39 / 70
第二章
―少しだけ変化した新しい日常・四―
しおりを挟む
「お、なになに、何話してんのさ」
そうして話に一段落が着いた頃、見慣れた女子生徒が、二人に話しかけてきた。
亜沙美である。
「えっとね、今週末に、妻沼公園にいくんだけど」
「へぇ、あそこか……」と亜沙美、「いいよな、妻沼公園、桜今見頃だろうし」
「うん、そうなの」
すると、亜沙美は、適当なその辺の椅子を引っ張り出して、香穂の机に向けて座った。
「そういえば、あさみん、二人は?」
いつも大抵三人一緒にいる亜沙美たちであり、であれば当然一人しかいないこの状況は、菜奈花としても気になる所であった。
「あぁ、いや、ウチの学校って部活強制じゃん?」
「あぁ、うん」
その事は菜奈花も知っており、頷きと共に返した。
「ウチはバスケにしたけど、あの二人は苦手っしょ、運動」
「確かに、そうでしたね」
今度は香穂が相槌を入れた。
「だから、どこか良い、名前だけの部とか無いかなーってなって」と亜沙美、「それで、文芸部を見つけて、今その軽い集まり?みたいなの言ってるらしい」
「文芸部?」
菜奈花が聞き返すと、何故か得意げに亜沙美が、
「そう、文芸部……!数多ある文化部の中でも相当なマイナーで、加えて活動は金曜日のみ!この学校における、幽霊部員の名前置き場として、一部の生徒の間では人気なのだ!」
背後にババーン、だの、ドドーン、だのといった効果音が見えそうなほどの、ドヤ顔であった。
菜奈花が苦笑のような、微妙な反応を見せていると、
「いいか、この学校では、部活には絶対入らないといけないという、ちょーろぐでないルールがある。そうなれば、ある者は当然、こう思うだろう」と亜沙美、「つまり、面倒くさい、と!」
「ま、まあ……わからなくも無いけどさぁ」
「だろう?」
では香穂はどうかと言うと、いつものように、絶えず微笑みを見せていた。
しかしそれを気にすることなく、亜沙美は続ける。
「文芸部、活動内容は読書レビュー、あるいは自作小説の鑑賞会。だがその実、行けばただの雑談であり、中には漫研のない中学に置いて居場所を見つけたのか、イラストやら漫画やらを書くものもいる……らしい」
「美術部でいいんじゃ……」
菜奈花の冷静な返しに、しかし亜沙美は気にせずに続ける。
「週一とか抜かしておいて、その実やりたい放題な文芸部は、特別棟空き教室を根城としながらも、内部派閥は幾数多!文芸部を称して教室に居座り続けたり、寄り道を常習するらしい」
「要するに、名前だけの自由な部活、という事ですね」
掻い摘んで言えば、結局はそういうことになるのだろう。
「ちなみに、文芸部って何人くらいいるの?」
「あぁ、えりりんの言う所では、各学年最初は三十人以上、そうして半年過ぎると五十人以上まで増える、そうだ」
「もう、部活動強制の意味は無いね……」
「あぁ、全くひでーなしルールよぉ」
とはいえ、菜奈花も香穂も、それぞれキチンとした部活を選択しているわけで、であればあまり縁のない話には違いなかった。
「あぁ、で、何の話だっけ?」
一人で盛り上がった亜沙美のせいで本題からは逸れてしまったのを、本人は今になってようやく思い出したらしい。
「えっと、週末妻沼公園に行くって話」
菜奈花が冷静に返すと、亜沙美も「あぁ、そうだったそうだった」と何度も頷いた。
「誰と行くんだ?」
「えっと……」
菜奈花はあまり家族の事を話したがらないようで、香穂以外には叔母さんの話も全くしてこなかった。その為、こうして不意に聞かれると困ったもので、であれば当然言葉に詰まってしまう。
しかしそこは香穂も慣れっこらしく、機転を利かせて、
「私とですよ」
菜奈花は心中密かに香穂に感謝を告げたあとで、
「そ、そう!香穂ちゃんと行くの!」
亜沙美は疑うことなく、「ふぅん」と相槌すると、
「なんだ、またななとかほっちでデートか」
「そんなんじゃないよ、花見」
「二人で花見とか完全にデートっしょ」
しかし香穂は微笑むと、
「違うかどうかは置いておくとして、私たちは楽しむだけですよ」
「そ、そう!」
「ふぅん……」と亜沙美、「ま、楽しんでこいよな」
結局、その直後で恵利と詩香がやってきて、亜沙美は椅子を戻すなり、また三人で教室を出て行ってしまった。
「ありがと、香穂ちゃん」
先程は心中で伝えた思いを、今度は口に出して伝える菜奈花に、香穂は、
「いいんですよ。それより、楽しんできてくださいね」
そう微笑むばかりで、それっきり、昼休みの終了を告げる軽い電子音のチャイムが鳴り響いた。
そうすると、菜奈花はスマホの電源を落とし、またカバンに滑らせるようにして入れると、椅子を戻して、次の授業の用意に取り掛かる。
香穂も同じで、次の授業の用意を机の上に広げるなり、後は雑談することなく、二人それぞれが教科書を広げ、適当に読み始めるのである。
一方、予鈴がなると数分の後に、喧騒は蚊帳の外から教室内へと帰還を果たし、それが元の姿でもあるかのように、それが教室内を支配する。
菜奈花がそっと窓の外に目をやれば、真南より西に傾いた太陽を純白の白雲が覆い隠しており、であれば日差しは僅かに力を失っていた。
しかしすぐさま教科書へと目線を落とせば、けれど内容は頭を通り過ぎ、思いは今週末へと馳せていた。
