ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

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第一章

―もう一人のオーナー・肆―

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 今朝、弘はうぐいすの鳴く声に呼ばれて、目を覚ました。
 何か夢を見ていた様な気もするし、そうでない気もした。
「朝か……」 
 かすれる視界の色を腕でこすり、明瞭になった視界に映る自分の腕をぼうっと覗く。
 そうして少し経った後、遅々といった感じで起き上がり、布団を二つに谷折りすると、今度は腰を立てたまま某っとしていた。
 結局、夢を見ていたという事実こそ鮮明であれ、如何いかんせん内容が不明瞭どころか、白黒テレビ並に映りが悪く、内容は読み取れない。
 遮光カーテンの締め切った室内は薄暗く、辛うじて朝だと言うことが分かる程であった。 
 ベッドから立ち上がるべく、体を外に旋回しようにも、未だ眠いらしく、秒針のリズムだけが空間に木霊こだまする。そうしてやがて分針のとりわけ大きい相槌あいづちを二度、三度と聞いた後、ようやく立ち上がり、そのカーテンの元まで行き、部屋に明かりを迎え入れた。
「顔、洗ってくるか……」
 弘は誰に言うでもなくそう呟くと、如何にも億劫おっくうそうな足取りを持って、部屋を後にしようとして、気づいた。
は……なんだ?)
 見なくても、それが何なのか分からずとも、何かを持っているという事実は、目が覚めさえすれば容易に把握できる。
 急速に頭が回転しだした。霧が晴れ、うかがい知れなかった橋の向こうの惨劇を鮮明に捉えたような、そんな感覚を味わった。
 途端に冷や汗が背中を伝った。闇取引の場を偶然視界に捉えてしまった様な、危機感以上の何かを、直感的に感じ取ったのである。
 けれど見ないわけには行かず、恐る恐る、震える左手を視界へと持って行って――理解した。一瞬にして情報の濁流だくりゅうが弘の脳裏を襲った。改めて目を覚ました弘に叩きつけた濁流の答えは即ち、思い出そうとしていた夢の事であり、殊更ことさら後悔の念を抱かずにはいられなかった。起こりえた事を一字一句読み上げるかの如く、何故先ほどは何も思い出せなかったのかと思うほど鮮明に、濁流は弘を流しさって行く。
 カードの正体は、アルカナ――『皇帝エンペラー』。一人の男性が玉座に腰掛け、王冠をかぶり、王笏おうしゃく手に持った、文字通りの王を示すような絵柄であった。裏面を見れば魔法陣が描かれており、思わず嘆息してしまう程には、これから弘にとって面倒くさい出来事が起こるのだという事くらい、容易に想像がついてしまう。
 事実、弘の予想通り、けれど予想以上に早く、その事が起こり始めた。
 弘がアルカナを認識した事を起因トリガーとするかのように、アルカナはひとりでに光り始め、そうして弘の手を離れたのである。やがて宙に浮いたそれは、それを中心に魔法陣を描いて見せた。
「なにが……」
 五芒星の魔法陣は幻想的で、それでいて立体映像ホログラムを思わせる。今見ているこの光景こそが夢だとしたら、どんなにも良かったか。そんな事を思いながら、思わず後ずさった。
 その後は――やぱり夢であり、うつつであり、にわかには信じ難い光景であった。

 中学生と言っても、その実小学生の時の同級生が殆どであり、真新しいものと言えば着飾る服とその周辺、それと雰囲気程度である。
 雰囲気、と言ってもそれはあくまで学校の空気感であり、その実中身はほぼ変わらないのだから、結局は感じ方だけなのかも知れない。
「おはよー」
 そうしていつものように、大凡おおよそいつもと同じような時間に教室に入ってくる菜奈花に、やはりいつもと同じように自分の席に座る香穂が、「おはようございます」と朝に相応しい笑みを返す。実の所このやり取り自体も三年目であり、やはり特別真新しい事など無いのかもしれなかった。
「今日もいい天気だよねぇ」
「えぇ、本当に」
 そうして席に付いてカバンをフックに掛ければ、後は予鈴がなるまで雑談を交わすのみである。
 一つ、今日に置いて普段と違う点があるとするならば、それは弘であろう。
 いつも菜奈花より早く来ているはずの彼の姿が、今日はまだ見えない。とは言え、まだ予鈴まで十五分は残しているのだから、特別問題がある訳でも無いのだろうか。けれど気になった菜奈花は、
「紅葉君、今日遅いね」
「そうですね……」と香穂、「でも、仕方ないと思いますよ?」
 そう微笑む香穂に菜奈花は、「どうして?」とすかさず尋ねる。
「色々、あるのですよ」
「ふぅん……」と相槌を返すも、しかし香穂は「そう言えば」とそれ以上のその話題を望まないらしく、話を逸らした。菜奈花は香穂と弘の家が隣同士なのを知っており、朝何か有ったのだろうと打算した。
 疑問符を浮かべる菜奈花だが、その実気にも止めていないような素振りを見せながら、雑談にふけっていった。
 菜奈花は今日も指輪をブレザーの右ポケットに忍ばせてあり、アルカナの類とルニは家である。当然、その事は隠す方針であり、当然その話題を持ち出す事なく、加えて昨晩の菜奈花にTV テレビを見ている余裕などなかった上、元々あまり見ないのもあり、菜奈花からその手の話題を出す事もなかった。
 菜奈花がTV番組に疎いと言うのもわかりきっているらしく、香穂も香穂でその手の話題は極めて少なく、であればファッションの話だったり、学校の話だったり、或いは菜奈花が読んだ本に関する感想を話したり……である。
「ホルトノキ・デ・オリーブの、このストライプオフショルのワンピとか可愛いなぁって思ったんだけどね?」
 そう言いながら、堂々とスマートフォンで画像を見せている菜奈花だが、当然見つかれば没収も危ぶまれる状況である。が、予鈴よりも早く教師が来るという事はないだろうと菜奈花は打算しており、香穂もあまり気にしている様子はなかった。
 見せているページの画像には、薄い青に、濃い青の縦しま模様で、胸元と袖口にはフリルをあしらってあるそれを着た、セミショートのモデルが示されていた。
「なかなか可愛らしいですね」
「うん、けどオフショルだし、高いし……」
 実際、値段は五千円弱と、中学生からすれば手が出しにくいものであった。
「オフショル、似合うと思いますよ?」
 やんわりと微笑む香穂だが、それでも決めかねてるらしく、うんうん唸っていた。
 そうしてそんなやり取りをしていると、軽い電子音の鐘が鳴り、それっきりスマートフォンの電源を落として、菜奈花はカバンに雑に滑らせた。
「でもやっぱり、オフショルは勇気いると思うのよ……」
 ふと、弘の方の席を一瞥いちべつすると、何時いつの間に来たのだろうか、すでに用意を済ませて何やら書店のブックカバーのかけられた単行本を読んでおり、集中しているらしかった。そうして再び香穂の方を向くと、何事も無かったかのように会話を再開させる。
 菜奈花の座席は、いつものように右に九十度旋回していた。
 そうして話していると、やがて菜奈花はある事に気がついた。
「香穂ちゃん、ちょっと疲れてる?」
 しかし香穂はまた微笑むと、
「菜奈花ちゃんこそ、お疲れみたいですよ?」
 そう言われてみると、確かに多少の疲れは残っているような感覚はするものの、けれど菜奈花は、
「そっかな?朝ちょっと寝坊したからかな?」
 冗談を交えて返すと、それっきりその話もぶり返す事は無かった。
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