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第一章
―Multiple Indications.2―
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「菜奈花来るよ!」
見れば、『魔術師』であるはずの彼はその右手に携えてあった短杖を掲げ、そしてそれを菜奈花めがけて突き出してきた。
次の瞬間、その杖の先に魔法陣が現れ、その次には彼の下に積まれている机が菜奈花めがけて飛んできた。
「な、危な――」
咄嗟に右方向へ飛び、辛くも交わすが、しかしまた菜奈花めがけて机が飛んできた。
「菜奈花、さっさとアルカナ使わないとくたばっちゃうよ」
「わかってるけど――」
菜奈花に戦闘経験など当然あるはずもなく、ただ無我夢中といった感じで屋上内を全速力で走り始めた。
『魔術師』であるはずの彼を周回するように、それでいて一定距離を保ちながら躱すが、既に何度か当たりそうになっている。
「逃げ続けていたら精度が上がっておじゃんだって」
「あぁぁぁもう、わかった!」
走りながら右手を真横に伸ばし、菜奈花は叫んだ。
――願わくば、怯んで攻撃が止まるのを祈りながら。
「『正義』!」
しかし『魔術師』であるはずの彼の攻撃は、菜奈花の願いとは裏腹に、キッチリと飛んできたのである。
(直撃する――っ!)
そのコースは正確に、菜奈花を捉えていた。
「菜奈花、詠唱を!」
「そっか!」
もう、菜奈花には賭けに出るしかなかった。
「契約を結びしもの、菜奈花が命ずる――」
菜奈花は、目を固く閉じた。
(ダメ――)
「菜奈花、良いから続き!」
けれどその予測した衝撃は、菜奈花には襲ってこなかった。
代わりに、風が――、突風が吹き荒れたのを、音で感じた。
「『光』の力の一片よ、我契約に基づき、その力を解き放て!」
菜奈花は目を見開き、その右手に持つ『正義』のアルカナを、絵柄を上向きにして、地面に突きつけた。
ともすれば転びそうな体制、走る最中に右手を前方の地面に叩きつけたその体制は、しかし一瞬であり、転倒する心配などルニは抱いていなかった。
「『正義』!」
代わりに、菜奈花を光が包んだ。
眩い輝きが、足元に円を描いて現れる。
その円はアルカナを中点として広がり、菜奈花を中心に捉えた。
刹那、光は菜奈花を包み、覆い隠した。
それは一瞬で、長いようで短く、菜奈花の新たを描いた。
やがて光は収束し、菜奈花はそこに新たな姿で佇んでいた。
――菜奈花の後方で、衝撃が訪れた。
「ルニ!」
見ると、二つの机がルニを音のした方へと吹き飛ばしていた。
「こ、これくらい……」
フェンスと机に挟まれた衝撃がルニを襲ったらしく、ルニはフラフラと飛び上がった。
「でもっ!」
しかし菜奈花がルニの方を向いたとき、『魔術師』の方から空を割く轟音が放たれたのが耳に届いた。
「菜奈花、その剣を取って!」
「剣――」
その剣はいつから其処にあったのだろうか、いつの間にか菜奈花の脇に、コンクリートの地面に突き刺さっていた。
黄金の剣格と剣柄に、両刃の白銀の剣。シンプルなそれには、しかし剣身の両面に何やら文字が刻まれていた。
『ANOmvo_liuwaew.ANGo^_liuwaew.』
アルファベットに似た、しかし意味の分からないそれが両面に刻まれているのである。
その剣を手に取る刹那、机が一つ、飛来したのが分かった。
「菜奈花!」
手応えは思いの外軽かった。
鉛を予想した菜奈花は、しかし遥かに軽い手応えに思わずよろけてしまった。
「か、軽っ」
思わずよろけ尻餅をついた結果、菜奈花の目の前を机が通り過ぎていった。
派手な音を立てて後方、フェンスに激突するそれを、冷や汗とともに流しみる菜奈花に、しかし『魔術師』であるはずの彼は同じように、菜奈花に向けてそれを射出した。
「菜奈花、その剣を使って!」
「どうやって」
「剣の使い方なんて決まってるでしょ!」
立ち上がろうにも間に合いそうにない菜奈花は、剣を順手に持ち替えた。
(お願い!)
