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第一章
―Multiple Indications.4―
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「ただいま」
「おかえり、菜奈花ちゃん」
菜奈花が玄関を開け、呟くと、奥から叔母さんの声が帰ってきた。
「あれ、今日、早いんだ……」
呟く様な声に、しかし叔母さんは聞こえていたのか、「今日はちょっと早く帰れたの」と聞こえてきた。
ひょっとしたら、単に呟いただけかもしれない。
リビングに向かうでもなく、真っ直ぐ二階に行ってしまった菜奈花に、叔母さんはそっと溜息をついた。
自室に来ると、まずカバンを勉強机の上に置く。そうして次にクローゼットの元へ行って開け、着替えをはじめた。
「ねえ、出てきて良いよ」
菜奈花が誰ともなくそう言うと、ルニが菜奈花の傍に出てきた。器用にカバンの口を開けるでもなく、転移で出てきたらしく、直前には菜奈花の傍に魔法陣が現れた。
「はぁ、窮屈だった」
ルニは出てくるなり、嘆息を付きながら、右肩をぐるぐると回しだした。
「って言っても仕方ないじゃん」と菜奈花、「転移できるのは私のそばだけなんでしょう?」
「正確には『第一オーナー』の近く、ね」
はいはいと適当に流しながら着替える菜奈花は、袖に手を通し、「よし」と大きく伸びをした。
「さて、じゃあ教えて頂戴?」
菜奈花は、極めて簡素な、白のTシャツ。腰まで隠れるそれに、茶のショートパンツのスタイルに着替えたらしく、そのままドカっとローラー付きの椅子に乱暴に腰掛けた。
「具体的に何から?」
菜奈花は腕を組んで「そうねぇ」としばらく思案すると、「じゃあ」と切り出した。
「まず、あの五枚のカード……、小アルカナは何?」
「これのこと?」
とルニはカバンの底の『正義』を手元に出し、宙に浮かべた。そうすると、やがて『正義』は光出し、そこから五つのカードが現れた。
「そう、それそれ」
五つのカード、小アルカナはそのまま『正義』の周りを回り始めた。
「これは、小アルカナ。『正義』のアルカナの配下カード」
「配下カード?」
ルニ曰く、配下カードとはそれぞれの大アルカナに配られる、支配するカードの事らしく、それぞれのオーナーの第一カードとなるアルカナには五枚。その他のアルカナにには二枚がそれぞれ配下にあるらしい。
全部で五六枚あり、これらは指輪とカードさえあればいつでも使える、ということらしい。
「じゃあつまり、別に別のアルカナの力を使っていても、小アルカナは使えるって事?」
「そう」とルニ、「もっと言えば、別にアルカナを使ってなくても、何なら今すぐにでも使えるわけ」
ルニはそう言うと、菜奈花の前に浮き続けるのを止め、そのまま勉強机の上に後ろに手を付いて座った。
「どうして使えるの?だって配下カードでしょう?」
「オーナーがアルカナを配下にしたら、その配下の持つ配下もまたオーナーの配下になる、ってことでしょ」
極めて適当に返答するルニに、しかし菜奈花は首を傾げた。
「え?え?」
分かっていない様な表情を醸し出す菜奈花に、ルニは嘆息した。
「部下の部下はそれもまた自分の部下、って事」
「……ごめん、余計分かんなくなった」
「あっそ」
ルニは「とにかく、そういう物って事!」と面倒くさそうに、怒気を含んでそれだけ言うと、そのまま横になって目を閉じてしまった。
「あぁ、そう……」
困惑した菜奈花は、渋々立ち上がり、そのまま部屋を後にした。
リビングに行くと、料理をしている叔母さんの姿があった。
菜奈花に気づくと、「今晩は肉じゃがね」と菜奈花の方を向いて話しかけてきた。
