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第三章
―日常的な非日常・四―
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「あら、貴方は――」
香穂が振り返ると、そこには一人の少年がいた。アッシュブラウンの髪と、ブラウンジルコン色の瞳が特徴的な少年は、香穂も良く知る人物であった。
先ほどまで居たディーネの姿は既になく、どうやら香穂の持つ手持ちカバンの中に身を隠したらしかった。
「まさか椎夏さんも関わっていたとは、驚いた」
――彩冬燈葵、クラスは違うが面識のある少年であった。
「えぇ、本当に」
既に結界は消滅し、香穂は公園の入口に立ち尽くす形でいた。
口ぶりから察するに、彼もオーナーなのだろう。
香穂と燈葵は小学校中学年での同級生であり、菜奈花との直接の面識は無い。どちらかというと、弘との繋がりの方が大きく、ならば香穂は何故彼が、という疑問を抱くのも当然であった。
「それで、それは何枚目?」
燈葵が聞いた。それは即ち、紛う事なきオーナーであるとの証明にも等しかった。
「三枚目です」
「それは……早いね」
彼は間違いなく第四オーナーであるという確証が得られれば、香穂は打算を持って質問を投げかけるべく、口を開いた。
「そういう彩冬くんは、何枚ですか?」
「二枚」
即ち、現在の獲得状況は、菜奈花が三枚、弘が二枚、彼が二枚枚、そして香穂が三枚という事になる。最も、これは大凡――と言うより、わかりきっていた事であった。いくら接触を控えているからとは言えど、菜奈花の事はある程度わかるし、何より弘はアルカナの回収はしないと行ったのであるから、消去法で枚数が把握できる。
「そうですか。彩冬くんは――」
「随分と、手際がいい」
しかし香穂の言葉を遮り、燈葵はそう言った。態度から察するに、訝しんでいるらしい。
「えぇ、まぁ」と香穂、「彩冬くんは……もうほかのオーナーには遭われましたか?」
香穂も、それ以上その会話の続きをしたくないらしく、会話の舵を握り直そうと試みたらしい。
「まだ」
彼は、短くそう返す。
「でしたら、きっと驚かれますよ」
そう、香穂は微笑んだ。
「ところで、彩冬君は――部活は何でしたっけ?」
「……サッカー」
「それはそれは、イメージ通りです」
「それより――」
香穂は執拗に会話を拒み、話題を転回していた。しかしそれでも尚、彼は聞きたいことをキチンと忘れず、また繰り出そうとする。ならば最早香穂にそれ以上の会話を望む理由もなく――
「それでは、私はこっちですので」
「お、おい!」
と、一人歩き出した。
「……紅葉君、さぞ驚きますでしょうね」
彼が追って来ないことを振り返らずに把握すると、香穂はそう独り言ちた。
直後、香穂はスマホでメッセージを入れた。
『四人目は彩冬燈葵君』
既に家に居た弘は、静かに勉強に勤しんでいた。しかしそこに静寂は存在せず、静かな室内に、この場にいない存在どうしのやり取りが流れていた。FMラジオである。何やら男女のパーソナリティが、互いに切手について陽気にトークをしている。
「いろんなを記念して、切手が作られているんですね」と女性、そこに「そうそう」と男性が相槌を入れていたるといった具合である。
だが勉強に集中している弘にとっては聞こえないらしく、特段集中が乱れている様子もなかった。
図書館を後にした後の弘はまっすぐ家に帰り、そうして今に至っている。部活に顔を出すでもなく、端的に言えばサボりである。最も、囲碁将棋部はそこら辺緩い為、ならば弘も殊更気にする事は無かった。
スマートフォンの着信を聞き、一度手を止めた弘は、充電中のそのスマホに手を伸ばした。ラジオの中に異質な甲高いデフォルメの通知音が鳴り響いた為か、その音は聞き逃さなかったらしい。
メッセージの相手は――椎夏香穂。弘の家の真後ろの女子生徒、即ち幼馴染でもある彼女からのものであった。
弘はそのメッセージを開くことなく、ロック画面に映ったメッセージ内容を確認すると嘆息した。
接触をしろと香穂に言われていたのに、終ぞ出来ず結果的に香穂が先に接触した、と言うことらしかった。
「なんと?」
声の主は弘のパートナー精霊――マンダリンガーネット色の瞳が特徴な、赤いトカゲのサラマンダーである。サラマンダー、というのは弘がつけた名前ではあるが、その実唯の精霊の元の名前であり、では弘が名付け親かと言わればそうではない様に思える。
「四人目が誰かわかった、ってだけだ」
「そうですか」
それっきり、会話はなかった。だけという話では無いのかもしれなかったが、しかしサラマンダーがあまり食いついてこないあたり、実際は誰がなろうが同じ反応を見せるのではないか、と弘は思った。
ならば弘がそれ以上の会話を交わすことは無く、ちょっとラジオの二人の会話に耳を傾けることにしたらしかった。
気が付けば、会話の内容が変わっていたらしかった。
