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第一章
―Multiple Indications.3―
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「桜之宮、どこに行ったんだ?飛び出して行って」
菜奈花が飛び出していったあとの教室は、別に何ら変わりはなく、相変わらずの喧騒を醸し出していた。
紅葉弘の机は廊下側から三列目の一番後ろ、菜奈花がいる時には教室であまり話そうとはしないものの、いない時は香穂とよく短い会話を交わしていた。
わざわざ香穂の机のそばまで行って尋ねる弘に、香穂は視線を向けることなく、独り言を呟くように返した。
「ちょっと、また何かを……ね」
「そっか」
しかし、今日に限ってはそれで終わらず、「そういえば」、と香穂が続けた。
「紅葉君には、何か願いとか――、ありますか?」
弘は僅かな間を置いて、けれど素っ気なく、
「……さあな」
とだけ返し、それ以上の会話を許さなかった。
弘は踵を返し、さっさと自分の席へと戻っていってしまった。
タイミングを見計らったかのように、丁度その時、軽い電子音のチャイムがスピーカーより鳴り響いた。
「菜奈花ちゃん、どうかご無事で」
それでも尚、教室内の喧騒は止む気配を見せずにいた。
「菜奈花、それはダメ!」
「――え?」
菜奈花が『ソード』の『エース』を前に掲げた刹那、しかしそのカードが効果を発する事はなく、そうなると目の前に迫った机を躱せずに、菜奈花は机と共に遥か後方、フェンスの元まで突き飛ばされてしまった。
「菜奈花!」
叫ぶ暇さえなく吹き飛ばされた菜奈花は、腰からフェンスに押し付けられ、そのまま崩れ落ちてしまった。
一緒に落ちる机と、道中で手のから離れたひらひら舞いながら消えた『ソード』の『エース』が菜奈花の視界に映った。
机が地面に落ちる派手な音と共に、菜奈花の持つ剣もまた、独特の金属音と共に、その手からこぼれ落ちた。
「やって……くれるじゃないの……」
けれど菜奈花の腹から腰にかけて来ていた痛みは思いの外小さく、拍子抜けするほど簡単に立ち上がることができた。
「だからやめろって――」
「どうして、何も起きなかったの?」
『魔術師』であるはずの彼を見据えながら、菜奈花はそのままゆっくりと剣を拾い、改めて雄牛の構え――、に近い体制を取った。
ルニは転移で菜奈花の元に来ると、腕を組んで「全く」、と続けた。
「言ったでしょ、『正義』のアルカナの意味は公正とか公平、均衡とか。魔を切り裂いて消し去るなら、当然使用者も同じ条件になるってわけ」
「聞いてないんだけれど……!」
「そだっけ」
『魔術師』であるはずの彼は軽口を叩き合う二人に、また机を一つずつ放出してきた。
突き出した右手のステッキの先にでる魔法陣は青白く発光しており、幻想的な様を描き出す。
けれど菜奈花は自分に向かってきたそれをあっさりと切り消し、ルニはルニで今度は軽々と躱して見せた。
「つまり、このアルカナを使っている状態の時は、あの小さいカードは使えない……ってこと?」
ルニは頷いた。
「そゆこと」とルニ、「あ、小さいのは小アルカナね」
「じゃあ、ひょっとして『正義』って、とんでもなく使い難いんじゃ……」
「そんな事はない」とルニ、「現に菜奈花がシクらなければ優位は変わらなかったんだから」
相変わらずの軽口も、けれどあくまで目線は『魔術師』であるはずの彼を捉え続けており、二人それぞれが各々で警戒を施していた。
「大丈夫」と菜奈花、「だったらまた優位になるだけだから」
菜奈花の黄金のティアラを頭に輝かせており、フードのない、内側の微かな黒が見える白いローブマント。その首元に左右の大きさが違う、それでいて釣り合っている小さな天秤のアクセサリーがチャームポイントの、『正義』の力を纏った格好は、不思議と様になっており、凛々しさすらもを醸し出していた。
