ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第一章

―不思議な不思議な新しい一日・五―

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「本日は大変日柄もよく、また新入生諸君を祝うように快晴に恵まれ、誠に喜ばしい事であります。さて――」
 校長先生の長ったらしい話が始まった。
 体育館にはパイプ椅子が整然と並べられ、前方には菜奈花たち一年生が出席番号順に左から横に、後方には同じように並べられたパイプ椅子に座っている保護者の姿があった。
 ――当然、そこに菜奈花の保護者である叔母はいなかった。
 隣にいる香穂に聞かれないように、悟られないように、菜奈花はそっと嘆息をついき、あくまで目線は前だけを、けれど思考は後方、真後ろを見ているようであった。

「三人……」
「そう、三人」
 菜奈花は中学の制服に身を包んだまま、腕を組んで思案顔をしてみせた。
「でも私をいれて四人なわけでしょ?なら揃えるなんて無理なんじゃないの?」
 しかしパステルグリーンの長い髪の小さな少女は、「そうかもね」とやはり涼しい顔で答えた。
「じゃあ別に私がやる必要はないんじゃないの?」
「それは違うよ。アルカナってのは時と共に具現化し、勝手に暴れまわるの。だから、怪我人が出る前にさっさと止めなきゃいけない」
 菜奈花は腕を組んだまま、右の人差し指を顎に触れて首を傾げた。
「つまり、人任せはダメってこと」
「ええー」と嫌そうな声を上げた菜奈花、「これって、契約なんでしょ?」
「ええ、その通りね」
「一方的な契約……」
「封印を一方的に解いたのは菜奈花」
「けど」と菜奈花、「それなら私にも考えがあるわ」
 腕をといて人差し指を立てたままの右手を、頬の前に出した。
 小さな少女は間を置いて、「どんな」と先を促した。
「契約に対する切り札!その名も――」
 小さな少女はゴクリと生唾を飲み込んだ。
 そして、声高々に勢いよくその名を叫んだ。

!」

 ――叫びは、無情に消えていった。

「何、それ」
 唖然とする小さな少女に菜奈花は、いつの間に入れていたのか、制服のブレザーの右ポケットからスマホを取り出し、何やら操作したあとで見せてきた。
「なになに……?クーリングオフとは、――『一定の契約に限り、一定期間、説明不要で無条件で申込みの撤回または契約を解除できる法制度』……?」
「そう!」と勝ち誇ったように菜奈花はドヤ顔をしてみせた。
「いや、無理に決まってるじゃん」
「なんで!」
 小さな少女はひらりと宙を自在に一頻り飛び回ったあとで、
「私はこの国人間じゃないもの」
 しかし菜奈花は食い下がった。
「だとしても、ここにいる限りはこの国のルールに従うべきよ!」
 けれど小さな少女は「そもそも」と続けた。
「私は精霊。まず大前提として人じゃないの。オッケー?」
 それでも菜奈花は諦めなかった。
「ならあなたの人権は無いってこと?」
「意思があるんだからある程度の人権はそりゃああるでしょう」
 嘆息をついた後で菜奈花は、
「そんな都合のいい話あるはずない」
とジト目で宙に浮く小さな少女に睨みつけた。
「だとしても魔術の類の契約にそんなものは当てはまらないの」
 そこで菜奈花は「ちょっとまって」と再び食いついた。
「今、魔術って――」
 しかし小さな少女はやれやれといった様子で、
「それを今ようやく聞くぅ?」
と呆れ顔を菜奈花に向けた。
 しかし菜奈花は信じられないといった様子で、
「魔術って……そんなものこの科学の時代にあるはず無いじゃん」
「いや本当に今更なんだけど……だったら今まで見てきたその目は節穴かってーの」
「そうは言っても――」
「とにかく、そういう訳だからよろしくー」
 一方的に話を進められて、困惑の様相を未だ隠せない菜奈花に、小さな少女は「あ、そうだ」と思い出したように話を続けた。
「アルカナは置いてっていいよ。指輪さえあれば菜奈花の意思で呼び出せるしね。あ、とーぜん私もキチンと留守番しているから、安心して」
「指輪はどうするのよ」
 すると小さな少女は菜奈花の制服のポケットあたりを指さし、
「入れとけばいいじゃん」
と言い放ったあとで、
「ところで時間はいいの?もう三十分回ってるけど」
とベットの上方にある小物置きの上の目覚まし時計を指さした。
「へ?」と一瞬の凍結フリーズを見せたあと、菜奈花は、
「ああああああそうだ!早く朝ごはん食べて行ってこなくちゃ!」
と大慌てで持っていた『正義ジャスティス』のアルカナを勉強机の上に置き、階段を駆け下りていったのであった。
「ほんっと、慌ただしいったらありゃしない」
 菜奈花の行ったあとの彼女の部屋は、先程までの喧騒けんそうが嘘みたいな静寂が訪れていた。

 回想にふけっていると、校長先生の長ったらしい話はいつの間にか終を告げ、会釈をしているところだった。
 慌てて返しの座礼を、司会の「礼」の言葉で思い出した菜奈花の頭の中に、今校長先生が何を話したのかなどは一切残っていなかった。

 その後も菜奈花は終始今朝の出来事に思いを馳せており、内容の一切を右から左へと受け流していた。
 時折来る座礼の機会にも、終始「慌てて」の二文字が付く程には、心此処にあらずといった様子であった。
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