直後にまた別のメッセージが香穂から来ているのを知ったのは、また後の事であった。
香穂が振り返ると、そこには一人の少年がいた。アッシュブラウンの髪と、ブラウンジルコン色の瞳が特徴的な少年は、香穂も良く知る人物であった。
先ほどまで居たディーネの姿は既になく、どうやら香穂の持つ手持ちカバンの中に身を隠したらしかった。
「まさか椎夏さんも関わっていたとは、驚いた」
――彩冬燈葵、クラスは違うが面識のある少年であった。
「えぇ、本当に」
既に結界は消滅し、香穂は公園の入口に立ち尽くす形でいた。
口ぶりから察するに、彼もオーナーなのだろう。
香穂と燈葵は小学校中学年での同級生であり、菜奈花との直接の面識は無い。どちらかというと、弘との繋がりの方が大きく、ならば香穂は何故彼が、という疑問を抱くのも当然であった。
「それで、それは何枚目?」
燈葵が聞いた。それは即ち、紛う事なきオーナーであるとの証明にも等しかった。
「三枚目です」
「それは……早いね」
彼は間違いなく第四オーナーであるという確証が得られれば、香穂は打算を持って質問を投げかけるべく、口を開いた。
「そういう彩冬くんは、何枚ですか?」
「二枚」
即ち、現在の獲得状況は、菜奈花が三枚、弘が二枚、彼が二枚枚、そして香穂が三枚という事になる。最も、これは大凡――と言うより、わかりきっていた事であった。いくら接触を控えているからとは言えど、菜奈花の事はある程度わかるし、何より弘はアルカナの回収はしないと行ったのであるから、消去法で枚数が把握できる。
「そうですか。彩冬くんは――」
「随分と、手際がいい」
しかし香穂の言葉を遮り、燈葵はそう言った。態度から察するに、訝しんでいるらしい。
「えぇ、まぁ」と香穂、「彩冬くんは……もうほかのオーナーには遭われましたか?」
香穂も、それ以上その会話の続きをしたくないらしく、会話の舵を握り直そうと試みたらしい。
「まだ」
彼は、短くそう返す。
「でしたら、きっと驚かれますよ」
そう、香穂は微笑んだ。
「ところで、彩冬君は――部活は何でしたっけ?」
「……サッカー」
「それはそれは、イメージ通りです」
「それより――」
香穂は執拗に会話を拒み、話題を転回していた。しかしそれでも尚、彼は聞きたいことをキチンと忘れず、また繰り出そうとする。ならば最早香穂にそれ以上の会話を望む理由もなく――
「それでは、私はこっちですので」
「お、おい!」
と、一人歩き出した。
「……紅葉君、さぞ驚きますでしょうね」
彼が追って来ないことを振り返らずに把握すると、香穂はそう独り言ちた。
直後、香穂はスマホでメッセージを入れた。
『四人目は彩冬燈葵君』
既に家に居た弘は、静かに勉強に勤しんでいた。しかしそこに静寂は存在せず、静かな室内に、この場にいない存在どうしのやり取りが流れていた。FMラジオである。何やら男女のパーソナリティが、互いに切手について陽気にトークをしている。
「いろんなを記念して、切手が作られているんですね」と女性、そこに「そうそう」と男性が相槌を入れていたるといった具合である。
だが勉強に集中している弘にとっては聞こえないらしく、特段集中が乱れている様子もなかった。
図書館を後にした後の弘はまっすぐ家に帰り、そうして今に至っている。部活に顔を出すでもなく、端的に言えばサボりである。最も、囲碁将棋部はそこら辺緩い為、ならば弘も殊更気にする事は無かった。
スマートフォンの着信を聞き、一度手を止めた弘は、充電中のそのスマホに手を伸ばした。ラジオの中に異質な甲高いデフォルメの通知音が鳴り響いた為か、その音は聞き逃さなかったらしい。
メッセージの相手は――椎夏香穂。弘の家の真後ろの女子生徒、即ち幼馴染でもある彼女からのものであった。
弘はそのメッセージを開くことなく、ロック画面に映ったメッセージ内容を確認すると嘆息した。
接触をしろと香穂に言われていたのに、終ぞ出来ず結果的に香穂が先に接触した、と言うことらしかった。
「なんと?」
声の主は弘のパートナー精霊――マンダリンガーネット色の瞳が特徴な、赤いトカゲのサラマンダーである。サラマンダー、というのは弘がつけた名前ではあるが、その実唯の精霊の元の名前であり、では弘が名付け親かと言わればそうではない様に思える。
「四人目が誰かわかった、ってだけだ」
「そうですか」
それっきり、会話はなかった。だけという話では無いのかもしれなかったが、しかしサラマンダーがあまり食いついてこないあたり、実際は誰がなろうが同じ反応を見せるのではないか、と弘は思った。
ならば弘がそれ以上の会話を交わすことは無く、ちょっとラジオの二人の会話に耳を傾けることにしたらしかった。
気が付けば、会話の内容が変わっていたらしかった。
直後にまた別のメッセージが香穂から来ているのを知ったのは、また後の事であった。
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