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第一章
―不思議な不思議な新しい一日・八―
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――ピンポーン。
軽い電子音のインターホンが鳴った。
「来た!」
菜奈花は外付してあるカメラに向かわずに、真っ先に玄関へと向かい、鍵を開けて顔を覗き込んだ。
「菜奈花ちゃん、来ましたよ」
外に居たのは予想通り、椎夏香穂であった。
ソフトグレーの外ハネが特徴的なロング髪の香穂は、前髪を左斜めに二つの黒のピンで留め、上は黒のノースリーブトップスに、下は白のスカーチョのスタイルであった。
「うん、私も準備できてるよ」
ピンクのジップパーカーを前を開けたまま羽織り、肩に赤のフェイクレザーのショルダーバッグ、スクエアフォルムのそれを背負った菜奈花は、如何にも準備万端といった感じだった。
一方の香穂も、二段フリルの黒のワンサイズトートバッグを持っており、こちらも準備完了といったところだろうか。
菜奈花は微笑んでから外に出て、鍵を閉めた。
「それでは、行きましょう」
菜奈花が鍵を閉めたのを確認した後で香穂はそう言って、同じように微笑みかけた。
「今日はよく晴れたね」
二人は快晴の空の元を歩き出した。
「ええ、良き散歩日よりですね」
「桜、もう少しで満開かな?」
「どうでしょう……、まだ五分咲きくらいだったかと」
菜奈花の家からモールまでは徒歩で二十分かかる。
モールは高速道路を挟んで反対側にあるわけだから、そこそこ遠かったりするのだが、二人にとってはその移動時間は主にお喋りに消えるわけで、いつもモールまでは徒歩で行っている。
最も、学校からそこまで行くと三、四十分かかるのだから、寄り道用のコースではない。
二人の話題はコロコロ変わっていった。
天気のことに始まり、サクラの話へと変わり、明日の学校の事だとか、部活どうする、だとか。
ふと突然、菜奈花が申し訳なさそうに、
「ごめんね、折角の日に」
なんて言い出した。
香穂はやんわりと微笑みを浮かべると、
「丁度私も、新しい服とか欲しいなって。だから、気にしないで楽しみましょ?」
菜奈花は安心したのか、元気よく「うん!」と頷いた後、香穂が出してきた左手を右手で繋ぎ、鼻歌を歌い始めた。
バスを使う、というのも手なのだろう。
けれど歩ける距離、話せる時間であるのだから、二人がモールに行くときに利用することは殆ど無かった。
「あ、そういえば今日服意外にもね、本屋よっていい?」
「勿論」と香穂、「ところで、どんな本ですか?」
「ほら、この前言ってた漫画の新刊」
「あぁ、あの少女漫画の」
「そう、それそれ」
菜奈花は本を買い漁るのが趣味らしく、既に百は超えているかもしれない、と本人は言う。
実際、菜奈花の自室の本棚の六割はこの類で既に埋まっており、溢れた本を収納する為に二階の自室の隣、元空き部屋は今や書斎となっていた。勿論、その半数以上が菜奈花の買ってきた、或いは旧家から持ってきたものである。
その中でとりわけ多いのが少女漫画であり、菜奈花の所有する本では七割を占めているという。
普段あまり喋らない叔母さんとの唯一の共通趣味らしく、叔母さんもまた、職場に時々借りて持って行ったりしているらしい。
菜奈花にとっては叔母さんと唯一気楽に話せる話題、という立ち位置なのである。
漫画以外にも、ファッション誌や料理本、果てには雑学本なんかにも手をだしており、菜奈花のお小遣いの殆どはこれらのものと服に消えていく。
『インターネットで調べたら出てきそうな事でも、紙の方が落ち着く』とは、菜奈花がよく言うセリフである。
談笑に花を咲かせていると、ピンクの大きな看板のショッピングモールが見えてきた。
市内の多くの中学校が入学式な為、今日は平日にしては車は多い方だ。
胸が高鳴るのを、菜奈花は確かに確認した。
まず向かったのは菜奈花の目的の本屋。
迷うことなく目的の本を見つけるまでに、三分はいらなかった。
「これ、続き気になってたんだよ」
「――確か、アイドルと幼馴染の恋愛漫画、でしたよね」
「そうそう、で、前回の最後の話が、そのアイドルがマグロ漁船に乗ってロケをするんだけど、その漁船が大波に襲われて大変で――」
「それで、幼馴染がアイドルさんからSOSをメールで受け取って、小型艇を借りて救けに向かう――、所で終わったんでしたっけ?」
「そうそう、もうほんっと気になって気になって……」
「読み終わったら香穂ちゃんにも貸すね!」
そう言うと、菜奈花は微笑んだ。
続いて探して本棚から抜いたのは、タロット占いの本――
こちらは探すのに五分ほど要した。
「菜奈花ちゃん、占いに興味があるのですか?」
首を傾げる香穂に菜奈花は、戸惑ったように、
「んと、まあ、そんな感じ?かな?」
と取り繕った。
何かを思案するような表情を一瞬見せた香穂は、しかし微笑んだ。
最も、菜奈花にその微笑みを確認する余裕は無かった。
「是非、私を占ってくださいね」
「う、うん!キチンと練習して、できるようになったら、ね!」
菜奈花はそれだけ言うと、その二冊の本を持って、レジにまで逃げるようにして行ってしまった。
