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第一章
―不思議な不思議な新しい一日・六―
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「そりゃあ、そうだよね」
人の気配が無い静かな下校路の中で、菜奈花はボヤいた。
「だって入学式だもん。普通は、そうだよね」
菜奈花と叔母は別に特別不仲というわけではなかったが、気難しい年頃、というのもあってか、あまり積極的に二人の間に会話が生まれることは無かった。
だからなのか、菜奈花はほぼ決まって放課後は寄り道をする。――例え家に叔母がいなくても。
けれどその日は諦めたのか、歩道の白線だとか縁石だとかの上を落ちないようにして、俯きながら朝と同じ帰路を歩んだ。
「ただいま」
十分も歩けば家に着いた。
午前中で学校が終わったため、まだ正午過ぎでしかない。
菜奈花が遅遅とした足取りで自室に戻った頃には、案外今朝の出来事よりも、叔母さんが来てくれなかったことに関する内心の諦念の方が強かったりしていた。
否、本当は叔母さんよりも――
そこまで考えが及びそうになった時、菜奈花のものではない別の声が、「おかえり」と迎えてくれた。
けれど気にする様子もなく菜奈花は、「うん、ただいま」とカバンを勉強机の上に置いて、クローゼットから服を取り始め、着替え始めた。
「どうだった?」
「まあまあ」
「ふうん」
菜奈花は気にも留めていない様で、着替えの手を止めない。
Yシャツを脱ぎ、黒のTシャツを着、下は白のミニチュールスカートに着替えた。後で着るのか、スエット地のピンクのジップパーカーを取り出し、それを勉強机のローラー付き椅子の背もたれにかけ、そのまま部屋を出た。
「さ、お昼準備しなくちゃ」
菜奈花は部屋の扉を開けっ放しで、中にいた小さな少女を特に気にするでもなく、階段を下りてリビングへといってしまった。
「――菜奈花、ひょっとして元気なかった?」
取り残されたパステルグリーンの長い髪の小さな少女は、やれやれと溜息を一つ、外へと逃がした。
「さあて、お昼どうしようかなぁ」
「当然、私のも作ってくれるのでしょうね?」
リビングにて、シンプルな黒のエプロンを身にまとった菜奈花が、冷蔵庫を開けながら献立を考え込んでいた。
そこには、いつの間に降りてきたのか、小さな少女の姿もあった。
菜奈花は嘆息した後で、
「人じゃないならキャットフードでいい?」
と極めて面倒くさそうに返事した。
「いいわけ無いでしょ!」
「そうは言ってもねぇ……。朝はサンドイッチだったし――」
「私は食べてないんだけど」
すると、一度黒のダイニングテーブルの上の小さな少女の方を向き、
「そりゃあそうでしょ、そもそもカウントしてないんだし」
と極めて冷淡に発した。
まるでその開けっ放しの冷蔵庫の冷気が、そのまま菜奈花に移ったかのような冷淡さ――。
「とにかく!なんか頂戴!」
そう言われると改めて冷蔵庫の中を確認し、
「じゃあ焼きそばでいい?」
と今度は開け放された分幾分温度を取り戻したような返事を小さな少女に寄越した。
「最初からそういう態度をとって欲しいのだけれど」と小さな少女、「そりゃあ未だに私のことが信じられないのはわかってるけどさ?流石に冷たすぎるっていうか。そもそも――」
「よくしゃべるお人形さんよね」
テキパキと必要な道具やら材料やらを取り出し、一通りキッチンに並べながら、暗意に喋るなと言わんばかりの冷淡さを、再び小さな少女へと向けた。
「だから、私は精霊!エレメンタル!」
「はいはい。そういえば、名前とかないの?」
