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第三章
―School In The Night.6―
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「では次はこちらの二枚ですね」そういうと、サラマンダーも同様に弘のポケットからカードを取り出して、宙に浮かせてみせた。『皇帝』と、『戦車』である。
「皇帝は魔法の乗っ取り、戦車は……よくわからん」
「そうですね、ひとまずは『皇帝』から説明しましょうか」とサラマンダーもやはりどういう理屈か宙に浮いている。カードの絵柄は弘の横から斜めにして、二人に見えるような位置である。「『皇帝』は魔法の乗っ取り、それは間違ってはいません。なにせ相手の展開した魔法陣の情報を瞬時に改ざんするというものですから」
「てことはやっぱり距離は関係するの?」
菜奈花が聞くと、いままで黙っていたじいさんが口を開いた。
「あぁするとも。この手の魔法陣の展開位置が術者から離れている場合と術者の距離は、切っても切れんでな?」
「ですがこの場合の原理としては、相手の展開している魔法陣の内的魔力を、自分の内的魔力に改ざんするというものですから……実際的には展開する陣の起点は術者です」
「つまり、魔力改ざんをする為の魔法陣を展開して、既に展開してある別の魔法陣を乗っ取るってことか?随分と回りくどいな……」
「本来展開しきった魔法陣の情報を改ざんするのは至難の業ですから、多少回りくどくても仕方ないかと」とサラマンダー、「それと、乗っ取れるのは操作を放棄していない術で、かつ陣が露出している場合に限ります」
と、ここで「まったく」と燈葵が割って入った。「随分と勝手が悪いね。『正義』みたいに使いやすく、それでいてわかりやすくあって欲しいものだよ」
しかしこれには同意しかねるのか、「えっと」と菜奈花がさらに割って入る。
「実際には剣しか触れないから、思っているよりもその……」否定の論点は、わかりやすさについてではないらしい。
「まー小アルカナが使えないんじゃ、立派な剣もせいぜい投擲くらいでしか役に立たないってことね」
ルニのその言葉に燈葵はなるほどと納得の様子こそ見せるが、同時に嘆息もしていた。効果とは裏腹に、圧倒的に使えないとでも思ったのだろうか。
「で、操作を放棄している術って、具体的にどういうことだ?」
「簡単に言えば、誘導系、展開を維持する系統の術のことです。これは『皇帝』が乗っ取って術式の概要そのものを書き換えようとする際、魔法陣はたまらず崩壊するというという関係から成る事象です」
「それじゃ、ひょっとして『正義』よりも使いやすい打ち消しとして活用できるのかな?」
燈葵の中で完全に『正義』は扱いづらい役立たずという認識になったらしく、明らかに卑下した発言であった。菜奈花としては『正義』自体は最初のカードでもあるので愛着自体はあるのだろうが、いかんせんここまでの活躍ぶりを鑑みるに、殊更強く否定もできない、むしろ同意せざるを得ないという微妙な心境であった。
しかしこれはサラマンダーがかぶりを振って否定した。
「『皇帝』は乗っ取れるだけで、打ち消しはできません」
「なぜ?」燈葵が聞いた。
「『皇帝』の魔法陣を乗っ取るための魔法陣は、乗っ取るために相手の術式を安定させる、という副次効果があります。これが移動系、維持系の魔法だけを乗っ取れるという点につながるのです」
「それじゃあ、そういう系統以外は乗っ取れないのか?」弘がきいた。
「いえ、厳密には乗っ取り自体は可能です。ただその場合、乗っ取ったという事実だけができあがるのみで、術式には一切の影響が及ぼされません」とサラマンダー、「書き換えられる要素は、効果のプラスマイナス、それと誘導先だけなのです」
「だから、その二つ以外は……ってことか」と燈葵、「なんか、余計微妙なカードに思えてくるね」
「それについては首肯せざるを得ません。なにせ大アルカナの効力の殆どに対してが無効であり、かと言って小アルカナを乗っ取ろうにもシルフの言うとおりに機会がまず少ないのですから」
菜奈花は一瞬シルフと言われて、誰の事かと視線を巡らした。数秒後ルニが「アタシアタシ」というまでは、彼女の本来の名前――種族名を忘れていたのである。
燈葵の嫌味にしかし菜奈花は恩義を忘れてはいないらしく、「あの時魔法を誘導したのって、『皇帝』……だよね?」とちょっと申し訳なさそうに訪ねた。弘はバツが悪そうに、「あぁ」と短く返事を返した。表情は菜奈花からは俯いててよく見えない。「だったら微妙、なんて私は思わないよ」
