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第一章
―VS.魔術師.Ⅶ―
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「今――」
菜奈花は確かに、その言葉を聞き取った。
空気の振動を伴わないその声は、確かに菜奈花に伝わった。
けれど、今尚菜奈花の視線の先にある魔法陣の群衆は捉えて離そうとはしてくれず、この光景を捉えて尚冷や汗を欠かずにいれる程、肝が座っているはずも無かった。
「菜奈花――!」
ルニの叫びも虚しく空に消えると、後に待つのは群衆の一揆のみである。
今か今かと駆け出したそうに構え控える彼らは、宙に投げ出されたまま、ようやく落下を始めようとしている菜奈花――ローブをはためかせながら自由落下を始めている、をそれぞれが見据え捉えていた。
けれどやっぱり菜奈花の瞳には諦めの色は無く、むしろ真っ直ぐと見据え返していた。
(――どうする?『エース』……は、抑えきれるか分からない)
未だ駆け出すことなく構える彼らとは対象に、落下速度が徐々に上がっていく。
(この状況を覆す方法は――)
ひとまず『正義』をアルカナに戻し、スプリングコートの姿へと変わった時、菜奈花の脳裏には先の会話が思い起こされていた。
『最後、――これは鷲を呼び出すの』
(そうだ、あれならきっと――!)
刹那、群衆は痺れを切らしたように――、駆けだした。
爆音と、轟音は喧騒を撒き散らし、全てが一直線に菜奈花を目指しての疾走は、さながら戦乱の開幕を色づけていた。
『ただの鷲じゃないよ。風を操る鷲』
『案外、ていうかめちゃくちゃ使いやすそうね』
『けど今だと生身でしか使えないからね、どちらにしても『正義』を使ったほうが確実でしょう』
「――なによ。結局、確実なんて事は……、全然なかったじゃない」
菜奈花は、逆さまに落下を続ける中で、その右手を群衆の向かい来る方向へと翳してみせた。刹那、その中指に輝くエメラルドのような宝石は、一つの光を描き出した。それは、菜奈花と共に落ち、常にその手の先に有り続け、そうして一つの形を描き出す。
それは、一枚の小アルカナ。
それは、鷲を作り出す小アルカナ。
光は剥がれ落ち、その姿が顕になった時、菜奈花はその手に取り、名を叫び上げた。――喉が悲鳴を上げる程の、天に轟かせすらしうるその声を持って。
「『ソード』の『キング』!」
「我をその背に乗せ、疾風へと誘え!」
剥がれ落ちた光の変わりに、新たな光――、真新しい、神秘的なそれを纏ったカードは、その光を変成し始めた。描く姿は、パステルグリーンの淡い光を伴った、一匹の鷲。翼を猛々しく広げたその様は、大鷲か、或いはそれ以上かの大きさであり、菜奈花の予想を遥かに超える程であった。
群衆はしかし尚気にすることなく、ただただ手柄を立てたいがためか、或いは単に目の前の悪を討ち滅ぼしたいだけなのか、それでいて目の前の巨大鷲に尻込みしたらしく、減速を交えながら、突き進んでくる。
けれど風の巨大鷲はただ主の命に従うのみらしく、菜奈花をその巨大な背中で捉えると、群衆の進行方向から逃れるように、結界のズレにそって滑空を始めた。
そうすると後方の第二陣、第三陣は滑空する巨大鷲を撃ち落とそうと、今度は一揆からハンティングへと移り変わる。
菜奈花は巨大鷲の首にしがみつきながら、必死に食らいついていく。
巨大鷲はその軌跡に突風を散らかしながら進んでいく。
群衆を振り切りながら、けれどその一揆を引き起こした大将目掛けて距離を詰める巨大鷲は、菜奈花の次のプランを反映しているらしかった。