玉ねぎを櫛形切りにしながら、そんなことを聞いた。
「ないよ」
「どうして」
目尻に溜まった水を左腕で拭って、今度はキャベツを適当な大きさに切り始めた。
「どうしてって言われてもないものはないの」
そこで、一度包丁を置いて、
「けど無いと不便じゃない?」
「今更な気がするけどね」
「けど朝は忙しかったの。あなたがタイミング悪く出てきたのが悪いと思うな」
「菜奈花が目覚めさせるタイミングが悪かったからじゃないの?」
「私だって目覚めさせたかったわけじゃないし」と菜奈花、「そもそもこんな悪徳商法みたいな事されておいてはいそうですか、なんてなるとでも思ってるの?」
しかし小さな少女は得意げに、
「けどその悪徳商法で魔法少女に成りましたって、最高に素敵じゃない?」
「でも実際には魔法じゃなくて魔術なんでしょ?」と菜奈花、「そもそも昨今の魔法少女ものは総じて人生ハードモードだってよくネットとかで聞くよ?」
「他所は他所。ウチはウチ」と小さな少女、「そもそも魔法と魔術なんて道具を介するかしないかだけの違いなんだから、そんなに気にしなくてもいいの」
「ふぅん」と菜奈花、「でもやっぱりあなたの名前は付けないと不便だよ。あなた呼び好きじゃないし」
「あら」と小さな少女は意外そうな声を上げた。
「まさか菜奈花から歩み寄ってくれるなんて」
しかし菜奈花は料理を続けながら、「ある程度仲良くなったら契約解消して出てってくれるんでしょ?」
「冗談は言っていいものと悪いものがあるのだけれど?」
「しってる」
袋から焼きそばの素を取り出し、その裏のレシピ通りに適当に具材をフライパンに入れながら平然と答えた。
「まあ、付けてれるならそれは嬉しいけど」
「――その頭の花、なんて言うの?」
手元で焼きそばを炒めながら、ふとそんなことを小さな少女に聞いた。
「ツルニチニチソウ」
一瞬思案するような顔を浮かべたあと、
「じゃあルニで」
「適当!」
「文句言わない」
ルニと名付けられた小さな少女は少し唸った後で、
「じゃあいいよ、ルニで」
と了承の意を示した。
「じゃあルニ」と菜奈花、「料理しながらで悪いけど、聞きたいこと色々あるからね」
「ん、いいよ」
もやしを入れながら、菜奈花は「まず」と話を切り出した。
「あのタロットカードはなんなの?」
ルニはダイニングテーブルの上で飛び回りながら、「正確にはアルカナね」と話し始めた。
「アルカナ、タロット、まあ要するにどっちも一緒なんだけど、ここではアルカナで読んで欲しいかな。で、あのアルカナはとある魔術師が何百年前かに作ったものなの」
「とあるって、誰?」
しかしルニは首を傾げた。
「さあ?」
「さあって――」
「で話を戻すけど」とルニ、「そのアルカナには『光』の力が宿ってるの」
「ルス……?」
「光の事ね。まーよーするに、魔法の力が宿った道具ってとこ。で、菜奈花はその力を解放してアルカナを集めればいいの」
冷蔵庫から卵のパックを取り出し、慣れた手つきであいたフライパンで目玉焼きを作りながら、
「どうすれば集められるの?具現化?して暴れまわっちゃうんでしょ?」
「そりゃあ勿論」とルニ、「戦って指輪の力でカードに封印しちゃえばいいって事」
すると視線をルニへと向け、
「戦うって、私が?」
ルニは「ええ」と、涼しい顔で頷いた。
「生身で?怪我とかは?死んじゃわない?やっぱりハードモードなの?」
極めて早口でまくし立てる菜奈花に、しかしルニは、「生身とはちょっと違うかな?」とあくまで冷静に答えた。
すると菜奈花は「じゃあ」と食いついた。
「魔法少女らしく、『変身』とかできるの?」