菜奈花は目を閉じ一度深呼吸をした。
そうして目を見開くなり、『魔術師』であるはずの彼に向かって、勢いよく飛び出した。
「はああああああああああああああ!」
ローブをはためかせ、内側の黒を露見させながら前だけを、『魔術師』であるはずの彼だけを見据えて突撃する菜奈花に、彼は自身の前に魔法陣を三門展開させ、同じように机を三つ作り、放出した。
菜奈花は冷静に、それでいて大胆に左からの横薙ぎの軌道で三つ同時に消し去ると、菜奈花は何を思ったか、その剣を持つ手を後ろに、思いっきり振りかぶった。
「菜奈花、何を――」
「いっけえええええええええええええええええええええ!」
次の瞬間、菜奈花はその右手に掴む剣を、勢いよく『魔術師』であるはずの彼に向けて投げ放った。
「な、菜奈花!」
剣は思ったよりもずっと早い速度で車輪の動きをしながら、彼めがけて一直線に飛んでいった。
その場にいた誰もが思いもしなかった方法を取った菜奈花に、しかし二人はただ事の顛末を向かい入れたかのように、或いはそうするしか無かったかのように、その剣の行く末を見守った。
事実、顛末に至るまでは一瞬だった。百六十キロ、ど真ん中ストレートなそれは、あっという間に彼の元にたどり着き、そして――。
「やっぱり、そういうことか」
ルニは一人でに納得したように、うんうんと頷いていた。
「~~~~~~!」
『魔術師』であるはずの彼は、剣が大車輪しながら突き刺さるや否や、まるで元々そこにはいなかったかのように姿を消し去りった。
しかし彼は居なかった訳ではなく、声に成らない奇声を発した後で、霧に溶けるようにして消えたのである。
剣は彼を消し去った後、何事もなかったかのようにそのまま弧を描いて地面に突き刺さった。
そうして彼が消えると、彼の足元に積み上がっていた机の山は姿を消し、気が付けば、そこには菜奈花とルニ以外の何者も、何物もなかったのである。
「どういう、こと?」
首を傾げながら力を解いてアルカナに戻す菜奈花に、ルニは「つまり」と続けた。
「そもそも彼自体が『魔術師』の本体が造り出した存在、ってとこでしょ」
「それって――」
「えぇ」とルニ、「要するに擬似的な分身。まさかこんな事もできるとは」
「やれやれ」と座り込むルニに、菜奈花はそっと手に乗るよう促し、肩に乗せた。
「だから、行動がどうも単調だった、って事?」
「恐らく」とルニ、「加えて結界も発動しなかったのは本体じゃなかったから、ってとこでしょ」
菜奈花も思わずその場に崩れるように座り込んだ。
「そっかぁ……」
嘆息を一つ漏らす菜奈花だが、直様ルニに悪態をついた。
「ねぇ、どうして教えてくれなかったの?」
「何が?」
とぼけるルニに、しかし菜奈花はまた一つ嘆息し、「何がじゃないでしょ……」と続けた。
「小アルカナ……だっけ?それもだし、『正義』の効果も」
「そりゃあ、グダグダ説明するよりも実践で試したほうがいいなって」
「それで危ない目に会ったんだよ?」
けれどルニはかえって得意げに、
「そこはほら、身を持ってアルカナにの耐久力を味わって貰おうと――」
しかしその言葉の続きはルニには言えなかった。
右肩に乗ったルニを、菜奈花が左手で雑に掴んだのである。
「ねぇ、ルニ」と菜奈花、「そういうのは要らないの」
ジト目で睨みつける菜奈花に、ルニは吹けもしない口笛を鳴らして誤魔化した。
しかし直ぐにルニは反撃の糸口を掴んだ様で、「あ、そうだ」とおもむろに口を開いた。
「いいの?」
「――へ?」
「時間」
ポカンとした菜奈花に、その言葉を投げかけると、直様立ち上がり、左手に掴むルニと右手の指輪をポケットに終い、走り出した。
