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約束の彼女
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翌日。
いつもなら学校に行くために起きるということが面倒くさいのに不思議と今日に限ってそう思うことはなかった。時間はまだ六時半。いつもより一時間早い起床だ。
これも恋の仕業なのだろうか。
顔を洗い、歯を磨き、いつもなら時間がなくて手が回らない寝癖に手をつける。
制服に着替え、ふとスマホの画面を見ると十件の通知が来ていた。
予想通り、海斗から話を聞いた人たちが記者のごとく直接本人に聞き込みにした来たようだ。適当に返信していくと、一人、見知らぬアカウントが自分をフォローしていることに気づく。誰だろう、とそのアカウントのトーク画面を開いて見る。
見慣れたトーク画面。
そこには一件だけメッセージが受信されていた。
“瀬田愛花です。夜遅くにごめんなさい。前里誠くんだよね?フォローしました。よろしく!”
教室から、いつも通り賑わう声が聞こえる。
この時間はまだ瀬田さんは来ていないはずだ。
「皆、おはよう」
そう教室に踏み入った途端、時が止まったかのようにシーンとクラスが静まった。
海斗から何もいうなと言われている効果がはっきり出ているが、出すぎて逆に異様な空気になってしまっている。
海斗本人はまだ来ていないらしく、皆反応に困ってしまっているようだ。気にせず席に着こうと一歩足を進めようとした、その時ーー
「おはよう、前里君」
背後から聞こえたその声。聞いたのは授業中と、あの告白の時だけ。どきっと胸が高鳴る。その声を聞いた誰もがざわめいた。
「せ…瀬田さん!?」
彼女がクラスメイトに挨拶をしたところなんて誰も見たことがない。周りを一切気にせず、瀬田さんは席へ向かって行く。
「あ…えっと、その」
急なことに声が出ない。僕が考えた計画が一気に崩れた瞬間だった。あのトークのころから話を始め、趣味とかを聞くプランが彼女の一つの行動で一気に吹き飛んでしまった。
「誠」
ちょいちょいと鈴木が肘で突っついてくる。
「ほら、朝の挨拶行かないと、せっかく開いた口が閉じちゃうよ」
「わ、わかってる」
急いで荷物を自席に置き、瀬田さんの元へ向かった。
頭の中は真っ白だ。ごちゃごちゃになった頭はすぐに戻ってくれそうにはない。
窓側の一番後ろの隣がいない席。誰とも話さない彼女は席変えの時は必ず一番後ろのこの席となっていた。
「せ、瀬田さん!」
焦って話しかける僕に瀬田さんはニコリと微笑んだ。
「どうしたの?」
嗚呼、焦ってる自分が馬鹿みたいだ。
「い、いや、その…おはよう」
馬鹿が僕は。ラグが激しすぎるだろ。
「おはよう」
そんな僕の時差にも関わらず、瀬田さんはニコニコと笑って返してくれる。
「あー、えっと、そう!フォロー!してくれたよね?ありがとう!」
「私、前から前里君のこと、フォローしよう!って思ってたんだけど、勇気が出なくって。でも、前里くんが…その」
彼女の口がはっきり動く。
「告白…してくれて、彼氏彼女の関係になったから…私も頑張らなきゃって思って…」
「瀬田さん…!」
クラスで見せていた無表情の下には、僕とコンタクトを取りたくとも取れないなんてことがあったなんて、ギャップがすごすぎる。
素直に言おう。
可愛い。
「あの…今朝気づいたから、ちょっと返事が遅くなっちゃって…ごめん」
「私こそ、夜遅くにごめんね…!」
しまった。彼女を困らせてしまった。話題を変えなければ…話題…話題…
ふと、彼女の手元に一冊の本が置かれているのに気づいた。大きさ的に文庫本だろう。カバーがしてあるため、なんの本かはわからない。
「それ、なんの本?」
「え?これ?」
瀬田さんは本を手に持つと、表紙をめくった。
“セブン・クラウン・アーティスト”
「これって確か、映画になってるやつだよね?」
「うん!川宮アマネの人気作で、今映画でやってるのは上の方。下はまだ執筆中らしくて、まだ本にはなってないよ。この本はその上巻」
川宮アマネ…確かネットか何かの大会で大賞を受賞して、今書いている小説がヒットしたとか。テレビの広告や番組で騒がれているのは知っていたが、まさか彼女も川宮アマネのファンだったとは…。
待て、これはチャンスではないだろうか。
僕は思い切って彼女に聞いた。
「あの!もしかしてその映画って、もう見ちゃってたりする?」
「まだだよ。なんで?」
よし、落ち着け自分。ここまでよく頑張った、あと一押しだ。このチャンスを逃してたまるか…!