ルニは、「できなくもないけれど――」と返した。
「どうやってやるの?」
するとルニは、二階の勉強机の上にあるはずのアルカナを手元に呼び出した。
「これを使うの」
「どう、使うの?投げるの?」
ルニは、深く嘆息した後で、「そんなわけ無いでしょ」と続けた。
「初めて使うアルカナは、まず呪文を唱える必要はあるの」
すると菜奈花は、「お約束だね」、とシンプルな白いお皿に焼きそばを盛り付け、その上に別のフライパンで作った目玉焼きを乗せ、その上から青紫蘇を塗し、「はいできたわよ」と対面式キッチンのカウンターにそれを置いた。
キッチンは、白の掃除が行き届いた対面式で、カウンターが木製になっていた。
「できたって言われても私それ持てそうにないんだけど」
不満げに言うルニに、しかし菜奈花は「だったら少し待ってて」と返した。
「で、お約束かは知らないけど、呪文は唱えなくちゃいけないの」
「どんな?」
二つ目の目玉焼きを焼きながら菜奈花がそう尋ねるとルニは、「ちゃんとよく聞いてね」と前置きしてから、呪文をつらつらと読み上げてくれた。
内心日本語でよかったと思っていた菜奈花に、しかしルニは見透かしていたのか、
「言語は『第一オーナー』に合わせるようにできているの」
と説明した。
「へ、へぇ……」
「だから、別の国の人が『第一オーナー』だったら呪文もその人の言語に変わるわけ」
分かったのか分かってないのか、「不思議だね」なんて言ってから菜奈花は、「けどそもそもどうやって見つけるの?」と別の質問を投げた。
「オーナーならある程度の気配とか、そういうものはある程度の範囲までならわかると思うよ」
「思うよって……」とボヤきながら別の皿によそった別の焼きそばの上に目玉焼きを滑らせるようにして盛り付けた後で、青じそを盛り、「ちなみにどれくらい?」と更に訪ねた。
「おまたせ」とダイニングテーブルに二つの焼きそば(目玉焼き乗せ)を置いた後で、またキッチンへと戻るのを見ながらルニは唸った後で、「徒歩5分くらいの距離まで、かな?」と答えた。
「なんでそんな自信なさげなのよ」
「そりゃ、オーナーの魔力によるからね。菜奈花の魔力を加味した上でこれくらいかな?って感じだからイマイチ自信を持って断言はできないの」
菜奈花はガラスコップに水を入れたのを二つと割り箸、それらを持ってきて、同じくダイニングテーブルに置いた後で、「頂きます」と割り箸を割り、麺に息を吹きかけた後で口に運んだ。
そうするとルニもそれに習ったように器用に割り箸をわろうとするが、イマイチうまくいかない様子であった。
「箸、割れる?」
「無理そう」
すると菜奈花は、「じゃあフォーク持ってくる」とキッチンへと再び足を運ばせ、フォークを取りに行きながら、「でもさ、例えば東京の方にアルカナが出現したらどうするの?」とまた別の質問を投げかけた。
しかしルニは、「それはないよ」と今度はきっぱりと答えた。
「どうして?」と、菜奈花はフォークを持ってきてルニに手渡し、黒のダイニングチェアーに腰かけながら訪ねた。
「アルカナとその他三人のオーナーは、『第一オーナー』、つまり菜奈花の近くにしか現れないの。現れても精々この街の中くらいだと思う」
そう言ってから、ルニは「頂きます」とフォークを使おうと四苦八苦し、諦めたのかその銀フォークを魔法だか何かで宙に浮かし、驚く程器用に扱い始めた。
菜奈花はそれをむしろ関心したように見ながら、「へぇ」と返した。
「さて」と菜奈花、「ご飯冷める前に食べないと」
「それもそうね」とルニ、「食べながらだと頭はいらないだろうし」
「胃に入れたいだけでしょう?」
「まあね」とルニ、「でも美味しいのだからいいじゃない」
