ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第三章

―日常的な非日常・三―

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「紅葉君もテスト勉強?」
 ふと、声が投げかけられた。顔を上げれば、そこには二人の女子生徒が、制服姿でいた。一人はダークブラウンのサイドテールと赤渕のスクエアメガネが特徴の低身長の子。もうひとりが、明るめのレッドブラウンのミディアムショートであり、前者が佐山恵利さやまえり、後者が田辺詩香たなべうたか、何れも彼、紅葉弘もみじこう――黒橡くろつるばみ色の髪にオニキス色の瞳の少年――のクラスメイトである。
「あぁ」
 弘は短く頷いた。
 辺りはわずかな喧騒と、厳かな沈黙とに包まれており、蔵書の匂いが仄かに香っていた。即ちここは図書室であり、程々のスペースの学校図書館であるここは、一般的な教室三つ分ほどには大きい。だというのに変に手狭に感じるのは、複数の本棚と、さらに等間隔に間を開けて置かれた長テーブルのせいだろうか。それでも人の少ない――部活の真っ最中であり、そもそもまだテストが二週間前でしかないのだから、真面目にやる生徒の方が少ないのも道理である――図書室は、窮屈とまでは行かなかった。
 恵利と詩香が弘の手元に目をやると、どうやら社会――中一の社会は地理――のワークをやっているらしかった。
「へぇ、真面目だね」
「あぁ」
 恵利の言葉に、またも弘は短く頷いた。
 ――半ば上の空らしかった。
「聞こえてないね」
「聞こえてはいる」
 と、二人の短いやり取りの間で、詩香は黙って弘の正面の椅子を引き――そのまま着席した。
「……なんのつもりだ?」
「勉強」
 詩香も短く答えた。
 弘はげんなりしていた。言外に、ここでしなくてもいいじゃないか、と不満が混じっているのを二人は簡単に感じ取ることができた。
「うっわ嫌そうな顔」
 見れば、恵利もそう言いながらその詩香の隣に座り、呑気のんきに勉強道具を開いていた。
「お前らは揃いも揃って邪魔がしたいのか?」
「まっさか」と恵利、「アタシはそんな邪道なことしないって」
「王道こそ、正義」
 弘は嘆息した。もう何を言っても無駄と観念したらしかった。
「別にいいけど、邪魔はするなよ」
 しかしそれを易々とはいとは言ってくれない。
「質問!」と恵利、「質問はじゃまになりますか?」
「勿論」
 弘はバッサリと切り捨てると、詩香も「非道」と端的に非難した。
「というか、女子二人と勉強会できるなんて、いいご身分じゃないの?」
 しかし弘は恵利の言葉には耳を貸さず、聞き返した。
「部活はどうした、部活は」
 二人は文芸部である。しかし今日は金曜日ではない。それは即ち――
「今日はないよ、文芸部」
 と、恵利が言った。
 文芸部というのは、この学校においては最早名前だけの存在である。数多くある文化部の中で、一般的に比較的マイナーで、かつ部活強制参加のこの中学における帰宅部的存在――即ち、週一金曜のみの活動に加え、その自由さから名前の置き場所と化しているのであった。要するに、学校の伝統が生んだ一種の形骸的組織である。
「楽でいいな、文芸部は」
「そういう紅葉くんは何部だっけ」
 恵利がそう尋ねるのも、即ちこの三人にそこまでの接点がないのである。クラスは小学生時代に何度か同じになった事はあるものの、それであってもそこまで親しくはない。というのも、弘があまり女子と喋らないというのが大きかったりする。
「……囲碁将棋部」
 即ち弘の部活を知らないという理由も頷けるものであり――では何故二人の所属部活を言い当てられたのかは、単に二人が言いふらしているだけに過ぎず、そこに二人が疑問を覚えることは無かった。
 弘は、ちょっと間を置いて、そう言った。
「あぁ、なんか納得いくね、それは」
「なんでだ」
 すると恵利に変わって、詩香が口を開いた。
「大人しい。将棋、囲碁、静かな戦い」と詩香、「私、将棋強い」
「へぇ」
「こう見えてたかはゲーム好きだから」
「ボードゲームも抑えてる口なのか?」
 弘が相変わらずワークをときながら質問すると、詩香は「うん」と頷いた。
「今度、やろ?」
「今度な、今度」
 と、今度は恵利がからかうように口を開いた。
「囲碁将棋部はさぼっっちゃっていいのかなぁ?」
「あそこは自由だからな」と弘、「行こうがサボろうが問題ない」
「人のこと言えないじゃん。ね、うた」
 詩香も、頷いた。
 と、弘はワークをとき終わったらしく、丸付けをさっさと終えると、勉強道具をカバンにしまい始めた。
「もう行くの?」
 恵利が聞いた。
「ここじゃ勉強にならない」
「それもそっか」
 恵利も、素直に頷いた。弘は机の上を更地にし、カバンを手に持つと、ゆっくりと立ち上がり、「それじゃ」と立ち去っていった。
「言っちゃったね、うた」
「うん」
 あとに残されたのは、勉強道具を開いたっきり何もしていない二人と、図書室特有の僅かな喧騒と、厳かな静寂と、仄かに香る蔵書の香りのみであった。 
 二人は一旦顔を見合わせると、またいつものように談笑を始めるのであった。
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