ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

文字の大きさ
8 / 70
第一章

―不思議な不思議な新しい一日・七―

しおりを挟む
「ごちそうさま」
 菜奈花が昼飯を食べ終わる頃、しかしルニは未だ半分程しか食べていなかった。
「ルニって食べるの遅いのね」
「そりゃあ、何せ小さいんだから仕方ないでしょ」
「一人前は多すぎたかな……」
 そう呟いた後で、壁掛け時計の方に目をやると、未だ一時半を軽く回った程度であった。
「そういやどこかでかけるの、菜奈花」
「ん、ちょっと買い物」

「――で、何処に行きたいのですか?」
 入学式の終わったあと、LHRロングホームルーム前の合間の時間に、香穂に後ろから声をかけられた。
 座席を右に九十度旋回したあとで菜奈花は、香穂の方を向いた。
「モールとか」
 とか、というのはつまり放課後の寄り道が本来の目的であり、特に寄りたいところが決まっているわけではない、というのは香穂にも理解していたのか、
「では今日はショッピングですね」
と特に気にする様子もなく菜奈花に合わせた。
「うん、新しい春物の服とか欲しいし」
 しかしキチンと目的もあるらしく、その事に香穂は微笑んだ。
「では、三時に菜奈花ちゃんの家に向かいますね」
「うん」

「モール」
「ふぅん。あ、晩御飯はお肉がいい」
 どさくさに紛れて晩ご飯をオーダーするルニに、しかし菜奈花は「はいはい」と至極適当に返した。
 ルニが食事を終える頃、時計の単身は二を回っていた。
「ごちそうさま」
「はーい」
「いつも自分で作ってるの?」
「んー」と菜奈花、「時間があれば大体」
「へぇ、だから妙に手馴れてるわけね」
「けど、基本的なものしかできないよ?」
「基本時なものでも、できれば十分でしょ」
 見ると、綺麗に完食されきった皿が、ルニの前にはあった。
「綺麗に食べたのね」
「美味しかったからね」
「それは良かった」
 ルニの前では今日一番かもしれなかった、その笑顔を漏らした菜奈花に、思わずルニはからかう様な視線を向けた。
「へぇ。菜奈花、そういう顔もするんだ」
「なによ、突然」
 皿を洗い始めながら声だけを返す菜奈花に、ルニは「いや」と続けた。
「私と話しているときはそんな顔してなかった気がしたからさ?」
「そりゃあそうでしょ。いきなりよくわかんないのが現れたら、そりゃあ……ねぇ?」
 「そうかもね」と同意を示した後でルニは、「そういえば」と話を切り出した。
「なに?」
「モール行くんでしょ?」とルニ、「何を買いに行くの?」
「春物の新しい服欲しいなって」
 するとルニはやれやれとダイニングテーブルの上にだらしなく横になった。
「菜奈花もやっぱり女の子だなぁ」
「どうしたの突然」と訝しむような声で菜奈花、「媚びたって夕食はリクエスト通りには行かないよ」
 皿を洗いながら、そう呟く菜奈花に、しかしルニは、「そうでもないかもよ?」と続けた。
「媚ってのは売っておけば、その内どっかで返ってくるものなの」
「そういうものなの?」
 洗い終わった皿を吹きながら聞き返す菜奈花にルニは、「ええ」とだけ返した。
「で、時間はいいの?」
「今何時?」
 あくまで目の前の事が優先なのか、拭き終えた食器を片付けながら聞く菜奈花にたいしてルニは素直に、「二時半」と答えた。
「じゃあまだ三十分くらいあるかな」
「出かけるなら指輪だけは持って行ってね」
 菜奈花はようやく事を終えたのか、先ほどまで食事で座っていたダイニングチェアーに腰掛けて、頬杖をついた。
「それ、朝も言ってたけど、具体的にどうしてなの?」
 するとルニは宙を飛び回りながら、「言ったでしょ」と話を続けた。
「それには力が宿っているの」
「うん」
「まず指輪があれば私や所持しているアルカナを手元に呼び寄せることができる」
 そこで一度ルニは軽い間を置き、「で」とさらに続けた。
「指輪があればさっき言ったように、気配を察知する事もできるってわけ」とルニ、「序でに、アルカナと接敵すれば結界も貼ってくれる」
「つまり、とりあえず持ってればいいって事?」
 ルニは頷いた。
「そゆこと。あ、勿論アルカナを使うときは指輪をしないといけないのは、忘れないでね」
「了解了解」
 そう言うと、菜奈花は椅子から立ち上がり、付けっぱなしのエプロンを脱いで畳み始めた。
「それじゃ、ちょっと準備してくるね」
 そう言うと、菜奈花はエプロンをしまった後で、バタバタと自室へと戻っていってしまった。
「――ま、その時になれば色々菜奈花にもわかるでしょ」
 ルニはダイニングテーブルの上に降り、右手を上向きで前につきだした。
 そのの上に置かれていた『正義ジャスティス』のアルカナを宙に浮かせると、同じようにして新たに五枚の一回り小さなカードがその周りを集会し始めた。
 突如現れたその五枚は、一見『正義』のアルカナから光に包まれて出てきたかのように見え、それらは未だ光に包まれていて、その姿を鮮明に捉えることは叶わなかった。

「まだ目覚めていないアルカナは、――後、二十枚」

 ルニのエメラルド色の瞳は、ただ宙に浮くそれらだけを映していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...