――その何気ない一言が菜奈花には嬉しかったらしく、「よかった」とこの時ばかりは素直な感想を呟いた事を、しかしルニは食事に夢中で気がつかずにいた。
人の気配が無い静かな下校路の中で、菜奈花はボヤいた。
「だって入学式だもん。普通は、そうだよね」
菜奈花と叔母は別に特別不仲というわけではなかったが、気難しい年頃、というのもあってか、あまり積極的に二人の間に会話が生まれることは無かった。
だからなのか、菜奈花はほぼ決まって放課後は寄り道をする。――例え家に叔母がいなくても。
けれどその日は諦めたのか、歩道の白線だとか縁石だとかの上を落ちないようにして、俯きながら朝と同じ帰路を歩んだ。
「ただいま」
十分も歩けば家に着いた。
午前中で学校が終わったため、まだ正午過ぎでしかない。
菜奈花が遅遅とした足取りで自室に戻った頃には、案外今朝の出来事よりも、叔母さんが来てくれなかったことに関する内心の諦念の方が強かったりしていた。
否、本当は叔母さんよりも――
そこまで考えが及びそうになった時、菜奈花のものではない別の声が、「おかえり」と迎えてくれた。
けれど気にする様子もなく菜奈花は、「うん、ただいま」とカバンを勉強机の上に置いて、クローゼットから服を取り始め、着替え始めた。
「どうだった?」
「まあまあ」
「ふうん」
菜奈花は気にも留めていない様で、着替えの手を止めない。
Yシャツを脱ぎ、黒のTシャツを着、下は白のミニチュールスカートに着替えた。後で着るのか、スエット地のピンクのジップパーカーを取り出し、それを勉強机のローラー付き椅子の背もたれにかけ、そのまま部屋を出た。
「さ、お昼準備しなくちゃ」
菜奈花は部屋の扉を開けっ放しで、中にいた小さな少女を特に気にするでもなく、階段を下りてリビングへといってしまった。
「――菜奈花、ひょっとして元気なかった?」
取り残されたパステルグリーンの長い髪の小さな少女は、やれやれと溜息を一つ、外へと逃がした。
「さあて、お昼どうしようかなぁ」
「当然、私のも作ってくれるのでしょうね?」
リビングにて、シンプルな黒のエプロンを身にまとった菜奈花が、冷蔵庫を開けながら献立を考え込んでいた。
そこには、いつの間に降りてきたのか、小さな少女の姿もあった。
菜奈花は嘆息した後で、
「人じゃないならキャットフードでいい?」
と極めて面倒くさそうに返事した。
「いいわけ無いでしょ!」
「そうは言ってもねぇ……。朝はサンドイッチだったし――」
「私は食べてないんだけど」
すると、一度黒のダイニングテーブルの上の小さな少女の方を向き、
「そりゃあそうでしょ、そもそもカウントしてないんだし」
と極めて冷淡に発した。
まるでその開けっ放しの冷蔵庫の冷気が、そのまま菜奈花に移ったかのような冷淡さ――。
「とにかく!なんか頂戴!」
そう言われると改めて冷蔵庫の中を確認し、
「じゃあ焼きそばでいい?」
と今度は開け放された分幾分温度を取り戻したような返事を小さな少女に寄越した。
「最初からそういう態度をとって欲しいのだけれど」と小さな少女、「そりゃあ未だに私のことが信じられないのはわかってるけどさ?流石に冷たすぎるっていうか。そもそも――」
「よくしゃべるお人形さんよね」
テキパキと必要な道具やら材料やらを取り出し、一通りキッチンに並べながら、暗意に喋るなと言わんばかりの冷淡さを、再び小さな少女へと向けた。
「だから、私は精霊!エレメンタル!」
「はいはい。そういえば、名前とかないの?」
玉ねぎを櫛形切りにしながら、そんなことを聞いた。
「ないよ」
「どうして」
