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第三章
―日常的な非日常・六―
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菜奈花がその存在を察知したのは、お昼休みの時であった。場所は屋上だろうか、感覚としては頭上で何かが光るような、蠢くような、そんな感じである。それを、菜奈花はふと感じたのであった。
「今……」
「どったのなな?」
亜沙美が、菜奈花の違和感に気が付いたのかそう尋ねた。というより、菜奈花は彼女たち三人組――亜沙美、恵利、詩花――と談笑中であっただから、菜奈花の違和感に気が付かないものはいなかった。菜奈花は、違和感を隔そうともせずに、ふと顔を見上げたのであるから、当然であろう。
「いや、なんか……ね?」
「おんやぁ?まーたななっちの霊感少女発動かぁ?」恵利がそう茶化した。
菜奈花が霊感がある、とは一度も話したことはない。しかし彼女たちの間でそういう位置づけになっているのは、要するに菜奈花は時々不思議な言動を醸し出す、という事であった。
「いやいや、違うって」菜奈花は笑ってごまかした。
「なな、時々明後日のほうこう見るからなぁ……マジ不思議ちゃん」と亜沙美。
「そっかな?」
すると、その場の全員がうなづいた。菜奈花はたじろぐ他なかった。
「と、とりあえずお手洗いに……」菜奈花はそういうと、席を立って行ってしまった。
それを特段止めることなく、亜沙美は軽く手を振ると、「いってらー」とどこか含みのある笑いをこらえながら見送った。恵利も、詩花もどことなくにやにやしている。
同時刻、菜奈花以外にも気配に感ずいた人間は居た。オーナー全員ではない、菜奈花ともう一人、香穂である。
香穂は吹奏楽部の昼錬の最中であった。然れど彼女は平静を崩すことなくパート練習に勤しんでいる。
では残りの二人、弘と燈葵が気づいたかと言えば、傍目見てもその様子は見て取れなかった。そしてそのことを知っているのは、恐らく香穂だけである。
菜奈花が廊下に出ると、どこに行っていたのやら弘と出くわした。普段であれば互いに特に会話を交わすこともなかったであろうが、この日は違った。違う理由があったのだ。
「ねぇ」
呼び止めたのは、菜奈花の方だった。互いに顔を認識した瞬間、弘は顔を背け、菜奈花は唾を飲み込んだ。それから、菜奈花から呼び止めた。
「なんだ?」
そうなると弘も無視できないらしく、互いにその場に足を止め、しかし弘花菜花と視線を合わせることなく、一方菜奈花は面と向かって平然としていた。それから、菜奈花が口を開いた。
「ちょっと、来てくれない?」
「なぜ」
「例の件で、話があるの」
例の件で果たして伝わっただろうか、弘は一度沈黙を置いた。そうすると周囲の昼休み独特の、放課後とはまた違った喧騒が耳に入り込んでくる。相変わらず吹奏楽部のちぐはぐの音は聞こえるが、運動部独特の掛け声だとか、そういうのは少ない。それ以上に、雑多な音の塊が、それぞれが各々別々の意味と、内容を含んでおり、そこに多少の共通性はあるのかもしれないが、大凡が纏まりのない乖離的なものである。
弘は小さく嘆息すると、要件を察したのだろうか、「わかった」とうなづいた。
そうすると菜奈花もすこしはにかむと、「ついて来て」と弘に背を向けて、人気のない空き教室へと歩みだしていた。
菜奈花が連れてったのは、菜奈花たちの教室と同じ階の隅にある、誰もいない空き教室であった。ほぼ真南から振りかざされる日差しで、明かりのつけられていないにも関わらず明るい。
菜奈花はそこに来るなり弘を奥へとすすめて、ドアを閉めた。そうして、中央あたりの手頃な椅子を引いて、弘にも座るように勧めた。
「それで、話って?」
話を切り出したのは弘からであった。菜奈花とは目を合わせることなく、頬杖を付き、視線の先は窓の外である。
「アルカナの気配が、したの」
「待てよ。俺にはそんな気配、気付かなかった」
弘は、信じられないといった様子で顔をようやく菜奈花に向けた。目が、合った。
