ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第一章

―VS.魔術師.Ⅹ―

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 目を開ければ、そこは確かに菜奈花の自宅であり、右手の中にはしっかりと『魔術師マジシャン』があった。
 当惑する菜奈花は二度三度、目をパチパチして、それでも尚信じられないらしく、今度は腕で目をこすり始めた。けれど何度目を擦ったところで、視界に映るのは外の街灯の漏れ入った暗闇であり、足元に視線の先を変えれば、そこは玄関土間である。
「疑ったところで、これは現実だよ」
「ルニ……」
 見ると、ルニは全く怪訝けげんな顔で腕組をしており、その体は宙に居た。
「何が起こったの?」
 菜奈花が比較的控えめな声量でルニに尋ねるも、ルニは顎で上を指し示した。そっと頷きを返すと、サンダルを脱ぎ、極めて閑静かんせいな足取りで、物音を嫌って足を運ぶ。
 とは言え、足音や服の擦れる微音は完全に忍ぶことは、ただの女子中学生には不可能であり、微音と共に鼓動もまた、足早に脈打っている。家の中は案の定の暗闇で、手すりを辿たどって一歩一歩、恐る恐る確かめるようにして足を上げていく。
 ようやく二階まで来ると、光の存在を確認できた。叔母さんの部屋から光が漏れ出ており、同時に音も微かにであるが、漏れ出ていた。
「――が、私は――と睨んでいるのです」
「それは――、――かい?」
と言った具合で、菜奈花は刑事ドラマか何かかと打算してみた。
 そうしてようやくドアノブをそっと縦にすると、そのまま部屋に電気を灯し、菜奈花は大きく嘆息してみせた。
「あー、疲れた……」
 だらしなくベッドまで行くと、菜奈花は両の腕をだらしなく広げ、そのまま崩れるようにして、背からベッドに倒れ込んだ。
 ルニも嘆息すると、「お疲れ」と労いを見せてくれた。
「それで、どうして私は助かったの?」
 あくまで視線の先を天井の一点に向け、声だけをルニへと投げかけた。
 ここまでくれば後は安心らしく、別段声を潜める気も見せない。
 改めて考えてみればあの場で終わりを迎え入れていた可能性すらあるわけで、当然ゾッとしないわけがない。
「あの時、菜奈花の足元に、魔法陣が現れたの」
 その時の菜奈花に、あの光景を見ることは叶わなかった。けれど確かに感覚だけは覚えており、そして今ならそれが何なのかを当てることが出来ると、その正体を呟いた。
「魔術――?」
 けれどルニはかぶりを振り、
「違う。あれは魔術なんかじゃない」
「じゃあ何よ」
 ルニは精一杯の間を置いたあとで、その答えを口にした。
「あれは恐らく、魔法――それも、極めて高度な転移魔法」
 菜奈花は驚愕きょうがくで体を勢いよく起こすと、宙を浮くルニへと顔を寄せた。
「じゃあ……!あの場所に、の魔法使いが居たって事?」
 ルニは頷いた。
「けれど、菜奈花は魔法使いじゃないよ、正確には」
「そこはどうでもいいの」
 菜奈花は改めて嘆息すると、またもやベッドに崩れ込んで、天井に視線の先を向けた。
 菜奈花の右手には未だ『魔術師』のアルカナを二つの指で挟んでおり、改めてそれを目の前に持っていて、まじまじと観察し始めた。
「何はともあれ、本当にお疲れ、菜奈花」
「うん、ありがとう」と菜奈花、「色々あったけど、無事に済んで私も嬉しいの」
「色々と危なかったけどね」とルニ、「無茶も大概に、ね」
「けど、『正義ジャスティス』じゃ数は消せないじゃない」
 そう言われるとルニは何も言い返せないらしく、誤魔化すように咳払いをしてみせた。
「とにかく、色々疑問は残ったけど、今は考えても仕方ないと思う」
 ルニがそう言うと、菜奈花もそれ以上は何も言わず、「そうだね」と頷きを返すのみであった。
「明日も学校でしょう?」
「うん」
「なら疲れただろうし、今日は寝るといいよ」
 そう言われると、菜奈花は思案するような表情を浮かべてから、
「うん。そうする」
 パジャマに着替えるのも億劫らしく、スプリングコートをだらしなく中央の円形、四足テーブルに向けて放り投げると、その足で電気を消し、さっさとベットに潜って行ってしまった。
「おやすみ、菜奈花」
「おやすみ、ルニ」
 菜奈花はそう言うと、目を閉じ、やがて数分の後に寝息をたて始めた。よほど疲れたのか、存外早く眠りについており、ルニはその様相を見て、安堵の溜息を洩らした。
「本当に、お疲れ様」
 事の終わりから何度も繰り返したその言葉は、真意であり、同時にルニ自身の安堵あんどのものでもあった。
 けれど今はそうではなく、ルニの思考はあの時の光景と、感じ取った別の存在のことへと馳せており、その表情は神妙なものであった。
「魔法使い――けれどあれは間違いなく……」 
 けれどその言葉の先を言い切るよりも早く、ルニは何かを感じ取ったらしく、はっと目を丸くした。
「この気配……」
 その気配の正体を、ルニはよく知っている。ルニは関係者であり、つさっきまで対峙していたのだから。
「残り、――」
 ――その言葉を耳にするものは、けれどどこにもいない。返事の代わりに、なびくカーテンから漏れ入る月光が、菜奈花の室内を照らしだしていた。
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