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第二章
―少しだけ変化した新しい日常―
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学校が始まってからの初めての週末、土曜のその日の夜は叔母さんの手料理であった。テーブルを挟んで迎え合うような形で、どこか柔和な笑みを向けながら、叔母さんはフォークを操っていた。時より鼻歌も交えながら、夕食のパスタをそれに巻きつけ、そうして上品に口に運んでいく。
献立は、ミートソースパスタに、卵スープ、そしてサラダ。簡素でありながら、何れも叔母さんの得意料理であった。お手製のミートソースが菜奈花は特に好きだった。
亜麻色のセミショートを自然な状態で保ったままの彼女――桜之宮菜奈花――は、今日は一日家にいたらしく、少し大きめの、腰が隠れるほどのグレーのTシャツ、下はショートパンツを身に纏い、靴下はワンポイントの黒と、あくまで最低限の服装であった。
一方のアッシュブラウンのミディアムパーマが特徴な叔母さんは、今日は早く帰れた癖に、まるでそれが私服であるかのように、スーツを着崩していた。
「どう?美味しい?」
「はい、とっても」
「それは良かった」
叔母さんの料理はとても美味しい。それは前々から思っている事で、であれば今の感想もただの真意であり、含みの類は一切無かったはずである。
――最も、表情にそれが出せていたのかは、菜奈花にはイマイチわからない。叔母さんと話すのは、三年目になっても尚、未だ慣れないらしい。
そうしてただ黙々と互いに食事を勧めていると、ふと、叔母さんがまた口を開いた。
「あのね、菜奈花ちゃん」
フォークをゆっくりと置き、口をテーブルナプキンで一度拭った後で、菜奈花を見据えてきた。
「はい?」
スープを啜った後で、スプーンを置き、首を傾げる。
「来週の土曜、日曜日は、休みなのよ」
叔母さんの務める会社は、詳細までは知らないものの、週休二日制らしく、そういう日が月に二、三回はあるという。
菜奈花が何も言わないでいると、叔母さんは続けた。
「だからさ、どっちか予定空いてる?」
「えっと……多分?」
などと曖昧な返事を返すも、しかし叔母さんは満足したらしく、
「じゃあせっかくだし、そのどっちか使って、妻沼公園にでも桜見にいかない?」
「桜?」
「そう、桜」と叔母さん、「ちょうど来週くらいなら、満開……そうじゃなくてもまだ残っていると思うし」
別に菜奈花に拒否する理由は特に無い。
土曜の今日であっても、一日中家で読書だの、ルニと雑談だのをしていたのに過ぎなかったのだから。
「うん、多分大丈夫……だと思います」
「よしよし、お昼はモールで食べちゃおうね」
どうやら、あくまで二人で花見……と言うより、ただ公園を散歩しに行くだけ、という事らしい。
ちなみに叔母さんの本来の趣味がカメラと旅の為、菜奈花も別段それについて疑問は持たない。
菜奈花としてもゆっくり花を見れるならそれでいいとしか思わない。
「何か欲しいものとかあれば、買ってあげるけど……?」
「んー」
とはいえ、欲しい漫画や本の類はつい数日前に揃えたし、別段思いつかない。そうしてしばらく唸っていると、
「何か欲しいものあったら言ってね」
それっきり、満足したように叔母さんはまた食事に戻っていった。
「そういえば、今私が二枚持ってるでしょ?」
食事を終え、自室に上がってきた菜奈花は、ルニにふと気になって話しかけた。
二枚、と言うのは他ならぬ、大アルカナ――『正義』と『魔術師』である。
ルニ――パステルグリーンの長い髪の、掌ほどの風の妖精は、宙に浮いて、首をかしげてみせた。
頭には、菜奈花がつけたその名前の由来、ツルニチニチソウの冠をかぶっている。
「それがどうかした?」
菜奈花はベッドに腰掛けている。
「今って、全部で何枚誰が持ってるとか、わかるの?」
するとルニはかぶりを振って、