すると弘は慌てて、その視線をちょっと下にどけた。
「でも、確かにするの」
「どこから?」
菜奈花は、視線を上に向けた。そうして、言った。
「多分、屋上から」
「今……」
「どったのなな?」
亜沙美が、菜奈花の違和感に気が付いたのかそう尋ねた。というより、菜奈花は彼女たち三人組――亜沙美、恵利、詩花――と談笑中であっただから、菜奈花の違和感に気が付かないものはいなかった。菜奈花は、違和感を隔そうともせずに、ふと顔を見上げたのであるから、当然であろう。
「いや、なんか……ね?」
「おんやぁ?まーたななっちの霊感少女発動かぁ?」恵利がそう茶化した。
菜奈花が霊感がある、とは一度も話したことはない。しかし彼女たちの間でそういう位置づけになっているのは、要するに菜奈花は時々不思議な言動を醸し出す、という事であった。
「いやいや、違うって」菜奈花は笑ってごまかした。
「なな、時々明後日のほうこう見るからなぁ……マジ不思議ちゃん」と亜沙美。
「そっかな?」
すると、その場の全員がうなづいた。菜奈花はたじろぐ他なかった。
「と、とりあえずお手洗いに……」菜奈花はそういうと、席を立って行ってしまった。
それを特段止めることなく、亜沙美は軽く手を振ると、「いってらー」とどこか含みのある笑いをこらえながら見送った。恵利も、詩花もどことなくにやにやしている。
同時刻、菜奈花以外にも気配に感ずいた人間は居た。オーナー全員ではない、菜奈花ともう一人、香穂である。
香穂は吹奏楽部の昼錬の最中であった。然れど彼女は平静を崩すことなくパート練習に勤しんでいる。
では残りの二人、弘と燈葵が気づいたかと言えば、傍目見てもその様子は見て取れなかった。そしてそのことを知っているのは、恐らく香穂だけである。
菜奈花が廊下に出ると、どこに行っていたのやら弘と出くわした。普段であれば互いに特に会話を交わすこともなかったであろうが、この日は違った。違う理由があったのだ。
「ねぇ」
呼び止めたのは、菜奈花の方だった。互いに顔を認識した瞬間、弘は顔を背け、菜奈花は唾を飲み込んだ。それから、菜奈花から呼び止めた。
「なんだ?」
そうなると弘も無視できないらしく、互いにその場に足を止め、しかし弘花菜花と視線を合わせることなく、一方菜奈花は面と向かって平然としていた。それから、菜奈花が口を開いた。
「ちょっと、来てくれない?」
「なぜ」
「例の件で、話があるの」
例の件で果たして伝わっただろうか、弘は一度沈黙を置いた。そうすると周囲の昼休み独特の、放課後とはまた違った喧騒が耳に入り込んでくる。相変わらず吹奏楽部のちぐはぐの音は聞こえるが、運動部独特の掛け声だとか、そういうのは少ない。それ以上に、雑多な音の塊が、それぞれが各々別々の意味と、内容を含んでおり、そこに多少の共通性はあるのかもしれないが、大凡が纏まりのない乖離的なものである。
弘は小さく嘆息すると、要件を察したのだろうか、「わかった」とうなづいた。
そうすると菜奈花もすこしはにかむと、「ついて来て」と弘に背を向けて、人気のない空き教室へと歩みだしていた。
菜奈花が連れてったのは、菜奈花たちの教室と同じ階の隅にある、誰もいない空き教室であった。ほぼ真南から振りかざされる日差しで、明かりのつけられていないにも関わらず明るい。
菜奈花はそこに来るなり弘を奥へとすすめて、ドアを閉めた。そうして、中央あたりの手頃な椅子を引いて、弘にも座るように勧めた。
「それで、話って?」
話を切り出したのは弘からであった。菜奈花とは目を合わせることなく、頬杖を付き、視線の先は窓の外である。
「アルカナの気配が、したの」
「待てよ。俺にはそんな気配、気付かなかった」
弘は、信じられないといった様子で顔をようやく菜奈花に向けた。目が、合った。
すると弘は慌てて、その視線をちょっと下にどけた。
「でも、確かにするの」
「どこから?」
菜奈花は、視線を上に向けた。そうして、言った。
「多分、屋上から」
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