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第九話
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それから半年がたった。尚夏は無事大学に入学して国立大学の文学部で学ぶ生活を始めていた。新しく学ぶことも多く、日々勉強が欠かせない。しかし現在週六日バイトをしているせいでなかなか家で勉強をする時間がなかった。そんなにもバイトを入れる理由はすでに母親から仕送りが途絶えがちになって来たからだ。額も予定より少なくなり、バイトをしなければ生活が出来ない。何度か母親に抗議の連絡をしたが面倒くさそうにして真面目に取り合ってくれる様子はなかった。
大学で友人は数人出来た。授業がかぶっていたのをきっかけに良く話すようになり連絡先を交換したのだ。彼らと過ごす時間は楽しかったが、遊んでばかりはいられない。しかし皆はサークルや遊びに夢中で、楽しげな学生生活を送っている。
一方で尚夏は夜遅くまでバイトの日々。この頃では稼ぐために夜勤も入れるようにしていた。だから仕事が終わるとぐったりと眠ってしまい、大学に行けない日も増えて来た。本末転倒、これでは何のために進学したのかわからない。
鳴海に近況を相談したかったが彼にまた心配をかけてしまうのが申し訳なくて、あれから連絡は取っていなかった。長期休みも結局バイトがあるので休めずに、二人は現在会えない日々が続いている。年末には帰りたい、そう思ってはいるものの来年度の学費や生活費を考えると……しかし前期に落としてしまった単位を考えるとそもそも進級できるかさえ怪しくなってきた。尚夏は引き出しの中の鳴海の写真を見る、そっと彼の顔に触れて写真立てを抱きしめる。
年末も近づいたある日、事態は急変した。
尚夏の母親との連絡が取れなくなったのだ。毎度のごとく仕送りが遅れているので携帯に電話をするとすでに番号は繋がらず、焦った尚夏は母親の勤務先に連絡したが、そこももうこの番号は使われていないとのアナウンス。確か勤務先の男と付き合っていたはずだ、母親はその男と逃げたのだろうか。すでに祖父母はなく実父の行方も知らず、親戚との付き合いもない。尚夏は完全に孤立してしまった。これでは金銭的にももう自分のバイト代に頼るしかなく、預金口座にはほとんど金は入ってはいない。
困り果てた尚夏は鳴海に連絡を取ることにする。彼に訴えてもどうにかなることではなかったが、最悪なこの近況をただ聞いて欲しかった。完全な孤独を慰めて欲しかった。
しかし、彼の携帯にいくら電話をかけても呼び出し音は鳴るがすぐに留守番電話に繋がってしまう。連絡が欲しいとメッセージを吹き込んだが、彼からの折り返しの電話はかかってくることはなく……一年が終わろうとしている今、尚夏はもうどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
帰京する金もない、尚夏の年末年始はひたすらバイトで終わってしまった。多少の手当てが出るのは良かったが、それも些細なもの。来年度の学費は払えるかわからない。せめてもと日常のバイトの他に日雇いのバイトも増やしてみたが、さすがに体力的に持たなくなってきて、前期よりさらに授業に出ることが難しくなってしまった。日々気を失うように眠り起きては、食事も最低限のものだけ食べてあとはバイトに行く。大学生活どころではなくなり課題は提出出来ないものが増えてきて、試験勉強すら出来ない状況。結局、尚夏は留年が決まってしまう。
大学の友人とも会う機会はなくなってしまった。彼らは苦労もなく進級するのだろう。この身に起きた不幸を考えた尚夏がただ申し訳なく思ったのは、鳴海に対してだった。尚夏の未来を案じ、受験勉強も散々付き合ってくれた。お守りも買ってくれて合格した時は一緒に喜んで、あの日尚夏が涙ながらに別れを交わした人。鳴海はきっと尚夏を信じてくれていたはずなのに……。
全てをあきらめた尚夏は大学を退学することにする。このまま無理して通っても、きっと将来には繋がらないのだろう。最初から進学などせずに就職すればよかったのかもしれない。でも、やりたいことなんて何にもなく。