「あああああああああああああああああああ忘れてたあああああああああああああ!」
静かな晴天の元に、その声だけが木霊した。
菜奈花が飛び出していったあとの教室は、別に何ら変わりはなく、相変わらずの喧騒を醸し出していた。
紅葉弘の机は廊下側から三列目の一番後ろ、菜奈花がいる時には教室であまり話そうとはしないものの、いない時は香穂とよく短い会話を交わしていた。
わざわざ香穂の机のそばまで行って尋ねる弘に、香穂は視線を向けることなく、独り言を呟くように返した。
「ちょっと、また何かを……ね」
「そっか」
しかし、今日に限ってはそれで終わらず、「そういえば」、と香穂が続けた。
「紅葉君には、何か願いとか――、ありますか?」
弘は僅かな間を置いて、けれど素っ気なく、
「……さあな」
とだけ返し、それ以上の会話を許さなかった。
弘は踵を返し、さっさと自分の席へと戻っていってしまった。
タイミングを見計らったかのように、丁度その時、軽い電子音のチャイムがスピーカーより鳴り響いた。
「菜奈花ちゃん、どうかご無事で」
それでも尚、教室内の喧騒は止む気配を見せずにいた。
「菜奈花、それはダメ!」
「――え?」
菜奈花が『ソード』の『エース』を前に掲げた刹那、しかしそのカードが効果を発する事はなく、そうなると目の前に迫った机を躱せずに、菜奈花は机と共に遥か後方、フェンスの元まで突き飛ばされてしまった。
「菜奈花!」
叫ぶ暇さえなく吹き飛ばされた菜奈花は、腰からフェンスに押し付けられ、そのまま崩れ落ちてしまった。
一緒に落ちる机と、道中で手のから離れたひらひら舞いながら消えた『ソード』の『エース』が菜奈花の視界に映った。
机が地面に落ちる派手な音と共に、菜奈花の持つ剣もまた、独特の金属音と共に、その手からこぼれ落ちた。
「やって……くれるじゃないの……」
けれど菜奈花の腹から腰にかけて来ていた痛みは思いの外小さく、拍子抜けするほど簡単に立ち上がることができた。
「だからやめろって――」
「どうして、何も起きなかったの?」
『魔術師』であるはずの彼を見据えながら、菜奈花はそのままゆっくりと剣を拾い、改めて雄牛の構え――、に近い体制を取った。
ルニは転移で菜奈花の元に来ると、腕を組んで「全く」、と続けた。
「言ったでしょ、『正義』のアルカナの意味は公正とか公平、均衡とか。魔を切り裂いて消し去るなら、当然使用者も同じ条件になるってわけ」
「聞いてないんだけれど……!」
「そだっけ」
『魔術師』であるはずの彼は軽口を叩き合う二人に、また机を一つずつ放出してきた。
突き出した右手のステッキの先にでる魔法陣は青白く発光しており、幻想的な様を描き出す。
けれど菜奈花は自分に向かってきたそれをあっさりと切り消し、ルニはルニで今度は軽々と躱して見せた。
「つまり、このアルカナを使っている状態の時は、あの小さいカードは使えない……ってこと?」
ルニは頷いた。
「そゆこと」とルニ、「あ、小さいのは小アルカナね」
「じゃあ、ひょっとして『正義』って、とんでもなく使い難いんじゃ……」
「そんな事はない」とルニ、「現に菜奈花がシクらなければ優位は変わらなかったんだから」
相変わらずの軽口も、けれどあくまで目線は『魔術師』であるはずの彼を捉え続けており、二人それぞれが各々で警戒を施していた。
「大丈夫」と菜奈花、「だったらまた優位になるだけだから」
菜奈花の黄金のティアラを頭に輝かせており、フードのない、内側の微かな黒が見える白いローブマント。その首元に左右の大きさが違う、それでいて釣り合っている小さな天秤のアクセサリーがチャームポイントの、『正義』の力を纏った格好は、不思議と様になっており、凛々しさすらもを醸し出していた。
菜奈花は目を閉じ一度深呼吸をした。
そうして目を見開くなり、『魔術師』であるはずの彼に向かって、勢いよく飛び出した。