「――是非、占ってくださいね、菜奈花ちゃん」
その背中を見る香穂の表情は、とても柔和なものであった。
軽い電子音のインターホンが鳴った。
「来た!」
菜奈花は外付してあるカメラに向かわずに、真っ先に玄関へと向かい、鍵を開けて顔を覗き込んだ。
「菜奈花ちゃん、来ましたよ」
外に居たのは予想通り、椎夏香穂であった。
ソフトグレーの外ハネが特徴的なロング髪の香穂は、前髪を左斜めに二つの黒のピンで留め、上は黒のノースリーブトップスに、下は白のスカーチョのスタイルであった。
「うん、私も準備できてるよ」
ピンクのジップパーカーを前を開けたまま羽織り、肩に赤のフェイクレザーのショルダーバッグ、スクエアフォルムのそれを背負った菜奈花は、如何にも準備万端といった感じだった。
一方の香穂も、二段フリルの黒のワンサイズトートバッグを持っており、こちらも準備完了といったところだろうか。
菜奈花は微笑んでから外に出て、鍵を閉めた。
「それでは、行きましょう」
菜奈花が鍵を閉めたのを確認した後で香穂はそう言って、同じように微笑みかけた。
「今日はよく晴れたね」
二人は快晴の空の元を歩き出した。
「ええ、良き散歩日よりですね」
「桜、もう少しで満開かな?」
「どうでしょう……、まだ五分咲きくらいだったかと」
菜奈花の家からモールまでは徒歩で二十分かかる。
モールは高速道路を挟んで反対側にあるわけだから、そこそこ遠かったりするのだが、二人にとってはその移動時間は主にお喋りに消えるわけで、いつもモールまでは徒歩で行っている。
最も、学校からそこまで行くと三、四十分かかるのだから、寄り道用のコースではない。
二人の話題はコロコロ変わっていった。
天気のことに始まり、サクラの話へと変わり、明日の学校の事だとか、部活どうする、だとか。
ふと突然、菜奈花が申し訳なさそうに、
「ごめんね、折角の日に」
なんて言い出した。
香穂はやんわりと微笑みを浮かべると、
「丁度私も、新しい服とか欲しいなって。だから、気にしないで楽しみましょ?」
菜奈花は安心したのか、元気よく「うん!」と頷いた後、香穂が出してきた左手を右手で繋ぎ、鼻歌を歌い始めた。
バスを使う、というのも手なのだろう。
けれど歩ける距離、話せる時間であるのだから、二人がモールに行くときに利用することは殆ど無かった。
「あ、そういえば今日服意外にもね、本屋よっていい?」
「勿論」と香穂、「ところで、どんな本ですか?」
「ほら、この前言ってた漫画の新刊」
「あぁ、あの少女漫画の」
「そう、それそれ」
菜奈花は本を買い漁るのが趣味らしく、既に百は超えているかもしれない、と本人は言う。
実際、菜奈花の自室の本棚の六割はこの類で既に埋まっており、溢れた本を収納する為に二階の自室の隣、元空き部屋は今や書斎となっていた。勿論、その半数以上が菜奈花の買ってきた、或いは旧家から持ってきたものである。
その中でとりわけ多いのが少女漫画であり、菜奈花の所有する本では七割を占めているという。
普段あまり喋らない叔母さんとの唯一の共通趣味らしく、叔母さんもまた、職場に時々借りて持って行ったりしているらしい。
菜奈花にとっては叔母さんと唯一気楽に話せる話題、という立ち位置なのである。
漫画以外にも、ファッション誌や料理本、果てには雑学本なんかにも手をだしており、菜奈花のお小遣いの殆どはこれらのものと服に消えていく。
『インターネットで調べたら出てきそうな事でも、紙の方が落ち着く』とは、菜奈花がよく言うセリフである。
談笑に花を咲かせていると、ピンクの大きな看板のショッピングモールが見えてきた。
市内の多くの中学校が入学式な為、今日は平日にしては車は多い方だ。
胸が高鳴るのを、菜奈花は確かに確認した。
まず向かったのは菜奈花の目的の本屋。
迷うことなく目的の本を見つけるまでに、三分はいらなかった。
「これ、続き気になってたんだよ」
「――確か、アイドルと幼馴染の恋愛漫画、でしたよね」
「そうそう、で、前回の最後の話が、そのアイドルがマグロ漁船に乗ってロケをするんだけど、その漁船が大波に襲われて大変で――」
「それで、幼馴染がアイドルさんからSOSをメールで受け取って、小型艇を借りて救けに向かう――、所で終わったんでしたっけ?」
「そうそう、もうほんっと気になって気になって……」
「読み終わったら香穂ちゃんにも貸すね!」
そう言うと、菜奈花は微笑んだ。
続いて探して本棚から抜いたのは、タロット占いの本――
こちらは探すのに五分ほど要した。
「菜奈花ちゃん、占いに興味があるのですか?」
首を傾げる香穂に菜奈花は、戸惑ったように、
「んと、まあ、そんな感じ?かな?」
と取り繕った。
何かを思案するような表情を一瞬見せた香穂は、しかし微笑んだ。
最も、菜奈花にその微笑みを確認する余裕は無かった。
「是非、私を占ってくださいね」
「う、うん!キチンと練習して、できるようになったら、ね!」
菜奈花はそれだけ言うと、その二冊の本を持って、レジにまで逃げるようにして行ってしまった。
「――是非、占ってくださいね、菜奈花ちゃん」
その背中を見る香穂の表情は、とても柔和なものであった。
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