菜奈花がそう言うと、燈葵もどこかばつが悪そうな表情を一瞬見せたと思うと思い出したように沈黙が教室内を襲った。
弘には、大方そうやってカードを卑下して、そんな使えないものは僕に渡すといい、とかなんとか言うんだろうな、と思っていた。否、恐らくこういう雰囲気にでもならなければ言うつもりだったのであろう、その証拠に彼はどこか不貞腐れたような表情を表情の下に描いていた。否、これは弘にしか読み取れない表情だろう、菜奈花からは彼は頬杖を付いてどこかイタズラっぽい表情を浮かべているだけしか見えないのだから。
「では、次は『戦車』ですね」と僅かな沈黙を破ったのはサラマンダーであった。オーナーが弘である事からか、沈黙には幾分の耐性があると菜奈花はみた。最もこの場合の沈黙とは別度合いだろうが、精霊に「空気を読む」、なんてのはできないのだろうとルニを一瞥した。事実、ルニは平然と宙で退屈そうにあぐらを書いて、あまつさえには欠伸までする始末であった。
「これは、これまででた大アルカナとは異なる性質を持っています」とサラマンダー、「大アルカナのもつ性質は、二つに分かれます。一つは『正義』、『皇帝』などのように、その効力を身に待とう憑依。そしてもう一つが『戦車』のように実体として外に効力を展開したり、或いは強力な効力を一瞬だけ呼び出したりする……それが召喚です」
「なるほど」と弘、「それで、どういう効果を持つんだ?」
「ありませんよ」
「え?」
この反応は、弘だけのものではなかった。この場にいた三人が同時にそう聞き返していたのである。それもそうであろう、ここまで複雑怪奇な説明を受けていたのに、いきなり特別な効果なんてありませんなんて言われれば、拍子抜けもする。
しかし当の妖精組は素知らぬ顔で、特にサラマンダーに至ってはそのまま反応を顧みずに、説明を続けようとする始末である。
「『戦車』は、白と黒の二頭の馬を生やした車輪付きの台座を召喚できるだけです。強いて特殊性をあげれば台座の耐久は随一ですから壁になるってのと、空を駆けるくらいなら造作もない、という点でしょうか」
そう淡々と話すサラマンダーに対して、三人の目は冷たい。これではただの移動手段でしかないではないかと。ましてや学校で使うにしては狭いだろうな、というのは一度見て、また使ってもいる菜奈花と弘の素直な感想であった。
「よし……次の説明、頼む」
弘は、どうやら匙を投げたらかった。
「皇帝は魔法の乗っ取り、戦車は……よくわからん」
「そうですね、ひとまずは『皇帝』から説明しましょうか」とサラマンダーもやはりどういう理屈か宙に浮いている。カードの絵柄は弘の横から斜めにして、二人に見えるような位置である。「『皇帝』は魔法の乗っ取り、それは間違ってはいません。なにせ相手の展開した魔法陣の情報を瞬時に改ざんするというものですから」
「てことはやっぱり距離は関係するの?」
菜奈花が聞くと、いままで黙っていたじいさんが口を開いた。
「あぁするとも。この手の魔法陣の展開位置が術者から離れている場合と術者の距離は、切っても切れんでな?」
「ですがこの場合の原理としては、相手の展開している魔法陣の内的魔力を、自分の内的魔力に改ざんするというものですから……実際的には展開する陣の起点は術者です」
「つまり、魔力改ざんをする為の魔法陣を展開して、既に展開してある別の魔法陣を乗っ取るってことか?随分と回りくどいな……」
「本来展開しきった魔法陣の情報を改ざんするのは至難の業ですから、多少回りくどくても仕方ないかと」とサラマンダー、「それと、乗っ取れるのは操作を放棄していない術で、かつ陣が露出している場合に限ります」
と、ここで「まったく」と燈葵が割って入った。「随分と勝手が悪いね。『正義』みたいに使いやすく、それでいてわかりやすくあって欲しいものだよ」
しかしこれには同意しかねるのか、「えっと」と菜奈花がさらに割って入る。
「実際には剣しか触れないから、思っているよりもその……」否定の論点は、わかりやすさについてではないらしい。
「まー小アルカナが使えないんじゃ、立派な剣もせいぜい投擲くらいでしか役に立たないってことね」
ルニのその言葉に燈葵はなるほどと納得の様子こそ見せるが、同時に嘆息もしていた。効果とは裏腹に、圧倒的に使えないとでも思ったのだろうか。
「で、操作を放棄している術って、具体的にどういうことだ?」
