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第三章
―School In The Night.2―
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「なんか、改めて考えると不気味だよね、夜の学校」
時刻は夜の十時を回っている為、校舎の中の明かりといえば非常口の薄暗さのみである。
菜奈花たちはまず、アルカナを使うとそのまま上がった脚力を持って高い校門を楽々と飛び越え、そうして真っ直ぐに菜奈花の持つ小アルカナ、ソードのキングを使って屋上からの侵入を果たしていた。
元から屋上は立ち入り禁止であるが、放課後の段階で屋上は弘があらかじめ偽装した状態で開けて置いたため、特に扉を壊すこともなく無事に侵入できたわけである。
最も気配の根幹も菜奈花曰く屋上らしく、そこから侵入する必要もなかったのだが、どうも現れる気配もないらしく三人とも屋内に退避しているという形である。
特別棟三階、音楽室のある一角であるが、当然人はいない。余談だがこの学校、特別棟は一階には教職関連、保健室等の教室があり、二階は理科実験室等、そして三階は調理室と音楽室、それからからなっている。特別棟を第二校舎と呼ぶ生徒も多い。普通棟は各フロアに下から順に一年、二年と教室が割り振られており、それぞれの校舎を一階と二階の渡り廊下でつないでいるわけであるが、この付波中学校の一つの特徴として、離れの図書館があげられる。
図書室自体は普通棟の三階にあるだが、それとは別に図書館もあるのだ。
校庭側を特別棟、また南向きにしている為、西側の一階渡り廊下、それを西へと行くと、校地の一角にあるのが図書室――館である。赤レンガ造りの、二階建ての小屋であり、中には入口すぐ目の前にあるカウンターを覗くと、所狭しと本棚で埋められている。図書室と違い、ここには勉強用の机は本棚の間に一人用のものしかなく、また埃臭いということも相まって利用者は極端に少ないのも特徴である。
そんなことを説明するのも、燈葵がそれを話題にしたからである。
「夜の学校と言えば……知っている?離れの図書館」
「知ってるけど……どうして夜の学校と言えば、なのよ」
ふと、そういえばこのふたりは確かそんなに面識があったわけではないはずなのに、随分と順応が早いな、と弘は他人事のように考えていた。
「あそこ、出るっていう話だそうだよ?」
「出るって……何が」
「幽霊」
どことなくドヤ顔味を感じさせないでもない燈葵であるが、一方の菜奈花は「へー」と適当な相槌を打つのみにとどまっていた。
「あれ?」
当然予想していた反応とは別のものを見せた菜奈花に、燈葵は拍子抜けを感じてしまった。菜奈花はこうなることを予想していたのだろうか、口を開いた。
「魔法だって幽霊みたいなものでしょう?」
「言われてみれば……」
燈葵はどことなく納得したような表情をしていた。最も、実際に菜奈花が驚かなかったのは、そういう存在が時々見えてしまうが為の耐性……のようなものなのかもしれない。或いは、見えるからこその噂の真偽を正確に把握している、という事という線も考えられる。
「で、まだ気配は感じないが、どうする?」
そんなやりとりは心底どうでもいいのか、弘がいった。
「んー……教室で待機……っていっても、わざわざ普通棟の一階にまで戻るのもねぇ?」と菜奈花、「空き教室とか、このフロアになかったっけ?」
「あったはずだけど、そこでいいんじゃないかな」
燈葵がそう言いながら指すのは、音楽室であった。第一音楽室である。
弘は頷いて、「じゃあ、そこで出るまで待機していよう。さすがに夜の屋上は冷えるだろうし」
これは弘なりの気遣いだったのかもしれない。
菜奈花たち一年の教室は、一階である。勝手に他人の教室に入り込んで要らぬ誤解を招きたくないというのは最早言うまでもなく三人それぞれにとって共通の思慮であったらしい。
かくして三人それぞれがアルカナという異形を身にまとったまま、しかしそれを気にすることなく平然と第一音楽室で休息を取る形となった。
菜奈花は魔術師、弘は皇帝、燈葵は死神である――が、さすがに手に持つ獲物が邪魔だったのか、燈葵がカードに戻すと、それに合わせて残りの二人もカードに戻してみせた。そうして整然と並べられた机と椅子、そこから適当に選んで椅子を引いて座ると、電気も付けることなく薄暗い教室の中で、平然と雑談を始めるのであった。