「よかったら…その映画、瀬田さんと観に行きたいなーなんて…」
「本当!?」
ガタッと立ち上がり、僕の手を取ってキラキラとした目をこちらへ向けた。と、同時にクラス中の視線が一斉に向けられるのがわかった。
しかし、そんなことを気にする暇が無いほど、僕の胸は高鳴っていた。
手を通して彼女の冬場で冷えたのであろう、冷え切った体温が伝ってきた。
「う、うん。前からあの映画気になってたのもあるし…その、瀬田さんと一緒に観に行きたいなって」
彼女の手とは正反対に顔が熱くなっていく。緊張や不安で心臓が更にうるさいほどに鳴り、口から飛びそうだ。
断られたらどうしよう。
そんなマイナスな考えさえ出てこなかった。どこか心の中で確信していた。彼女はこの誘いに乗ってくると。不思議と僕の心は自信で満ち溢れていた。
「それなら、一緒に観に行こうよ!空いてる日とか教えてくれなーー」
‘キーンコーンカーンコーン…’
間が悪いことに、朝のHRが始まることを告げるチャイムが鳴った。
これ程チャイムが憎らしいと思ったことがあっただろうか。
ガラガラと音を立てて先生と同時に海斗が教室に入ってくるのがわかった。どうやらまた遅刻ギリギリできたようだ。
瀬田さんは興奮で微かに赤くなった頰を残しつつ、焦ったように言った。
「あ…ごめん。また後で話そう!」
「う、うん!」
‘また後でーー’
次が約束されたこと、そして一緒に映画を観にいくことになったことに、僕は喜びを感じると同時に拒絶されなかったことに安堵を感じていた。
いつもなら学校に行くために起きるということが面倒くさいのに不思議と今日に限ってそう思うことはなかった。時間はまだ六時半。いつもより一時間早い起床だ。
これも恋の仕業なのだろうか。
顔を洗い、歯を磨き、いつもなら時間がなくて手が回らない寝癖に手をつける。
制服に着替え、ふとスマホの画面を見ると十件の通知が来ていた。
予想通り、海斗から話を聞いた人たちが記者のごとく直接本人に聞き込みにした来たようだ。適当に返信していくと、一人、見知らぬアカウントが自分をフォローしていることに気づく。誰だろう、とそのアカウントのトーク画面を開いて見る。
見慣れたトーク画面。
そこには一件だけメッセージが受信されていた。
“瀬田愛花です。夜遅くにごめんなさい。前里誠くんだよね?フォローしました。よろしく!”
