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第一章
―不思議な不思議な新しい一日・九―
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「結構買いましたね」
「そだね」
二階のカフェで香穂はブレンドコーヒーをブラックで、菜奈花はカフェオレを飲みながら、一休みしていた。
二人はあのあと服屋を色々見て回り、二、三着程買っていて、それなりにお金を使ってしまっていた。
「今日はありがとね、香穂ちゃん」
「いえ、私こそ、楽しいですよ」
「この後はどうする?」
思案するような表情を見せた後で香穂は、
「菜奈花ちゃんは何かあります?」
「んー」と菜奈花、「あ、夕飯買っていかなきゃ」
「お付き合いしますよ」
「うん!」
――ふと、妙な気配がした。
菜奈花は時々人ならざるものの気配を察知する事がある。
けれどそれは、総じて存在を認識することはできず、あくまで霧が掛かったような気配が漂ってくるだけであった。
今は――違う。
(この気配――)
「――菜奈花ちゃん?どうかしましたか?」
菜奈花は顔に出やすいタイプだ。
ならば香穂に、菜奈花が何かを感じている、という事を気づかれたのかもしれない。
「うん、なんか変な感じが……」
隠すのが最善手なのかもしれない。
けれど香穂は菜奈花がそういうものを察せるというのは知っているのだから、お茶を濁す方向で行くと決めたらしかった。
菜奈花には、香穂が一瞬目を見開いた様に見えた。
しかし次の瞬間には香穂がよくやる右の人差し指と親指で和を作り、それを口元に持っていく仕草――、思案顔を見せた。
「どうします?」
「行ってみる」
すると香穂は、
「でしたらお代は私が払って起きますから、先に行ってて下さい」
と先を促し、領収書を手にとった。
「そんな、悪いよ」
「いいえ、お構いなく」と香穂、「その代わり、今度は私のお買い物に付き合ってくださいね」
微笑みかける香穂に菜奈花は、「うん」と了承の意を示した。
「場所はスマホで連絡ください」
「わかった!」
そう言うと、菜奈花は早足でカフェを出た後、気配の元へと駆けていった。
「気配の場所は、多分屋上――」
このモールの屋上には、駐車場がある。
程よく広いが、流石に平日、車は屋上には少ないだろうと菜奈花は予測した。
二階のエスカレーターを一気に駆け上がり、屋上へと向かう。
――上へと向かう人を避け、三階。
この上に向かうには階段しかない。
人を避け、躱し、ステップを踏むように階段へ向けて駆ける。
(気配が――)
強くなっていく。
(この先に――)
階段を一段飛ばしで一気に駆け上がる。
手に持つ買った服と、本の入った紙袋の入った不透明のアームバッグ、その持ち手を左の腕にかけ、開けっ放しのジップパーカーの右のポケットに、右手を突っ込む。
そうしてポケットから取り出した、エメラルドの様な宝石が中石として埋め込まれた指輪を、右の中指にはめた。
(もう少しで――)
階段を駆け上がり、自動ドアをくぐって外に――
「きゃああああああああああああああああああああ」
出た瞬間、駐車場の奥の方で女性の悲鳴が上がった。
「何?」
考えるよりも、足が先に動いてた。
菜奈花は女子の中では運動神経は程々にいい方だ。
足も、女子の中では早いほうだと自負しているらしい。
数十秒も走れば、悲鳴の元にたどり着けた。
「何が、あったんですか?」
息を切らしながら、悲鳴を発したであろう人に、話しかける。
「車が!」
「車が?」
声の主は三十代くらいだろうか、香水の匂いがきつい、緩めのパーマの女性の方だった。
その女性の後ろに止めてある車の方に視線を向けたとき、菜奈花は困惑の声を上げた。
「え――」
その困惑の理由は、まさかと菜奈花も疑念を持たずにはいられなかったが、女性の言葉で確信へと直様切り替わった。
「車が、増えてるのよ!」
――言葉通りの意味である。
女性の車なのだろう、白色の軽乗用車が、右のライトの上あたりに軽い傷のあるそれが、色、傷、果てにはナンバープレートすらも全く同じものが、二つに増えているのである。
しかも質の悪いことに、どちらもキチンと駐車スペースに止められており、見れば内部の様子までまるっきり同じ状況らしい。
「どういう事――」
「私が聞きたいわよぉ」と女性、「買い物から戻ってきたらこの様よぉ?」
「まるで――」
「まるで魔法みたい」と女性、「けど気味悪いわぁ。ナンバーまで一緒で、中身も一緒とか怖すぎるわよ」
「これじゃあ、どっちが本物かわからないですね」
そういう菜奈花に、女性は「本当」と返した。
「試しに、鍵を開けてみたら――」
「それが、どっちも反応しちゃうの」
「それじゃあ――」
しかし女性は菜奈花に対して、「ありがと」と言ってから、話を続けた。
「でも大丈夫。一応警察の人呼んでおいたから」
「そうですか……」
気が付けば、先程まで感じていた妙な気配も、感じられなかった。
菜奈花は諦めたように、女性に一礼した後で元来た道を戻り、三階まで戻った後で、香穂に連絡を送ることにした。
