ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第二章

vs.恋人.Ⅱ

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「その矢はもう見切ってる!」
 菜奈花に襲い来る一筋の閃光は、けれど体を横に倒すように姿勢を落とすと、ただ空を横切った。閃光を目で追ったか、或いは未来を見ているように、しかしそれはアルカナの力なのだと菜奈花に直接訴えるように、回避と言う言葉すらも当てはまらない。
 攻撃は最大の防御、と言う言葉があるが、それが単一で、挙句躱された後の次弾が無ければ成り立たない。
 であれば既に展開しきった数多の魔法陣が、次々と各々の姿を形成し、それらの視線は『恋愛』を捉えて離さない。つくり描かれたものは、以前『魔術師マジシャン』が描き出したような精巧な物にあらず、何れも似たり寄ったりな鋭利な針。茶褐色に錆つき、欠けたり、湾曲したり――それでいて物差し程には大きい。その何れもが鋭利ながら、素人の描き出した幻想である。
 けれどそれを気にするでもなく――否、そもそも視線の先は『恋愛ラヴァーズ』であり、それらは映りこそすれど、けれど見えない――そうしてそのおぼろげな幻想を、彼目掛けて打ち放った。
「いっけええええええええ!」
 見た目こそ危ういものの、それらは閃光にも迫る勢いで、水面の上を滑り始める。
「菜奈花!ダメ!」
 けれどルニの今更の静止は、もはや菜奈花にはどうすることもできない。手放した幻想は、既に菜奈花のものでは無いのだから。
 そうして幻想を手放してから、菜奈花は気づいた。
(あれ……)
 気がついたのは、違和感の正体。
 それは、アルカナの現れる時のそれではなく、何か大事な事を見落としていると言う事実への違和感。
 即ち――、
「ルニ、あれの効果って何!」
 けれど声は手放された事への怒り――即ち、猛々しく襲い行くそれらによって、かき消されて届かない。
 菜奈花の頬を、僅かな汗が伝った。こみ上げる思いは――焦りか、不安か。
 けれど手放された幻想はそんな思いを他所に、照準を振らす事なく突き進む。
 見れば、『恋愛』は口元を歪めた様な――そんな風に見て取れた。無論、距離が距離な上、視界は幻想で覆われており、ならばそれこそが真の幻なのかもしれない。けれど確かに、菜奈花にはそう見えた。
 事実、『恋愛』は特に何か行動を起こすでもなく、剰えにはその両の腕を、まるで幻想を抱きしめるかのように、開いた。
 淡い勝利の幻想を抱いた菜奈花に、しかし彼はハグを持って受け止めようと――否、受け入れようとしている。それは文字通り、幻想なのだと、分からせるかのように。
「「ヒィィン!」」
 けれど、それが『恋愛』に届くことはなかった。
 聞こえてきたのは、甲高い馬の鳴き声、それが二つ。
 それが眼前に現れ、全ての幻想を叩き落としてみせた。
「何!」 
 咄嗟によぎる思考は、二枚目の可能性。
 ――けれど、そんな気配は感じない。
 否、あれは明らかに気配ではある――が、同時に別の力を感じずにはいられない。
 即ち、火の力の気配。
「これは……まさか」
 ルニは、気がついたらしかった。
「『恋愛』の効果はダメージのフィードバック……」
 男性が、背後から声を投げかけて寄越した。
 ――菜奈花が、よく聴き慣れた、声変わりを終えた、少し低い程度の、けれど芯のある声が。
迂闊うかつに攻撃し、ダメージを入れれば、攻撃者に与えたダメージがそっくりそのまま返ってくる」
「どうして――」
「そうだったな、サラマンダー」
 菜奈花は振り返ろうとはしない。
「ええ、その通りでございます、弘様」
 聞きなれない野太い声が、そのよく聴き慣れた声の主に、返事を返してみせた。
 弘――その名前は、菜奈花もよく知っている。
「第三オーナー……」
 ルニの呟きは、虚空へと溶けて消えた。
「第三……オーナー……?」
 繰り返す菜奈花は、けれど振り返りはしない。
 視界は未だ『恋愛』を映して離さないが、けれどその視線の先は彼には注がれて居らず、焦点を失っていた。
「初めまして、第一オーナー」
「――第三オーナーが、何の用?」
 口を開けずにいる菜奈花の代わりに、これでもかという程の間を負けて、ルニが答えた。
「助けてくれた事には感謝するよ」とルニ、「けどあれは第一オーナーのもの。譲るつもりは無いね」
「あぁ、それで構わない」
 返ってきた答えは、ルニの予想とは異なっていた。
「何が目的?」
 訝しむルニに、けれど弘は無言だけを返す。
「この戦いのルールを、第三オーナーたる貴方はどこまで理解している?」
「大凡」
 今度は間髪入れずに返してきた。
「ルールを犯すつもり?」
「ならば何故アルカナを使った?」
 何の話をしているか理解できない菜奈花は、けれど未だ『恋愛』の方から目線を離さずにいた。
 そもそも会話は、耳に留まっていない。
「そう……」
 けれども二人の会話を他所に、『恋愛』は菜奈花を貫こうと、矢を放った。
「『戦車チャリオット』!」
 けれどしっかり動向を観察していたらしかった弘はそう叫ぶと、菜奈花の眼前に、その姿は再度現れた。
「「ヒィィィン!」」
 白と黒の二頭の馬を生やした、車輪付きの台座。『戦車』と呼ばれたそれは、その台座で矢を受けると、甲高い叫びを上げ、そうしてその横付けの姿勢のまま、二頭の馬は『恋愛』を睨みつけていた。
「けれど目的も知らずに、信用するわけにはいかない」
「それはそうだ」
 ルニも、弘も、あくまで冷静そのものであった。
「なら教えて欲しいね」とルニ、「第三オーナー、貴方のしようとしてる事は……はっきり言って皆目検討もつかない」
「だから信用できない、か」
「アルカナの横取りはしない、けれど菜奈花は助けた」とルニ、「儀式の妨害をしたい訳でもなく、ならば何かたくらみがある。そう考えるのが妥当だと、そう言っているの」
「別に信用を得たい訳でもない」と弘、「それに、これは俺の企みではない」
 そう言い放つと、弘はそれ以上の会話を拒むように、歩き始めた。
「今するべきは探り合いでは無く、目の前のアレを封じ込める事。違うか?」
 ルニは、ただ黙って菜奈花の横に転移して見せた。
「――いけ好かない」
 けれどルニの呟きは、菜奈花の耳にも届かなかった。
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