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第二章
vs.恋人.Ⅲ
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けれど菜奈花は立ちつくすばかりであった。
二人の会話は耳にこそ入れど、しかし意味を成さない。繰り返される思考は何故彼が、という意味の成さない疑問。
「菜奈花、やるよ!」
ルニの声も、やはりとどまらない。
「なんで……?」
答えの代わりに出たのは、思考の断片。
「選ばれたのは偶然。そこに意味なんてものは、きっと存在しない」と弘、「ならば俺たちがやるのはただ一つでいい」
「一つ……」
菜奈花は、ただ繰り返した。
「そうだ、一つ。つまり、あれをどうにかするというその一点、ただそれだけだ」
紅葉弘がオーナーに選ばれたことは、きっとただの偶然。
そんな事は、菜奈花もそうとしか考えられず、ならばもはやそれ以上の思慮の余地はないはずだった。
何より、オーナー同士での対立があるわけでもなく、こうして共闘できるなど、願ってもいないことではないか、と。
ならば菜奈花にできることは、雑念を首を左右に振って振り払い、『恋人』を睨みつけ、構える事のほかにない。
「……よし、いけるね、菜奈花」
「当然!」
ルニと短いやり取りを交わすなり、菜奈花は駆け出していた。
「もう一度確認するぞ」と弘、「あれに攻撃すれば、あれが受けたダメージは攻撃者にフィードバックされる」
「わかってる」と菜奈花、「だから私は……こうするの!」
依然として『魔術師』のアルカナの力を憑依させ、その奇抜な衣装に身を包む菜奈花は、水際を沿るように走りながら、いくつかの魔法陣を宙に描き出して行く。
それはかつて見た幻の幻想であり、けれどその幻想は、神秘を捉えんと唸りを上げる。
――即ち、鎖。
三つの錆びた、けれど男性の腕程もある太さのそれが、駆け抜けた菜奈花の背後に、宙に置き去りにされた魔法陣から、勢いよく飛び出していった。
「鎖……!」
「『魔術師』の力は、術者の魔力に応じた創造でございます」
驚いたように目を見張る弘に、サラマンダーが冷静に解説を入れる。
「先ほどは錆びた、形も不揃いな刃でした。けれど数は多かった」とサラマンダー、「そして今度はやっぱり錆びた鎖、けれど太く、そして整っている」
「何が言いたい?」
弘が問いただすと、サラマンダーは一瞬沈黙を描いてみせた。
けれど直ぐに、また口を開いた。
「――彼女には、素質がある、という事です」
「素質――」
弘がそう呟いた時、甲高い金属音が響いた。
見れば、二つのうち一つが矢で射抜かれ、砕かれている様であった。
さらに、先程まで一点にて佇んでいた『恋愛』が、水上をスケートリンクでも滑るように、優雅に、けれどそれなりの速さで動き出していた。
そのまま暫く事の成り行きを見守れば、また一本、また一本と鎖は射抜かれ、やがて射出元であった魔法陣ごと消滅し、鎖は虚空へと姿を消した。
「そんな……」
「菜奈花の力じゃ、鎖で縛るのは無理みたいね」
走りながら落胆する菜奈花の、肩の上あたりで併走するルニが冷静に分析してみせた。
「なら数を増やせば……!」
「どうしてそうなるわけ?」とルニ、「数を増やしたらもっと質が落ちて砕かれるだけ」
「けど……!」
「それに、増やしすぎて対処されなくても、きっと脆すぎて縛ることすら不可能」とルニ、「やるなら別の手段か、或いは――」
と、菜奈花はその場で、静止し、再び水上スケートを楽しむ『恋愛』に向けて、魔法陣を展開してみせた。
「これで、どう!」
再び形成されたそれは、唸りを上げて一直線に『恋愛』を目掛けて突き進む。