そうして話に一段落が着いた頃、見慣れた女子生徒が、二人に話しかけてきた。
亜沙美である。
「えっとね、今週末に、妻沼公園にいくんだけど」
「へぇ、あそこか……」と亜沙美、「いいよな、妻沼公園、桜今見頃だろうし」
「うん、そうなの」
すると、亜沙美は、適当なその辺の椅子を引っ張り出して、香穂の机に向けて座った。
「そういえば、あさみん、二人は?」
いつも大抵三人一緒にいる亜沙美たちであり、であれば当然一人しかいないこの状況は、菜奈花としても気になる所であった。
「あぁ、いや、ウチの学校って部活強制じゃん?」
「あぁ、うん」
その事は菜奈花も知っており、頷きと共に返した。
「ウチはバスケにしたけど、あの二人は苦手っしょ、運動」
「確かに、そうでしたね」
今度は香穂が相槌を入れた。
「だから、どこか良い、名前だけの部とか無いかなーってなって」と亜沙美、「それで、文芸部を見つけて、今その軽い集まり?みたいなの言ってるらしい」
「文芸部?」
菜奈花が聞き返すと、何故か得意げに亜沙美が、
「そう、文芸部……!数多ある文化部の中でも相当なマイナーで、加えて活動は金曜日のみ!この学校における、幽霊部員の名前置き場として、一部の生徒の間では人気なのだ!」
背後にババーン、だの、ドドーン、だのといった効果音が見えそうなほどの、ドヤ顔であった。
菜奈花が苦笑のような、微妙な反応を見せていると、
「いいか、この学校では、部活には絶対入らないといけないという、ちょーろぐでないルールがある。そうなれば、ある者は当然、こう思うだろう」と亜沙美、「つまり、面倒くさい、と!」
「ま、まあ……わからなくも無いけどさぁ」
「だろう?」
では香穂はどうかと言うと、いつものように、絶えず微笑みを見せていた。
しかしそれを気にすることなく、亜沙美は続ける。
「文芸部、活動内容は読書レビュー、あるいは自作小説の鑑賞会。だがその実、行けばただの雑談であり、中には漫研のない中学に置いて居場所を見つけたのか、イラストやら漫画やらを書くものもいる……らしい」
「美術部でいいんじゃ……」
菜奈花の冷静な返しに、しかし亜沙美は気にせずに続ける。
「週一とか抜かしておいて、その実やりたい放題な文芸部は、特別棟空き教室を根城としながらも、内部派閥は幾数多!文芸部を称して教室に居座り続けたり、寄り道を常習するらしい」
「要するに、名前だけの自由な部活、という事ですね」
掻い摘んで言えば、結局はそういうことになるのだろう。
「ちなみに、文芸部って何人くらいいるの?」
「あぁ、えりりんの言う所では、各学年最初は三十人以上、そうして半年過ぎると五十人以上まで増える、そうだ」
「もう、部活動強制の意味は無いね……」
「あぁ、全くひでーなしルールよぉ」
とはいえ、菜奈花も香穂も、それぞれキチンとした部活を選択しているわけで、であればあまり縁のない話には違いなかった。
「あぁ、で、何の話だっけ?」
一人で盛り上がった亜沙美のせいで本題からは逸れてしまったのを、本人は今になってようやく思い出したらしい。
「えっと、週末妻沼公園に行くって話」
菜奈花が冷静に返すと、亜沙美も「あぁ、そうだったそうだった」と何度も頷いた。
「誰と行くんだ?」
「えっと……」
菜奈花はあまり家族の事を話したがらないようで、香穂以外には叔母さんの話も全くしてこなかった。その為、こうして不意に聞かれると困ったもので、であれば当然言葉に詰まってしまう。
しかしそこは香穂も慣れっこらしく、機転を利かせて、
「私とですよ」
菜奈花は心中密かに香穂に感謝を告げたあとで、
「そ、そう!香穂ちゃんと行くの!」
亜沙美は疑うことなく、「ふぅん」と相槌すると、
「なんだ、またななとかほっちでデートか」
「そんなんじゃないよ、花見」
「二人で花見とか完全にデートっしょ」
しかし香穂は微笑むと、
「違うかどうかは置いておくとして、私たちは楽しむだけですよ」
「そ、そう!」
「ふぅん……」と亜沙美、「ま、楽しんでこいよな」
結局、その直後で恵利と詩香がやってきて、亜沙美は椅子を戻すなり、また三人で教室を出て行ってしまった。
「ありがと、香穂ちゃん」
先程は心中で伝えた思いを、今度は口に出して伝える菜奈花に、香穂は、
「いいんですよ。それより、楽しんできてくださいね」
そう微笑むばかりで、それっきり、昼休みの終了を告げる軽い電子音のチャイムが鳴り響いた。
そうすると、菜奈花はスマホの電源を落とし、またカバンに滑らせるようにして入れると、椅子を戻して、次の授業の用意に取り掛かる。
香穂も同じで、次の授業の用意を机の上に広げるなり、後は雑談することなく、二人それぞれが教科書を広げ、適当に読み始めるのである。
一方、予鈴がなると数分の後に、喧騒は蚊帳の外から教室内へと帰還を果たし、それが元の姿でもあるかのように、それが教室内を支配する。
菜奈花がそっと窓の外に目をやれば、真南より西に傾いた太陽を純白の白雲が覆い隠しており、であれば日差しは僅かに力を失っていた。
しかしすぐさま教科書へと目線を落とせば、けれど内容は頭を通り過ぎ、思いは今週末へと馳せていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる