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第三章
―日常的な非日常・五―
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「話って何だ?」
後日、放課後、彼らは学校の空き教室にいた。誰にも使われていない空き教室、だがその実フロア自体はそんなことなく、ならば扉の外では相変わらずの喧騒が残っていた。とはいえ、その喧騒も吹奏楽部の楽器の練習音――だらしない、或いは間抜けなような不協和音を奏でているのみであり、ならば彼らがここで話す分に、はなんら問題ないのである。
彼ら、とは二人の男子生徒である。一方は紅葉弘。そしてもう一方は斎藤燈葵である。
この場に呼び出したのは弘らしく、燈葵はこの部屋に来るなり、戸を占めてからそういった。
「昨日の放課後、椎夏にあったんだろう?」
「なんでそれを?」
すると弘は徐にポケットからあるものを取り出した。それは、燈葵にも当然見覚えのあるものであった。
それは、二枚のアルカナであった。『皇帝』と、『戦車』である。
「なるほど」
燈葵は納得したらしく、「それで」と続けた。
「何のよう?」
空き教室であるここは、机は普通の教室と何ら変わらずに、一つ一つが間隔をあけて整然としていた。カーテンはタッセルにまとめられ、教室には西日の遮光が入り込んでいた。
弘は学校指定の黒い手持ちカバンをその机のひとつに置き、窓を背にするようにたっていた。
一方の燈葵は、言いながら歩み寄ると、弘の近くの椅子を引き、同じようにカバンを雑多に置き、姿勢を弘に向けた。
「改めて挨拶しておこうと思った」
「よろしく、とでも言っておけばいいのか?」
「どうして、お前はカードを集める?」
「魔法のカードだ、集めない方がどうかしているだろ?」
「危険があってもか?」
「その危険を危険じゃなくするために、僕たちはあらかじめカードを受け取った、違うか?」
弘は、無言で続きを促した。
「僕にはもう二枚ある」
燈葵は、そういうとカバンの奥底から、二枚のアルカナを取り出してみせた。
カードは、『死神』と、『吊るされた男』である。
「でも僕には、もっと力が欲しい。他成らぬ、僕自身を守る為に。紅葉くんがオーナーなのは驚いたよ。けど同時に都合がいい」
「何故?」
「紅葉くんははこういう事には関わりたくないタイプだ、違う?」
「どうだろうな」
「だからこそ、君はこの戦いからは降りるべきだ」
弘は、また黙って言葉の続きを待った。燈葵はひと呼吸置くと、それを察したらしく、また続けた。
「簡単にいうよ、紅葉君。君のアルカナを僕に譲ってはくれないだろうか」
「了承するとでも?」
「あぁ、思ってる。元より君には――魔法なんて御伽噺、あおっ臭くて嫌いだろう?」
「かもな」
「僕ならその二枚もきっと有意義に使える」
しばし弘は沈黙した。その沈黙は思考という名のそれではなく、むしろ諦念を含んでいるらしく嘆息した。
「話は終わりか?」
「交渉は決裂、かな?」
「そういうことだ」
「それなら呼び出した理由はなんだい?」
弘は二枚のアルカナをカバンにしまうと、また嘆息してから口を開いた。
「もう一人のオーナーは、桜之宮菜奈花だ」
「それはまた……」
「言っとくが、交渉はさせない」
「何故?」
「理由は、言えない」と弘、「頼みがあるんだ。あいつのアルカナ集めを、サポートして欲しい。俺ももちろんやる」
すると燈葵は思案するかのように沈黙を振りかざし、俯いた。
そうしてしばらくすると、彼はまた顔をあげてから、口を開いた。
「その返答は、今すぐじゃないとダメか?」
「――なら、今晩、ここで答えを聞こう」
燈葵は、首をかしげた。理由がわからないのだ。
「今晩、ここにアルカナが現れる」
「どうして、わかる?」
弘はまた嘆息した。しかしそれは、今日一番の深い深い嘆息であり、弘にも信じがたい事らしかった。