それは、再びの鎖。けれど今度は一つだけ、それも女性の腕ほどまでに細く、一見すれば弱々しいの一言である。
けれどその鎖はくすんだ鉛色であり、所々に茶褐色の酸化が見られる、というものである。
その様子を見て、サラマンダーは確信したように、頷いた。
「やはり、素質が有る」
「何の」
弘が短く問うと、サラマンダーも短く、簡素に言い放った。
「――魔術の、です」
鎖は確か先ほどよりも精巧であり、先程は小判型であった鎖が、二重構造――ダブルケーブルチェーンの構造を成していた。
細く、勢いもあるそれは、矢を既で躱し、命中してもけれど一撃で砕ける事はなく、ただ一直線に対象へとうねりだす。
しかし菜奈花もただ防寒しているにあらず、また別の一枚のカードを眼前へと突き出していた。
「『ソード』の『キング』!」
それはかつて『魔術師』の時に使って見せたもの。
即ち、巨大な風の鷲を呼び出す小アルカナ。
「行くよ、ルニ!」
「りょーかい」
魔法陣を置き去りに巨大鷲の上に雑に飛び乗ると、ルニもまた同じ位置をキープしながら、ついてくる。
そうして菜奈花が意思を通じて命令を下せば、まもなくして程々の速度で水面を滑空し始める。
「そういえばさ、ルニ」
ふと、菜奈花がなにかを思い出したらしい。
「なぁに、菜奈花」
キョトンとするルニに、菜奈花は視線だけは『恋人』を捉えながら、けれどけっして現実を見たくないかのように、顔をルニから背ける。
「『魔術師』の力って、ものを創ること、だよね?」
「えぇ、それがなにか?」
「作った後って、コントロールとか……」
ルニも、そこまで言われてようやく気がついた。
勿体ぶるように暫く無言をつくり描くと、ルニは、ゆっくりと口を開いた。
「――無理だね」
ルニの言葉は、勿体ぶったくせに、やけにさらっとしており、どこか他人事のようであった。
――途端、菜奈花の手の甲に、何かに叩かれたような痛みが襲いかかった。
二人の会話は耳にこそ入れど、しかし意味を成さない。繰り返される思考は何故彼が、という意味の成さない疑問。
「菜奈花、やるよ!」
ルニの声も、やはりとどまらない。
「なんで……?」
答えの代わりに出たのは、思考の断片。
「選ばれたのは偶然。そこに意味なんてものは、きっと存在しない」と弘、「ならば俺たちがやるのはただ一つでいい」
「一つ……」
菜奈花は、ただ繰り返した。
「そうだ、一つ。つまり、あれをどうにかするというその一点、ただそれだけだ」
紅葉弘がオーナーに選ばれたことは、きっとただの偶然。
そんな事は、菜奈花もそうとしか考えられず、ならばもはやそれ以上の思慮の余地はないはずだった。
何より、オーナー同士での対立があるわけでもなく、こうして共闘できるなど、願ってもいないことではないか、と。
ならば菜奈花にできることは、雑念を首を左右に振って振り払い、『恋人』を睨みつけ、構える事のほかにない。
「……よし、いけるね、菜奈花」
「当然!」
ルニと短いやり取りを交わすなり、菜奈花は駆け出していた。
「もう一度確認するぞ」と弘、「あれに攻撃すれば、あれが受けたダメージは攻撃者にフィードバックされる」
「わかってる」と菜奈花、「だから私は……こうするの!」
依然として『魔術師』のアルカナの力を憑依させ、その奇抜な衣装に身を包む菜奈花は、水際を沿るように走りながら、いくつかの魔法陣を宙に描き出して行く。
それはかつて見た幻の幻想であり、けれどその幻想は、神秘を捉えんと唸りを上げる。
――即ち、鎖。
三つの錆びた、けれど男性の腕程もある太さのそれが、駆け抜けた菜奈花の背後に、宙に置き去りにされた魔法陣から、勢いよく飛び出していった。
「鎖……!」