祈りを込めて剣を振るう菜奈花は、しかし固く目を瞑り、次に来る衝撃に戦慄を抱かずにはいられなかった。
――が、来るはずの衝撃をは愚か、剣に伝わるそれすらもが皆無であり、菜奈花にはただ空を割いた感覚のみがその手にはあった。
「へ?」
困惑する菜奈花に、『魔術師』であるはずの彼は訝しむような視線を向けていたのを、菜奈花は微かに感じ取った。
ルニはフラフラとその場、先ほど吹き飛ばされた辺りに降り立ち、しかし得々とした声で「『正義』はね」と、続けた。
「魔を切り裂き、切り裂いた魔を消し去る――その剣が特徴のアルカナ。あの机の正体は『魔術師』の造り出したものなのだから、そりゃあ当然でしょ」
ルニは一頻り喋り終えると、「後は頑張って」とその場に疲れたように手を後ろに付いて座り、観戦の姿勢を醸し出した。
「じゃあ、この剣があれば――」
「ええ」とルニ、「最初に対峙する相手が相性の良いので良かった、本当に」
「ようし、かかって来なさい、『魔術師』!」
菜奈花はその剣を支えに立ち上がり、両手で剣を持ち、どこかで見たような構えをとった。
右足を僅かに引き、二つの拳を顔の隣で作り、刃先で『魔術師』であるはずの彼を捉える構え、俗に言う雄牛の構えである。最も、菜奈花に剣術の知識など有るはずもなく、であれば構えの根源は漫画の構図にしかない。
一瞬の緊張が、屋上に木霊する。
どちらが先手を取るか、互いに無意識に警戒し合っているような、そんな間が。しかし菜奈花の先手を持ってその一幕は終結、同時に戦闘の再開を色づけた。
「やあああああああああ!」
走る菜奈花に、『魔術師』であるはずの彼は、同じように机を飛ばす。が、それを菜奈花は冷静に、しかし豪快な剣戟を持って消し去った。
振り下ろされた剣を突きの構えで、猪突猛進を地で行く姿勢に、しかし『魔術師』であるはずの彼はひらりと躱し、流れるように至近距離で机を射出した。
「たああああああああ!」
気迫で机を体の捻りを利用して、辛うじて剣で消し去る菜奈花に、しかし『魔術師』であるはずの彼はそのまま滑るようにして距離を取った。
「むう、だめか……」
「よく相手の動きを見ないと、当たるものも当たらないって」
「そうは言っても、何か他に手は無いの?」
ルニは少々の間を取ってから、「無いことはないけれど、無い」と返した。
「何それ、意味わかんない」
向かい来る机を、しかし払いのけるように消し去る菜奈花は『魔術師』であるはずの彼を改めて凝視した。
――ふと、菜奈花は、自身の指輪の中に眠る他の力の事に、気がついた。
力の数は、五つ。アルカナよりは小さく、けれど確かにあるそれを、表に出すように念じてみた。
「……あるじゃん、方法」
念じてみると、『正義』のアルカナよりも一回り小さいカードが五枚、指輪の中から外に放出され、菜奈花の周りを集会し始めた。
何れもソードの描かれたもので、『エース』、『ペイジ』、『ナイト』、『クイーン』、『キング』。
「菜奈花、それは――」
「これを使えばいいんでしょう!」
菜奈花はその内の一つ、『エース』左手に取り、『魔術師』であるはずの彼に向けて掲げた。
『魔術師』であるはずの彼はそれに合わせるように、また机を一つ、菜奈花めがけて射出した。
「これでも喰らって!『ソード』の『エース』!」
見れば、『魔術師』であるはずの彼はその右手に携えてあった短杖を掲げ、そしてそれを菜奈花めがけて突き出してきた。
次の瞬間、その杖の先に魔法陣が現れ、その次には彼の下に積まれている机が菜奈花めがけて飛んできた。
