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第三章
―School In The Night―
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学校、それは小さな社会である。人々は各々に割り振られた役割を果たすべく、器用にその言動を操り行く。最低限の自由が保証され、然るべき評価がほぼ公平にくだされる。
しかしその小さな社会も、夜になれば瞬く間に昼間の喧騒を失い、宛ら生きた廃墟の様相を見せつける。そのギャップから人々は不気味がり、ゴーストタウンと称してもさしたる違いも見当たらない。
しかしその学校の正門――既に閉じている――前でスマホを片手に退屈そうに誰を待つ姿があった。
黒橡色の髪が特徴的な、紅葉弘である。
彼はしきりにスマホを見たり、また背後――学校の屋上の方を一瞥したりと、忙しない。見れば、彼は右手にマンダリンガーネットの宝石の指輪が、人差し指にはめられていた。
と、誰かが歩いて来ているのだろう、こちらに向かう足音を弘はきいた。顔を上げれば、見知った人物であった。
「よう」
そう右手を軽く上げて挨拶するのは、アッシュブラウンの髪を揺らす、彩冬燈葵であった。
「来てくれたか」
「あれじゃあ実質拒否権はないも同然だろう?」
「かもな」
「かもなって……」
燈葵は思わず苦笑した。
「それで、桜之宮さんと椎夏さんは?」
「椎夏はこない」
「なぜ?」
燈葵は首をかしげた。
「あいつがオーナーなのは、桜之宮には言うなよ」
すると燈葵は「なるほど」とまた苦笑を漏らすと、「僕がその約束を守るかな?」とからかう様に言った。
おおよそ予想通りの答えだったのか、弘は肩をすくめると、嘆息した。
「まあいいけど、桜之宮さんはくるんだろう?」
「あぁ」
「けど、どういうことかな」
「何が」
弘がそう言うと、燈葵は後者の方向へと向き直ってから、言った。
「気配がしたんだろう?けど少なくとも僕には気配なんて感じない。本当にいるのかい?」
「さてな」
弘はまたもや肩をすくめた。
「さあって……」
「俺にも気配はまだ感じない。けど椎夏は気づいていたそうだ」
「信用出来るかな?」
「少なくとも、オーナーとしてのお前よりは」
「ひどい言いようだ」
そうはいうものの、燈葵の表情には邪気はなく、リラックスしきっていた。互いに気がしれているという証拠だろうか、気持ち弘もいつもより柔和な感想を抱かせる。
と、その会話の糸を断ち切るように、「おーい」と聞き覚えのある声が投げ掛けられた。桜之宮菜奈花である。
「まった?」
「少し」
弘が答えた。
「行こうか」
燈葵も頷くと、一歩先に進んだ。
「え?」
菜奈花はどこか困惑の表情が顔に出ている。弘は思った、そういえば桜之宮は彩冬がオーナーなのを知らない、なるほど困惑するのも頷けるのである。
「四人目だ、行くぞ」
弘は説明は後で言わんばかりに、学校内へと侵入を試みるよう菜奈花を促した。
しかし菜奈花は首をかしげた。
「どうやって入るの?」
見れば校門は既に閉じられ、南京錠に鍵が下ろしてある。最もよじ登ることはできそうであり、弘もその算段であったが――諦めた。
「どうして、スカートなんだ……」
弘は嘆息した。
諦めの原因は菜奈花の格好が要因していた。上着は隠密を字で書いたような紺のパーカー、チャックの空いた下も黒のトレーナーであるが、下が問題である。色こそ弘からしたら珍しい落ち着いた色合――茶の、膝上丈のスカートである。コーディネートとしては文句ないのは弘も燈葵も恐らく同一の思考のことであろうが、むしろ事が事だけに色々文句だの、気遣いだのが湧いて出る。
が、さすがに女子のコーデに文句を言うのも引けたのか、燈葵が割って入った。
「まあまあ、元より侵入するならアルカナを使えばいいでしょう?」
否、この一言だけで煩わしい情報を伝える手間を省く事も、目的の一つに据えた発言だったのかもしれない。