「簡単に言えば、誘導系、展開を維持する系統の術のことです。これは『皇帝』が乗っ取って術式の概要そのものを書き換えようとする際、魔法陣はたまらず崩壊するというという関係から成る事象です」
「それじゃ、ひょっとして『正義』よりも使いやすい打ち消しとして活用できるのかな?」
燈葵の中で完全に『正義』は扱いづらい役立たずという認識になったらしく、明らかに卑下した発言であった。菜奈花としては『正義』自体は最初のカードでもあるので愛着自体はあるのだろうが、いかんせんここまでの活躍ぶりを鑑みるに、殊更強く否定もできない、むしろ同意せざるを得ないという微妙な心境であった。
しかしこれはサラマンダーがかぶりを振って否定した。
「『皇帝』は乗っ取れるだけで、打ち消しはできません」
「なぜ?」燈葵が聞いた。
「『皇帝』の魔法陣を乗っ取るための魔法陣は、乗っ取るために相手の術式を安定させる、という副次効果があります。これが移動系、維持系の魔法だけを乗っ取れるという点につながるのです」
「それじゃあ、そういう系統以外は乗っ取れないのか?」弘がきいた。
「いえ、厳密には乗っ取り自体は可能です。ただその場合、乗っ取ったという事実だけができあがるのみで、術式には一切の影響が及ぼされません」とサラマンダー、「書き換えられる要素は、効果のプラスマイナス、それと誘導先だけなのです」
「だから、その二つ以外は……ってことか」と燈葵、「なんか、余計微妙なカードに思えてくるね」
「それについては首肯せざるを得ません。なにせ大アルカナの効力の殆どに対してが無効であり、かと言って小アルカナを乗っ取ろうにもシルフの言うとおりに機会がまず少ないのですから」
菜奈花は一瞬シルフと言われて、誰の事かと視線を巡らした。数秒後ルニが「アタシアタシ」というまでは、彼女の本来の名前――種族名を忘れていたのである。
燈葵の嫌味にしかし菜奈花は恩義を忘れてはいないらしく、「あの時魔法を誘導したのって、『皇帝』……だよね?」とちょっと申し訳なさそうに訪ねた。弘はバツが悪そうに、「あぁ」と短く返事を返した。表情は菜奈花からは俯いててよく見えない。「だったら微妙、なんて私は思わないよ」
菜奈花がそう言うと、燈葵もどこかばつが悪そうな表情を一瞬見せたと思うと思い出したように沈黙が教室内を襲った。
弘には、大方そうやってカードを卑下して、そんな使えないものは僕に渡すといい、とかなんとか言うんだろうな、と思っていた。否、恐らくこういう雰囲気にでもならなければ言うつもりだったのであろう、その証拠に彼はどこか不貞腐れたような表情を表情の下に描いていた。否、これは弘にしか読み取れない表情だろう、菜奈花からは彼は頬杖を付いてどこかイタズラっぽい表情を浮かべているだけしか見えないのだから。
「では、次は『戦車』ですね」と僅かな沈黙を破ったのはサラマンダーであった。オーナーが弘である事からか、沈黙には幾分の耐性があると菜奈花はみた。最もこの場合の沈黙とは別度合いだろうが、精霊に「空気を読む」、なんてのはできないのだろうとルニを一瞥した。事実、ルニは平然と宙で退屈そうにあぐらを書いて、あまつさえには欠伸までする始末であった。
「これは、これまででた大アルカナとは異なる性質を持っています」とサラマンダー、「大アルカナのもつ性質は、二つに分かれます。一つは『正義』、『皇帝』などのように、その効力を身に待とう憑依。そしてもう一つが『戦車』のように実体として外に効力を展開したり、或いは強力な効力を一瞬だけ呼び出したりする……それが召喚です」
「なるほど」と弘、「それで、どういう効果を持つんだ?」
「ありませんよ」
「え?」
この反応は、弘だけのものではなかった。この場にいた三人が同時にそう聞き返していたのである。それもそうであろう、ここまで複雑怪奇な説明を受けていたのに、いきなり特別な効果なんてありませんなんて言われれば、拍子抜けもする。
しかし当の妖精組は素知らぬ顔で、特にサラマンダーに至ってはそのまま反応を顧みずに、説明を続けようとする始末である。
「『戦車』は、白と黒の二頭の馬を生やした車輪付きの台座を召喚できるだけです。強いて特殊性をあげれば台座の耐久は随一ですから壁になるってのと、空を駆けるくらいなら造作もない、という点でしょうか」
そう淡々と話すサラマンダーに対して、三人の目は冷たい。これではただの移動手段でしかないではないかと。ましてや学校で使うにしては狭いだろうな、というのは一度見て、また使ってもいる菜奈花と弘の素直な感想であった。
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