「はああああああああああああああ!」
ローブをはためかせ、内側の黒を露見させながら前だけを、『魔術師』であるはずの彼だけを見据えて突撃する菜奈花に、彼は自身の前に魔法陣を三門展開させ、同じように机を三つ作り、放出した。
菜奈花は冷静に、それでいて大胆に左からの横薙ぎの軌道で三つ同時に消し去ると、菜奈花は何を思ったか、その剣を持つ手を後ろに、思いっきり振りかぶった。
「菜奈花、何を――」
「いっけえええええええええええええええええええええ!」
次の瞬間、菜奈花はその右手に掴む剣を、勢いよく『魔術師』であるはずの彼に向けて投げ放った。
「な、菜奈花!」
剣は思ったよりもずっと早い速度で車輪の動きをしながら、彼めがけて一直線に飛んでいった。
その場にいた誰もが思いもしなかった方法を取った菜奈花に、しかし二人はただ事の顛末を向かい入れたかのように、或いはそうするしか無かったかのように、その剣の行く末を見守った。
事実、顛末に至るまでは一瞬だった。百六十キロ、ど真ん中ストレートなそれは、あっという間に彼の元にたどり着き、そして――。
「やっぱり、そういうことか」
ルニは一人でに納得したように、うんうんと頷いていた。
「~~~~~~!」
『魔術師』であるはずの彼は、剣が大車輪しながら突き刺さるや否や、まるで元々そこにはいなかったかのように姿を消し去りった。
しかし彼は居なかった訳ではなく、声に成らない奇声を発した後で、霧に溶けるようにして消えたのである。
剣は彼を消し去った後、何事もなかったかのようにそのまま弧を描いて地面に突き刺さった。
そうして彼が消えると、彼の足元に積み上がっていた机の山は姿を消し、気が付けば、そこには菜奈花とルニ以外の何者も、何物もなかったのである。
「どういう、こと?」
首を傾げながら力を解いてアルカナに戻す菜奈花に、ルニは「つまり」と続けた。
「そもそも彼自体が『魔術師』の本体が造り出した存在、ってとこでしょ」
「それって――」
「えぇ」とルニ、「要するに擬似的な分身。まさかこんな事もできるとは」
「やれやれ」と座り込むルニに、菜奈花はそっと手に乗るよう促し、肩に乗せた。
「だから、行動がどうも単調だった、って事?」
「恐らく」とルニ、「加えて結界も発動しなかったのは本体じゃなかったから、ってとこでしょ」
菜奈花も思わずその場に崩れるように座り込んだ。
「そっかぁ……」
嘆息を一つ漏らす菜奈花だが、直様ルニに悪態をついた。
「ねぇ、どうして教えてくれなかったの?」
「何が?」
とぼけるルニに、しかし菜奈花はまた一つ嘆息し、「何がじゃないでしょ……」と続けた。
「小アルカナ……だっけ?それもだし、『正義』の効果も」
「そりゃあ、グダグダ説明するよりも実践で試したほうがいいなって」
「それで危ない目に会ったんだよ?」
けれどルニはかえって得意げに、
「そこはほら、身を持ってアルカナにの耐久力を味わって貰おうと――」
しかしその言葉の続きはルニには言えなかった。
右肩に乗ったルニを、菜奈花が左手で雑に掴んだのである。
「ねぇ、ルニ」と菜奈花、「そういうのは要らないの」
ジト目で睨みつける菜奈花に、ルニは吹けもしない口笛を鳴らして誤魔化した。
しかし直ぐにルニは反撃の糸口を掴んだ様で、「あ、そうだ」とおもむろに口を開いた。
「いいの?」
「――へ?」
「時間」
ポカンとした菜奈花に、その言葉を投げかけると、直様立ち上がり、左手に掴むルニと右手の指輪をポケットに終い、走り出した。
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静かな晴天の元に、その声だけが木霊した。
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