「それもそっか」
菜奈花も了承すると、弘も頷いた。
そうして三人はそれぞれの一枚目のアルカナを使用すると、楽々と校舎の向こう側へと足を踏み入れた。
しかしその小さな社会も、夜になれば瞬く間に昼間の喧騒を失い、宛ら生きた廃墟の様相を見せつける。そのギャップから人々は不気味がり、ゴーストタウンと称してもさしたる違いも見当たらない。
しかしその学校の正門――既に閉じている――前でスマホを片手に退屈そうに誰を待つ姿があった。
黒橡色の髪が特徴的な、紅葉弘である。
彼はしきりにスマホを見たり、また背後――学校の屋上の方を一瞥したりと、忙しない。見れば、彼は右手にマンダリンガーネットの宝石の指輪が、人差し指にはめられていた。
と、誰かが歩いて来ているのだろう、こちらに向かう足音を弘はきいた。顔を上げれば、見知った人物であった。
「よう」
そう右手を軽く上げて挨拶するのは、アッシュブラウンの髪を揺らす、彩冬燈葵であった。
「来てくれたか」
「あれじゃあ実質拒否権はないも同然だろう?」
「かもな」
「かもなって……」
燈葵は思わず苦笑した。
「それで、桜之宮さんと椎夏さんは?」
「椎夏はこない」
「なぜ?」
燈葵は首をかしげた。
「あいつがオーナーなのは、桜之宮には言うなよ」
すると燈葵は「なるほど」とまた苦笑を漏らすと、「僕がその約束を守るかな?」とからかう様に言った。
おおよそ予想通りの答えだったのか、弘は肩をすくめると、嘆息した。
「まあいいけど、桜之宮さんはくるんだろう?」
「あぁ」
「けど、どういうことかな」
「何が」
弘がそう言うと、燈葵は後者の方向へと向き直ってから、言った。
「気配がしたんだろう?けど少なくとも僕には気配なんて感じない。本当にいるのかい?」
「さてな」
弘はまたもや肩をすくめた。
「さあって……」
「俺にも気配はまだ感じない。けど椎夏は気づいていたそうだ」
「信用出来るかな?」
「少なくとも、オーナーとしてのお前よりは」
「ひどい言いようだ」
そうはいうものの、燈葵の表情には邪気はなく、リラックスしきっていた。互いに気がしれているという証拠だろうか、気持ち弘もいつもより柔和な感想を抱かせる。
と、その会話の糸を断ち切るように、「おーい」と聞き覚えのある声が投げ掛けられた。桜之宮菜奈花である。
「まった?」
「少し」
弘が答えた。
「行こうか」
燈葵も頷くと、一歩先に進んだ。
「え?」
菜奈花はどこか困惑の表情が顔に出ている。弘は思った、そういえば桜之宮は彩冬がオーナーなのを知らない、なるほど困惑するのも頷けるのである。
「四人目だ、行くぞ」
弘は説明は後で言わんばかりに、学校内へと侵入を試みるよう菜奈花を促した。
しかし菜奈花は首をかしげた。
「どうやって入るの?」
見れば校門は既に閉じられ、南京錠に鍵が下ろしてある。最もよじ登ることはできそうであり、弘もその算段であったが――諦めた。
「どうして、スカートなんだ……」
弘は嘆息した。
諦めの原因は菜奈花の格好が要因していた。上着は隠密を字で書いたような紺のパーカー、チャックの空いた下も黒のトレーナーであるが、下が問題である。色こそ弘からしたら珍しい落ち着いた色合――茶の、膝上丈のスカートである。コーディネートとしては文句ないのは弘も燈葵も恐らく同一の思考のことであろうが、むしろ事が事だけに色々文句だの、気遣いだのが湧いて出る。
が、さすがに女子のコーデに文句を言うのも引けたのか、燈葵が割って入った。
「まあまあ、元より侵入するならアルカナを使えばいいでしょう?」
否、この一言だけで煩わしい情報を伝える手間を省く事も、目的の一つに据えた発言だったのかもしれない。
「それもそっか」
菜奈花も了承すると、弘も頷いた。
そうして三人はそれぞれの一枚目のアルカナを使用すると、楽々と校舎の向こう側へと足を踏み入れた。
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