ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第一章

―VS.魔術師.Ⅳ―

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「菜奈花!」
「大丈夫……平気」
 転移で駆けつけたルニに、しかし力なく微笑んで立ち上がる菜奈花は、その姿を再び元の薄桃色のスプリングコートへと変えていた。
「平気って……」
「本当、大丈夫」と菜奈花、「ちょっとミスっちゃっただけだから」
 油断なくもう一度『正義ジャスティス』を手に取り、姿を変える菜奈花だが、足はおぼろげであり、剣を杖をつくようにしている姿は、ルニには到底そうは思えなかった。
 しかるに菜奈花は、尚も気配のする方向を見据えており、再来の凶刃を今か今かと待ち続けている。
 ルニは、さりとて菜奈花にそれを迎え撃つだけの体力が今現在において尚あるとは思えず、いわんやそれをどうこうできるだけの手段があるとも思えなかった。
 畢竟ひっきょう状況は絶望的である。
 ――やがて二人は、はっとした。
「ねえ、ルニ。私が見えているのは、幻覚?」
「いいえ、菜奈花」と首を横に振るルニ、「あれは、私たちに見える幻覚――」
 なんの冗談であろうか、二人の見上げる天井は、圧巻を通り越した、地獄絵図であった。
 何故『魔術師マジシャン』は菜奈花が格好の的となっていた時、狙わなかったのか。
 その答えが、恐らく天を埋め尽くす魔法陣に有ったのだろう。
 ずっと上でちらついていた気配は、きっとこの時を待っていたのであろう。
 最早こちらの取れうる手段は限りなくゼロに近いのかもしれない。
「綺麗な星空ね」
「本当に」
 半球状のドーム上側を覆い尽くす魔法陣の先にあったのは、菜奈花が待ち続けていた、凶刃。それも、先にましておびただしい数のそれが、全ての刃先が菜奈花を捉えて離さない。
 月光を反射させる刃は、その数と相まって乱反射しており、既に遠い過去のように思われた星空が、二人の脳裏に思い返された。
「やっぱりハードモードなんじゃない、魔法少女って」
「かもしれないね」
 菜奈花は、諦めたように『正義』の剣を虚空に振るうと、その姿をアルカナに戻した。
 さりとて菜奈花は、月光の乱反射をその目でもって返し、もうじき放たれる刃の群衆を見据えて、一枚のカードを指輪から外に排出してみせた。
 望んだものは光の粒子となりて、その姿を形成し、しこうして一枚の小アルカナへと変成した。
「けど、私は諦めない」
 薄桃色のスプリングコートの裾をはためかせながら、その小アルカナを右の人差し指と中指で挟むと、その腕を横に突き出した。
 刹那、夥しい数の群衆は一斉に放たれ、一つの巨大な槍を形成したかの如く、全てが菜奈花目掛けて一直線に飛来した。
「ルニ、手伝って」
 ルニは何度目かの嘆息をすると、
「仕方ない!」
と了承の意を示した。
 月光を乱反射する巨大な槍は、轟音も轟音、けたたましく鳴り響く衝撃音を互いに反響させ合い、やかましいの比ではない。
 二人は逼急ひっきゅうしてくる巨大な槍を見据えながら、菜奈花は小アルカナを発動、ルニはそれに合わせて突風を作り出した。――あの時、学校の屋上でした時と同じように。
「風よ、鉄拳と成りて、眼前の障害を吹きとばせ!」
 それは、風の拳を作り出し、解き放つ小アルカナ。
 それは、この局面をも脱しうる、奇跡の力。
 ルニも菜奈花に合わせて、その一枚の名を叫んだ。
「「『ソード』の『ナイト』!」」
 直後、菜奈花の呼び出したそれは、風を集結させ、ルニの作り出した突風すらも纏い、そうして巨大な槍へと、正面から激突した。
 押し合う二つは、始めこそ均衡を保つが、さりとて一時的な静止は、後々に控える凶刃が目の前の刃を押しのけ、自然形成は崩れ始める。
 畢竟それは次第に勢いを失い――
「「いっけえええええええええええええええええええええええええええええ!」」
二人の叫びとともに、巨大な槍を砕き、群衆は個人へと、そうして二度目の墜落を果たした。
 それでも尚勢いを止めない風の拳は、天にある境界まで一直線に突き進み、ズレの元で勢いよく……爆ぜた。
 菜奈花を避けるようにして突き刺さったり、そうでなかったりする剣は、全てが地に足をつけると消滅、その後についた、地面の傷のみが残るこ事となった。
 一方天の境界にて爆ぜた風圧は、未だ姿を隠していた『魔術師』にも直撃したらしく、声にならない叫びを上げて、墜落するようにして地上にようやっと姿を現した。
 肩で息をする二人の目の前に現れた彼は、やはり姿も形も分身と見分けがつかず、それでいてしかし気配だけはハッキリと鮮明にあった。
「ようやく……、本物のお出ましね……」
 菜奈花は彼を見据えながら、油断なく再び『正義』を纏うと、もう一度あの構え――右足を僅かに引き、二つの拳を顔の隣で作り、刃先で彼を捉えるそれを取った。
 相変わらずの見様見真似の雄牛の構えだが、それでいて独特の緊張感がほとばしった。
「ここで貴方あなたを、配下にしてみせる!」
 菜奈花の気迫が、空気をより一層ピリつかせた。
 
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