事実、改めて匂いを嗅げば、香ばしい肉じゃがの匂いが漂っていた。
「肉じゃが……ですか」
「そう、肉じゃが」
叔母さんは菜奈花の微妙な反応を感じ取ったらしく、「もしかして、気分じゃない?」と思いもしなかった質問を投げかけてきた。
そういう質問を投げかけられると、菜奈花は慌てて取り繕ったように言葉を並べ始めた。
「いいや、好きです、肉じゃが。丁度食べたかったんですよ、はい」
そんな事を言いながら手をワタワタしていると、叔母さんはちょっと微笑んで、「そう、もうちょっと待ってね」と返した。
それっきりの会話はなく、菜奈花はそっと安堵の嘆息をつくと、黒のダイニングチェアー、二つづつある椅子のうち、向かって左側の一番手前、キッチン側から奥のその位置に座った。
いつからか、そこが菜奈花にとっての定位置である。
テーブルの上の本――昨日買ってきたタロット占いの本を徐に開いた。
菜奈花は、自分のスマホこそあれど、あまり弄ろうとはしない。
調べ物をするのでも、わざわざ辞書を使い、それでも分からなかったなら最終手段として使う、といった程度であった。
ゲームアプリもやっておらず、叔母さんが「新作のゲーム機を買ってあげようか」、と言われた事もあったが、それすらも断った過去を持つ。結局、代わりに新書を幾つか買うことでその話は終わり、叔母さんも菜奈花が本の虫だということは重々承知していたのである。
だからこそ菜奈花の趣味に合わせての読書、ただし時間が取れないので漫画、という路線に走ったわけである。
菜奈花が選んだ本は、それぞれのカードが持つ意味から、占いからまでを書かれた丁寧な解説書だった。
「菜奈花ちゃん、占いなんてやるの?」
気が付けば、目の前には皿が並んでいた。
「あぁ、えっと……、ちょっと興味があって」
「へぇ、そしたらさ、占ってよ、そのうち」
「そ、そのうち……ですね」
そんな事を言いながら、食事は始まった。
菜奈花は、そっとページに栞を挟んで本を閉じた。
「おかえり、菜奈花ちゃん」
菜奈花が玄関を開け、呟くと、奥から叔母さんの声が帰ってきた。
「あれ、今日、早いんだ……」
呟く様な声に、しかし叔母さんは聞こえていたのか、「今日はちょっと早く帰れたの」と聞こえてきた。
ひょっとしたら、単に呟いただけかもしれない。
リビングに向かうでもなく、真っ直ぐ二階に行ってしまった菜奈花に、叔母さんはそっと溜息をついた。
自室に来ると、まずカバンを勉強机の上に置く。そうして次にクローゼットの元へ行って開け、着替えをはじめた。
「ねえ、出てきて良いよ」
菜奈花が誰ともなくそう言うと、ルニが菜奈花の傍に出てきた。器用にカバンの口を開けるでもなく、転移で出てきたらしく、直前には菜奈花の傍に魔法陣が現れた。
「はぁ、窮屈だった」
ルニは出てくるなり、嘆息を付きながら、右肩をぐるぐると回しだした。
「って言っても仕方ないじゃん」と菜奈花、「転移できるのは私のそばだけなんでしょう?」
「正確には『第一オーナー』の近く、ね」
はいはいと適当に流しながら着替える菜奈花は、袖に手を通し、「よし」と大きく伸びをした。
「さて、じゃあ教えて頂戴?」
菜奈花は、極めて簡素な、白のTシャツ。腰まで隠れるそれに、茶のショートパンツのスタイルに着替えたらしく、そのままドカっとローラー付きの椅子に乱暴に腰掛けた。
「具体的に何から?」
菜奈花は腕を組んで「そうねぇ」としばらく思案すると、「じゃあ」と切り出した。
「まず、あの五枚のカード……、小アルカナは何?」
「これのこと?」
とルニはカバンの底の『正義』を手元に出し、宙に浮かべた。そうすると、やがて『正義』は光出し、そこから五つのカードが現れた。
「そう、それそれ」
五つのカード、小アルカナはそのまま『正義』の周りを回り始めた。
