ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第三章

―日常的な非日常・ニ―

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「随分と絶好調ね」
 そう話しかけるのは、ディーネ――コバルトブルーのセミロングに、サファイア色の瞳を輝かせる、掌ほどのサイズの少女だった。
「えぇ、当然です」
 平然と何事も無いようにそう答えたのは、ソフトグレーの外ハネのあるロング髪に、シトリン色の瞳を覗かせる、椎夏香穂しいかかほだ。
 星明かりと月の薄い光を背に受け、香穂は一枚のカードを手にしていた。未だ光を放ち、その存在を鼓動させるそのカードは、アルカナ――番号十六、『タワー』。
「これで三枚目ね」
 ディーネは、香穂の持つ『塔』のカードを見て、言った。
「えぇ、三枚目」 
 香穂は、その異形の力を纏った姿――襟が黒い、純白でけがれのない修道服に、白のベレー帽を被っている――をしており、その右手にはラッパらしきものが握られていた。
 そこは香穂の通う学校の近くの公園で、林百合はやしゆり公園と呼ばれていた。学校から徒歩五分であり、小さな、住宅街の中のよくある公園である。狭いという事もあり、結界は住宅をも巻き込んでいた。そんな結界は役目を終え、ガラスの破片のような透明色の欠片が、音を立てて屈折する光を正そうと、崩れ始めていた。
 戦闘は、とうに終わっていたらしかった。
「本当に、一人で回収するつもりなのかしら」
「勿論です」
 崩壊を続ける景色を見届けながら、香穂はその異形の力を、カードへと戻した。付波つくなみ東中学制服――袖口に赤と青のラインの入った白いYシャツに、赤い手結びのリボン、その上に同じく紺で、袖口に赤ラインの入ったブレーザーを重ねるタイプのもので、下は赤チェックのスカート――へと姿を変え、その赤チェックのスカートはしたけにあおられ、はためいていた。
「言ったでしょう、接触を控えるのが方針だ、と」
「そうね」
 ディーネは、頷いた。実際、それは今までずっと貫いてきた、二人のスタンスであったのだから。
「けど、あなた一人だけだと、きっと限界が来るわ」
 心配するような声色のディーネに、しかし香穂はかぶりを振った。
「いいえ、一人じゃありませんよ」と香穂、「ディーネがいてくれますから」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
 崩れゆく景色を見つめながら、香穂はディーネに微笑んだ。
「それに、アルカナだってあります」
 景色は、その薄いズレを崩壊させ、その奥の真なる風景を顕にし始めていた。もう時期、この結界は姿を消し去る。
 部活帰りの午後七時近く、近辺にはまだ学生はいるだろうか。いるのであれば、きっと他のオーナーもここでの出来事に気がついたはずである。だというのに来ないという事は即ち――
「帰りますよ、ディーネ。でないと、菜奈花ちゃんも、紅葉もみじ君も、いい加減来てしまいかねませんから」
 既に香穂が気配に気がついて学校を出た時、女子ソフトテニス部の姿は無かった。であれば先に帰ったはずであるが、しかし接触を先にしていないあたり、どこかまた寄り道をしたのだろうと、香穂は打算していた。とはいえ、アルカナを三枚入手して、それなりに魔力も高まった菜奈花に、気配を気づかれる事も考慮してか、香穂は手際よく『塔』をカードに戻したのであった。そして、先程からオーナーの気配は、香穂の元へと近づいてきていた。
 そうして、結界が崩れ去った直後、その気配の正体は姿を表した。
「あら、貴方は――」
 香穂が振り返ると、そこには一人の少年がいた。

 同時刻、菜奈花は買い物をしていた。学校から自宅までとは逆方向ではあるが、学校から2分程歩けばそこに着く。そこはショッピングセンターであり、菜奈花はお使いとして来ていた。
 菜奈花のスマホにお使いをお願いするという文面のメッセージが来たのは、つい一時間前であり、菜奈花は快く了承し、学校を出た後で直ぐ向かった。スーパーが学校から近いという事もあり、よく叔母さんからお使いを頼まれる、という事がこれまでもあり、であれば菜奈花に断る理由もなかった。金銭も、後でくれるとの事らしかった。
「で、何を買うの?」
 菜奈花の隣にいたのは、北山亜沙美きたやまあさみであった。セミロングの黒髪を後ろで結った、タレ目が特徴的なクラスメイト。
「うんと、ベーコン、バター、牛乳――それと豚肉」
「今夜はシチューかな?」
「かなぁ」
「シチューかぁ」と亜沙美、「いいなぁ、そういや暫く食べてないかも、シチュー」
 精肉コーナーで冷気を浴びながら、豚肉を流し見する菜奈花に、亜沙美はそんなことを呟いた。
「そうなの?」
「だってシチューってどっちかってと冬のイメージない?」
 すると菜奈花は、「まぁ」と頷いた。
「いいなぁ。ね、食べに行ってもいい?」
「なんでそうなるのよ……」
 亜沙美はバスケット部で、菜奈花はソフトテニス部である。互いに運動部ということもあってか、運動神経もいいということもあってか、頻繁ひんぱんに二人でいることを見ることができたりする。波長が合うらしかった。
「で、どうよ部活」
 亜沙美が訪ねた。実のところ、今は部活帰りであり、二人は制服であった。
「今はまだコートにたたせてもらえてないよ、ほとんど」
「そりゃそっか」
「ただ、明日辺りにでも一年生同士で試合することになってるから、それ次第」
「お、頑張ってな」
 菜奈花は頷いた。
「そっちはどう?」
 菜奈花が尋ねると、亜沙美は微妙な顔でいた。
「今年は女子は三人しか新入部員いなくてさ」と亜沙美、「元々少ないのもあるけど、人数7人しかいないから、ほぼ確実にレギュラー」
「へぇ」
 と、菜奈花は一つのパックを手にとった。
「それでいいん?」
「うん」
 ――それは、カナダ産豚ロースの薄切り、三百グラム。約三百円であった。
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