目尻に溜まった水を左腕で拭って、今度はキャベツを適当な大きさに切り始めた。
「どうしてって言われてもないものはないの」
そこで、一度包丁を置いて、
「けど無いと不便じゃない?」
「今更な気がするけどね」
「けど朝は忙しかったの。あなたがタイミング悪く出てきたのが悪いと思うな」
「菜奈花が目覚めさせるタイミングが悪かったからじゃないの?」
「私だって目覚めさせたかったわけじゃないし」と菜奈花、「そもそもこんな悪徳商法みたいな事されておいてはいそうですか、なんてなるとでも思ってるの?」
しかし小さな少女は得意げに、
「けどその悪徳商法で魔法少女に成りましたって、最高に素敵じゃない?」
「でも実際には魔法じゃなくて魔術なんでしょ?」と菜奈花、「そもそも昨今の魔法少女ものは総じて人生ハードモードだってよくネットとかで聞くよ?」
「他所は他所。ウチはウチ」と小さな少女、「そもそも魔法と魔術なんて道具を介するかしないかだけの違いなんだから、そんなに気にしなくてもいいの」
「ふぅん」と菜奈花、「でもやっぱりあなたの名前は付けないと不便だよ。あなた呼び好きじゃないし」
「あら」と小さな少女は意外そうな声を上げた。
「まさか菜奈花から歩み寄ってくれるなんて」
しかし菜奈花は料理を続けながら、「ある程度仲良くなったら契約解消して出てってくれるんでしょ?」
「冗談は言っていいものと悪いものがあるのだけれど?」
「しってる」
袋から焼きそばの素を取り出し、その裏のレシピ通りに適当に具材をフライパンに入れながら平然と答えた。
「まあ、付けてれるならそれは嬉しいけど」
「――その頭の花、なんて言うの?」
手元で焼きそばを炒めながら、ふとそんなことを小さな少女に聞いた。
「ツルニチニチソウ」
一瞬思案するような顔を浮かべたあと、
「じゃあルニで」
「適当!」
「文句言わない」
ルニと名付けられた小さな少女は少し唸った後で、
「じゃあいいよ、ルニで」
と了承の意を示した。
「じゃあルニ」と菜奈花、「料理しながらで悪いけど、聞きたいこと色々あるからね」
「ん、いいよ」
もやしを入れながら、菜奈花は「まず」と話を切り出した。
「あのタロットカードはなんなの?」
ルニはダイニングテーブルの上で飛び回りながら、「正確にはアルカナね」と話し始めた。
「アルカナ、タロット、まあ要するにどっちも一緒なんだけど、ここではアルカナで読んで欲しいかな。で、あのアルカナはとある魔術師が何百年前かに作ったものなの」
「とあるって、誰?」
しかしルニは首を傾げた。
「さあ?」
「さあって――」
「で話を戻すけど」とルニ、「そのアルカナには『光』の力が宿ってるの」
「ルス……?」
「光の事ね。まーよーするに、魔法の力が宿った道具ってとこ。で、菜奈花はその力を解放してアルカナを集めればいいの」
冷蔵庫から卵のパックを取り出し、慣れた手つきであいたフライパンで目玉焼きを作りながら、
「どうすれば集められるの?具現化?して暴れまわっちゃうんでしょ?」
「そりゃあ勿論」とルニ、「戦って指輪の力でカードに封印しちゃえばいいって事」
すると視線をルニへと向け、
「戦うって、私が?」
ルニは「ええ」と、涼しい顔で頷いた。
「生身で?怪我とかは?死んじゃわない?やっぱりハードモードなの?」
極めて早口でまくし立てる菜奈花に、しかしルニは、「生身とはちょっと違うかな?」とあくまで冷静に答えた。
すると菜奈花は「じゃあ」と食いついた。
「魔法少女らしく、『変身』とかできるの?」
ルニは、「できなくもないけれど――」と返した。
「どうやってやるの?」
するとルニは、二階の勉強机の上にあるはずのアルカナを手元に呼び出した。