「これは、小アルカナ。『正義』のアルカナの配下カード」
「配下カード?」
ルニ曰く、配下カードとはそれぞれの大アルカナに配られる、支配するカードの事らしく、それぞれのオーナーの第一カードとなるアルカナには五枚。その他のアルカナにには二枚がそれぞれ配下にあるらしい。
全部で五六枚あり、これらは指輪とカードさえあればいつでも使える、ということらしい。
「じゃあつまり、別に別のアルカナの力を使っていても、小アルカナは使えるって事?」
「そう」とルニ、「もっと言えば、別にアルカナを使ってなくても、何なら今すぐにでも使えるわけ」
ルニはそう言うと、菜奈花の前に浮き続けるのを止め、そのまま勉強机の上に後ろに手を付いて座った。
「どうして使えるの?だって配下カードでしょう?」
「オーナーがアルカナを配下にしたら、その配下の持つ配下もまたオーナーの配下になる、ってことでしょ」
極めて適当に返答するルニに、しかし菜奈花は首を傾げた。
「え?え?」
分かっていない様な表情を醸し出す菜奈花に、ルニは嘆息した。
「部下の部下はそれもまた自分の部下、って事」
「……ごめん、余計分かんなくなった」
「あっそ」
ルニは「とにかく、そういう物って事!」と面倒くさそうに、怒気を含んでそれだけ言うと、そのまま横になって目を閉じてしまった。
「あぁ、そう……」
困惑した菜奈花は、渋々立ち上がり、そのまま部屋を後にした。
リビングに行くと、料理をしている叔母さんの姿があった。
菜奈花に気づくと、「今晩は肉じゃがね」と菜奈花の方を向いて話しかけてきた。
事実、改めて匂いを嗅げば、香ばしい肉じゃがの匂いが漂っていた。
「肉じゃが……ですか」
「そう、肉じゃが」
叔母さんは菜奈花の微妙な反応を感じ取ったらしく、「もしかして、気分じゃない?」と思いもしなかった質問を投げかけてきた。
そういう質問を投げかけられると、菜奈花は慌てて取り繕ったように言葉を並べ始めた。
「いいや、好きです、肉じゃが。丁度食べたかったんですよ、はい」
そんな事を言いながら手をワタワタしていると、叔母さんはちょっと微笑んで、「そう、もうちょっと待ってね」と返した。
それっきりの会話はなく、菜奈花はそっと安堵の嘆息をつくと、黒のダイニングチェアー、二つづつある椅子のうち、向かって左側の一番手前、キッチン側から奥のその位置に座った。
いつからか、そこが菜奈花にとっての定位置である。
テーブルの上の本――昨日買ってきたタロット占いの本を徐に開いた。
菜奈花は、自分のスマホこそあれど、あまり弄ろうとはしない。
調べ物をするのでも、わざわざ辞書を使い、それでも分からなかったなら最終手段として使う、といった程度であった。
ゲームアプリもやっておらず、叔母さんが「新作のゲーム機を買ってあげようか」、と言われた事もあったが、それすらも断った過去を持つ。結局、代わりに新書を幾つか買うことでその話は終わり、叔母さんも菜奈花が本の虫だということは重々承知していたのである。
だからこそ菜奈花の趣味に合わせての読書、ただし時間が取れないので漫画、という路線に走ったわけである。
菜奈花が選んだ本は、それぞれのカードが持つ意味から、占いからまでを書かれた丁寧な解説書だった。
「菜奈花ちゃん、占いなんてやるの?」
気が付けば、目の前には皿が並んでいた。
「あぁ、えっと……、ちょっと興味があって」
「へぇ、そしたらさ、占ってよ、そのうち」
「そ、そのうち……ですね」
そんな事を言いながら、食事は始まった。
菜奈花は、そっとページに栞を挟んで本を閉じた。
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