ああ、全て終わってしまった。もし大学を卒業したら良い就職先に恵まれただろうか、でももうそれはいまさら無理な話だから……尚夏はバイトを辞めてアパートを引き払い、東京に帰ることにした。
大学で友人は数人出来た。授業がかぶっていたのをきっかけに良く話すようになり連絡先を交換したのだ。彼らと過ごす時間は楽しかったが、遊んでばかりはいられない。しかし皆はサークルや遊びに夢中で、楽しげな学生生活を送っている。
一方で尚夏は夜遅くまでバイトの日々。この頃では稼ぐために夜勤も入れるようにしていた。だから仕事が終わるとぐったりと眠ってしまい、大学に行けない日も増えて来た。本末転倒、これでは何のために進学したのかわからない。
鳴海に近況を相談したかったが彼にまた心配をかけてしまうのが申し訳なくて、あれから連絡は取っていなかった。長期休みも結局バイトがあるので休めずに、二人は現在会えない日々が続いている。年末には帰りたい、そう思ってはいるものの来年度の学費や生活費を考えると……しかし前期に落としてしまった単位を考えるとそもそも進級できるかさえ怪しくなってきた。尚夏は引き出しの中の鳴海の写真を見る、そっと彼の顔に触れて写真立てを抱きしめる。
年末も近づいたある日、事態は急変した。
尚夏の母親との連絡が取れなくなったのだ。毎度のごとく仕送りが遅れているので携帯に電話をするとすでに番号は繋がらず、焦った尚夏は母親の勤務先に連絡したが、そこももうこの番号は使われていないとのアナウンス。確か勤務先の男と付き合っていたはずだ、母親はその男と逃げたのだろうか。すでに祖父母はなく実父の行方も知らず、親戚との付き合いもない。尚夏は完全に孤立してしまった。これでは金銭的にももう自分のバイト代に頼るしかなく、預金口座にはほとんど金は入ってはいない。
困り果てた尚夏は鳴海に連絡を取ることにする。彼に訴えてもどうにかなることではなかったが、最悪なこの近況をただ聞いて欲しかった。完全な孤独を慰めて欲しかった。
しかし、彼の携帯にいくら電話をかけても呼び出し音は鳴るがすぐに留守番電話に繋がってしまう。連絡が欲しいとメッセージを吹き込んだが、彼からの折り返しの電話はかかってくることはなく……一年が終わろうとしている今、尚夏はもうどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
帰京する金もない、尚夏の年末年始はひたすらバイトで終わってしまった。多少の手当てが出るのは良かったが、それも些細なもの。来年度の学費は払えるかわからない。せめてもと日常のバイトの他に日雇いのバイトも増やしてみたが、さすがに体力的に持たなくなってきて、前期よりさらに授業に出ることが難しくなってしまった。日々気を失うように眠り起きては、食事も最低限のものだけ食べてあとはバイトに行く。大学生活どころではなくなり課題は提出出来ないものが増えてきて、試験勉強すら出来ない状況。結局、尚夏は留年が決まってしまう。
大学の友人とも会う機会はなくなってしまった。彼らは苦労もなく進級するのだろう。この身に起きた不幸を考えた尚夏がただ申し訳なく思ったのは、鳴海に対してだった。尚夏の未来を案じ、受験勉強も散々付き合ってくれた。お守りも買ってくれて合格した時は一緒に喜んで、あの日尚夏が涙ながらに別れを交わした人。鳴海はきっと尚夏を信じてくれていたはずなのに……。
全てをあきらめた尚夏は大学を退学することにする。このまま無理して通っても、きっと将来には繋がらないのだろう。最初から進学などせずに就職すればよかったのかもしれない。でも、やりたいことなんて何にもなく。
ああ、全て終わってしまった。もし大学を卒業したら良い就職先に恵まれただろうか、でももうそれはいまさら無理な話だから……尚夏はバイトを辞めてアパートを引き払い、東京に帰ることにした。
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