即ち、
「桜之宮からの情報だ」
燈葵もまた信じられないように、目を見開いた。
後日、放課後、彼らは学校の空き教室にいた。誰にも使われていない空き教室、だがその実フロア自体はそんなことなく、ならば扉の外では相変わらずの喧騒が残っていた。とはいえ、その喧騒も吹奏楽部の楽器の練習音――だらしない、或いは間抜けなような不協和音を奏でているのみであり、ならば彼らがここで話す分に、はなんら問題ないのである。
彼ら、とは二人の男子生徒である。一方は紅葉弘。そしてもう一方は斎藤燈葵である。
この場に呼び出したのは弘らしく、燈葵はこの部屋に来るなり、戸を占めてからそういった。
「昨日の放課後、椎夏にあったんだろう?」
「なんでそれを?」
すると弘は徐にポケットからあるものを取り出した。それは、燈葵にも当然見覚えのあるものであった。
それは、二枚のアルカナであった。『皇帝』と、『戦車』である。
「なるほど」
燈葵は納得したらしく、「それで」と続けた。
「何のよう?」
空き教室であるここは、机は普通の教室と何ら変わらずに、一つ一つが間隔をあけて整然としていた。カーテンはタッセルにまとめられ、教室には西日の遮光が入り込んでいた。
弘は学校指定の黒い手持ちカバンをその机のひとつに置き、窓を背にするようにたっていた。
一方の燈葵は、言いながら歩み寄ると、弘の近くの椅子を引き、同じようにカバンを雑多に置き、姿勢を弘に向けた。
「改めて挨拶しておこうと思った」
「よろしく、とでも言っておけばいいのか?」
「どうして、お前はカードを集める?」
「魔法のカードだ、集めない方がどうかしているだろ?」
「危険があってもか?」
「その危険を危険じゃなくするために、僕たちはあらかじめカードを受け取った、違うか?」
弘は、無言で続きを促した。
「僕にはもう二枚ある」
燈葵は、そういうとカバンの奥底から、二枚のアルカナを取り出してみせた。
カードは、『死神』と、『吊るされた男』である。
「でも僕には、もっと力が欲しい。他成らぬ、僕自身を守る為に。紅葉くんがオーナーなのは驚いたよ。けど同時に都合がいい」
「何故?」
「紅葉くんははこういう事には関わりたくないタイプだ、違う?」
「どうだろうな」
「だからこそ、君はこの戦いからは降りるべきだ」
弘は、また黙って言葉の続きを待った。燈葵はひと呼吸置くと、それを察したらしく、また続けた。
「簡単にいうよ、紅葉君。君のアルカナを僕に譲ってはくれないだろうか」
「了承するとでも?」
「あぁ、思ってる。元より君には――魔法なんて御伽噺、あおっ臭くて嫌いだろう?」
「かもな」
「僕ならその二枚もきっと有意義に使える」
しばし弘は沈黙した。その沈黙は思考という名のそれではなく、むしろ諦念を含んでいるらしく嘆息した。
「話は終わりか?」
「交渉は決裂、かな?」
「そういうことだ」
「それなら呼び出した理由はなんだい?」
弘は二枚のアルカナをカバンにしまうと、また嘆息してから口を開いた。
「もう一人のオーナーは、桜之宮菜奈花だ」
「それはまた……」
「言っとくが、交渉はさせない」
「何故?」
「理由は、言えない」と弘、「頼みがあるんだ。あいつのアルカナ集めを、サポートして欲しい。俺ももちろんやる」
すると燈葵は思案するかのように沈黙を振りかざし、俯いた。
そうしてしばらくすると、彼はまた顔をあげてから、口を開いた。
「その返答は、今すぐじゃないとダメか?」
「――なら、今晩、ここで答えを聞こう」
燈葵は、首をかしげた。理由がわからないのだ。
「今晩、ここにアルカナが現れる」
「どうして、わかる?」
弘はまた嘆息した。しかしそれは、今日一番の深い深い嘆息であり、弘にも信じがたい事らしかった。
即ち、
「桜之宮からの情報だ」
燈葵もまた信じられないように、目を見開いた。
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