異世界極楽マッサージ

桜羽根ねね

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巨人と人間のマッサージ店

1.召喚されて半年後

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 日常的に魔法が使われる異世界……スイートルビー大陸の王都トレスチェレスに巻き込まれ召喚されてから、半年が過ぎた。
 俺、月見里颯真は今、大陸の端っこに位置するガーシュという街に定住している。

 ──魔力ゼロ、運動音痴、容姿も平凡な俺は、必要最低限の路銀だけ持たされて早々に王都から摘まみだされてしまった。あまりにも身勝手すぎて最初こそ怒りが収まらなかったものの、怒りでこの先どうにかなるわけじゃない。
 嫌味ったらしい王族のような奴等も、神子様と崇められていた美少年のこともひとまず忘れて、とにかく手に職をつけることにした。

 近くの町で飛び込みのバイトをいくつかこなして資金を貯めて、住み込みで働けることになった食事処で更に貯金を増やし、最終的に辿り着いたのがガーシュだった。巻き込まれたとはいえ、言葉が通じたのが幸いだ。

 この街は治安がいいし、何よりご飯がすこぶる美味しい。これまで立ち寄ってきたところはどこも味付けが独特すぎて、口に合わなかった。
 それともう一つ、ここに連れてきてくれた彼の存在が大きい。比喩じゃなくて身体も大きな彼は、巨人族のヴィクター・レイボルト。食事処の常連で、こんな俺と仲良くなってくれた、見た目も中身もイケメンな人だ。何かと俺のことを気にかけてくれて、自分の仕事の従業員として雇ってくれた。

 マッサージ店『花楽からく
 名前だけ見ると花屋のようなマッサージ店が、今の俺の職場だ。


*****


「ソーマさん、今日もお疲れ様でした」
「お疲れ、ヴィクター」

 にっこりと微笑みかけてくるヴィクターは、俺より二つ年下だけど、身長は頭二つ分くらい大きい。2メートルは確実に越えてるんじゃないか……?昔の巨人族は5メートルや10メートルが当たり前だったそうだが、時代の流れと共に小さくなっていったらしい。いや、2メートルでも充分大きいけどな。

「なぁ、ヴィクター。お前は俺の雇い主なんだし、俺のことは呼び捨てで構わないんだが……」
「うーん……、僕はこの話し方が慣れてしまってるんです。……ソーマさんと呼ばれるのは嫌ですか?」
「嫌……じゃ、ないけど」

 元の世界だと、上司が部下のタメ口許すなんてことなかったからなぁ……。嫌というより違和感を覚えてしまう。

「悪い、困らせるつもりはなかったんだ。忘れてくれ」
「……はい、分かりました。……あ、そうだ、ソーマさん。新しいオイルを調合してみたんです。試してみませんか?」
「いいのか?……毎回、ただの従業員なのにお前のマッサージを無料で受けてるから、そろそろ何か払った方が……」
「いいんです!寧ろ、オイルの効果を確認出来るので、助かるといいますか……。あっ、ち、違うんです!決して実験のように思っているわけではなくて……!」

 大きな図体で慌てるヴィクターは、なんというか可愛らしい。俺より力も魔力も強いのに、庇護欲みたいなものが湧いてきてしまう。

「分かってる。……じゃあ、お願いしてもいいか?」
「っ、はい!」

 パァッ、と嬉しそうに微笑むヴィクターにどきりとする。……俺、ノンケのはずだったんだけどな。長い間一緒に居るからか、ヴィクターのことをそういう意味で意識してしまっている。
 こんな気持ち、きっとヴィクターには迷惑でしかないだろう。だからこの感情は隠し通して、俺は真面目な従業員の皮を被り続けるんだ。
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