「これを使うの」
「どう、使うの?投げるの?」
ルニは、深く嘆息した後で、「そんなわけ無いでしょ」と続けた。
「初めて使うアルカナは、まず呪文を唱える必要はあるの」
すると菜奈花は、「お約束だね」、とシンプルな白いお皿に焼きそばを盛り付け、その上に別のフライパンで作った目玉焼きを乗せ、その上から青紫蘇を塗し、「はいできたわよ」と対面式キッチンのカウンターにそれを置いた。
キッチンは、白の掃除が行き届いた対面式で、カウンターが木製になっていた。
「できたって言われても私それ持てそうにないんだけど」
不満げに言うルニに、しかし菜奈花は「だったら少し待ってて」と返した。
「で、お約束かは知らないけど、呪文は唱えなくちゃいけないの」
「どんな?」
二つ目の目玉焼きを焼きながら菜奈花がそう尋ねるとルニは、「ちゃんとよく聞いてね」と前置きしてから、呪文をつらつらと読み上げてくれた。
内心日本語でよかったと思っていた菜奈花に、しかしルニは見透かしていたのか、
「言語は『第一オーナー』に合わせるようにできているの」
と説明した。
「へ、へぇ……」
「だから、別の国の人が『第一オーナー』だったら呪文もその人の言語に変わるわけ」
分かったのか分かってないのか、「不思議だね」なんて言ってから菜奈花は、「けどそもそもどうやって見つけるの?」と別の質問を投げた。
「オーナーならある程度の気配とか、そういうものはある程度の範囲までならわかると思うよ」
「思うよって……」とボヤきながら別の皿によそった別の焼きそばの上に目玉焼きを滑らせるようにして盛り付けた後で、青じそを盛り、「ちなみにどれくらい?」と更に訪ねた。
「おまたせ」とダイニングテーブルに二つの焼きそば(目玉焼き乗せ)を置いた後で、またキッチンへと戻るのを見ながらルニは唸った後で、「徒歩5分くらいの距離まで、かな?」と答えた。
「なんでそんな自信なさげなのよ」
「そりゃ、オーナーの魔力によるからね。菜奈花の魔力を加味した上でこれくらいかな?って感じだからイマイチ自信を持って断言はできないの」
菜奈花はガラスコップに水を入れたのを二つと割り箸、それらを持ってきて、同じくダイニングテーブルに置いた後で、「頂きます」と割り箸を割り、麺に息を吹きかけた後で口に運んだ。
そうするとルニもそれに習ったように器用に割り箸をわろうとするが、イマイチうまくいかない様子であった。
「箸、割れる?」
「無理そう」
すると菜奈花は、「じゃあフォーク持ってくる」とキッチンへと再び足を運ばせ、フォークを取りに行きながら、「でもさ、例えば東京の方にアルカナが出現したらどうするの?」とまた別の質問を投げかけた。
しかしルニは、「それはないよ」と今度はきっぱりと答えた。
「どうして?」と、菜奈花はフォークを持ってきてルニに手渡し、黒のダイニングチェアーに腰かけながら訪ねた。
「アルカナとその他三人のオーナーは、『第一オーナー』、つまり菜奈花の近くにしか現れないの。現れても精々この街の中くらいだと思う」
そう言ってから、ルニは「頂きます」とフォークを使おうと四苦八苦し、諦めたのかその銀フォークを魔法だか何かで宙に浮かし、驚く程器用に扱い始めた。
菜奈花はそれをむしろ関心したように見ながら、「へぇ」と返した。
「さて」と菜奈花、「ご飯冷める前に食べないと」
「それもそうね」とルニ、「食べながらだと頭はいらないだろうし」
「胃に入れたいだけでしょう?」
「まあね」とルニ、「でも美味しいのだからいいじゃない」
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