(あれってやっぱり――)
香穂からの返事は、ビックリするほど早かった。
「そだね」
二階のカフェで香穂はブレンドコーヒーをブラックで、菜奈花はカフェオレを飲みながら、一休みしていた。
二人はあのあと服屋を色々見て回り、二、三着程買っていて、それなりにお金を使ってしまっていた。
「今日はありがとね、香穂ちゃん」
「いえ、私こそ、楽しいですよ」
「この後はどうする?」
思案するような表情を見せた後で香穂は、
「菜奈花ちゃんは何かあります?」
「んー」と菜奈花、「あ、夕飯買っていかなきゃ」
「お付き合いしますよ」
「うん!」
――ふと、妙な気配がした。
菜奈花は時々人ならざるものの気配を察知する事がある。
けれどそれは、総じて存在を認識することはできず、あくまで霧が掛かったような気配が漂ってくるだけであった。
今は――違う。
(この気配――)
「――菜奈花ちゃん?どうかしましたか?」
菜奈花は顔に出やすいタイプだ。
ならば香穂に、菜奈花が何かを感じている、という事を気づかれたのかもしれない。
「うん、なんか変な感じが……」
隠すのが最善手なのかもしれない。
けれど香穂は菜奈花がそういうものを察せるというのは知っているのだから、お茶を濁す方向で行くと決めたらしかった。
菜奈花には、香穂が一瞬目を見開いた様に見えた。
しかし次の瞬間には香穂がよくやる右の人差し指と親指で和を作り、それを口元に持っていく仕草――、思案顔を見せた。
「どうします?」
「行ってみる」
すると香穂は、
「でしたらお代は私が払って起きますから、先に行ってて下さい」
と先を促し、領収書を手にとった。
「そんな、悪いよ」
「いいえ、お構いなく」と香穂、「その代わり、今度は私のお買い物に付き合ってくださいね」
微笑みかける香穂に菜奈花は、「うん」と了承の意を示した。
「場所はスマホで連絡ください」
「わかった!」
そう言うと、菜奈花は早足でカフェを出た後、気配の元へと駆けていった。
「気配の場所は、多分屋上――」
このモールの屋上には、駐車場がある。
程よく広いが、流石に平日、車は屋上には少ないだろうと菜奈花は予測した。
二階のエスカレーターを一気に駆け上がり、屋上へと向かう。
――上へと向かう人を避け、三階。
この上に向かうには階段しかない。
人を避け、躱し、ステップを踏むように階段へ向けて駆ける。
(気配が――)
強くなっていく。
(この先に――)
階段を一段飛ばしで一気に駆け上がる。
手に持つ買った服と、本の入った紙袋の入った不透明のアームバッグ、その持ち手を左の腕にかけ、開けっ放しのジップパーカーの右のポケットに、右手を突っ込む。
そうしてポケットから取り出した、エメラルドの様な宝石が中石として埋め込まれた指輪を、右の中指にはめた。
(もう少しで――)
階段を駆け上がり、自動ドアをくぐって外に――
「きゃああああああああああああああああああああ」
出た瞬間、駐車場の奥の方で女性の悲鳴が上がった。
「何?」
考えるよりも、足が先に動いてた。
菜奈花は女子の中では運動神経は程々にいい方だ。
足も、女子の中では早いほうだと自負しているらしい。
数十秒も走れば、悲鳴の元にたどり着けた。
「何が、あったんですか?」
息を切らしながら、悲鳴を発したであろう人に、話しかける。
「車が!」
「車が?」
声の主は三十代くらいだろうか、香水の匂いがきつい、緩めのパーマの女性の方だった。
その女性の後ろに止めてある車の方に視線を向けたとき、菜奈花は困惑の声を上げた。
「え――」
その困惑の理由は、まさかと菜奈花も疑念を持たずにはいられなかったが、女性の言葉で確信へと直様切り替わった。
「車が、増えてるのよ!」
――言葉通りの意味である。
女性の車なのだろう、白色の軽乗用車が、右のライトの上あたりに軽い傷のあるそれが、色、傷、果てにはナンバープレートすらも全く同じものが、二つに増えているのである。
しかも質の悪いことに、どちらもキチンと駐車スペースに止められており、見れば内部の様子までまるっきり同じ状況らしい。
「どういう事――」
「私が聞きたいわよぉ」と女性、「買い物から戻ってきたらこの様よぉ?」
「まるで――」
「まるで魔法みたい」と女性、「けど気味悪いわぁ。ナンバーまで一緒で、中身も一緒とか怖すぎるわよ」
「これじゃあ、どっちが本物かわからないですね」
そういう菜奈花に、女性は「本当」と返した。
「試しに、鍵を開けてみたら――」
「それが、どっちも反応しちゃうの」
「それじゃあ――」
しかし女性は菜奈花に対して、「ありがと」と言ってから、話を続けた。
「でも大丈夫。一応警察の人呼んでおいたから」
「そうですか……」
気が付けば、先程まで感じていた妙な気配も、感じられなかった。
菜奈花は諦めたように、女性に一礼した後で元来た道を戻り、三階まで戻った後で、香穂に連絡を送ることにした。
(あれってやっぱり――)
香穂からの返事は、ビックリするほど早かった。
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