未だに屋上の気配、それを正確に捉えられていたのはこの場では菜奈花、ただひとりであった。
時刻は夜の十時を回っている為、校舎の中の明かりといえば非常口の薄暗さのみである。
菜奈花たちはまず、アルカナを使うとそのまま上がった脚力を持って高い校門を楽々と飛び越え、そうして真っ直ぐに菜奈花の持つ小アルカナ、ソードのキングを使って屋上からの侵入を果たしていた。
元から屋上は立ち入り禁止であるが、放課後の段階で屋上は弘があらかじめ偽装した状態で開けて置いたため、特に扉を壊すこともなく無事に侵入できたわけである。
最も気配の根幹も菜奈花曰く屋上らしく、そこから侵入する必要もなかったのだが、どうも現れる気配もないらしく三人とも屋内に退避しているという形である。
特別棟三階、音楽室のある一角であるが、当然人はいない。余談だがこの学校、特別棟は一階には教職関連、保健室等の教室があり、二階は理科実験室等、そして三階は調理室と音楽室、それからからなっている。特別棟を第二校舎と呼ぶ生徒も多い。普通棟は各フロアに下から順に一年、二年と教室が割り振られており、それぞれの校舎を一階と二階の渡り廊下でつないでいるわけであるが、この付波中学校の一つの特徴として、離れの図書館があげられる。
図書室自体は普通棟の三階にあるだが、それとは別に図書館もあるのだ。
校庭側を特別棟、また南向きにしている為、西側の一階渡り廊下、それを西へと行くと、校地の一角にあるのが図書室――館である。赤レンガ造りの、二階建ての小屋であり、中には入口すぐ目の前にあるカウンターを覗くと、所狭しと本棚で埋められている。図書室と違い、ここには勉強用の机は本棚の間に一人用のものしかなく、また埃臭いということも相まって利用者は極端に少ないのも特徴である。
そんなことを説明するのも、燈葵がそれを話題にしたからである。
「夜の学校と言えば……知っている?離れの図書館」
「知ってるけど……どうして夜の学校と言えば、なのよ」
ふと、そういえばこのふたりは確かそんなに面識があったわけではないはずなのに、随分と順応が早いな、と弘は他人事のように考えていた。
「あそこ、出るっていう話だそうだよ?」
「出るって……何が」
「幽霊」
どことなくドヤ顔味を感じさせないでもない燈葵であるが、一方の菜奈花は「へー」と適当な相槌を打つのみにとどまっていた。
「あれ?」
当然予想していた反応とは別のものを見せた菜奈花に、燈葵は拍子抜けを感じてしまった。菜奈花はこうなることを予想していたのだろうか、口を開いた。
「魔法だって幽霊みたいなものでしょう?」
「言われてみれば……」
燈葵はどことなく納得したような表情をしていた。最も、実際に菜奈花が驚かなかったのは、そういう存在が時々見えてしまうが為の耐性……のようなものなのかもしれない。或いは、見えるからこその噂の真偽を正確に把握している、という事という線も考えられる。
「で、まだ気配は感じないが、どうする?」
そんなやりとりは心底どうでもいいのか、弘がいった。
「んー……教室で待機……っていっても、わざわざ普通棟の一階にまで戻るのもねぇ?」と菜奈花、「空き教室とか、このフロアになかったっけ?」
「あったはずだけど、そこでいいんじゃないかな」
燈葵がそう言いながら指すのは、音楽室であった。第一音楽室である。
弘は頷いて、「じゃあ、そこで出るまで待機していよう。さすがに夜の屋上は冷えるだろうし」
これは弘なりの気遣いだったのかもしれない。
菜奈花たち一年の教室は、一階である。勝手に他人の教室に入り込んで要らぬ誤解を招きたくないというのは最早言うまでもなく三人それぞれにとって共通の思慮であったらしい。
かくして三人それぞれがアルカナという異形を身にまとったまま、しかしそれを気にすることなく平然と第一音楽室で休息を取る形となった。
菜奈花は魔術師、弘は皇帝、燈葵は死神である――が、さすがに手に持つ獲物が邪魔だったのか、燈葵がカードに戻すと、それに合わせて残りの二人もカードに戻してみせた。そうして整然と並べられた机と椅子、そこから適当に選んで椅子を引いて座ると、電気も付けることなく薄暗い教室の中で、平然と雑談を始めるのであった。
未だに屋上の気配、それを正確に捉えられていたのはこの場では菜奈花、ただひとりであった。
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