ステラ☆オーナーズ〜星の魔法使い〜

霜山 蛍

文字の大きさ
35 / 70
第二章

―プロローグ―

しおりを挟む
「『皇帝エンペラー』!」
 辺りが既に街灯の乏しい光の中で、少年は公園にいた。
 園梅そのうめ公園、既に散ってしまった梅の木が見事だったその公園は、しかし今は二つの要因が、異様な光景を醸し出していた。
 一つは少年。黒橡くろつるばみ色の髪に、オニキス色の瞳の少年――紅葉弘もみじこうである。
 弘は、赤褐色のジュストコールを白のジレの上に重ねており、肩のところが白い、赤のマントをさらにその上から纏った服装をしていた。下は黒のキュロットで、一見時代を間違えたかのようにすら思える程であった。
 右手には柄頭に金色の十字架の付いた、王笏おうしゃくが掲げられていた。
 その右手の中指には、マンダリンガーネットの様な色の宝石が中石として埋め込まれた指輪。
 弘が対峙する存在は、白と黒の二頭の馬を『生やした』、車輪付きの台座に乗った、亡霊のような騎士である。
 右手に杖を掲げ、濁りきった、生を受けていないような瞳の、金髪の騎士である。
 それが勢いよく少年に向かって体当たりをし、しかしかわされた直後であった。
 地面はその勢いを物語るかのように抉れ、進功の軌跡が伺えた。
「やはりあれは、『戦車チャリオット』のアルカナですね」
 少年の肩にいつの間にか乗っていた、或いは最初からいたのだろうか、一匹の、瞳がマンダリンガーネット色で、赤いトカゲのような存在――サラマンダーが、少年に芯のある男性の声で冷静に分析してみせた。
「『戦車』、意味は「勝利」とか、「行動力」、「突進力」などです」
「まさにその「突進力」で、「勝利」を掴もうってのが見え見えのアルカナだな……」
 少年はあくまで冷静に、その王笏をついた。
 サラマンダー、というのは火の精霊である。つまるところ、弘は彼の事を名前を付けるでも無く、そう呼んでいるらしかった。あくまで精霊をただの種族名で呼ぶあたり、その辺りのことを考えるのが苦手なのか、それとも単にどうでもよかったのかというところであろうか。
「勝機は?」
「そんなものはやってみないと分からない」と弘、「けど、放っておいたら確実に大惨事だ。どっちにしろやるしか選択肢はない」
 そう言うと、弘は自身の回りに五枚のカードを展開した。
 ――小アルカナだ。
 『ワンド』の『エース』、『ペイジ』、『ナイト』、『クイーン』、『キング』の五枚。
「確認するぞ、サラマンダー。あれをどうにかするには、あれに触れて、呪文を唱えればいいんだよな?」
 視線はあくまで今にも飛び出しそうな、空中にいる『戦車』のから逸らさないで、声だけをサラマンダーに投げかける。
「えぇ」とサラマンダー、「ですが、触れるのはその指輪をはめた方の手で、です」
「了解、ならまずは動きを止めないと――」
 言い終わるよりも前に、二頭の馬の雄叫びとともに、『戦車』が猛スピードで駆け下りてきた。
「随分な暴れ馬だ!」
 弘は王笏を宙へと投げ、アルカナの力を身に宿した恩恵を利用して後方倒立回転で危なげなく躱した。
 サラマンダーは意にも介さないといった様子で、相変わらず弘の肩にいた。
 その後で杖を計算通りの場所で受け取り、自身の周りを周回する一枚の小アルカナを思い描き、それを前に呼び寄せて、
「『ワンド』の『キング』!」
 それを、王笏の柄頭で突いた。
 『戦車』は勢いそのままに駆け抜け、そのまま再び空中へと舞い戻った。
 弘が使った小アルカナは、全身が炎に覆われた狼を召喚するものであった。
「動きを止めろ!」
 炎に覆われた狼は遠吠えをした後で、その身を包む炎を、『戦車」に向けて放った。
 炎はまるで意思を持っているかのように、宙でもう一度突進の構えを下そうとする『戦車』を襲い、焼き尽くすように炎が『戦車』をまるごと包みこんだ。
「「ヒィィィィン!」」
 甲高い馬の鳴き声が木霊こだました。
 その光景は生々しく、生きた馬を火炙りにするのを見ているようなものであった。否、実際にその光景が弘の目線の先で起こっているのである。
「どうだ……!」
 しかし弘はあくまで冷静に、勝ち誇った様子もなく、未だ炎で包まれている『戦車』を凝視していた。
 ふと、馬が暴れるのをやめた。
「やった……のか?」
 しかし、すぐさまサラマンダーが否定する。
「いえ、恐らくまだ――」
 サラマンダーの見解は正しかった。
 言い終わらないうちに、その炎を意にも返さないように、再び突進してきたのだ。
 しかし、これまでとは何かが違った。
 走り始める前に、炎の中で何かが光ったのを、確かに二人は確認したのである。
 ――効果は、即座に出た。
 猛スピードで駆け下りてくる『戦車』の前に、しかし弘は膝を着いたのであった。
 足元には、魔法陣が描かれていた。
「これは……!」
「配下カード、でしょう。恐らく」
 ――あの勢いを諸に受けたら、どうなるのだろうか。
 しかし弘の瞳は、むしろ好奇と言わんばかりであった。
「『皇帝』の力の前に、ひれ伏せ……!」
 ――刹那、勢いを殺され、地面に半ば垂直に落下した『戦車』の姿があった。
 弘が王笏を地面に突いたのだ。
 その瞬間、足元に展開されていた『戦車』の配下カードの力は無くなり、代わりに別の魔法陣が弘の足元に展開されたのである。
「『皇帝』のアルカナの能力は魔法の所有権の剥奪はくだつ――、お見事です、弘様」
 つまるところ、弘はその力を利用して、『戦車』の配下カードの効果を剥奪、効果を解除して別の場所に展開し直した――、といった所だろうか。
 そうして自分が展開した力を逆手に使われて落した『戦車』は、「「ヒィィィィィィン」」と白と黒の二頭の馬が甲高い声を出して藻掻もがいていた。
 弘は、『ワンド』の『キング』を小アルカナに戻したあとで、ゆっくりと『戦車』の元へと近づいていった。
「お気をつけて」
「流石に、ここまできてヘマはしない」
 軽口を叩きながら背後へと回った弘は、その右手を台車へと触れ――、

