いちゃらぶ話あつめました

桜羽根ねね

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大好きだった彼からセフレを切られたら、イケメンオーナーにドロドロになるまで甘やかされた話

中編

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「──じょう……、──大丈夫、ですか」

 どこかで聞いた声と、控えめなボディタッチで薄らいでいた意識が戻ってくる。ぶるりと震える身体。さっきより寒いと思ったら、日が暮れた上に雪が降っているみたいだ。現実逃避したい脳は、目の前の人間を無視してちらつく雪にピントを合わせた。まあ、その程度のことで逃げるなんて出来ないわけだけど。

「寝ているのを起こすのも……と思ったんですけど、冷えてきて危ないので。気分はどうですか?」
「……」
「あの……?」
「あ……、い、え、だいじょうぶ、です」
「そ、それならよかったです。すみません、余計な真似をして」

 ほっとしたように微笑むのは、あの、冴えない小さな男。近くで見ると、赤くなった鼻の頭にそばかすが散っているのが分かる。見ず知らずの俺みたいな怪しい奴に声をかけるようなお人好し。冷え切った身体も口もなかなか思い通りに動かなくて、……だけど、彼の隣にいる存在は強く感じることが出来た。

 レイ。

 心配そうにしていた男とは違って、心底不快そうに俺を見てくる彼は、はりぼての変装なんて見抜いてしまってるんだろう。

「アキ。もうそいつに関わるな」
「え、でも。レイくんの知り合いじゃないの?さっき、びっくりした顔してたから」
「あー、正直に話すけどよ、セフレ全員切ったって言ったろ。……その中の一人だよ」
「え。そ……、そうなんだ」
「遊んでたオレも悪いが、こいつとの間に恋愛感情なんて一切なかったから。そんな顔しないでくれ、アキ」
「んっ、わ、レイくん、ここ町中だから……っ」

 ああ、なるほど。

 ただの元セフレはだしにされるってわけだ。レイを返せと滑稽に叫んだら、きっと二人の恋を進めるスパイスになるんだろう。レイにとって俺はもう、過去の人間だから。

 俺の気持ちがなかったことにされてるのは、伝えなかった俺のせい。そもそも、セフレに本気になってしまった俺が駄目だったんだ。悪いのは、全部俺。

 だからもう、これ以上、この場にいられない。冷えきった身体にようやく血が巡る。ふらりと立ち上がれば、何故か視界が潤んだ。嘘だろ、こんな所で、レイの前で、みじめに泣きたくなんて……っ。

「──ごめん、カゲくん。寒い中待たせちゃったね」

 横から強く、腕を引かれた。
 そのまま抱き締められて、顔があったかいマフラーに埋まってしまう。

「へ、え、っ……?」
「じゃあ行こうか」
「……っ!」

 顔を見なくても、声で分かる。いつもみたいな喋り方じゃなくても、ワカさんのハスキーで優しい声は、俺の心に染み渡るんだ。


*****


「ワ、ワカさん、ここ、なんで、ラブホ……っ」
「近くにあったからよ。とにかく、その冷えきった身体を温めなさい?なんなら、私が一緒に温めてあげてもいいけど」
「ひっ、一人で、入りますっ」
「あらそう?残念」

 いつもの口調に戻ったワカさんを直視出来ないまま、逃げるようにバスルームに転がり込んだ。

「(私服のワカさん、初めて見たけどかっこいい……。今日は定休日だったっけ?それに、あんなにタイミングよく現れるなんて……、偶然なのかな)」

 俺のことを心配して、見守ってくれていたんじゃ……なんて、流石に図々しい考えか。ワカさんがよくお客さんから口説かれるのを見ているくらいには、彼はかなりモテる。わざわざ俺のために時間を消費するなんてことしないだろう。彼氏か彼女がいてもおかしくないけど……、そういえばそういう話はしてこなかったな。

 レイと恋人のことより、ワカさんのことを考えてしまう。そっちの方が、心が落ち着くし……悲しい気持ちにならないから。過程がどうあれ、場所がどうあれ、俺のことを気遣ってくれているのは事実だ。

「(……何か、お礼しないとな)」

 そうして暫く熱いシャワーを浴びた後、裸の上にバスローブを羽織った。もしかするとワカさんはもう帰ってるかも……、という予想とは裏腹に、彼はベッドに腰かけていた。ばちりと視線が合う。

「……着替え、用意してたはずなんだけど?」
「えっ?……あっ」

 いつもラブホでヤる時、どうせ脱がされるからとバスローブだけ着る習慣がついてしまってた。最近ご無沙汰だったのに、こういう癖は抜けないのかと恥ずかしくなる。

 どうしようと戸惑っている内に、ワカさんがゆっくりと距離を詰めてきた。いつもはカウンターの幅で隔てられている距離が、どんどんなくなっていく。

「ワ、ワカさ」
「カゲくん。ずるいことをしてもいいかしら」
「え」

 見下ろされて、くいっと顎を掬われる。チョコレートみたいな瞳に見つめられて、あったまった身体が更に熱くなったような気がした。

「傷心中のカゲくんに付け込むの。あなたのことが大好きな……私に惚れなさい、って」

 一週間前にも言われた言葉。だけど、あの時と違ってその声音は真剣そのもので。近付いてくる彼を止めることが、出来なかった。

 あと少しで唇が触れる……というところで、ワカさんはピタリと止まった。互いの吐息が伝わって、むず痒くなって、ドキドキと高鳴る心臓が自分から詰めてしまえと叫んでくる。

「どうして逃げないの?キス、本当にしちゃうわよ?……あの男じゃないのよ、私」
「あ……」

 ずるいことをする、惚れなさい、なんて言ったのに。優しいワカさんは、俺のことを尊重してくれる。
 だったら俺も、ちゃんと答えないと。

「キ、キス……、レイとは、したことない、から」
「え?」
「セフレだから、穴使われて、それで終わりで……。だ、だから、キスも、愛撫も、ぜんぜ──、んっっ!」

 ほのかに柚子の香りがする、柔らかい感触。
 ──俺、ワカさんと、キスしてる。全然嫌じゃないし、寧ろ……嬉しい。

「ワ、ワカ、さん……っ」
「……名前、呼ばなくてもいいのよ?目を瞑って、愛しい人のことを考えなさい」
「や、ぁむ……っ♡」

 促されるままに目を閉じたけど、瞼の裏に浮かぶのはレイじゃなくてワカさんだ。ちゅ、ちゅ、と控えめなキスを繰り返しながら頭や耳朶を擽るように撫でてくる、ワカさん。こんな、甘やかされるような触れ合いは初めてで、全身がきゅんきゅん疼いて堪らない。挿れられて出されて終わりだったセックスと、まるで違う。繋がってないのに、心が、繋がってるみたいで……。

「んっ♡ふ、ぅ……♡ワ、ワカさん、俺も、ずるいこと、言っていい……?」
「……なにかしら、カゲくん」

 こんなの、尻軽って言われてもおかしくない。……だけど。

「ワカさんに、上書きされたい……。お、俺のこと、好きにして……?」

 俺の心臓は、痛いくらいにワカさんを求めてた。



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