「な、危な――」
咄嗟に右方向へ飛び、辛くも交わすが、しかしまた菜奈花めがけて机が飛んできた。
「菜奈花、さっさとアルカナ使わないとくたばっちゃうよ」
「わかってるけど――」
菜奈花に戦闘経験など当然あるはずもなく、ただ無我夢中といった感じで屋上内を全速力で走り始めた。
『魔術師』であるはずの彼を周回するように、それでいて一定距離を保ちながら躱すが、既に何度か当たりそうになっている。
「逃げ続けていたら精度が上がっておじゃんだって」
「あぁぁぁもう、わかった!」
走りながら右手を真横に伸ばし、菜奈花は叫んだ。
――願わくば、怯んで攻撃が止まるのを祈りながら。
「『正義』!」
しかし『魔術師』であるはずの彼の攻撃は、菜奈花の願いとは裏腹に、キッチリと飛んできたのである。
(直撃する――っ!)
そのコースは正確に、菜奈花を捉えていた。
「菜奈花、詠唱を!」
「そっか!」
もう、菜奈花には賭けに出るしかなかった。
「契約を結びしもの、菜奈花が命ずる――」
菜奈花は、目を固く閉じた。
(ダメ――)
「菜奈花、良いから続き!」
けれどその予測した衝撃は、菜奈花には襲ってこなかった。
代わりに、風が――、突風が吹き荒れたのを、音で感じた。
「『光』の力の一片よ、我契約に基づき、その力を解き放て!」
菜奈花は目を見開き、その右手に持つ『正義』のアルカナを、絵柄を上向きにして、地面に突きつけた。
ともすれば転びそうな体制、走る最中に右手を前方の地面に叩きつけたその体制は、しかし一瞬であり、転倒する心配などルニは抱いていなかった。
「『正義』!」
代わりに、菜奈花を光が包んだ。
眩い輝きが、足元に円を描いて現れる。
その円はアルカナを中点として広がり、菜奈花を中心に捉えた。
刹那、光は菜奈花を包み、覆い隠した。
それは一瞬で、長いようで短く、菜奈花の新たを描いた。
やがて光は収束し、菜奈花はそこに新たな姿で佇んでいた。
――菜奈花の後方で、衝撃が訪れた。
「ルニ!」
見ると、二つの机がルニを音のした方へと吹き飛ばしていた。
「こ、これくらい……」
フェンスと机に挟まれた衝撃がルニを襲ったらしく、ルニはフラフラと飛び上がった。
「でもっ!」
しかし菜奈花がルニの方を向いたとき、『魔術師』の方から空を割く轟音が放たれたのが耳に届いた。
「菜奈花、その剣を取って!」
「剣――」
その剣はいつから其処にあったのだろうか、いつの間にか菜奈花の脇に、コンクリートの地面に突き刺さっていた。
黄金の剣格と剣柄に、両刃の白銀の剣。シンプルなそれには、しかし剣身の両面に何やら文字が刻まれていた。
『ANOmvo_liuwaew.ANGo^_liuwaew.』
アルファベットに似た、しかし意味の分からないそれが両面に刻まれているのである。
その剣を手に取る刹那、机が一つ、飛来したのが分かった。
「菜奈花!」
手応えは思いの外軽かった。
鉛を予想した菜奈花は、しかし遥かに軽い手応えに思わずよろけてしまった。
「か、軽っ」
思わずよろけ尻餅をついた結果、菜奈花の目の前を机が通り過ぎていった。
派手な音を立てて後方、フェンスに激突するそれを、冷や汗とともに流しみる菜奈花に、しかし『魔術師』であるはずの彼は同じように、菜奈花に向けてそれを射出した。
「菜奈花、その剣を使って!」
「どうやって」
「剣の使い方なんて決まってるでしょ!」
立ち上がろうにも間に合いそうにない菜奈花は、剣を順手に持ち替えた。
(お願い!)