教室から、いつも通り賑わう声が聞こえる。
この時間はまだ瀬田さんは来ていないはずだ。
「皆、おはよう」
そう教室に踏み入った途端、時が止まったかのようにシーンとクラスが静まった。
海斗から何もいうなと言われている効果がはっきり出ているが、出すぎて逆に異様な空気になってしまっている。
海斗本人はまだ来ていないらしく、皆反応に困ってしまっているようだ。気にせず席に着こうと一歩足を進めようとした、その時ーー
「おはよう、前里君」
背後から聞こえたその声。聞いたのは授業中と、あの告白の時だけ。どきっと胸が高鳴る。その声を聞いた誰もがざわめいた。
「せ…瀬田さん!?」
彼女がクラスメイトに挨拶をしたところなんて誰も見たことがない。周りを一切気にせず、瀬田さんは席へ向かって行く。
「あ…えっと、その」
急なことに声が出ない。僕が考えた計画が一気に崩れた瞬間だった。あのトークのころから話を始め、趣味とかを聞くプランが彼女の一つの行動で一気に吹き飛んでしまった。
「誠」
ちょいちょいと鈴木が肘で突っついてくる。
「ほら、朝の挨拶行かないと、せっかく開いた口が閉じちゃうよ」
「わ、わかってる」
急いで荷物を自席に置き、瀬田さんの元へ向かった。
頭の中は真っ白だ。ごちゃごちゃになった頭はすぐに戻ってくれそうにはない。
窓側の一番後ろの隣がいない席。誰とも話さない彼女は席変えの時は必ず一番後ろのこの席となっていた。
「せ、瀬田さん!」
焦って話しかける僕に瀬田さんはニコリと微笑んだ。
「どうしたの?」
嗚呼、焦ってる自分が馬鹿みたいだ。
「い、いや、その…おはよう」
馬鹿が僕は。ラグが激しすぎるだろ。
「おはよう」
そんな僕の時差にも関わらず、瀬田さんはニコニコと笑って返してくれる。
「あー、えっと、そう!フォロー!してくれたよね?ありがとう!」
「私、前から前里君のこと、フォローしよう!って思ってたんだけど、勇気が出なくって。でも、前里くんが…その」
彼女の口がはっきり動く。
「告白…してくれて、彼氏彼女の関係になったから…私も頑張らなきゃって思って…」
「瀬田さん…!」
クラスで見せていた無表情の下には、僕とコンタクトを取りたくとも取れないなんてことがあったなんて、ギャップがすごすぎる。
素直に言おう。
可愛い。
「あの…今朝気づいたから、ちょっと返事が遅くなっちゃって…ごめん」
「私こそ、夜遅くにごめんね…!」
しまった。彼女を困らせてしまった。話題を変えなければ…話題…話題…
ふと、彼女の手元に一冊の本が置かれているのに気づいた。大きさ的に文庫本だろう。カバーがしてあるため、なんの本かはわからない。
「それ、なんの本?」
「え?これ?」
瀬田さんは本を手に持つと、表紙をめくった。
“セブン・クラウン・アーティスト”
「これって確か、映画になってるやつだよね?」
「うん!川宮アマネの人気作で、今映画でやってるのは上の方。下はまだ執筆中らしくて、まだ本にはなってないよ。この本はその上巻」
川宮アマネ…確かネットか何かの大会で大賞を受賞して、今書いている小説がヒットしたとか。テレビの広告や番組で騒がれているのは知っていたが、まさか彼女も川宮アマネのファンだったとは…。
待て、これはチャンスではないだろうか。
僕は思い切って彼女に聞いた。
「あの!もしかしてその映画って、もう見ちゃってたりする?」
「まだだよ。なんで?」
よし、落ち着け自分。ここまでよく頑張った、あと一押しだ。このチャンスを逃してたまるか…!
「よかったら…その映画、瀬田さんと観に行きたいなーなんて…」
「本当!?」
ガタッと立ち上がり、僕の手を取ってキラキラとした目をこちらへ向けた。と、同時にクラス中の視線が一斉に向けられるのがわかった。
しかし、そんなことを気にする暇が無いほど、僕の胸は高鳴っていた。
手を通して彼女の冬場で冷えたのであろう、冷え切った体温が伝ってきた。
「う、うん。前からあの映画気になってたのもあるし…その、瀬田さんと一緒に観に行きたいなって」
彼女の手とは正反対に顔が熱くなっていく。緊張や不安で心臓が更にうるさいほどに鳴り、口から飛びそうだ。
断られたらどうしよう。
そんなマイナスな考えさえ出てこなかった。どこか心の中で確信していた。彼女はこの誘いに乗ってくると。不思議と僕の心は自信で満ち溢れていた。
「それなら、一緒に観に行こうよ!空いてる日とか教えてくれなーー」
‘キーンコーンカーンコーン…’
間が悪いことに、朝のHRが始まることを告げるチャイムが鳴った。
これ程チャイムが憎らしいと思ったことがあっただろうか。
ガラガラと音を立てて先生と同時に海斗が教室に入ってくるのがわかった。どうやらまた遅刻ギリギリできたようだ。
瀬田さんは興奮で微かに赤くなった頰を残しつつ、焦ったように言った。
「あ…ごめん。また後で話そう!」
「う、うん!」
‘また後でーー’
次が約束されたこと、そして一緒に映画を観にいくことになったことに、僕は喜びを感じると同時に拒絶されなかったことに安堵を感じていた。
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