巨大鷲の速度は群衆を振り切るには容易過ぎるものであり、何れも群衆は後方に遅れてやってくる。
「ようし、このままあいつを捕まえるよ!」
対応しきれないらしい『魔術師』は、ヤケでも起こしたのか、つにその群衆を抑え、自らが巨大鷲に目掛けて、地を滑り始めた。
――彼の手には、弓。
「来るよ!」
菜奈花の合図と共に、急速に旋回を開始し、元の十字路のあたりにくると、低空を飛行し始めた。
そうしていると彼は、その弓を綺麗な所作で射抜いて見せた。
六フィートのロングボウから放たれたその矢は、位置的な問題の解消も相まって、正しく目にも止まらぬ超速であり、しかし咄嗟の判断で突っ込んだ事により、菜奈花は事なきを得たのである。
突っ込んだ場所とは、コンビニ。
明らかに入口の自動ドアよりも巨大な両翼を、しかし突風に任せて、入口無き側面から内部を荒らし進み始めると、その直後、後方にて爆発を上げながら何かが飛来したのが菜奈花にもわかった。
恐らく、あれが矢であろ事実は間違いないであろうが、そもそも『魔術師』の方向を向いて観察する余裕など持ち合わせていなかった菜奈花に、その事実を知ることは不可能であった。
「なに!」
寸分の後にコンビニの対の側面を抜けると、彼は弓を消し、今度は剣を三つ射出、けれどそれも絣もしない。
彼の滑る速度も速いには速いものであるが、それでも巨大鷲の方が圧倒的であり、自然距離は維持されたまま、彼を大きく周回する形ができあがっていた。
眼前の障害物はなんのその、その突進力にものを言わせ、ただ突き進んでいるのである。
「どうにかして、捕まえないと――」
優位性は確保したのだから、後はその一点に尽きる。
突風に亜麻色の髪と、薄桃色のスプリングコートをはためかせながら、思考を巡らせた。
そうして二度目の周回を終えた頃、菜奈花は一つの策を思いついた。
「うん――これならきっと行ける!」
もう一度コンビニの中へと追突、侵入した刹那、菜奈花のしがみつく巨大鷲を旋回、コンビニ正面からの突破を思い描くと、巨大鷲もまた、その意思に従い、狭い店内で盛大な突風を吹上げ、急速に旋回をしてみせた。
「菜奈花、何をするつもりなの……?」
その進路の先に居るのは、『魔術師』――素直にそのままコンビニを通り過ぎと予想したらしかった彼は、慌ててその側面、巨大鷲の方へと魔法陣を五門、展開してみせる。
「もう、これでおしまい!」
見れば、菜奈花の手にはまた、一つの小アルカナが光を発していた。
菜奈花は確かに、その言葉を聞き取った。
空気の振動を伴わないその声は、確かに菜奈花に伝わった。
けれど、今尚菜奈花の視線の先にある魔法陣の群衆は捉えて離そうとはしてくれず、この光景を捉えて尚冷や汗を欠かずにいれる程、肝が座っているはずも無かった。
「菜奈花――!」
ルニの叫びも虚しく空に消えると、後に待つのは群衆の一揆のみである。
今か今かと駆け出したそうに構え控える彼らは、宙に投げ出されたまま、ようやく落下を始めようとしている菜奈花――ローブをはためかせながら自由落下を始めている、をそれぞれが見据え捉えていた。
けれどやっぱり菜奈花の瞳には諦めの色は無く、むしろ真っ直ぐと見据え返していた。
(――どうする?『エース』……は、抑えきれるか分からない)
未だ駆け出すことなく構える彼らとは対象に、落下速度が徐々に上がっていく。
(この状況を覆す方法は――)
ひとまず『正義』をアルカナに戻し、スプリングコートの姿へと変わった時、菜奈花の脳裏には先の会話が思い起こされていた。
『最後、――これは鷲を呼び出すの』
(そうだ、あれならきっと――!)
