ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第一章

―VS.魔術師―

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 その日の夜もまた、星のよく見える空であった。
 天を仰げば春の星々がそれぞれの光を放っており、圧巻そのもである。
 南東方面を除けば春の大曲線が見ることができ、であれば当然、春の大三角も見ることができた。
 最も菜奈花に星座の知識は最低限のものしかなく、アークトゥルスだの、スピカだのいう恒星の名前はなんとなく聞いた、或いは読んだかも知れないという程度である。星座に関しても、今は見ることは叶わないオリオン座が、精々分かる程度である。
 けれど不思議なもので、分からずともその神秘さと壮大さは息を呑む程のものであり、これから起こるであろう出来事に対しての思いは自然、一瞬かすんでいったのである。
 菜奈花の現在に置いて家族の団欒だんらんというものは極端に少なく、食事前からお風呂に入って上がるまでの時間のみが叔母さんとの団欒である。
 菜奈花があまりそうしたがらないのか、叔母さんが気を使っているのか。その為、大凡九時以降には既にリビングの明かりは消え失せる事が多く、以降の時間は互いに部屋に篭りきりになってしまう。
 その為菜奈花は九時以降のテレビを見ることは殆どなく、それは叔母さんもほぼ同じであった。最も、叔母さんの部屋には小型のテレビが有るらしく、時折トイレへと廊下に出たとき、僅かに音が漏れ出ていたりする。
 つまるところ、九時以降の外出であれば案外気づかれる事もなく、菜奈花は比較的安全に、かつ大凡時間通りに家を出ることができたわけである。
 そうして天を仰ぎ見ながら歩く菜奈花は、思わず「綺麗だなぁ」などと、もう何度目かの感慨を虚空に洩らすばかりである。
 ルニもルニで、「本当に」とそう呟き返すばかりであった。
 今のルニは、菜奈花がこの間使用した肩掛けの赤いスクエア型のショルダーバッグではなく、薄桃色のスプリングコート、その右ポケットに居り、そこからひょっこりと顔だけを出している様である。
 菜奈花は、パジャマではなくTシャツとサブリナパンツにそのコートを羽織った形であり、それでいて素足に、薄底で白のダブルリボンが特徴のミュールサンダルをチョイスしていた。
 特段走る事もなく、ひとまずは噂の交差点を経由して、先と同じ経路を辿ることを決めたらしい二人は、しかし星空を見上げながら散歩でもしているかの如くであった。
 噂の場所までは精々十分もかからず、案外近いものである。
 国道のぶつかるそこは、広く整備された綺麗な道路ではあるものの、けれどそれでいて殺風景で、ラーメン屋とコンビニがある程度である。
 行き交う車自体は決して多くはないものの、しかし決して無いわけではなく、むしろ時間に対して鑑みれば多い方である。
 遅い時間に歩いている二人は、交差点に出るまでは敢えて住宅街の間道を歩いており、どうせこの後は国道を途中まで道なりに行くのだから意味がないとは思いながらも、それでもやはり人目にはなるべく付きたくないらしかった。
 下る予定の国道は、市の都市計画として整備されたらしく、他の道路に比べて信号の数が抑えられていたりする。一方で横方向からぶつかり抜ける国道は隣県から続くもので、途中区間ではバイパスとしても使われているという。
 夜空に見とれているからか、はたまた声を潜めたいからか。ひょっとしたら緊張からか、菜奈花の口数は先に比べて格段に少なくなっていた。
 そうしてやがて大通りが見えてきたあたりで、菜奈花は今度もまたハッキリと、あの気配を感じ取り始めた。
「これ、ひょっとして――」
「ビンゴだね」
 菜奈花が気が付くと、ルニも気が付いたらしく、気が付けば走り出していた。
 サンダルは底が薄く、それでいて踵固定のできるもであり、あまり足元を気にすることなく走り出せていたのは、菜奈花のチョイスの賜物たまものである、と言いたい所だが、その実単に素足でスニーカーは嫌だ、という理由だけが本心であった。
 不思議なのは、まだ目的のゴルフ場からは5分以上、つまり菜奈花が察知できるであろうとルニが下した範囲からは未だ遠く、それでいてしかし気配を察知できているという点である。
 更に付け加えるのであれば、二人が感じている事が事実であれば、それはまた重ねて不可思議な事で合った。
「これって、ひょっとして近づいて来てる?」
 走れば当然、向こうが止まっているなら気配が近くなるのは当然のはず。
 けれどこの感じ方は異常であり、明らかに近づいてきているとしか思えなかった。
「そんな馬鹿な……!」
「けど!」
 一つ目の目的地、交差点に出ると、今度は生憎信号は赤で、歩みを止めざるを得ない状況に置いても尚気配は近づいてきており、ならばその事実は確かであると裏付けられてしまった。 
 そうなるとルニも強くは否定したくてもできず、想定外に首を傾げる他なかった。
 信号待ちの間、菜奈花はふと右中指の指輪に目線を落すも、直後に切り替わる信号を見て、また駆け出すべく左足を踏み出した。
 そうして踏み出して中程まで来たとき、唐突に指輪が反応を示し出し、ルニの言う結界という輩が不意に姿を表し、菜奈花を取り巻く景色を覆い隠し始めたのである。
「な、なに!」
 慌てる菜奈花に、けれどルニは冷静に事を判断したらしく、呟いた。
「――結界が、起動した」
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