「『魔術師』の力は、術者の魔力に応じた創造でございます」
驚いたように目を見張る弘に、サラマンダーが冷静に解説を入れる。
「先ほどは錆びた、形も不揃いな刃でした。けれど数は多かった」とサラマンダー、「そして今度はやっぱり錆びた鎖、けれど太く、そして整っている」
「何が言いたい?」
弘が問いただすと、サラマンダーは一瞬沈黙を描いてみせた。
けれど直ぐに、また口を開いた。
「――彼女には、素質がある、という事です」
「素質――」
弘がそう呟いた時、甲高い金属音が響いた。
見れば、二つのうち一つが矢で射抜かれ、砕かれている様であった。
さらに、先程まで一点にて佇んでいた『恋愛』が、水上をスケートリンクでも滑るように、優雅に、けれどそれなりの速さで動き出していた。
そのまま暫く事の成り行きを見守れば、また一本、また一本と鎖は射抜かれ、やがて射出元であった魔法陣ごと消滅し、鎖は虚空へと姿を消した。
「そんな……」
「菜奈花の力じゃ、鎖で縛るのは無理みたいね」
走りながら落胆する菜奈花の、肩の上あたりで併走するルニが冷静に分析してみせた。
「なら数を増やせば……!」
「どうしてそうなるわけ?」とルニ、「数を増やしたらもっと質が落ちて砕かれるだけ」
「けど……!」
「それに、増やしすぎて対処されなくても、きっと脆すぎて縛ることすら不可能」とルニ、「やるなら別の手段か、或いは――」
と、菜奈花はその場で、静止し、再び水上スケートを楽しむ『恋愛』に向けて、魔法陣を展開してみせた。
「これで、どう!」
再び形成されたそれは、唸りを上げて一直線に『恋愛』を目掛けて突き進む。
それは、再びの鎖。けれど今度は一つだけ、それも女性の腕ほどまでに細く、一見すれば弱々しいの一言である。
けれどその鎖はくすんだ鉛色であり、所々に茶褐色の酸化が見られる、というものである。
その様子を見て、サラマンダーは確信したように、頷いた。
「やはり、素質が有る」
「何の」
弘が短く問うと、サラマンダーも短く、簡素に言い放った。
「――魔術の、です」
鎖は確か先ほどよりも精巧であり、先程は小判型であった鎖が、二重構造――ダブルケーブルチェーンの構造を成していた。
細く、勢いもあるそれは、矢を既で躱し、命中してもけれど一撃で砕ける事はなく、ただ一直線に対象へとうねりだす。
しかし菜奈花もただ防寒しているにあらず、また別の一枚のカードを眼前へと突き出していた。
「『ソード』の『キング』!」
それはかつて『魔術師』の時に使って見せたもの。
即ち、巨大な風の鷲を呼び出す小アルカナ。
「行くよ、ルニ!」
「りょーかい」
魔法陣を置き去りに巨大鷲の上に雑に飛び乗ると、ルニもまた同じ位置をキープしながら、ついてくる。
そうして菜奈花が意思を通じて命令を下せば、まもなくして程々の速度で水面を滑空し始める。
「そういえばさ、ルニ」
ふと、菜奈花がなにかを思い出したらしい。
「なぁに、菜奈花」
キョトンとするルニに、菜奈花は視線だけは『恋人』を捉えながら、けれどけっして現実を見たくないかのように、顔をルニから背ける。
「『魔術師』の力って、ものを創ること、だよね?」
「えぇ、それがなにか?」
「作った後って、コントロールとか……」
ルニも、そこまで言われてようやく気がついた。
勿体ぶるように暫く無言をつくり描くと、ルニは、ゆっくりと口を開いた。
「――無理だね」
ルニの言葉は、勿体ぶったくせに、やけにさらっとしており、どこか他人事のようであった。
――途端、菜奈花の手の甲に、何かに叩かれたような痛みが襲いかかった。
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