって理解があるから安心出来るし、アキラに関しては初心だから問題はない。相手は我の妹であり勇者だ。
 下手な事はしまい。
 無論我にも愛しい彼女はいるが年の差がある。
 毎晩通話はしているが、中々会えないのは辛いな。
 とはいえ、お互い浮気をする気は無いので安心だが。


「昨日よりは痛みが引いたとは言え、やっぱ痛いな」
「マジクソ教師」
「死人が出るよりはマシでは? 出るかも知れませんが」
「出たら問題だよなぁ……」
「それに近い診断はされてる人は数名いるでしょう。何にしても学校側に危機管理が出来ていませんね」
「碌な中学じゃないよね。根性論とか今時の時代にあってねーっつーの。クソが教師止めろ」
「恵さん、落ち着きなさい。イライラしたところで治りは早くなりませんし」
「じゃあ祐一郎はあのクソ共許せる訳?」
「まさか、徹底して良い顔しながら苦しめてやりますよ。私がどこに住んでると思っているので? 寺ですよ?」
「「あぁ……」」
「どれだけの檀家さんに話しをしましょうか。困りましたねぇ?」


 そう伝えると二人は何かを察した様で静かになった。
 ある程度これで留飲は下がるだろう。
 それこそ「妹の代までそんな悪習があると思うとゾッとします。顔に痣など出来たら……」と我が悲しむ顔で話せばどれだけのおばさま方が動いてくれるだろうか。
 楽しみで仕方ない。
 それは尾ひれが付いたりムナビレが付足りして、何れ学校に電話……なんてこともあるかも知れないが、我は事実を言っているだけ。
 人がどう取るか等、解りはしないのだからな。


「なんか、ちょっと留飲下がったわ。俺も言おう」
「そうしましょう」
「お前らが一番敵に回しちゃいけない相手だったかもな」
「「ふふふ」」


 そう言いつつ、その日一日ゆっくりと三人で過ごし、翌日まだ痛みはあったものの、このクソのような閉鎖的施設からバスで帰宅し、我とアキラの姿を見た両親は悲鳴を上げ、勇者はボロボロ泣き、これが更に後日発展する事になるのは――計算通り、と言う奴だろうか。
 後はケルベロス達も動くだろう。実に楽しみだ。
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