ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

文字の大きさ
50 / 70
第二章

vs.恋人.Ⅳ

しおりを挟む
 何が起こったのかは、すぐに理解できた。
 要するに、偏斜へんしゃ的軌道を描いて見せた鎖、それが『恋愛ラヴァーズ』が躱しきれずに手の甲に命中した、ということである。
「いったああああ!」
 菜奈花は思わず叫びを上げ、その左の手をブンブンと何度も、勢いよく払った。
「大丈夫?」
 ルニが他人事のように心配を装う。
「そういう事は早く言ってよ!」
 見れば、その手の甲は赤くなっていた。
「いやぁ、あまりにも自然な行動でさ?」
「全く……」
 菜奈花が短く嘆息した。
 右手で左の手の甲を摩ってるあたり、まだ痛むらしい。
「それで、改めてどうやって捕まる?」とルニ、「そっちの木偶の坊さんは、来たからにはあるんでしょうね?」
 ルニが怒鳴るように弘に向けて言い放つと、けれど弘がかぶりを振った。
 すぐに切り替えたらしい。
「あるにはあるが、フィードバックが邪魔だ」
「つっかえないなあ!」
 思わずルニが叫んだ。
 そうこうしていると、菜奈花を乗せた巨大鷲は弘の頭上までやってきて、静止した。
「俺の手持ちは『皇帝エンペラー』と『戦車チャリオット』だけだ。初期系統は火」と弘、「スペードの5重力増加をしてもいいが、それだと桜之宮がもたないだろ」
「私の手持ちは『正義ジャスティス』と『魔術師マジシャン』」と菜奈花、「使える小アルカナだと、えーっと……」
 ルニが即座に答える。
「初期系統は風、それ以外だと、ハートの2探索と、ダイヤの2伝言?」
「どっちも微妙だね」
 ルニの呟きに、菜奈花は思わず同意したらしく、嘆息した。
「せめて、地上まで移動してくれれば……」
 菜奈花がそんな事を呟くが、当然そんな都合のいいことは起こってくれなさそうであった。
「そのわしで、捕まえられないのか?」
 ふと、そんな事を言いだしたのは弘であった。
「この鷲で?」
 菜奈花が問い返すと、弘は頷いた。
 目線は相変わらず『恋愛』に向けたままだった。
 菜奈花も視線を弘から『恋愛』に戻すと、彼は再び弓を構えていた。
「確かに、これは本質は風」とルニ、「やるなら一番適している、かな?」
「なら……、やってみよう!」
 菜奈花の決断は、早かった。
 巨大鷲目掛けて放たれた矢は、巨大鷲の右羽に当たる――が、しかしその片翼は柔らかい緑の風に姿を変え、そのまま矢は遥か後方、ズレの元まで閃光を描いて見せた。直後、射抜かれた片翼は再度翼を形作ると、何事もなかったかのようにその翼をはためかせて、強風を生み出した。
 風は、柔らかく、透明な緑色であった。
「行くよ、ルニ!」
 菜奈花はルニの返事も待たずに、その意思を持って、巨大鷲を一直線に『恋愛』の元まで突き進ませた。
「俺たちも行くぞ」
 弘は弘で、再び『戦車』を呼び出し、自身は『教皇』を身に纏、その荷台の上で器用にバランスを取りながら、菜奈花の後を追った。
 風を全身で受け、春の程よい暖かさが、一気に逆転する。
 けれどそんな事に構っていられる余裕はなく、また必要も無い。
 矢の一発一発、それぞれが打つのに時間がかかるらしく、回避は比較的容易な部類であった。とはいえ、何れも直撃すれば無事で済みそうも無く、目で追えるわけもなく、ならば半分お祈りのような状態になる。
 それでも確実に距離は詰まっていき、菜奈花の集中力も増して行った。
 最早そこに、今でさえあっても痛むであろう、手の甲の事など、菜奈花は忘れていた。
 進む菜奈花とは真逆に、景色は逆走していく。
 はやく、疾く、回避運動を交えながらも、けれど決して速度は一定であった。
「そんなもの、当たらないよ!」
 威勢のいい菜奈花の後方には、少し遅れて弘の姿があった。
 やがて――。
「捉えた!」
 目と鼻の先まで、接近に成功した。
 そうして菜奈花は、力いっぱい叫んだ。

「疾風の両翼よ、その一部を戒めの鎖とし、汝を捉えよ!」

 その命令文を得て、今両の翼の先端が形を淡いものへと変わりゆく。
 けれど番えた矢は的確に、菜奈花を捉えていた。
 やがて柔らかい、透明な緑の風を描いたそれぞれの翼の先端は大きく広がり、そうして『恋愛』を捕縛しようと覆いかぶさる。
 けれどそれを意にも返さぬような立ち姿のまま、『恋愛』は冷静に菜奈花の眉間を目掛けて、その矢を放った。
 速度を失った巨大鷲は、どこが切れ目かも分からずに、ごく自然な様でその一部を風に変えていた。
 即ち、速度に任せた回避を取ろうもそれは不可能であり、またその寸分の刻の間に咄嗟に回答を展開し得る事は、当然ながら不可能であった。
 であるならば、最早人が反応し得る速度を遥かに超えた矢を、実に五ヤード程の距離でどうにかしなくてはならない。
 けれど無常にも、矢は――解き放たれた。
「桜之宮!」
 弘が、咄嗟に呼びかけるも、その名前を呼び終わった頃には、表情は唖然としていた。
「今です!」
「――うん!」
 けれどサラマンダーは冷静であり、菜奈花もルニも、一瞬弘と同じような表情を見せはしたものの、即座に切り替えてみせた。
 即ち、矢は菜奈花の前髪をかすめ、後方へと閃光を描いていったのであった。
「これで、終わり!」
 菜奈花は巨大鷲の背から、『恋愛』目掛けて頭から飛び降りた。
 一連の動作の間と後に、風により完全に自由を失った『恋愛』は、目を閉じた。
 それは諦めのようであり、諦観ていかんのようであり、けれどどこか――不敵だった。

「汝、我の――」

 菜奈花が体制をそのままに、宙に魔法陣を描いたとき、ようやく気がついた。
 風に縛られ、自由を失った彼の胸の前、そこで何かが光を放っていることに。
 ――小アルカナだ。
「菜奈花、後ろ!」
 けれど菜奈花には最早どうすることもできなかった。
 できることは、ただ一つ。

「――配下となれ!」

 即ち、詠唱の継続。
 けれど菜奈花の背後からは、確かに轟音けたたましく、一つの物体がものすごい速度で向かってきているのがわかった。
 それが何なのかは分からずとも、そもそも菜奈花にはどうする事もできない。
 ならば菜奈花に出来ることは、祈る事、ただそれだけであろうか。
 菜奈花は口早に、その詠唱を完結させる言葉を放った。
(確かこのアルカナの名前は――)

「『恋愛ラヴァーズ』!」
 
それはどう転ぼうがこの戦闘の終焉、それを知らせるものであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...