「汝、我の配下となれ……『戦車』!」

とゆっくりと唱えた。
 台車は到底この世のものとは思えないほど無機質で、力に溢れているのだと、弘は直感で感じた。
 否、こうして魔法が行使できている以上、ひょっとしたら直感ではないのかもしれない。
 もがいていた『戦車』は、やがて吸い込まれるようにして弘のその指輪の、マンダリンガーネットのような宝石へと力が集まってった。
 そうして目の前の『戦車』から感じられる力が消えたとき、宝石から力が放出され、触れていた手の元にアルカナが形成されるのである。 
 安堵したように嘆息した後で、弘はそのアルカナを親指と人差し指、中指で挟むようにして右手にとった時、もう二枚の小アルカナがその後ろにある事に気づいた。
「『ワンド』の『5』に、『ソード』の『5』か」
 ずらして小アルカナを確認していると、今回は防寒に徹していたサラマンダーが「なるほど」、と呟いた。
「だからあの時身動きが取れなかったわけですね」とサラマンダー、「前者はジャンプ――、つまりジャンプ力を増幅させるものです。後者は重力増加――、これが先程使われたものですね」
「そう言うことか……」
 ふと、気になって荒らされたはずの公園へと視線をやった。
 ――が、弘の目には先程までの『戦車』の軌跡はなく、そればかりかあれだけ馬がさわいでいたはずなのに誰ひとり寄ってこない事をいぶかしまずにはいられなかった。
「もしかしてアルカナって、放置してても被害はでないのか?」
 気になって右肩の上のサラマンダーに尋ねると、
「いいえ、被害はでますよ」と前置きし、「例えば誰かがアルカナに怪我をさせられたとしても、それは治りません。ですが、仮にこうして配下にしてしまえば、建物だとか、道路だとか、そういう物への被害は無かったことにできるのです」と答えた。
 さらにサラマンダーは続ける。
「また、基本的にアルカナは魔力のない人間には目視できません。それと、誰かがアルカナと戦闘を開始すれば、その場には結界のようなものがその宝石の力で展開され、オーナー以外は近づけないようになります」
「じゃあ、結局放置は御法度ごはっとって事か……」
「そういうことです」
「けど待てよ」と弘は何かに気づいたらしく、その言葉を発した。
「つまり、オーナーなら近づけるって事――」
 しかしその言葉を遮るように、公園の隅から聞き慣れた女性の声が弘の耳に入ってきた。
 聞き慣れた、けれど今は一番聞きたくなかった、そんな声を。
「その通りです、『第三オーナー』さん」
 近づいてくる足音に、しかし弘は振り返ろうとはしなかった。
 ――振り返ったら、現実を突きつけられるような、そんな気すらも弘は感じていた。
 もはや言葉の続きを発することすらも忘れていた。
 街灯の明かりの乏しさが一層増し、この時間特有の寒さを、弘は肌に感じずにはいられなかった。

「――いえ、紅葉君」

 足音が真後ろで止まった時、弘は深く、今日一番の深い嘆息を洩らした。

「お前はいつもタイミングが悪いんだよ、――」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...