刹那、群衆は痺れを切らしたように――、駆けだした。
爆音と、轟音は喧騒を撒き散らし、全てが一直線に菜奈花を目指しての疾走は、さながら戦乱の開幕を色づけていた。
『ただの鷲じゃないよ。風を操る鷲』
『案外、ていうかめちゃくちゃ使いやすそうね』
『けど今だと生身でしか使えないからね、どちらにしても『正義』を使ったほうが確実でしょう』
「――なによ。結局、確実なんて事は……、全然なかったじゃない」
菜奈花は、逆さまに落下を続ける中で、その右手を群衆の向かい来る方向へと翳してみせた。刹那、その中指に輝くエメラルドのような宝石は、一つの光を描き出した。それは、菜奈花と共に落ち、常にその手の先に有り続け、そうして一つの形を描き出す。
それは、一枚の小アルカナ。
それは、鷲を作り出す小アルカナ。
光は剥がれ落ち、その姿が顕になった時、菜奈花はその手に取り、名を叫び上げた。――喉が悲鳴を上げる程の、天に轟かせすらしうるその声を持って。
「『ソード』の『キング』!」
「我をその背に乗せ、疾風へと誘え!」
剥がれ落ちた光の変わりに、新たな光――、真新しい、神秘的なそれを纏ったカードは、その光を変成し始めた。描く姿は、パステルグリーンの淡い光を伴った、一匹の鷲。翼を猛々しく広げたその様は、大鷲か、或いはそれ以上かの大きさであり、菜奈花の予想を遥かに超える程であった。
群衆はしかし尚気にすることなく、ただただ手柄を立てたいがためか、或いは単に目の前の悪を討ち滅ぼしたいだけなのか、それでいて目の前の巨大鷲に尻込みしたらしく、減速を交えながら、突き進んでくる。
けれど風の巨大鷲はただ主の命に従うのみらしく、菜奈花をその巨大な背中で捉えると、群衆の進行方向から逃れるように、結界のズレにそって滑空を始めた。
そうすると後方の第二陣、第三陣は滑空する巨大鷲を撃ち落とそうと、今度は一揆からハンティングへと移り変わる。
菜奈花は巨大鷲の首にしがみつきながら、必死に食らいついていく。
巨大鷲はその軌跡に突風を散らかしながら進んでいく。
群衆を振り切りながら、けれどその一揆を引き起こした大将目掛けて距離を詰める巨大鷲は、菜奈花の次のプランを反映しているらしかった。
巨大鷲の速度は群衆を振り切るには容易過ぎるものであり、何れも群衆は後方に遅れてやってくる。
「ようし、このままあいつを捕まえるよ!」
対応しきれないらしい『魔術師』は、ヤケでも起こしたのか、つにその群衆を抑え、自らが巨大鷲に目掛けて、地を滑り始めた。
――彼の手には、弓。
「来るよ!」
菜奈花の合図と共に、急速に旋回を開始し、元の十字路のあたりにくると、低空を飛行し始めた。
そうしていると彼は、その弓を綺麗な所作で射抜いて見せた。
六フィートのロングボウから放たれたその矢は、位置的な問題の解消も相まって、正しく目にも止まらぬ超速であり、しかし咄嗟の判断で突っ込んだ事により、菜奈花は事なきを得たのである。
突っ込んだ場所とは、コンビニ。
明らかに入口の自動ドアよりも巨大な両翼を、しかし突風に任せて、入口無き側面から内部を荒らし進み始めると、その直後、後方にて爆発を上げながら何かが飛来したのが菜奈花にもわかった。
恐らく、あれが矢であろ事実は間違いないであろうが、そもそも『魔術師』の方向を向いて観察する余裕など持ち合わせていなかった菜奈花に、その事実を知ることは不可能であった。
「なに!」
寸分の後にコンビニの対の側面を抜けると、彼は弓を消し、今度は剣を三つ射出、けれどそれも絣もしない。
彼の滑る速度も速いには速いものであるが、それでも巨大鷲の方が圧倒的であり、自然距離は維持されたまま、彼を大きく周回する形ができあがっていた。
眼前の障害物はなんのその、その突進力にものを言わせ、ただ突き進んでいるのである。
「どうにかして、捕まえないと――」
優位性は確保したのだから、後はその一点に尽きる。
突風に亜麻色の髪と、薄桃色のスプリングコートをはためかせながら、思考を巡らせた。
そうして二度目の周回を終えた頃、菜奈花は一つの策を思いついた。
「うん――これならきっと行ける!」
もう一度コンビニの中へと追突、侵入した刹那、菜奈花のしがみつく巨大鷲を旋回、コンビニ正面からの突破を思い描くと、巨大鷲もまた、その意思に従い、狭い店内で盛大な突風を吹上げ、急速に旋回をしてみせた。
「菜奈花、何をするつもりなの……?」
その進路の先に居るのは、『魔術師』――素直にそのままコンビニを通り過ぎと予想したらしかった彼は、慌ててその側面、巨大鷲の方へと魔法陣を五門、展開してみせる。
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見れば、菜奈花の手にはまた、一つの小アルカナが光を発していた。
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