「いや、正確にはわからないよ」とルニ、「だけど、何枚目覚めているかは分かる」
「じゃあ、何枚?」
菜奈花の問に少し間を置いて、ルニは口を開いた。
「今目覚めているのは、五枚。全部多分主がいる」
「じゃあ、オーナーがそれぞれ配下を持っているとして、私だけが二枚持ち?」
するとルニはまたかぶりを振って、
「いいや、違うよ」
「なんで?」
ルニはまたちょっと間を置いてから、「だって」と続けた。
「まだオーナーは三人しかいないし」
それはつまり、菜奈花の他に誰か一人二枚のアルカナを配下にしていて、さらにまだ一人のオーナーを残している、と言うことであった。
『魔術師』を菜奈花が激闘の末に、配下にしたのが昨日なのだから、恐らく今日の時点で誰かが手中に収めたと言う事だと、菜奈花は打算付ける。
最も、オーナーの現在人数を聞いたのは始めてなわけであり、であれば当然疑問符を浮かべざるをえなかった。
「オーナーって、全部で四人いるんでしょう?」
「えぇ、その通り」とルニ、「けれど、まだ三人しか決まってない。まだ一人は……決めあぐねているのかな?」
何が、とは聞くまでも無かった。その答えを菜奈花は知っているのだから。ただし、例え既知であってもやはり、「アルカナがオーナーを選ぶ」などという説明は、到底受け入れがたいものである事は菜奈花にとって変わりのない事実であった。
「ふうん」
結局、どうでもいいような素振りを見せながら、未だ読みかけのタロット占いの本をパラパラと捲り、そのままベッドにうつ伏せになりながら、だらしなく読書を始めた。
「ま、後一人が決まるまでは、当分暇そうで私的には嬉しいんだけど」
そう洩らすルニの言葉は、決して残ることは無かったはずなのに、其のくせ頭のどこかで反響していたのを、けれど菜奈花はかぶりを振って、本の情報に身を投じていった。
「しばらくは、アルカナも出ないだろうし」
ふと聞こえたルニのその更なる呟きに、また集中力を霧散されてしまった。
けれどそんな事はどうでもいいらしく、菜奈花は心のどこかで、そうなる事を祈っていた。
(のんびりできるといいなぁ)
――来週の週末は特に。
献立は、ミートソースパスタに、卵スープ、そしてサラダ。簡素でありながら、何れも叔母さんの得意料理であった。お手製のミートソースが菜奈花は特に好きだった。
亜麻色のセミショートを自然な状態で保ったままの彼女――桜之宮菜奈花――は、今日は一日家にいたらしく、少し大きめの、腰が隠れるほどのグレーのTシャツ、下はショートパンツを身に纏い、靴下はワンポイントの黒と、あくまで最低限の服装であった。
一方のアッシュブラウンのミディアムパーマが特徴な叔母さんは、今日は早く帰れた癖に、まるでそれが私服であるかのように、スーツを着崩していた。
「どう?美味しい?」
「はい、とっても」
「それは良かった」
叔母さんの料理はとても美味しい。それは前々から思っている事で、であれば今の感想もただの真意であり、含みの類は一切無かったはずである。
――最も、表情にそれが出せていたのかは、菜奈花にはイマイチわからない。叔母さんと話すのは、三年目になっても尚、未だ慣れないらしい。
そうしてただ黙々と互いに食事を勧めていると、ふと、叔母さんがまた口を開いた。
「あのね、菜奈花ちゃん」
フォークをゆっくりと置き、口をテーブルナプキンで一度拭った後で、菜奈花を見据えてきた。
「はい?」
スープを啜った後で、スプーンを置き、首を傾げる。
「来週の土曜、日曜日は、休みなのよ」
叔母さんの務める会社は、詳細までは知らないものの、週休二日制らしく、そういう日が月に二、三回はあるという。
菜奈花が何も言わないでいると、叔母さんは続けた。
「だからさ、どっちか予定空いてる?」
「えっと……多分?」
などと曖昧な返事を返すも、しかし叔母さんは満足したらしく、
「じゃあせっかくだし、そのどっちか使って、妻沼公園にでも桜見にいかない?」
「桜?」
「そう、桜」と叔母さん、「ちょうど来週くらいなら、満開……そうじゃなくてもまだ残っていると思うし」
別に菜奈花に拒否する理由は特に無い。
土曜の今日であっても、一日中家で読書だの、ルニと雑談だのをしていたのに過ぎなかったのだから。
「うん、多分大丈夫……だと思います」
「よしよし、お昼はモールで食べちゃおうね」
どうやら、あくまで二人で花見……と言うより、ただ公園を散歩しに行くだけ、という事らしい。
ちなみに叔母さんの本来の趣味がカメラと旅の為、菜奈花も別段それについて疑問は持たない。
菜奈花としてもゆっくり花を見れるならそれでいいとしか思わない。
「何か欲しいものとかあれば、買ってあげるけど……?」
「んー」
とはいえ、欲しい漫画や本の類はつい数日前に揃えたし、別段思いつかない。そうしてしばらく唸っていると、
「何か欲しいものあったら言ってね」
それっきり、満足したように叔母さんはまた食事に戻っていった。
「そういえば、今私が二枚持ってるでしょ?」
食事を終え、自室に上がってきた菜奈花は、ルニにふと気になって話しかけた。
二枚、と言うのは他ならぬ、大アルカナ――『正義』と『魔術師』である。
ルニ――パステルグリーンの長い髪の、掌ほどの風の妖精は、宙に浮いて、首をかしげてみせた。
頭には、菜奈花がつけたその名前の由来、ツルニチニチソウの冠をかぶっている。
「それがどうかした?」
菜奈花はベッドに腰掛けている。
「今って、全部で何枚誰が持ってるとか、わかるの?」
するとルニはかぶりを振って、
「いや、正確にはわからないよ」とルニ、「だけど、何枚目覚めているかは分かる」
「じゃあ、何枚?」
菜奈花の問に少し間を置いて、ルニは口を開いた。
「今目覚めているのは、五枚。全部多分主がいる」
「じゃあ、オーナーがそれぞれ配下を持っているとして、私だけが二枚持ち?」
するとルニはまたかぶりを振って、
「いいや、違うよ」
「なんで?」
ルニはまたちょっと間を置いてから、「だって」と続けた。
「まだオーナーは三人しかいないし」
それはつまり、菜奈花の他に誰か一人二枚のアルカナを配下にしていて、さらにまだ一人のオーナーを残している、と言うことであった。
『魔術師』を菜奈花が激闘の末に、配下にしたのが昨日なのだから、恐らく今日の時点で誰かが手中に収めたと言う事だと、菜奈花は打算付ける。
最も、オーナーの現在人数を聞いたのは始めてなわけであり、であれば当然疑問符を浮かべざるをえなかった。
「オーナーって、全部で四人いるんでしょう?」
「えぇ、その通り」とルニ、「けれど、まだ三人しか決まってない。まだ一人は……決めあぐねているのかな?」
何が、とは聞くまでも無かった。その答えを菜奈花は知っているのだから。ただし、例え既知であってもやはり、「アルカナがオーナーを選ぶ」などという説明は、到底受け入れがたいものである事は菜奈花にとって変わりのない事実であった。
「ふうん」
結局、どうでもいいような素振りを見せながら、未だ読みかけのタロット占いの本をパラパラと捲り、そのままベッドにうつ伏せになりながら、だらしなく読書を始めた。
「ま、後一人が決まるまでは、当分暇そうで私的には嬉しいんだけど」
そう洩らすルニの言葉は、決して残ることは無かったはずなのに、其のくせ頭のどこかで反響していたのを、けれど菜奈花はかぶりを振って、本の情報に身を投じていった。
「しばらくは、アルカナも出ないだろうし」
ふと聞こえたルニのその更なる呟きに、また集中力を霧散されてしまった。
けれどそんな事はどうでもいいらしく、菜奈花は心のどこかで、そうなる事を祈っていた。
(のんびりできるといいなぁ)
――来週の週末は特に。
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【作者より、感謝を込めて】
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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