ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

文字の大きさ
17 / 70
第一章

―Multiple Indications.6―

しおりを挟む
 その日の放課後、菜奈花は噂の場所へとやってきていた。
 香穂は「用事があるので」、と途中で分かれてしまったが、むしろ菜奈花には都合が良かった。
 噂を聞くと、見たのは深夜帯だったらしく、不思議と車の一台も見なかったという話である。
 菜奈花は一応と周囲を警戒したあとで、ルニを呼び出した。
「はいはい、おいでましー」
 ふざけるルニに、しかし菜奈花は極めて自然な無視をかまし、事情を説明した。
 ルニは適宜良く相槌をうちながら、腕組をしていた。
 ルニは周囲に誰もいないとは言え、交通量も大いわけであり、仕方なく菜奈花の手持ちカバン、その口の金具を外し、開けっ放しのその中から、顔だけをひょっこり浮かべている様である。
「で、どう思う?」
 菜奈花の問いに、ルニは軽く唸った。
「多分だけど、当たりだと思う」
「やっぱり?」
「けどもう気配は感じないんでしょう?」
 ルニがそう言うと、菜奈花は 怪訝な表情で頷いた。
「『魔術師』の造り出すものは恒久的ではないからね、仕方ない」
「もっとわかりやすく」
 するとルニは呆れた様に、溜息して言った。
「時間が経ったら消えるって事」
 菜奈花は納得したように「なるほど」、と手を打った。
「え、て事は空振り?」
「時間的にアウトかな」とルニ、「昨日の深夜に出たのなら、もうとっくに消えててもいいはずだろうし」
「なぁんだ、残念」
 菜奈花が踵を返そうとしたとき、またあの妙な感覚が伝うのが分かった。
 けれど今度のは以前のより尚鮮明としており、それでいて直感的に耐え難い何かを感じずにはいられなかった。
「今――」
「間違いないと思う」
 しかし気配は一瞬だった。あくまで一瞬、特急の通過駅の如くの一瞬であった。
 けれど来た方向と、行った方向はまた鮮明で、菜奈花の次の行動には思考の工程を飛び越えていた。つまり、気がついたら駆け出していた。
「追いかけなくちゃ!」
 見れば、丁度信号は青に変わっていた。
「この方角だと、家から逆方向じゃない?」
 ルニの指摘は正しく、方角は家とは逆に向かうものであった。
 国道を南に下りながら走る菜奈花は、未だ微かにその気配を捉えることができていた。
「どこに向かってるの、これ」
 歩道を全速力で駆け菜奈花に、ルニは「スマホ借りるね」と、勝手にカバンの中で操作し始めた。
「使い方知ってるの?」
 息を切らしながら尋ねる菜奈花に、しかしルニは得意げに答えた。
「これでも妖精なの、だから多分楽勝」
 菜奈花は走りながら疑いの表情を浮かべるも、
「だったらマップ開いて。現在地出るはずだから」
と、促した。
 五分も走れば、気配はだんだん捉えることができなくなってきてしまった。が、ルニが上げた声で、彼が何処に向かっているのかの予測は大凡できた。
「これ……、目的地は――」
「ゴルフ場……」
 菜奈花も伊達に二年住んでいるだけあり、一応の目的地は理解することができていた。
 何やらの建物を通り抜けた左、その細い荒道へと左折すれば、そこから先にあるのは、例のゴルフ場である。
「て事は、あの予想は当たってた、って事なのかな」
「かもね。入られる前に追いつかないと」
「うん!」
 とは言え、菜奈花は走り続けているわけで、今以上に速度を上げることは不可能だった。
 結局、二分も走ればあっと言う間に気配は途絶えてしまった。
「ダメ……だった……」
 全速力で走った菜奈花は息を切らしながらその場で膝に手を付き、立ちすくんでしまった。
「貧弱な……」
「人には、限界ってものがある……の」
 ハァハァ言っている菜奈花に、しかしルニは極めて涼しい顔で、「これだから最近の若者は」と、菜奈花もどこかしらで聞き覚えのあるフレーズをボヤいた。
「それ、まさか本当に言う人、いたんだね」と菜奈花、「この歳で聞きたくは……、なかった」とボヤキ返した。
「しかし、めんどうになっちゃったね」
 ルニが溜息混じりにそう言うと、菜奈花も「うん」としか言えなかった。
「どうする?ルニ」
「そりゃあ忍び込むしか」 
 菜奈花は手を顎にやると、思案顔になって、唸りだした。
 そうして、「そうは言っても」と続けた。
「今の時間だと流石にまずいと思うのよ」
 そう返されるとルニは「そっか」と答え、「なら」と続けた。
「今夜、忍び込むしかないね」
「本気?」
 菜奈花は疲れたように反りを一度してから、腰に左手をやった。
「そりゃあ、当然でしょう」とルニ、「ほっとくわけにも行かないし」
 菜奈花は嘆息すると、「仕方ないか……」と無理やり納得し、踵を返した。
「けど、やるならある程度作戦は立てないと」
「なら帰ったら作戦会議、いいね菜奈花」
 菜奈花は結局ソフトテニス部に入部届けを出し、四月一杯は仮入部で五時帰宅が続く。
 となれば現在はまもなく日が落ちるという時間帯であった。
「はいはい」
 そう返す菜奈花の眼前には、沈みかけた黄昏が眩く照りつけていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

処理中です...