祈りを込めて剣を振るう菜奈花は、しかし固く目を瞑り、次に来る衝撃に戦慄を抱かずにはいられなかった。
――が、来るはずの衝撃をは愚か、剣に伝わるそれすらもが皆無であり、菜奈花にはただ空を割いた感覚のみがその手にはあった。
「へ?」
困惑する菜奈花に、『魔術師』であるはずの彼は訝しむような視線を向けていたのを、菜奈花は微かに感じ取った。
ルニはフラフラとその場、先ほど吹き飛ばされた辺りに降り立ち、しかし得々とした声で「『正義』はね」と、続けた。
「魔を切り裂き、切り裂いた魔を消し去る――その剣が特徴のアルカナ。あの机の正体は『魔術師』の造り出したものなのだから、そりゃあ当然でしょ」
ルニは一頻り喋り終えると、「後は頑張って」とその場に疲れたように手を後ろに付いて座り、観戦の姿勢を醸し出した。
「じゃあ、この剣があれば――」
「ええ」とルニ、「最初に対峙する相手が相性の良いので良かった、本当に」
「ようし、かかって来なさい、『魔術師』!」
菜奈花はその剣を支えに立ち上がり、両手で剣を持ち、どこかで見たような構えをとった。
右足を僅かに引き、二つの拳を顔の隣で作り、刃先で『魔術師』であるはずの彼を捉える構え、俗に言う雄牛の構えである。最も、菜奈花に剣術の知識など有るはずもなく、であれば構えの根源は漫画の構図にしかない。
一瞬の緊張が、屋上に木霊する。
どちらが先手を取るか、互いに無意識に警戒し合っているような、そんな間が。しかし菜奈花の先手を持ってその一幕は終結、同時に戦闘の再開を色づけた。
「やあああああああああ!」
走る菜奈花に、『魔術師』であるはずの彼は、同じように机を飛ばす。が、それを菜奈花は冷静に、しかし豪快な剣戟を持って消し去った。
振り下ろされた剣を突きの構えで、猪突猛進を地で行く姿勢に、しかし『魔術師』であるはずの彼はひらりと躱し、流れるように至近距離で机を射出した。
「たああああああああ!」
気迫で机を体の捻りを利用して、辛うじて剣で消し去る菜奈花に、しかし『魔術師』であるはずの彼はそのまま滑るようにして距離を取った。
「むう、だめか……」
「よく相手の動きを見ないと、当たるものも当たらないって」
「そうは言っても、何か他に手は無いの?」
ルニは少々の間を取ってから、「無いことはないけれど、無い」と返した。
「何それ、意味わかんない」
向かい来る机を、しかし払いのけるように消し去る菜奈花は『魔術師』であるはずの彼を改めて凝視した。
――ふと、菜奈花は、自身の指輪の中に眠る他の力の事に、気がついた。
力の数は、五つ。アルカナよりは小さく、けれど確かにあるそれを、表に出すように念じてみた。
「……あるじゃん、方法」
念じてみると、『正義』のアルカナよりも一回り小さいカードが五枚、指輪の中から外に放出され、菜奈花の周りを集会し始めた。
何れもソードの描かれたもので、『エース』、『ペイジ』、『ナイト』、『クイーン』、『キング』。
「菜奈花、それは――」
「これを使えばいいんでしょう!」
菜奈花はその内の一つ、『エース』左手に取り、『魔術師』であるはずの彼に向けて掲げた。
『魔術師』であるはずの彼はそれに合わせるように、また机を一つ、菜奈花めがけて射出した。
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